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『Ghost of Tsushima』で復讐に燃える“政子”を熱演!安藤麻吹、その人気に「よかったね、政子」

30歳のときに米人気ドラマ『ER緊急救命室』声優デビューして以降、『エイリアス』シリーズ、テレビアニメ『精霊の守り人』(NHK)や映画『007 ダイ・アナザー・デイ』のハル・ベリーをはじめ、多くの人気女優の吹き替えを行ってきた安藤麻吹さん。

ドラマ『相棒season9』(テレビ朝日系)、『Dr.DMAT』(TBS系)、オムニバス映画『真・女立喰師列伝』の『Dandelion 学食のマブ』(神山健治監督)に主演するなど実写ドラマや映画に出演。さらに海外でも人気が高く、ハリウッドで実写映画化も決定した超人気ゲーム『Ghost of Tsushima』で人気キャラ・政子の声を担当している。

◆実写映画出演で10代の頃の夢が…

2007年、安藤さんは押井守監督総監修のオムニバス映画『真・女立喰師列伝』の一篇、『Dandelion 学食のマブ』(神山監督)に主演。ロングヘアをなびかせて謎めいた女を颯爽(さっそう)と演じた。

「あのときはとても目まぐるしい時期でした。たまたまレギュラー番組とあの映画の撮影スケジュールがいい感じでハマって、スケジュール調整をしなくてもうまくいったので、縁があるなあと思いました」

-『Dandelion 学食のマブ』に出演されることになった経緯は?-

「『真・女立喰師列伝』の総監修は押井さんだったんですけど、『Dandelion 学食のマブ』は神山監督でした。神山監督とは『精霊の守り人』というアニメ作品からはじまっている関係なので、押井さんはその後なんです。後というのもなんですけど(笑)。

神山監督が『脚本を自分で書いて撮るんだけど、女優さん誰にしよう…あっ、安藤さん女優さんだった。お願い出来ますか』って流れで(笑)。

『精霊の守り人』の収録期間中にお話をいただいたんです。だから、うまくいかないときは何をやっても事態は動かないのに、少し動き出すとポンポンと嘘みたいに続いていくものなんだなあと思いました。

それで、『真・女立喰師列伝』が東京国際映画祭で上映されて、舞台あいさつも全部終わったときに押井さんに『今アニメーションの映画をつくってるんだけど、ある役をやってもらおうかなと考えているので』と言われて、その後『スカイクロラ The Sky Crawlers』でフーコの声を演じることに。だから、『また繋がった! すごい!』と他人事みたいに感動しました」

-『真・女立喰師列伝』、ユニークな作品でしたね-

「そうですね。それぞれのパートが独立していて、それぞれの監督さんの女優さんに対する思いが詰まった不思議な映画ですよね。ああいう遊び心のある作品は、今じゃ作れないんじゃないでしょうか」

-あの映画は久々の実写だったのですか?-

「映画に関してはそうでした。やっぱり勝手が違うので戸惑うこともありましたけど、すごく楽しくて。10代の頃、角川映画の三姉妹に憧れて映画がやりたかったのをちょっと思い出しました(笑)。なので、声の仕事とも舞台とも違う雰囲気が新鮮でしたし、すごくうれしかったのを覚えています。

押井さんとはそのあともドラマ『ケータイ捜査官7』(テレビ東京)でご一緒させていただきましたが、それも寝耳に水のうれしいお誘いでした」

-押井監督はとても穏やかなイメージですが、現場ではいかがですか?-

「あのままの感じです。声を荒げることもないですし穏やかで、あまりああしろこうしろということもないですし、まずはやらせてみてそれから『もう少しこうしてください』みたいな感じです。

最初お会いするまでは、監督の作る映画もちょっと私には難しくて怖い方なのかなと思っていたら、とてもチャーミングな方だったのでびっくりしました(笑)」

-押井監督にも信頼されてつながっていっているという感じですね-

「それは本当にありがたいことだなぁと思っています。続けて使っていただくとやっぱりそれに応えたい、恥をかかせたくない、かかせるわけにはいかないという思いで一生懸命やっている感じです」

