もう周りは気にしない…34歳の上田桃子、躍進の裏に10年でつかんだ“自信”「自分の力で戦ってみたい」
2020年、多くの若手が台頭したゴルフ界で、ひときわ存在感を放ったのが上田桃子、34歳。
若いころはプレー中に上手くいかないと感情のコントロールに苦労していた選手が、2020年はそのような姿をみせることはなく、海外メジャー大会の全英女子オープンや国内メジャー大会で自己最高の成績を残した。
いったい上田に何があったのか? 12月13日(日)の『GET SPORTS』では、上田桃子の躍進のウラにあった“変化”に迫った。
◆「いろんな経験をして冷静に判断できるようになった」
12月、国内最終戦を終えた上田のもとを訪れると、今年の好調の理由について次のように話した。
「今は精神的な部分も技術的な部分もバランスいい状況だなって思う。今年の日本のメジャー大会もそういう気持ちで挑めて、今まで以上にいい結果が出せた」
あらためて2020年の上田の成績を見てみると、8月の全英女子オープンでは、自己最高の成績となる日本人トップの6位。10月の国内メジャー、日本女子オープンでも自己最高の3位。国内最終戦リコーカップも3位と、34歳にして充実した1年となった。
「調子が悪くても『あとはこれだけやろう』と腹をくくってひとつのことに集中できるときは、意外と終わってみたら結果がよかったみたいなこと多いですし、集中力が出るってことが一番大事な気がします」
上田の口から出た言葉は“集中力”。そこでこんな質問をしてみた。
「その集中は、10年前の自分ではムリですか?」
これに対して…。
「ムリでしょうね! 実際、10年前コーチに『もうムリです!』と言っている瞬間とかあったので。昔は初心でやらなきゃと思ってもやれなかったけど、いろんな経験をしていろんなことを冷静に判断できるようになったのかなとは思います」
さかのぼること13年前、2007年の全英女子オープン。
初出場の上田は、海外メジャーの洗礼を受けた。強風吹き荒れる難しいコンディションのなか、全英特有のポットバンカーに捕まり、苦戦すると思わず「ムリっす!」と言うほど完全に集中力を切らしていた。
苦い経験を経て、2020年8月、10度目の出場となった全英女子オープン。
上田は過酷なコンディションのなか、以前では想像できないほどの笑顔を見せ、しぶとく耐えつづけていく。2日目の最終ホールの第2打、予選通過のかかる重要な局面でバンカーに入れてしまうが、ここも冷静に一発で出し、見事決勝ラウンド進出を決めて見せた。
さらに、最終日もこの超難関コースを4バーディーノーボギーで回り、日本人最高位、自己最高成績となる6位で世界中にその力を見せつけた。
「とにかく1打1打に必死だったし、『ここまで耐えてこられたから、最後で気を抜いちゃうと(ダメだ)』という気持ちでやってた感じだった。1ホール1ホール集中するしかない状況が、最後まで気持ちを保たせてくれたのかなと思います」(上田)
4日間、これまでとはまったく違う姿を見せた上田だが、そこにはある大きな変化があった。
◆「自分の力で戦ってみたいと素直に思えている」
2010年、当時24歳の上田は、インタビューでこんな言葉を残していた。
「試合をしていたら正直、悔しいですよ。年齢とか関係ないもん。『なんで(宮里)藍ちゃんが勝てるのに、私は勝てないわけ』ってすごい思ったし。(有村)智恵とかね、(諸見里)しのぶとかね、(横峯)さくらちゃんとか、『何がいいからそんなスコアが出るのかな』とか考えてたけど、結局答えが出ないんですよね」
10年前は、人と比べ自分に足りないものばかりが目につき、もがきつづける日々を送っていた。
「足りないものを補おう補おうっていう作業をずっと十何年してきたので、自分のあるもので戦おうっていうよりは、『もっとこれやらなきゃいけない』『もっとあれやらなきゃいけない』『この選手はこういうことしてる』とか、人にばかり目が向いていて、自分の持ち味が出せずに焦っていたんです」(上田)
これまでは弱点克服ばかりに気を取られ、練習で足りないものを補おうとするあまり、自分の力を信じ切れていなかったという。しかし10年たち、その考え方は変わった。
「今は、『これで勝てるかわかんないけど、私のこの武器で勝負してみたい』と思えているので、自分の力で戦ってみたいと素直に思えているところが変わったのかなって思います」(上田)
周りにばかり向いていた目が自分自身に向き、自らの力を信じるようになったのだ。
◆立場が変わり、芽生えた“使命”
こうした考え方の変化には、あるひとつのきっかけがあった。
上田は2014年以降、辻村明志コーチと二人三脚で歩んできたが、2016年、その環境に変化が訪れる。上田と一回りも年の離れた、当時18歳の小祝さくらが加わったのだ。
“チーム辻村”が結成され、今では辻村コーチのもとで6人の後輩たちとともに練習に励んでいる。
後輩たちもコーチも口をそろえ、上田の存在を頼もしい先輩だと話す。“先輩”となったことが上田に大きな影響を与えたのだ。
実は、上田自身もかつては宮里藍の背中を追いかけていた。
「宮里藍ちゃんを見てきて、本当にうまいだけじゃなくて、いろんなことを伝えられる人だなと尊敬していた。自分もそういうことをやっていかなければいけない使命もある」(上田)
結果が出ない苦しい日々も、その存在が大きな支えとなっていたからこそ、偉大な先輩がいることのありがたさを誰よりも知っている。
「やっぱり後輩も見ていると思うので、誰よりも素振りのときはいい音を鳴らして、『桃子さんがこんなに振ってるから、もっと振らないと』って思わせなきゃいけないなと思う」(上田)
後輩に背中を見せるようになったことで、ゴルフに対する向き合い方も大人になっていった。考え方、立場の変化、これが2020年の上田の躍進の理由だった。
そんな大人になった上田に、こんなことを聞いてみた。
「10年前の自分にメッセージを送るなら?」
この質問に上田は…。
「焦っていいんじゃないって思います。焦っていたからがんばってこれたと思っているし、そこで自分の実力はこれなんだって決めつけていたら、進化もしなかったと思うので、10年前の私にも、『焦ろ、焦ろ、焦ってもがいて苦しんで、でも心は潰れないようにね』って思います」
そして、「10年後の自分にメッセージを送るなら?」という質問には…。
「『嘘をつかず、自分の気持ちに正直に生きていますか?』。常にゴルフをしていてもしていなくても、チャレンジしてほしいなって思いますし、自分には素直な気持ちで行動してほしいなって思います」
34歳にして大きな変化を遂げた上田桃子。だが、どんな経験をしても10年間、変わらないものもある。
「進化!あのときの桃子より強くなった桃子を見せたい!」という10年前の言葉だ。今回のインタビューで、上田はこんな言葉を残した。
「進化していかなきゃいけないなと思います。なんかやらかせる選手になれるように」
上田桃子34歳、進化はまだまだ止まらない。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜日夜25時25分より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)