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音とは何か?を探求するサウンド・アーティスト大和田俊が語るこの世界の「違和感」

新感覚アート番組アルスくんとテクネちゃん、第10回の放送に登場したのは、2億7千万年前の化石を酸で溶かし、凝縮された時間を“音”として再生するサウンド・アーティスト、大和田俊さん。

海の生物が閉じ込められた石灰石が音を立てて融解し、太古の二酸化炭素が放出されていく姿から、観る人は何を「知覚」するのか?大和田さんが考察する、知覚の境界線について聞いた。

◆2億7千万年前の音を再生する


unearth 撮影:冨田了平

―大和田さんの『unearth』は、一見とても不思議なインスタレーション作品に見えます。石に向かってマイクが向けられていて、“ぷつぷつ”という音を拾っている。これは石が溶けているわけですか?

そうです。石灰岩に酸をかけると二酸化炭素が発生する。その気泡が弾ける小さな音を増幅して聴かせる作品です。石灰岩というのはセメントや漆喰、砂利の材料でもある日本ならどこでも採れる石で、僕は栃木県出身なのですが、栃木の葛生も石灰石の産地として有名なんです。

―石が溶けたときの音を聴いてもらう作品だと。

“音を聴かせる”よりも“音を取り出す”作品ですね。これは2億7千万年前の音なんです。

―2億7千万年前?

はい。石灰石にも色々な時代のものがあるんですが、葛生の石灰岩は2億7千万年前頃に生成された石なんです。なので、そこから生まれる二酸化炭素もそのときの音といえる。

―なるほど!

そもそもほとんどの石灰岩というのは生物由来なんですね。はるか昔の海にはフズリナという有孔虫やウミユリという棘皮動物の一種がいて、身を守るために海中の二酸化炭素を吸収して、炭酸カルシウムの殻を作っていたんです。

彼らの死骸は海の底に堆積して、島のような固形を作り出していく。その島がのっている海洋プレートは、やがて地殻の動きに合わせて大陸プレートに沈み込み、やがて地表にあらわれる。これが石灰岩です。

―炭酸カルシウムが溶け出して二酸化酸素を発すると。石灰岩はもともと生き物だったんですね。

そうなんです。たとえばエベレストの頂上付近の石も石灰岩なのだそうで、『地球でいちばん高い山は生き物でできている』とも言えるのかもしれないですよね。

―そうなんですか! 知りませんでした。

葛生には海がないけど、石灰岩の山がある。そしてそれはかつて生きていた生物たちの痕跡でもある。それがすごくおもしろいなと。

◆“知覚できない状況”を生み出したい

―そこに酸をかけようと思われたのはどうしてですか?

もともと僕は藝大の音楽学部にいて、主に電子音楽を中心とした、音にまつわる作品を作ってきたんです。あるとき“マイクと物体の間にある空気”に興味をもって試行錯誤していたとき、もっと直に空気を扱いたいなと思うようになって。

それで、小さい頃に祖母にもらった石灰岩のことを思い出したんですよ。そういえば石灰岩と酸を反応させると二酸化炭素が出ることを思い出して、じゃあその音を録ってみようか、と。実験を繰り返して、徐々に点と点が繋がっていった感じです。

―自然な流れだったんですね。

中学校で習う化学反応なので、仕組み自体は高度でもなんでもないんです。でも僕にとって、酸が滴下されて、石灰岩の表面にあたると溶け出すという瞬間的な変化がすごく大事で。

2億7千万年という時間というのは、実は瞬間的な事象の蓄積なわけですよね。その時間軸の長さを、酸をかけることで瞬間に戻すというか。

―石のなかの止まっている時間を解凍するような。

そうですね。さらに、そこで発生するのが二酸化炭素である、ということも重要なんです。

二酸化炭素は無臭だし、目では見えないものですよね。でも、僕たちは二酸化炭素を吐き出して生きていて、屋内の濃度が高くなると眠くなる。ひっそりとではありますが我々の身体に直接的に影響を与える化合物なのに、はっきりと知覚できていないわけです。

石灰岩に酸をかけることで、パッと見ると音が出ている状態だけど、実は裏では二酸化炭素が発生している、その“知覚できない状況”を作り出したくて。

―ああ、鑑賞者は知覚できないことを知覚できるわけですね。

やっぱりサウンドアートみたいなものって、鑑賞者に聴覚がある、ということが前提の作品なんですよね。

でもフズリナのように聴覚をもたない身体構造の生き物というのはたくさんいるわけで、彼らにとっては音がない世界が当たり前。そういう生き物にも関係のある作品を作りたいなと。

―それによって、大和田さんはどういうことを伝えようと?