-今や海外でも絶大な人気を誇る「世界の押井守監督」ですね-

「そうですよね。『私をカンヌに連れて行ってください!』って言ってあるんですけど、早くしないとおばあちゃんになっちゃう」

◆『ボヘミアン・ラプソディ』にハマって

2018年、世界中で大ヒットを記録した映画『ボヘミアン・ラプソディ』。1991年に45歳の若さでこの世を去った“QUEEN(クイーン)”のボーカル、フレディ・マーキュリーの人生を描き、リピーターが続出。話題を集めたが、安藤さんもヘビーリピーターだったという。

「大好きです。『同じ世代に生きていたくせに、なぜ私は知らなかったんだろう?』って。友だちにすすめられたので軽い気持ちで行ったんですけど、『何? これは』ってハマってしまって、映画館に34回通いました。『IMAX(映画館)に住みたい』と思うくらいハマって(笑)。毎回同じところで泣くんですよね。何かすごく癒されたというか…そこからフレディに夢中になって」

-クイーンの楽曲は映画やドラマにも使われていたのでご存知だったと思いますけど-

「はい、曲は知っていましたけどクイーンの曲だと知らなかったのもたくさんありました。いきなりハマったものだからCDから何から一気に買い込んで、ひどいハマりようでした(笑)。

映画のDVDも買ったんですけど、1回しか見てないです。うちのしょぼいテレビで見たら『違う』と思って、それから1回も見てない。でも、いいなと思ったらどハマりしちゃうタイプなんでしょうね(笑)。

それで、クイーンが2020年にコンサートで日本に来たじゃないですか。その時期はまだコロナで自粛しなければならないことはなかったので、埼玉2日間と大阪の公演に行きました。名古屋公演だけ行けずに残念でしたけど。ギリギリでしたね、あと1か月ズレていたらコンサート自体が中止になっていたと思うので」

-ライブ公演はいかがでした?-

「すごく盛り上がりました。何か会場にフレディがいたんですよ。みんながフレディの存在を感じていたようで、生のその場でしか味わえない幸せな時間でした」

-フレディの死は衝撃的でした。まだHIVに関する情報もあまりなかったので-

「そうですよね。それは何となく覚えています。映画のなかではそこら辺はあまり描いてなかったですけど、きっとツライ思いをいっぱいしたんだろうなあって思います。本人はもちろんですが、メンバーもつらかったろうなと思うと、もうウルウルしちゃうんです。

こんなに何年も経って、ブライアン(メイ)やロジャー(テイラー)があんなにキラキラして現役でやっているのは、いろんなことを乗り越えてきて今があるんだなと思うと感慨深いです。知り合いじゃないのに(笑)」

-すごい情熱ですね。コンサートも大阪まで行かれて-

「日本での公演の機会はめったにないので。コロナがなければ、私は去年の2月末にロンドンにはじめて行く予定だったんです。友だちと一緒にフレディのおうちを見に行ったりとか、フレディに会いに行こうといろいろ計画していたんですけど、コロナで迷いに迷ってキャンセルしました。

当時はまだ、イギリスはコロナがそんなに問題になっていなかったんですけど、日本はダイヤモンド・プリンセス号のことが大きく取り上げられていた時期だったので、もし自分が無症状でロンドンに行ったりしたらフレディに悪いなあと思って。

フレディが暮らした国に迷惑をかけてしまってはいけないと思って、直前でキャンセルしました。いつか絶対に行くと思っているんですけど」

-やめて正解でしたね。その後イギリスが大変なことになりましたから-

「そうですよね。だから逆に感染して帰ってくることになっていたかもしれないので、キャンセルして正解だったなって思いました」

◆人気声優が多数所属する「声優着物部」の部長に

取材当日も春らしいすてきな着物姿で現れた安藤さん。『ドラえもん』の声でおなじみの水田わさびさん、『デジモンアドベンチャー』の園崎未恵さん、『新・ざわざわ森のがんこちゃん』(NHK)の根本圭子さん、スカーレット・ヨハンソンの吹き替えで知られる佐古真弓さんなど人気声優陣が所属する「声優着物部」の部長も務めている。

-着物を着ようと思うきっかけは何かあったのですか?-

「左とん平さんの芸能生活55周年記念パーティーのときに母が作ってくれた訪問着を着て行ったんですけど、ものすごく疲れちゃって。舞台では着物を着ることがありましたけど、それ以外はあまり着る機会がなかったので、着物を着て移動して何かに参加して帰ってきてクタクタになった自分がいて。

