テレ朝POST

次のエンタメを先回りするメディア
menu

女優・片岡礼子、“脳出血”で引退も覚悟…2年後に女優復帰「泣くだけ泣きました」

女優デビュー作『二十才の微熱』(1993年)の橋口亮輔監督の映画『ハッシュ!』(2001年)に主演し、第75回キネマ旬報主演女優賞&第45回ブルーリボン賞主演女優賞を受賞した片岡礼子さん。

“映画界のミューズ”として注目を集めていた2002年1月、舞台稽古の最中に脳出血(脳動静脈奇形血管出血)を発症。一時は生命の危機にも晒されたが、約2年間の療養生活を経て女優業に復帰し、数多くの映画、ドラマ、ラジオドラマ、舞台に出演している。

◆離島での農作業がリハビリに

退院後、自宅でのリハビリを経て、ご主人の実家である愛媛県の離島に転居し、療養生活を送ることに。農作業を手伝い、草むしりなどを続けるうちに、普段動かさない筋肉を使うのがリハビリに効果的だったようで、徐々にからだも回復していったという。

-療養されていた2年間、女優として復帰することは?-

「考えてはいけない状況でしたね。実は、療養生活を送っていたとき、(復帰作となる)『帰郷』の前にも映画のオファーをいただいたんですけど、途中で降りてしまうことになるんじゃないかという不安から、しばらく返事ができなかったんです。

そうしたら監督が、『いいの、あなたが元気でありさえすればいいの。そのままの姿で考えてください』というようなことを言ってくださって、どうしたらいいかわからないぐらい涙が出ました。以前の自分が今の自分を見たら、『どうしてあの状態で彼女が来ているの?』って思うんじゃないかという自分もいて、葛藤がすごかったんです。『やります』も『やめます』も決められない。

やりたい気持ち、復帰したい気持ちはいっぱいあるけど、『病気をして大丈夫?』しか言われてない人が、前と同じようなことに挑めるとも自分では思えず…。

そんな自分に、『あなたを信用して、いてくれるだけでいい』っていう言葉までいただいてしまったら、断る理由なんてないじゃないですか」

-女優冥利に尽きますよね-

「もう本当に、泣くだけ泣きましたよ。でも、やりたい気持ちはあるんですけど、まだ日常生活すら、ぎこちなく送っている状態で…。

本当にギリギリまで引っ張ってしまったんですけど、結局、家族や周りの人が『これは無理だ』と判断して断念しました。

ロケ地に『ごめんなさい』って言いに行きましたけど、関係者の方々に、いまだに感謝しています」

島での療養生活が2年経った頃、映画『帰郷』のオファーが。片岡さんはこの映画で2年ぶりにスクリーンに復帰することに。

※映画『帰郷』
母親(吉行和子)の結婚式のために帰郷したサラリーマンの晴男(西島秀俊)は、かつて一度だけ関係を持った深雪(片岡礼子)と偶然再会し、再び一夜限りの関係をもってしまう。しかし、翌朝、深雪は小学生の一人娘・チハル(守山玲愛)が晴男の子どもだと告げて姿をくらましてしまう…。

-共同脚本の利重剛さんが萩生田宏治監督に片岡さんを推薦して、お二人で島に出演交渉に行かれたそうですね-

「はい。何度もお仕事をご一緒させていただいたことがある利重剛さんが、『まず脚本を読んでみてくれ。そちらに帰っている事情も知っているけど、もし本を読んでみてやろうという気持ちがあるんだったら、一緒にやりませんか』って声をかけてくださったんです。

島にも萩生田監督と一緒に会いに来てくださって、本当にうれしかったです。でもまだ、はたして自分にできるのだろうかという不安もありました。

それで、家族に相談してみたら、『今なら大丈夫じゃないか』と言ってくれたので、お引き受けさせていただくことになりました。現場に復帰できたことに本当に感謝しています」

-劇中ではチハルちゃんの父親が晴男かどうか明確にはされてないですね。すごく気になります-

「そうですよね。現場もどっちにも転ぶ雰囲気がありました。でも、あれはおもしろいですよね。

チームの勝ちというか、チーム全体がそういうのをニヤニヤして作っていた感じがありました」

-西島秀俊さんの雰囲気もすごく合っていましたね-

「本当に、そう思います。チハルちゃんとの関係も。私が演じた深雪の出演シーンはそんなに多くないんですけど、ずっと出ているような感じを与えているのも、チハルちゃんのすばらしさだと思っています。

