「ミスセブンティーン」の女子高生キックボクサー。“元いじめられっ子”が追いかけるプロとしての夢
171cmの長身を生かし、過去にはミスセブンティーンにも選ばれ、モデルも務める女子高生。
そんな彼女が青春をかけて撃ち込んでいるものは、キックボクシングだ。
12月13日(日)『GET SPORTS 』では、現役高校生でありながら、プロのキックボクサーとしても活躍する高橋アリス(17歳)を特集。将来のスター候補となった少女の挫折と成長を追った。
◆イジメっ子たちよりも強くなって『ブッ飛ばしてやる!』
2003年、日本人の父とイスラエル人の母との間に誕生したアリス。
保育園時代、格闘技好きの父に連れられ、はじめて道場にやってきたが、そのきっかけは当時受けていたイジメだったという。
「やっぱりハーフに対する偏見があったから、『外人だ!』って言われて髪の毛を引っぱられたりして、悔しくて泣いていた。だから、イジメっ子たちよりも強くなって『ブッ飛ばしてやる!』って」
「強くなりたい」という一心ではじめたキックボクシング。
ひたむきに練習するアリスの姿を見守ってきたのが、道場の先輩である双子の江幡兄弟だ。
兄・睦(むつき)と 弟・塁は、10代のころからキックボクシング界のトップでそろって活躍。彼らが、幼いころのアリスの様子を明かしてくれた。
睦:「本当に小さくて、5歳とか?」
塁:「無口だったよね」
睦:「でも練習はすごくしていて、まぁ好きなんだろうなとは思ってたけど、まさか本当にここまで…」
塁:「やるとは思わなかったよね」
睦:「いつもアリスには『生意気なこと言ったら、小さいころパンツ一丁でジムのなかを走り周っていたこと、言っちゃうからな!』って(笑)本当にそれくらい昔から知っているから」
優しい先輩たちに見守られ、アリスは中学生になると、アマチュア大会に出場するようになった。すると、3試合を戦い全勝。いじめられていたころのか弱い姿は、もうどこにもなかった。
その一方で、10代の少女向け雑誌 『セブンティーン』のオーディションに合格。ファッションモデルとしての活動もはじまり、キックボクシングとの両立をはかることになった。
「顔にアザができちゃって、ファンデーションでずっとペタペタ(隠された)。『アザつけないでよ』って言われて、撮影呼ばれなくなるんじゃないかと思って焦りましたね(笑)」
慌ただしい生活を送った中学生時代、卒業式の直前に、アリスはキックボクサーとしてプロデビュー。
持ち前のリーチの長さを生かし、序盤から相手を圧倒。所属団体(新日本キックボクシング協会)における史上最年少勝利を飾った。
幼いころからアリスを指導してきた伊原道場・伊原信一会長は、彼女の将来性に期待する。
「手足が長いというのは大変な有利。パンチもはやく出せるし、蹴りもきれいに蹴れるしね。本当に何でもできる子だから、もっと自分を信じて大きく羽ばたいてほしいですね」
周囲の期待通りに、高校進学後もスター街道を歩んでいくはずだった。
◆「『負けたら終わりだぞ』って言われてたのに…」
しかし、2019年出場するはずだった試合は、体調不良で無念の欠場。2020年に入ってからは、新型コロナウイルスの影響で団体の興行が半年以上も休止された。
そんななかで開催が決まった、9月の後楽園ホール大会。実に1年半ぶりとなる試合を迎え、アリスは会場に入った。
「今の気持ちですか? 怖いです。メッチャ怖いです。なんか勝ち負けで自分の人生変わるなって思って」
思わず口走った「怖い」という言葉。不安を抱えたまま臨んだ試合は、大きな試練となった。
試合開始直後、突進してきた相手の勢いに押されたアリスは、立てつづけにパンチを受ける。守勢に回ったまま、技を繰り出せず、持ち味を発揮できないまま、第1ラウンドが終わった。
インターバルでは、伊原会長やセコンドから積極的に戦うように指示されたが、その後も、相手の突進を抱え込むことでしか凌げない展開。