その疲れ具合を自分で感じたときに、『何か悔しいなあ』と思ったんです。『日本人なのに着物を着て疲れるってすごく悔しい』とそのときに思っちゃって。『普段着て動いてみて、着慣れて、生活と馴染(なじ)んだ形で着られるようになったらいいな』と思って、そこから『きょうは1日着物で過ごしてみよう』とかいう感じで家でも着たりするようになりました」

-「声優着物部」というのは、安藤さんが作られたのですか-

「私がというわけではありませんが最年長ですので部長という大役を。そもそも着物が好きな女優が何人か集まったのがはじまりで、ちょうどLINEが流行り出した頃だったので、連絡がしやすくなったということもあって現在は35人くらいいます。今はコロナでできませんが、ただただ着物を着てお散歩して、必ずお酒を飲む、飲んでしゃべって帰ってくるというだけなんですけど」

-皆さん、ご自分で着物を着て-

「はい。それぞれもっている着物を着て、何かあってもちゃんと誰かが着付けを直してあげられるという安心感がありますし、逆に『今まで着物を着たことがないんだけど着てみたいから入ります』と言って入ってくれて、わざわざ着物をレンタルして着せてもらって来る若い子とかもいて、楽しんでくれているのでよかったです」

-着物はどんどん着る機会が減っていますからね-

「そうですよね。去年から卒業式もできないような状況ですからね、私は特別なときだけじゃなく普段もなるべく着るようにしています。紬などは普段着なので、ジーンズと同じようにいろんなところに着て行っています。映画や芝居を見に行くときなども普通に着て行ったりしてます。

ただ最近、お着物を着て出かけている方を街でよく目にします。コロナ禍でお出かけする機会がとても少なくなったので、たまの外出では着物を着ようという方が増えているのかなと想像しています」

◆人気ゲームがハリウッドで実写映画に

2020年7月に発売され、国内外で大ヒットを記録している『Ghost of Tsushima』(13世紀を舞台にした、PlayStation4用アクションアドベンチャーゲーム)では、一族を滅ぼした者を探し出して復讐(ふくしゅう)する武家の女性・政子の声を担当している。

-政子役はオーディションですか-

「はい。私、政子殿に決まった当初はあんなにおばあちゃんじゃなくてヒロインと聞いてました。それがアフレコ時には白髪のおばあちゃんになってました(笑)。とにかく復習に燃えているので、目的のために人を斬ることをものともしない程の悲しみを丁寧に表現したいと思いました。

でも、あんなにみんなに喜んでもらえるキャラクターになるなんて思っていなかったのでとてもうれしいです。政子をみんなが愛してくれて、『よかったね、政子』という感じです(笑)」

-海外の方が日本語でゲームをしているというのはすごいですね-

「そうですね。本当にうれしいです」

-今度はハリウッドで実写映画になりますね-

「ゲームそのものが大変ドラマティックで濃厚なストーリーですので、それが映画になって大きなスクリーンで見られると思うとワクワクします。主人公の仁はどんなすてきな俳優が演じるのでしょうね。楽しみです。

つい先日、日本語版の音響監督だった中野洋志さんが急逝されました。中野さんでなかったらあのような愛すべきキャラの政子殿にはならなかったと思います。多くの言葉をお持ちの素晴らしい演出家でした。映画『Ghost of Tsushima』が完成したらぜひ一緒に見たかったです」

-コロナ禍でだいぶ収録も変わったでしょうね-

「コロナ前とはだいぶ変わって、多くて3人くらいを呼んで仕切りを作って、ひとり1個のマイクにして時間を区切ってやるようになりました。それで休憩を頻繁に入れて、換気をして収録しています。相当スタッフさんは気を遣ってやってくださっている状況なので大変だと思います」

-コロナ禍ももう1年になりますが、そのやり方には慣れました?-

「やっぱり寂しいなと思いつつ、でも寂しいなんて思っていたらできないので、これはこれで楽しむしかないと思っています。それはそれで割り切って楽しくはやれていますけど、本当だったら今頃みんなでワーッと集まってやって、終わった後はみんなで飲んで…という感じだったと思うと、やっぱり寂しいですね」

コロナが終息したらやりたいことがいっぱいあると目を輝かせる安藤さん。艶のある声がとても聴き心地いい。次に耳にするのはどんな役柄の声なのか楽しみ。(津島令子)