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渡辺謙との共演で、豊川悦司が“新発見”「他の現場ではあるようで、あまりないこと」

12月5日(土)、6日(日)午後9時から放送されるテレビ朝日開局60周年記念 2夜連続ドラマスペシャル『逃亡者』

1963年にアメリカで放送され最高視聴率50%を記録。1993年にはハリソン・フォードとトミー・リー・ジョーンズで映画化され、こちらも大ヒットを飛ばした海外ドラマの名作が、舞台を現代の日本に置き換えよみがえる。

今回「追う者」と「追われる者」にわかれるのは、渡辺謙と豊川悦司。日本を代表する2人の俳優の熱演によって、これまでにない骨太な人間ドラマが描かれることは間違いない。妻殺しの容疑者として逮捕されるも、無実を証明すべく逃亡するエリート外科医・加倉井一樹役の渡辺謙と、彼を執拗に追う叩き上げの刑事・保坂正巳役の豊川悦司に話を聞いた。

ーーまずは撮影を終えた感想をお聞かせください。

渡辺謙(以下、渡辺):脚本を読んだときに分かっていたつもりだったんですけど、あまりにも(撮影が)ハードすぎて、撮影の途中で「なんでこの仕事受けちゃったんだろう」って思うくらい大変でした。ただ、逆に、逃亡している主人公が味わう疎外感とか焦燥感を感じやすい現場だったと思います。3日間セリフがないときもありましたし、スタッフが僕を追い詰めてくれました(笑)。

豊川悦司(以下、豊川):スケール感のすごく大きな作品で、なによりも謙さんが相手ですし、監督も昔からぜひ一度ご一緒したかった和泉聖治監督だったので、すごく楽しかったです。前後編に渡る長尺のドラマで、みなさんも知っている話だと思いますが、そんなチャレンジ精神のある作品に自分が呼ばれたことがすごくうれしかったです。

渡辺:(豊川を指して)それほどハードじゃないんですよ、こっちは。

豊川:いやいやいや(笑)。僕は謙さんが走った山道を何日か後に走ったり、謙さんが降りた階段を昼飯の後に降りたり、撮影はほとんどそういう感じでした。同じロケ場所なんですけど、意外とすれ違いでしたね。

渡辺:全編通して逃げていく感覚だけではなく、ある種、友情が破綻していくさまだとか、サスペンスや人間ドラマといった部分も長尺なぶん、織り込めたという気はしているので、見ごたえはあるのではないかと思います。

ーーおふたりの共演はこれがはじめてですか?

渡辺:いや、これがけっこう共演しているんですけど、必ずすれ違うんですよ。あまり同じ画面で僕らを見たくないのかもしれない(笑)。でも、この作品では実際に同じシーンで会うところが何か所かあるし、常に自分を追い詰めてくる人間として、豊川くんの顔なり雰囲気なりをずっと背中に感じながら演技をしていました。

豊川:僕の記憶だと、謙さんと共演させていただくのはこれで3回目だと思うんですが、たしかに同じフレームになかなか入らないですね。

渡辺:なぜなんだろう。デカすぎるのかね(笑)。

豊川:それでも今回はもっとも一緒にお芝居させてもらったと思います。あらためて、謙さんは同じ俳優仲間から見てもすごく真面目で、自分の役だけでなく全体を考えている方で、今回の作品では「このシーンはこういうふうに解釈できるんだけど、君はどう思う?」というようなディスカッションを監督を交えながら話す機会も多く、僕自身も新たな発見がありました。

これって他の現場ではあるようであまりないことなんです。今回そういう“渡辺謙スタイル”というものに触れられて、僕もすごく刺激になりましたし、次から仕事をするときは一歩踏み込んだ見方をしてみようかなと思いました。

ーー渡辺さんはそんな豊川さんと共演してあらためて感じたことは。

渡辺:やっぱり雰囲気がありますから。彼が演じる保坂は多くを語る役ではないんですよ。背中に孤独感だったりとか、人間に対する不信感を背負ったりしている人物をとてもクールに演じてくれました。僕はもう必死にガニ股で階段をガーッと降りるけど、彼はもうサーッとクールに降りますから(笑)。

◆「追う者」と「追われる者」はサスペンスの王道

ーー海外ドラマの古典的名作を今、ドラマ化する意義についてはどう思いますか。

渡辺:もともとのテーマとして「追う者」と「追われる者」って、サスペンスの王道だと思うんですよ。これをそのまま現代社会に置き換えたとしてもおもしろみのあるドラマになると思うし、スケール感や話としてのおもしろさからしてもやる価値のある作品だなと。こんなに一気に読める本(台本)はなかなかありませんでした。

豊川:やっぱり「1対1」って、一番おもしろいエンターテインメント要素だと思うんですよね。魅力的な主役と魅力的な脇役の対峙という、世界的にもおもしろい構図がこの作品にはしっかりとあるから、見ているうちにどんどん引き込まれていく。たくさん情報はあるけど、余分なものは実はない。「追う者」と「追われる者」が、いつ、どこで会うんだろうっていう、それだけで充分というか。

渡辺:画面の前で「そこ行ったらダメ! ダメ!」って言って欲しいよね(笑)。

ーーオリジナル版や映画版との違いについてはいかがでしょう。

渡辺:もちろん時代が異なるので、今の時代に合った設定でありバックグラウンドを用意し、細かい部分では携帯電話や科学捜査など現代風にアレンジしていただいた部分はあります。あとは僕と真犯人との間柄がもう少し複雑な人間関係になっていると思います。

