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愛する人が亡くなっても、きっと近くで…。『あのキス』最終回で描かれた“恋の結末”

<あのときキスしておけば 最終回レビュー>

死は辛いし、別れは苦しい。それ自体は、どんなに言葉を取り繕っても、なかなか覆せないことだ。だけどこんなふうに、いなくなったあの人もすぐそばにいると思えたら、涙を止めることができるのかもしれない。

ついにフィナーレを迎えた『あのときキスしておけば』。それは、ボロボロこぼれる涙のあとに、大きく息を吐いて、笑顔を浮かべる。そんな、どこまでも優しい、優しい最終回だった。(※以下ネタバレあり)

 

2人だけの誓いのキス。あの瞬間、2人は夫婦になった

おじいさんとおじいさんになるまでずっと一緒にいたい――。

そう約束した桃地(松坂桃李)と巴(麻生久美子)=オジ巴(井浦新)。今度会えたら結婚式を挙げよう。桃地は巴がまた現れる日を信じて、いそいそと準備を始める。

妙(岸本加世子)に「娘さんを僕にください」と挨拶しに行ったり、みんなで余興の準備をしたり。たくさんの人にお祝いされている桃地は、照れ臭そうで、幸せそうで。

 

だけど、巴に送ったメールだけは一向に既読がつかない。返事の来ないメールを延々送り続ける桃地。たまった未読の数は、桃地の不安の数のようで。

巴が戻ってくると信じ、毎日仕事を頑張り、巴の豪邸を綺麗に掃除する。その姿が、いじらしくて。巴と叶えたい、いくつもの未来を並べる桃地を見ているだけで、もう目が潤みっぱなしだった。

みんなで結婚式の準備をして待っています。そうメールを送ったあと、桃地は自分を鼓舞するように「うぃっ」と掛け声をあげる。でも、不安は消えなくて、何度も、何度も、「うぃっ」「うぃっ」「うぃっ」と自分に活を入れる。

みんなの前では元気に振る舞っている桃地が、あのときだけはこの願いがもう叶わないことをほんの少しわかっているような顔をしていて。その小さな揺れが本当にリアルで。自分まで、どこにもつながっていない暗がりに閉じ込められているような気持ちになってしまった。

松坂桃李は、不安とか、孤独とか、希望とか、弱さとか、とても一色では色づけできない複雑な心情を、繊細に、的確に捉えて、表現できる俳優だと思う。

そんな松坂が演じるからこそ、登場人物たちも、視聴者も、桃地のことを好きになった。前向きに頑張る桃地のために何かしてあげたくて、妙はウェルカムドールを、水出(阿南敦子)はブーケと指輪をつくり、マサオ(井浦新)と帆奈美(MEGUMI)は“優しい嘘”をつくことを決めた。

画面には映っていないけれど、あの低温そうなマサオが巴になりきるためにどれだけ練習したのかと思うと、余計にグッとくる。たぶん帆奈美が何度も「そうじゃない」とダメ出しをしたんだろう。優太郎(窪塚愛流)も一緒になってあれこれ言っていたのかもしれない。

マサオの内向的な性格を考えれば、とても恥ずかしいことのはず。それでも、巴からの伝言を守るために。壊れかけた家族の絆を修復してくれた恩を返すために、できることはしたいと思った。

あの結婚式は、シビアな言い方をすれば“茶番”なのだろう。みんながこれは嘘だとわかっている。嘘だとわかって、笑っている。お祝いしている。とんだ“茶番”だ。

だけど、こんなに温かい“茶番”があるだろうか。確かにあの場にいた巴は偽物だけど、みんなが桃地と巴を祝福したいと思った気持ちは本物。だったらあの“茶番”の結婚式を“本番”だと思っていいんじゃないか。

あの日、確かに桃地と巴は結婚した。もうとっくに亡くなっている巴とは戸籍上は夫婦にはなれない。だけど、紙の上でのことなんてどうでもよくて。2人はあのときちゃんと夫婦になれた。2人しか知らない誓いのキスを証に変えて。

 

そう思える最高の結婚式だった。

寂しさは消えない。だけど、いつかまた会える日がやってくる

ついクスッとなるモノローグに、テンパると顔が埋もれるぐらいフードの紐を絞るなど、お茶目なリアクションの数々で愛され主人公・桃地を演じた松坂桃李。

マサオと巴、まったく異なるキャラクターを、声色だけでなく、姿勢や目の力、指先などでしっかりと演じ分けた井浦新。

キュートな魅力全開でワガママな巴を最強のヒロインにした麻生久美子。この3人のバランスが本当に良かった。

振り切った演技で高見沢というキャラクターに爆発力をもたらした三浦翔平。

妻として、母としてのたくましさと脆さを繊細に表現したMEGUMI。

包容力と愛らしさを兼ね備えた母親像で多くの人の涙腺を緩ませた岸本加世子。

と、脇を固める俳優もそれぞれが好演で。この世界観に心地よさを感じられたのは、「スーパーゆめはな」の4人含め、桃地と巴を取り囲む仲間たちの力によるところも大きかったと思う。

最初はコメディ色の強いファンタジーかと思っていたら、回を重ねるごとにどんどん切なさが増してきて。後半は決して叶うことはないだろう2人の未来に胸が苦しくなりっぱなしだった。僕のように軽い気持ちで見はじめて、気づけばすっかり心を引き寄せられてしまった人も多いんじゃないかと思う。

愛した人との別れという身のちぎれるような最終回でありながら、過度に湿っぽくならず、最後まで軽やかだったのも、『あのときキスしておけば』らしくて素敵だった。巴の魂がこの世に蘇った理由が天界の抽選会で1等を当てたからというのも、なんだかバカバカしくて良い。

もしも巴の言う通り、死者の魂がいろんな姿に変えて蘇ってきているとしたら。それだけで世界の見え方が変わりそうだ。やたらとまとわりつく蚊やハエが、しきりになついてくる犬や猫が、愛したあの人だとしたら。この世のすべてがもうちょっと愛しく思える。

でも、できれば蚊やハエはやめてほしいな。間違って殺しちゃいそうだから。どうせ蘇ってくるなら、先に知らせてほしい。そんな想像をしてから、この夏は蚊取り線香を焚くのはちょっと控えようかな、なんて思ってみたりもする。

たとえ何かに姿を変えて蘇ることはできなくても、ラストの巴のように、いなくなったあともいつも近くで見守ってくれている。そう思えたら、寂しさは消えないけど、でもいつかまた会えるその日まで頑張れそうな気がした。

人生に別れはつきものだ。巴の死という形で幕を閉じた2人の恋は、はたから見ると悲恋かもしれない。

だけど、悲恋だとは呼びたくない。

心残りはたくさんある。2人で叶えたかった未来は数え切れない。だけど、2人は最後のその瞬間まで愛し合えた。人生で大切なものを与えてくれた幸せな恋だった。どんなに時が流れても、そんなふうにこの恋が桃地の中で残り続けたらいいな、と思う。

そして、そんな2人の恋を応援できたこの8週間もまた幸せな時間だったと。青空を見上げるような気持ちが、今、僕の心を満たしている。<文/横川良明>

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