長いリーチを生かした攻撃はほとんど出せず、3ラウンドの戦いが終わってしまう。結果は、0対3の判定負け。リングから下りたアリスは、人生初の敗北に泣きじゃくった。
「負けちゃった…会長から『負けたら終わりだぞ』って言われてたのに負けちゃった。もっと練習しておけばよかった」
試合から2週間後、様子を確かめるために道場を訪ねてみると…。
「体調面は? ケガまみれです。相手のパンチもらいすぎて、歯とか鼻、足も内出血していて、鎮痛剤がないと練習できない状況です。
正直悔しかった。はじめてだったから負けたときの感情がわからなくて、不思議な気持ちでいっぱいでした。私ひとりでリングに置いていかれた感がハンパなくて。やっぱり戦うのは自分なんだなって思った途端に、メチャクチャ怖くなって…」
プロとして戦う怖さを実感したアリス。しかし、休んでいられる時間は残っていなかった。9月、10月とあらかじめ連戦が決まっており、次の試合まですでに3週間を切っていたからだ。
伊原会長との練習では、前回と同じ轍を踏まないように、距離を取りながらパンチやキックを数多く出していくことを徹底指導された。
試合で不安に打ち克つため、基本に立ち返る。
試合前日の10月24日(土)、公式計量が行われた。今回の対戦相手(上野hippo宣子)も、パンチを武器に突進してくるタイプの選手。前回の反省を生かさなければ、勝利は望めない。
「相手も死ぬ気で練習したと思うし、はじめて会って目に殺気を感じたので、私も負けないように」
◆人生初の敗北を経て、リングの上で得たものは…
そして迎えた再起戦。この日のセコンドは、幼いころから慕ってきた江幡兄弟の兄・睦が務めた。
「アゴを引いていれば相手のパンチは効かないから、どんどん自分から!」
入場直前のアドバイスに、アリスは緊張の面持ちで頷いた。
女子54キロ契約 2分3ラウンド。道場の看板を背負うプロとして、連敗は許されない。
試合開始のゴングと同時に、きれいなミドルキックを決めたアリス。しかし、出だしこそよかったものの、次第に相手の圧力に押され、悪いクセである抱え込みが目立つようになる。
第1ラウンドが終了し、セコンドの睦から叱咤激励が飛ぶ。ここが正念場だ。
第2ラウンド開始早々、アリスの左ジャブが相手の顔面を捉えた。さらに、自分に有利な距離を取りながらローキックも放つ。相手のストレートをもらう場面もあったが、タイミングよく前蹴りをヒットさせたところで、ラウンド終了。ただし、3名のジャッジに明確な差を見せつけるまでにはいたっていない。
いざ、最終ラウンド。タフな相手は、必死の形相で打ち合いを挑んできた。アリスはフットワークで突進をかわし、パンチやローキック。間違いなく効いている。
ラスト30秒。ロープ際での激しい打ち合い。そして、終了のゴングが鳴り響いた。
判定の結果は、アリスの勝利(3-0)。
人生初の敗北から1か月、短期間で立ち直り、プロ2勝目を手にしたアリス。リングを下りるその表情には、よろこびとともに安堵感が漂った。
アリス:「ありがとうございました!本当にうれしい」
睦:「第2ラウンドの後半、自信をもって恐怖に打ち克ったから、ああやってパンチも出せて、自分が思うように動けたじゃん」
アリス:「動けました」
睦:「よくがんばった!またがんばろうね」
アリス:「またお願いします。押忍!」
幼き日、イジメっ子に対抗するためにはじめたキックボクシング。
いつしかそれは、彼女の心の拠り所となり、人生のなかで欠かせないものとなっていた。前途洋洋に見えたプロ生活で、はじめて味わった敗北にも、大きな意味があった。
「2戦目でボコボコにされて、プロは甘い世界じゃないと思った。そこで練習の仕方も変わったし、覚悟を決めてリングに上がった。いろいろ成長しました。どんどん試合をしてトップランカーになって、一番になりたいなって」
そして、17歳の女子高校生キックボクサーは、力強い眼差しで 最後にこう言った。
「私は夢に向かって必死に生きています!」
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)