圧縮された時間をどう考えるかっていうのが僕のインスタレーションだと思っていて。蓄積されて圧縮されてきた時間を、酸と石というシンプルな組み合わせで再生する。長い時間と、鑑賞という瞬間的な体験のあいだに、一体何が起こるのか。その疑問が、最終的にはなんで自分は生きているのか、という視点に繋がっていったらと思います。

―仕組みはシンプルだけどその裏側に壮大な思考があって、すごくおもしろいです。そういった疑問を音を使って表現しているのも新鮮というか。

わかりやすく伝えるために、肩書きを「サウンド・アーティスト」としてしまうことも多いんですけど、実はあんまりしっくりきてはいなくて。どちらかというと、音とは何か考えながら作品づくりをしているアーティスト、という感覚なんです。ひとつの言葉であらわしづらいから、便宜上サウンド・アーティストとしているというか。

◆世界が成立していることへの違和感

―たしかにサウンド・アーティストというと、音を素材とした、いわゆる楽曲のような制作をしているようにも受け取れますもんね。大和田さんの作品はそれとは大きく違っていて。昔からこういった視点で制作をされていたんですか?

うーん、小さい頃からたしかに音や時間について考えていた気がします。3歳くらいのときに耳のなかでプチッて音が鳴ることに気がついたし、アニメや映画のフィルムの間にある、カットされている時間のことも気になっていて。その頃に気になっていたことが今制作している作品※に繋がっているのは確かですね。

※現在小山市立車屋美術館で展示中のアニメ―ションを取り入れたインスタレーション作品

―好奇心が旺盛だったわけですね。

いや、好奇心はないんです。ただ違和感が半端ないんですよ。

―違和感?

たとえば高校の物理の授業で「垂直抗力」について習ったんですね。リンゴのような物体を床に置いても下に落ちないのは、床が物体に重力と同じだけの力を瞬間的に与えているからだ、と。

それを聞いて、物体が置いてある状況をどう捉えていいかわからなくなって、思い悩んでしまったんです。そういう世界の成立条件にすごく違和感を覚えたというか。なんで世界はこんなふうに安定しているんだ、と。

―みんな当然のように習って受け入れるけど、違和感があったと。

連続的に見える景色に、瞬間的な裂け目のようなものがある気がして。その違和感が自分のベースになっている気がします。

なぜその違和感が「聴覚」というものへの興味につながったのか?というところは自分の経験や趣味趣向が重なった結果なんだと思うんですが、聴覚を疑ってみる、みたいなことをしないと、世界がどうできあがっているか考えられない気がしてしまったんです。

―その感覚がずっと小さい頃からあるんですね。

大学ではコンピュータを使った電子音楽を作っていたんですけど、プログラミングをしてマシンが音を発するまでにブランクがあるんですよね。

その間に何が起きているんだろう、と時間のズレのようなものがずっと気になっていました。

コンテンポラリーダンスに即興で音を合わせるインスタレーションをしたときも、鳴らした音にダンサーが反応するまでにどうしても一瞬の間が空いてしまう。この“間”がすごく気になって。

―なるほど。先ほどのフィルムの間にも通ずるところがありますね。

時間軸は一本の線ではなくて、もっと多様な側面があると思うんです。

石灰岩は2億7千万年前に誕生した石でもあるけれど、今、現在においてすぐ目の前にある今の石でもある。そういうことを自分の知覚を通じて考えていきたいなと。

自分自身が知覚の境界線にあると考えたときに、はじめて世界と関われるんじゃないかなと思います。

<文:飯田ネオ 撮影:大森大祐>
撮影協力:小山市立車屋美術館

大和田俊
サウンド・アーティスト

おおわだ・しゅん|
1985年栃木県生まれ。東京芸術大学音楽学部卒業、同大学院美術研究科修了。音響と、生物としてのヒトの身体や知覚、環境との関わりに関心を持ちながら、電子音響作品やインスタレーションの制作を行なっている。
主な展覧会に、「裏声で歌へ」(車屋美術館、栃木、2016)、「不純物と免疫」(Tokyo Arts and Space、東京、2017 / BARRAK 1、那覇、2018)「Ars Electronica 2018」(リンツ、オーストリア、2018)、「Biennale WRO」(ヴロツワフ、ポーランド、2019)、「BIENNALE NÉMO 2019」(パリ、フランス、2019)など。
最新の個展「破裂 OK ひろがり」が小山市立車屋美術館で開催中(2021年2月7日まで)。

※番組情報:『アルスくんとテクネちゃん
毎週木曜日 深夜0時45分~50分、テレビ朝日(関東ローカル)

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