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「この苦しみから逃してはいけない」日本ハム・栗山監督が語る、清宮幸太郎への思い

3月14日(日)深夜放送の『GET SPORTS』では、北海道日本ハムファイターズの栗山英樹がゲスト出演し、番組ナビゲーター・南原清隆と対談した。

かつては南原とともに『GET SPORTS』のナビゲーターを務め、日本ハムの監督に就任してからは、取材を「受ける側」として幾度となく番組に登場してきた栗山。

今回は、就任1年目に出演したVTRを見ながら南原と当時を振り返り、今季に懸ける想いなどを語った。

テレ朝POSTでは放送内容を編集したうえで、対談の模様を前後編に分けてお届け。前編となる本記事では、「9年間の監督生活で実感した選手の変化」「清宮幸太郎に対して感じる課題」などに迫る。

◆苦境に立つ指揮官「野球に対する向き合い方が違うのかな」

2012年に日本ハムの監督に就任し、今年で10年目を迎える栗山英樹。

これまでの成績を振り返ると、就任1年目にいきなりリーグ優勝をはたし、5年目には念願の日本一も達成。しかし、2017年からは優勝争いに絡むことはできず、とくにここ2シーズンは連続5位と苦しい状況がつづいている。

南原:「監督10年目になったんですけど、今の素直なお気持ちはどうですか?」

栗山:「野球に関しては、やっぱり難しいなぁと」

南原:「やればやるほど、知れば知るほど難しいということですか?」

栗山:「難しいところにぶつかりはじめているのかもしれないですね。今まではわけもわからず、ただ好きでやっていただけなのが、もっと理解していこうとすると『ここは難しいんだよ』とたくさん教えられているというか」

南原:「成績についてのご感想はいかがですか?」

栗山:「2017年から苦しんでいる4年間が、たぶん僕にとって大きな宝物になってくれるような気がしています。やっぱり結果が出たら考えないことってあるんですね。たとえば自分のサインの出し方とか、エンドランをするケースとか、優勝してしまったら根本的に今の考えが間違っているかとかは考えない。でも今はこれだけ結果が出ないので、そもそも野球に対する向き合い方が違うのかなと(考える)。バントひとつとっても『ちょっと待てよ。バントって元々どんなものなのか、もう1回ひとつひとつ考えなきゃ』みたいなことを繰り返しています」

◆1年目から重視していた選手への「言葉の伝え方」

苦しい状況がつづいているからこそ、野球に対する向き合い方をあらためて考えているという。この日は、そんな栗山が就任1年目の2012年に出演した映像を見ながら、南原と当時を振り返った。

VTRでは、監督1年目の栗山が選手たちと積極的に言葉を交わし、一人ひとりの性格や特徴を直接確認する様子が紹介されていた。

当時栗山が残していたのは、こんなコメント。

僕は言葉よりも強い武器はないと思っています。言葉から受ける印象は、前向きにもなれるし後ろ向きにもなれる。ものすごく大きなもの。言葉はものすごく大切にしています

選手をやる気にさせる言葉の力を重視していた栗山は、このシーズン14勝の吉川光夫に「結果が出なかったら俺がユニフォームを脱がせる」という言葉で奮起を促し、リーグMVPに導く。

「そこまで言えるのは、どれだけすごい才能をもっているのかの裏返しですよね。ものすごい球を投げられるし、どこまでも勝てる。そう思えていなかったら言えない。どれだけ自分がすごいものをもっているのか、もう1度自分を知りなさいっていうことだけなんです。覚悟をしてほしかった」

厳しい言葉に隠された真意についてもこんな風に語っていた。

あれから9年経ち、栗山は当時の自分のコメントを振り返りつつ、あらためて言葉の力の大きさを実感していると話した。

栗山:「(2012年は)あそこまで必死になった1年はなかった。あれから言葉が2回転くらいしました。言葉が最高の武器だったんだけど、言葉以上のものがあると思った時期もあって、今はまた言葉の意味をもっと大切にしなきゃと思っています」

南原:「1年目は言葉って大事だなって思って、実際に言葉をかけて選手は成長しました。言葉以上に大事なものって何ですか?」

栗山:「言葉は心の表れじゃないですか。心を大事にすることが大事なんだって。心で思っていないと、言葉にしたときに伝わらない。だけど、今は僕の心が伝わらないときがあるから、心と言葉がイコールになってないといけないと感じています

栗山のいう「言葉」の伝え方については、南原にも思うところがあった。

南原:「人が変わってきていると思いませんか? たとえば、糸井嘉男選手とかズバッと言う世代と、今の清宮幸太郎選手とは考え方・感性・生きてきた社会が違いますよね。我々は根性論の古い世代、今はSNS世代。言葉の受け取り方が変わってきている」