豊川:僕も映画を見て、トミー・リー・ジョーンズがこの役に対してどういうアプローチをしたのか、追う立場である刑事がどういう形であればエンターテインメントとしておもしろいのかというところでアイデアをもらいました。

昔と比べて情報量は格段に増えているぶん、ストーリーのなかで登場人物は追う側も追われる側もそれをスピーディーに処理していくわけで、そこがある意味、情報戦じゃないけどもサスペンスになっているところもあります。

渡辺:撮影が残り2日くらいになったとき、(和泉)監督が「もう1か月くらい撮りたいな」って言ったんですけど、僕は「すいません、今の科学捜査ではもう1か月逃げきれません」って断りました(笑)。

ーー2夜連続放送ということで意識した部分はありましたか。

渡辺:いや、そこはもう今のお客さんは目が肥えていますから、いかにリアリティがあっていかにスリリングであるかということに関してだけ常に意識をしてやっていました。ただ、地上波ですけど、けっこう序盤は規格外なくらい飛ばしていくみたいですよ。

豊川:前編はもうアクション、アクションのノンストップで、後編はサスペンス色が強くなっていく展開です。あとは単純に映画よりも長い、5時間近くある尺を埋めていく醍醐味はありましたね。

渡辺:豊川くんの言うように、前編と後編でものすごく色合いが変わるので、続けてご覧いただくとよりいっそう楽しめると思います。

◆一つひとつの作品に取り組む“厚み”を大事にしたい

ーーところで、おふたりくらいのキャリアになるともうないとは思いますが、大きな仕事の前とかに逃げたくなる気持ちになることはありますか。

渡辺:でも、だいたいクランクインの前日はほとんど寝てないです。やっぱり緊張しますよ。これからどういう旅がはじまっていくのだろうっていうのもありますけど、それが大きければ大きいほど、ぶつかっていく気持ちも大きくなっていくでしょうし。若い頃はけっこう「どうしよう、どうしよう」って足掻いたんですけど、最近は「そういうのが初日なんだ」と割り切るようになったので、足掻かなくなりました。

豊川:僕もプレッシャーはありますよ、常に。僕が仕事で一番好きなのが、撮影前に自分の役とかについてボーッと考えている時間なんですよ。「あぁ、このまま撮影しないでギャラだけもらえたらどんなに楽だろう…」っていつも思います(笑)。この歳になっても心のどこかに「うまくやろう」と思う気持ちがあって、日々の撮影はもうそれとの戦いみたいになってきてしまうんですけどね。

ーーおふたりが人生をかけて「追いかけたい」と思うことは何でしょう。

渡辺:作品をやっているときは常に「この作品のゴールはどこにあるんだろう」と追い求めているところはありますよね。よくみなさん言われると思いますが、結局、そこにはゴールはなくて。舞台なら千秋楽、撮影ならクランクアップがありますけど、どこか自分のなかで満足いかない部分があったり、もっとやりたかったと思ったりすることは常にありますから。

豊川:まったく同感ですね。ただ、僕ら俳優の後輩にとって背中を追いかける存在として、謙さんが次に何をするのか、どうするのかというのはものすごく興味がありますね。謙さんのようなチャレンジングな兄貴がいてくださると、自分の俳優人生においても刺激になるというか。

ーーでは逆に、想像しただけで逃げ出したくなるようなシチュエーションや対象物はありますか。

渡辺:今回ホンッと勘弁してくれよと思ったのは、高いところ(笑)。

豊川:けっこう行っていましたね(笑)。

渡辺:高いところ嫌いなのに、なんでこんなに行かされるんだろうって。

豊川:僕は狭いところかな。今回の作品では特別広域捜査車という特殊車両が出てくるんですが、小さなモニターが並んだ六畳一間くらいのスペースに、5人ぎゅうぎゅう詰めで1日中ずっと撮影したときは、さすがに「もう勘弁してくれ!」って思いました(笑)。

ーー現代社会に生きる人間として、時間やスケジュールに追われている感覚は強いですか?

渡辺:撮影をしているとあんまりそういう感覚はないですね。現場はものすごいアナログなので。ただ、ネット配信されるドラマや映画を見ていると、ものすごくはやいサイクルで見る人の目に触れていくので、僕らもそろそろちゃんと意識して作品選びをしたり、関わって行ったりしないと追いつかないかも、という気はしています。

僕もNetflixやAmazonプライム・ビデオとかついつい見てしまうし、見はじめると最後まで止められないんですよ。そのクオリティ、そのスピード感で配信する時代が来ているんだと思うと、今までの作品作りとは違う気がします。

豊川:僕は先のスケジュールが決まっているのはあまり好きじゃないです。2年先の舞台とか決まっている人がいると聞くと、「2年先どう生きるか決まっていることがはたして楽しいことなのか?」って思ってしまいますね。もちろんその人の自由ですが。

渡辺:俺もそこまで決めきれない。いいとこ来年までだよね。そこから先はすごい縛られる感じがする。

豊川:あんまり先のことまでバシッと決まっちゃっていると、つまらない気は僕はしますね。俳優として、これから先は一つひとつの作品にしっかり取り組む“厚み”のようなものを大事にしたいとは思います。

渡辺:そんなにあくせくやってもね。いい歳だから、お互い(笑)。

<取材・文/中村裕一>

 

※番組情報:テレビ朝日開局60周年記念 2夜連続ドラマスペシャル『逃亡者』
2020年12月5日(土)午後9:00〜午後11:05、テレビ朝日系24局
2020年12月6日(日)午後9:00〜午後11:05、テレビ朝日系24局