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【世界ラリー(WRC)】マッド(泥んこ)ラリーを制したクールガイ、3勝目!

2017年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第8戦となる「ラリー・ポーランド」が6月29日~7月2日に開催された。

©HyundaiMotorsport/無断転載禁止

このラリー・ポーランドの特徴は、次戦の「ラリー・フィンランド」に次ぐと言われる平均時速の速さ。つまり、高速ラリーとして名高い一戦ということ。マシンのポテンシャルとドライバーの度胸が試されるラリーだ。

しかし、今年はラリー・ポーランドの週末に雨が重なり、高速ラリーなのにマッド(泥んこ)ラリーという、ドライバーにとって非常に難しいラリーとなった。

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ラリー・ポーランドの直前、前評判が高かったのは、前戦「ラリー・イタリア」でWRC初優勝を飾ったフォードのオット・タナク、同じくフォードで過去2勝を挙げた王者セバスチャン・オジェ、昨年の優勝者で突如シトロエンからWRC復帰を果たしたアンドレアス・ミケルセン、マシンの速さではシーズン開幕時から定評のあるヒュンダイのティエリー・ヌービル、そして「ラリー・スウェーデン」で今季初優勝を果たし、チームがフィンランドにあることから高速ラリー向きのマシンを作っているといわれているトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラなどだ。

©WRC/無断転載禁止

初日の木曜日は、顔見せ程度となる2.5kmのSS1だけ。

トップから2秒以内に12台のマシンが並び、各車高速ラリーに向けて準備万端であることが伺えた。しかし、初日のトヨタに不安な事象が発生する。3台目のエサペッカ・ラッピのマシンがエンジンに不調を抱え、走行後にマシンをチェックすることに。また、ユホ・ハンニネンがジャンプスタートで10秒ペナルティを受けた。

©WRC/無断転載禁止

そして2日目から本格的な戦いが始まった。

2日目、トップに立ったのはヒュンダイのヌービル。2位にフォードのタナク、3位にトヨタのラトバラがつけた。その差わずか6秒6。

3日目も激しい争いになることが予想された。

また、3台目マシンのエンジン不調を必死に完治したトヨタだったが、ラッピはSS4の17.1km地点でマシン右側をコーナーにヒット。破損状態が酷く、リタイアとなってしまった。

悔しい結果を招いたラッピは、「完全に自分のミスです。事前のペースノートにはなかった岩にぶつけてサスペンションを破損してしまいました」と自身の準備不足であることを語ったが、これも今回のマッド(泥んこ)ラリーの怖さかもしれない。

©TOYOTA GAZOO Racing/無断転載禁止

一般的に雨に濡れたグラベル(未舗装路)は滑りやすいという印象ばかりを受けるが、じつは雨に濡れて柔らかくなった路面が通常よりも深くえぐられ、大きな轍(わだち)が出来てしまう。

とくにコーナーは、ブレーキング、アクセルワーク、さらにステアリングを切った状態のタイヤが路面を深く掘っていくので、土のなかに隠れていた岩などが突然出てくることがあるのだ

そんなマッドラリーは、トップ選手たちにとっても非常に難しい戦いとなったようだ。トップのヌービルは、「こうした天候と路面のなかでは出走順が重要なので、今日トップを守れてよかった」と語り、マッドラリーは実力だけでなく運も味方につける必要があることを感じさせた。

©TOYOTA GAZOO Racing/無断転載禁止

3日目、その運に見放されてしまったのがトヨタのラトバラだった

SS16の12.9km地点で突然マシンがストップ。メカニカルトラブルで原因は不明。デイリタイアを選択し、最終日のパワーステージでのポイント加算に勝負を掛ける判断を下した。結果、トップ争いはヒュンダイのヌービルとフォードのタナクの一騎打ちとなった。上位2台に遅れて3位に浮上してきたのは、ヒュンダイのヘイデン・パッドン。4位に王者オジェ(フォード)、5位にはダニ・ソルド(ヒュンダイ)が続いた。

