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40歳で現役、5つの顔をもつ“超人”棒高跳びレジェンド・澤野大地。その驚異的な選手生活

5月16日(日)に放送されたテレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、“エアー大地”こと棒高跳の澤野大地を特集した。

3大会目の出場となったリオオリンピックで日本人として64年ぶりの7位入賞をはたし、40歳になった今も若手選手に交じり東京オリンピックを見据える現役選手。

そんな澤野には、選手のほかにコーチ・教員・理事・父親と、選手を含めると5つの顔がある。そして、これまで誰にも明かさなかった“驚きの事実”も――。

番組ナビゲーター・南原清隆が、40歳にして今なお現役を続ける男の挑戦に迫った。

◆5つの顔をもつ40歳のレジェンド

棒高跳における東京オリンピックの出場枠は3つ。日本選手権3位以内、さらにシーズン中にオリンピックの決勝進出ラインとなる派遣標準記録5m80をクリアするなど、高い壁が立ちはだかる。

そんな厳しい挑戦を、なぜ澤野は40歳になっても続けることができるのか?

南原:「40歳で陸上競技のトップって珍しいと思うんですけど?」

澤野:「日本では聞いたことないですね。世界的に見てもリオオリンピックに出た時、僕が最年長だったので、『澤野まだやっているのか』みたいな感じ。周りは20代前半の選手ばっかりなので、『なんだあのおじさん?』って見られていたかもしれないです(笑)」

南原:「しかし、1日のスケジュールを事前に伺ったんですけど、実に忙しいっていうか…」

南原が驚いたのは、ある1日の澤野のスケジュール。朝から晩までビッシリ。しかも、ただ忙しいわけではない。

澤野:「教員、選手、コーチ、パパ、それからJOCのほうで理事やアスリート委員長をさせてもらっています

1日でじつに5つの「顔」をこなしていていた。1つ目の顔は、2歳のひとり娘・愛依ちゃんの「父親」。

澤野:「一緒にお風呂に入ったり、寝かしつけができる時はしています。東京五輪で跳んでいる姿を娘に見せたいっていうのはあります」

そんな優しいパパから一転、2つ目の顔は母校の日本大学スポーツ科学部の専任「講師」だ。

朝から受けもつ授業は、1週間に10コマ以上。同じ陸上部の教え子の卒論まで添削し、長期合宿になると、わずかな時間でもパソコンを開いて授業の準備を進める。

澤野:「教員は“教える”ということで、私自身が今考えているトレーニングをもういちど整理しないといけないので、自分のトレーニングを振り返るいい機会になっています」

南原:「人に教えるって、自分の中で感覚を言語化しないといけないですもんね」

さらに、3つ目の顔はJOCの「理事」。定期的に会議に出席し、2020年3月の取材時には、合宿中にもかかわらず深夜の国際会議にも参加していた。

また、アスリート委員長も務めており、コロナ禍で苦しむ選手たちのためにリモートミーティングを開くなど、選手に寄り添い、尽力している。

澤野:「陸上界、もっといえばスポーツ界に対して還元していきたい、恩返しをしていきたいという思いで引き受けました。とくに今“アスリートファースト”という言葉が叫ばれている中で、いろいろな組織においてアスリートの声が非常に重要視されているので、きちんとアスリートの声を届けるという役割が必要なのかなと思っています

では、4つ目の顔、アスリート澤野大地は、一体どんな「選手」なのか?

◆40歳で現役を続けられる理由

今から16年前の2005年、現在の日本記録である5m83を樹立した澤野。国内では無敵を誇り、日本選手権で優勝11回。19歳の初優勝からじつに20年間も表彰台を逃したことはない。(※記録なし以外)

南原:「20代の頃の自分と40代の頃の自分というのは、跳んでいる感覚は違うんですか?」

澤野:「感覚は違いますね。今のほうが効率が良いです」

ここまで長く活躍できる理由は、決して力任せではない効率のいい跳躍ができているからだという。ポイントは「助走」。ただ速ければいいというわけではない。

澤野:「私の中では助走が一番大事で、助走だけで8割9割決まると思っています。(大事なのは)いかに効率よく前に進めるかということ。体が前かがみになりすぎてもダメですし、後傾してもダメですし、しっかり効率のいいところで、まずは姿勢を作る。いい姿勢であればあるほど、効率よく地面に力を伝えてスピードを出すことできます」

練習では、助走につながる姿勢を意識した練習を行っていた。一見するとただ立っているように見えるが、効率的に地面に力を伝える姿勢をミリ単位で意識しているという。

跳躍前のウォーミングアップでも、筋肉がどう動いているか細かく確認。ひとつひとつの筋肉と対話するかのように、地味な基礎練習を徹底的に繰り返す。

こうした練習で培ったムダのない助走を、いかに最大限にポールに伝えて“突っ込む”かが大事なのだが、澤野はこの“突っ込み”において絶大な自信をもっている。感覚に自信がついたのは、30代後半になってからだという。

澤野:「20代の頃は無理やり力を使って跳んでいたんですけど、今は必要な所にだけ力を入れている感じ」

南原:「いつ頃からそういう感覚がきたんですか?」

澤野:「30後半になってからですね、『こうやって走ればもっと速く走れるな』とか、『こうやって突っ込みの瞬間力を入れられたら、もっとポール曲がるかな』とか『高く跳べるな』っていうことにつながりはじめたんです。