栗山:「たしかにそれも大きいですね。あまりこちらが伝え方をこねくり回してしまうと、おかしくなってしまう。少し言い方を変えてあげるとか(工夫が必要かもしれない)」

南原:「清宮選手とかの世代はニュー世代ですから、言葉の裏側にある愛情より、言葉だけが先に刺さっているのかもしれないです」

◆9年経って実感する、変わったこと、変わらないこと

時代の流れとともに、選手の言葉の受け取り方も変わってきた。しかし、9年たっても変わらないものもある。

栗山は再び2012年の映像を見ながら、当時を思い起こした。

2012年、パ・リーグを制覇した日本ハムは、巨人との日本シリーズ第1戦に臨んだ。しかし、先発の吉川はエースらしい働きができず、敗戦。

つづく第2戦も敗れると、第6戦に登板予定だった吉川が栗山監督に第5戦での先発を直訴した。

「チームのために恩返しできていない。ここでがんばらなかったらみんなに申し訳ない」と訴える吉川の姿に、エースとしての成長を感じた栗山。

自分のことよりもチームのことを考えるようになったんだと思えたし、すごくうれしかった」と心情を語っていた。

栗山:「こういうのは監督やってないと感じられない。現場にしかない感動がある」

南原:「清宮世代でもこういったことってあるんですか?」

栗山:「たとえば去年でいうと、野村。開幕で使ったけど、サヨナラヒットとホームラン打ったのかな」

2020年7月2日。高卒2年目にして開幕スタメンにも抜擢された野村佑希が、プロ初ホームランを放った。

さらに、この試合でプロ初のサヨナラタイムリー。そんなメモリアル尽くしの試合を終えた後、野村は驚きの行動に出たという。

栗山:「最初のホームランボールを持ってきた。『そんなのお父さんお母さんにちゃんと渡しなさい』って言ったら、『サヨナラホームランのボールあるんで、このホームランボールもってきました!』って。野村には『10年たっても今の気持ちで野球をやりなさい。必死で野球をやる姿が一番大事なんだ』と伝えました

南原:「若い世代も実に素直で熱いところがある。『貢献したい』とか『恩返し』という言葉を言ってきたりしますか?」

栗山:「すごく多いですね。昔の選手より表現しますね、『誰々のおかげです』とか『コロナでも野球をやらせてもらって感謝しています』とか、昔の選手より言葉にするようになりました。ただ、いいときよりも、苦しんだときの反応や表現が昔とは全然違うかな」

南原:「野村選手がケガ(骨折)したときは、どんな言葉をかけましたか?」

栗山:「いいときは絶対人はよくならない。苦しみが成長するきっかけなんだと話しました。普通は耳に入らない。悔しいし、監督だから仕方なく聞いている感じ。だけど、野村の場合はじっとこちらを見て、言葉の意味を理解しようとしていた。本当にいい意味で真っ白な感じです」

ケガを乗り越えた野村は、今シーズンのオープン戦でチーム第1号のホームランを放つなど、着実に成長。期待度は日に日に増している。

◆清宮へ「この苦しみから逃しちゃいけない」

そして若手の有望株といえば、もうひとり。

南原:「清宮選手はどうなんですか?」

栗山:「幸太郎も純粋ですよ。ただ、すごく頑固なところがあります。打つことに関して、どう言っても聞き入れないんだろうなと(感じることがある)。『わかりました!』って言うんですけど、全然違うことやっていますからね。

『3回思いっきり振るなら、どんな三振してもいいよ』って言うんですけど、ヒットを欲しがって当てに行ってしまう。試合でチームに迷惑かけているからどうしても1点取りたいと思っているときは、そういうバッティングをしてもいいと思っている。でもそういうときに、なんであんなに変な打ち方すんの?初球から打ったりとか、意味がない。

やることと体がはっきりしてない。考えていることとできないことと、頭の中でグチャグチャになるんでしょうね。だけどそれは絶対認めようとしないし、でもそれでいいと思う」

南原:「勝手なイメージですけど、彼はずっとヒーローだったから、ヒーロー決めたがりですよね?俺で決めてやるみたいな」

栗山:「去年も選択肢としてはいろんな考え方があったと思います。でも僕は本当に(清宮は)苦しんでいたと思う。生まれてはじめて打ちのめされた感じに見えた。絶対この苦しみから逃しちゃいけないと思うんです。間違っているかもしれないけど、もっと苦しいところにいかないとコイツの力は引っ張り出せない

南原:「でもみんな『ファームにおとせよ!何やってんだよ』って言っていましたよね」

栗山:「すべての人が言っていました。だけど、僕は無難に戦って順位を少しでも上げる気持ちは一切ない。日本一しかイメージしてない。日本一になるためには、ホームランバッターがチームに足りてないので、作る責任がある。幸太郎のためにという個人的な想いと、チームの責任者としての責任もあります。僕の中では『みんなごめんなさい』と思っていましたけど、絶対に使命をはたしてやると思っています

日本ハム栗山英樹監督×南原清隆対談の後編では、打倒ソフトバンクの秘策に迫る。

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)