トップに立つヌービルだが、「明日は、タナクが間違いなく僕達にハンティング(狩り)を仕掛けてくるだろう。リードタイムも3秒1差で無いに等しい。じつはSS16で後輪にパンクが発生したので、あそこでタイムをロスしたのだけど、タナクも何かしらのトラブルでタイムロスしたようで、リードを保つことができた」と語り、その言葉に余裕はなかった。

©TOYOTA GAZOO Racing/無断転載禁止

そして迎えた最終日。トヨタのラトバラはマシン修理を間に合わせラリーに復帰。各SSを3位以内で走行し、その速さが本物であることを証明してみせた。また、最終SS上位にポイントが加算されるパワーステージでは見事にトップを快走。5ポイントを獲得した。

最終日もラリーはヒュンダイのヌービルとフォードのタナクの勝負だったが、逆転勝利を目指したタナクに女神は微笑まなかった……。

SS21、林道コースを走行中にコースをわずかに外れ、マシンがコース脇の樹木に激突。なんとかSS21は走りきったが、勝負はもう出来ない状態だった。レポーターに「ハードに攻めすぎましたか?」と問われたタナクは、「勝ちに行ったのだからハードに攻めるさ」と冷静に答えた。

この瞬間、トップのヌービルは勝利を手にしたも同じで、残りのSSはマシンを壊さぬようマネージメントして最後までを走り、今季3勝目を手にした。2位にはヒュンダイのパッドンが続き、ヒュンダイはワンツーフィニッシュで大きくポイントを稼いだ。3位には王者オジェ(フォード)、4位ソルド(ヒュンダイ)、5位ステファン・ルフェーブル(シトロエン)が続いている。

©WRC/無断転載禁止

今季3勝目でいよいよチャンピオンへの挑戦権を手にしたヌービルは、「チームにとって最高の結果を手にした。とくにこれだけの接戦を制したことは大きい。たしかにタナクがリタイアした後、僕達は楽な状態になったけれど、それで集中力を失わないようにと気をつけたよ。そして、王者オジェに11ポイント差まで迫った。今回のような戦いをシーズン後半戦も続けたい。でも、今日はチームのみんな全員で3勝目を祝いたい」と、王者の背中をはっきりと捕らえた。

トヨタは、ラトバラのパワーステージ勝利と、ハンニネンの総合10位でラリー・ポーランドを終えた。結果だけ見れば残念なものだったが、手にした中身は意外と大きかったようだ。ラトバラは、「マシンはとても速く、次戦(ラリー・フィンランド)以降もライバルたちと対等に戦えることを確信した」と母国ラリーでの巻き返しを誓った

©WRC/無断転載禁止

WRCは第8戦を終え、ドライバーズランキングは160ポイントでフォードのオジェがトップ。2位には149ポイントでヒュンダイのヌービルが続く。前戦では18ポイント差だったが、7ポイント縮めて11ポイント差に迫った。

3位には今回パワーステージで5ポイントを稼いだトヨタのラトバラが112ポイントで再浮上。4位はノーポイントで終わったフォードのタナクが108ポイントでつけている。

そして、チーム同士が争うマニュファラクチャーズランキングは、259ポイントでフォードがトップ。2位にはワンツーフィニッシュで大きく稼いだヒュンダイが237ポイントで迫る。3位はトヨタで153ポイント。そして4位シトロエンは117ポイントとなっている。

次戦はラリー・フィンランド。シーズン最速の平均速度を誇る高速ラリーだ。

今シーズン、WRC復帰のチーム本拠地をフィンランドに定めたトヨタにとっては“第二の母国ラリー”であり、チーム代表のトミ・マキネン以下3名のドライバーや多くのスタッフにとっては正真正銘の母国ラリー。

マシンもフィンランドで開発してきただけに、ラリー・スウェーデンに続く今季2勝目を目指す。夜も明るい白夜の影響もあり、トヨタ応援に北欧中のラリーファンが集まりそうだ。そんな観客たちにも注目してみたい。

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

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