もちろん助走スピードなどの体力部分はすごく必要なんですけど、その助走についても技術だと思っていますし、その後の動きも完全に技術です。40歳の体でも体力だけじゃなく、技術面で戦うからこそ、今でも現役で続けられているのかなという気はしています

繊細な技術と積み重ねてきた経験があるからこそ、40歳になっても進化を続けている。人類史上初の6m00を超え“鳥人”と称されたセルゲイ・ブブカも、澤野をこう評す。

「40歳とは思えない跳躍だね!ダイチの跳躍はとても素晴らしい!」

◆教え子と競う五輪切符

そんなレジェンド、もうひとつの顔は日大陸上部の棒高跳びの「コーチ」。教え子を指導しながら、自らも選手としてともに練習に励んでいる。

練習のスタートは、教え子の指導から。自分のウォーミングアップを後回しにしてでも、一人ひとりに合ったアドバイスを送る。そして学生たちと一緒に“選手・澤野”も、自分自身で考えたキツいメニューをすべて一緒に行う。

澤野:「私自身が強くなるためのトレーニングをみんなにやらせているんですけど、私自身もやらなきゃいけないメニューだからこそ、自分も妥協できないんですね」

南原:「そうですよね。ちょっと妥協していると『えっ?自分で考えたのに!』って」

澤野:「『やらないじゃん』って思われても嫌なので、私自身が一生懸命一番やるっていう」

南原:「コーチが目の前でやっていて、しかも自分から見たら『おっさんがやっているんだ』『自分たちもやんなきゃ!』って思いますよね」

澤野:「よく言います。『40歳がやっているんだから、20代がやんないのおかしいでしょ?』って」

言葉だけでなはなく一緒に跳ぶことで、“見せるコーチング”ができるのは澤野だけ。

指導を受ける選手のひとり、江島雅紀はこう話す。

「現役の指導者兼選手って澤野さんくらいしかいないし、一緒に飛べる中で学べることのほうが、言葉よりも体で表現している選手のほうが、僕は刺激になる」(江島)

そんな“かわいい教え子”も、澤野にとってはライバル。

2年前の日本選手権では、教え子の江島がはじめて師匠の澤野に勝ち、初優勝。澤野も堂々の2位で一緒に表彰台に立った。

澤野:「ワンツー取れたっていうのも、一緒に表彰台に乗れたのもうれしいことだったなって思います。ただ、『次負けねーよ!』っていう思いもあります

南原:「オリンピックの枠はたったの3つですよ? 有力選手が7、8人いるわけですよ。ヒントとか与えたくないんじゃないんですか?」

澤野:「それはないです。全部出しています。その3つの枠を取りにいくためにみんなが全力で戦って、力を出し切った結果、3つの枠に入れたらそれは素晴らしいことだなって思いますし、そこに教え子と一緒に入れたら、もうこれ以上のことはないと思っています。そのために今、日々トレーニングをがんばっているのかなっていう気はします」

◆幻の世界記録を目指して

教え子とともに選手として4度目のオリンピックへ。そんな澤野には、大きな夢がある。

澤野:「棒高跳びを始めてからの一番の夢が、6m00を跳びたいっていうことなんです。6m00って棒高跳び選手にとって本当に夢の数字で、世界中で今6m00を跳んだ選手って30名いないんです」

南原:「本当ですか!」

澤野:「セルゲイ・ブブカ選手が人類で初めて6m00越えてから、それくらいしかいないんです。アジア人でも、もちろん日本人で跳んだことある人もいません。6m00っていう数字を日本人である私が跳びたいっていう夢はずっともち続けています

6m00。それは、棒高跳びの世界では夢の数字。日本人、アジア人にとって未知の景色だ。しかし、ここで澤野は驚きの事実を口にした。

澤野:「実は一回跳んだことがあって」

南原:「えー!? もう跳んでいたんですか?」

澤野:「はい。2007年の4月にアメリカで練習で跳んだんですけど」

日本記録を樹立した2年後、練習中に6m00を跳んでいたという。

澤野:「実は跳んだことを外で一回も言ったことがなくて。というのも、言ってしまうと実現しなくなるんじゃないかという思いがどこかにあったんです。跳んだ時の自分の感覚は今も覚えています」

南原:「どんな感じだったんですか?」

澤野:「もうめちゃくちゃ気持ちよかったです。『あれ越えてる、これ6m00だよな?』って思いながら、実は落ちていっているんですね。越えた瞬間、僕『え、今跳んだよね?』って顔しているんです」

南原:「そのときの跳躍、コーチ澤野から見てどうですか?」

澤野:「もっと助走マジメにやれよって思います(笑)。助走がひどい」

南原:「じゃあ助走よければもっといったんですか?」

澤野:「もっといけます。っていうことに当時は気づけなかったんですよ」

南原:「じゃあまだ伸びしろがあるじゃないですか」

澤野:「そういった知識や経験は今まで積み重ねてきたので、あとはそれを体で表現するだけなんですよね。だからこそ、6m00の夢をあきらめずに目指し続けたいなって思います」

東京オリンピック出場へ、勝負はこれから――。

先週の練習では、今シーズン日本人トップの記録を上回る5m60を楽々クリア。参加標準記録を見据え、挑戦を続けている。

澤野:「今、40だからこそもっている経験を集約して、すべてのパズルがかみ合った時、僕は最強だと思います!」

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)