『ねぇねぇねぇ』っていうチハルちゃんの声がずっと聞こえていました。スタッフの『やめろー』っていう声が聞こえたと思ったら、『ガムくっつけられた』とかいう声が聞こえて慌てて衣装さんが走って行ったり(笑)。相当現場を揺さぶっていました。

『本当の親子みたいだなあ、親子になったらいいのになあ』って感じながら見ていました。すごいすてきな現場でした」


(C) DirectorsBox

※映画『タイトル、拒絶』
新宿シネマカリテ、シネクイント、アップリンク吉祥寺ほかにて全国順次公開中(12月4日より池袋シネマ・ロサにて公開)
配給:アークエンタテインメント
監督・脚本:山田佳奈
出演:伊藤沙莉 恒松祐里 佐津川愛美 片岡礼子 でんでん
それぞれ事情を抱えながらもたくましく生きるセックスワーカーの女たちを描く。
デリヘル嬢になろうとしたものの自分には無理だと悟ったカノウ(伊藤沙莉)は、事務所でデリヘル嬢たちの世話係をすることになるが…。

◆公開中の映画『タイトル、拒絶』で風俗嬢に

『帰郷』で女優復帰した片岡さんは、2年間のブランクをまったく感じさせない圧倒的な存在感と演技力で魅了し、復帰を待ちわびていた映画関係者やファンを歓喜させた。現在公開中の映画『タイトル、拒絶』でも輝きを放っている。

-『タイトル、拒絶』、ユニークな作品ですね-

「ものすごくおもしろかったです。出演者の年齢層ということだけで言えば、私が演じたシホはほかのキャストにくらべると、お姉さんというのはもったいないくらい、お母さんに近いくらい離れているんですけど、そのなかにいてすごいエネルギーをもらいました」

-風俗嬢という設定ですね-

「はい。自分の出演作で言うと、『愛の新世界』をはじめ、風俗嬢というカテゴリーでは、はっちゃけた役が多かったんですが、本を読んだとき、『締めが来たな』っていうのが最初の印象で、『自分の総集編としてやりたい』って思いました。

それに、この作品の主演が伊藤沙莉さんって聞いたときに、すごくスパークしたものがあって、『この役を逃すものか、是非入りたい』って(笑)。

彼女を中心にムードというのが、この映画自体にあって。もともとは山田佳奈監督が舞台でやっていた作品を自らのメガホンで映画化した作品なんです。

内田(英治)プロデューサーが監督に『片岡礼子、どうかな?』って言ってくださったらしくて、私はこの映画と巡り会うことができました。

この映画は内容もすごく激しかったりするので、とても子どもと話せる内容ではなかったりするんですけれども、生き様のぶつかり合いみたいなステージがあって、そこにこの映画が撮られるまでの、映画化されるまでの道のりというのも感じますね。

山田監督と2人のプロデューサーとの出会い、山田監督がずっと舞台をされていたというその重み、それを見に行った方のエネルギー、いろんなものが巡っているので、やっぱりこの映画ももう奇跡の1本。

そこに自分もこうやってチラシにも登場させていただけるような形で関わっているというのは、すごく自分にとって、久々にカラダがほてるような燃える現場でした」

-片岡さんがいるかいないかでまた全然違ってきますよね-

「そう言っていただけると本当にうれしいです。この映画は、一人ひとりがめっちゃおもしろいんですよ。

この作品に入る前に皆さんのいろいろな履歴を調べたら、(出演者の)般若さんがラッパーだと知って、ハマりました(笑)。いまだに聴いています」

◆突然の病魔…「引退するしかない」

『ハッシュ!』(2001年)ではキネマ旬報主演女優賞&ブルーリボン賞主演女優賞を受賞するが、2002年1月に脳出血(脳動静脈奇形血管出血)に。

「それこそ『ハッシュ!』でブルーリボン主演女優賞をいただいたとき、私は体調が最悪で、『ありがとうございました』って伝えるのがやっとの状態でした。

ブルーリボン賞は受賞した次の年の授賞式に主演男優と女優が司会をするというルールがあります。

私は自分が受賞したときの授賞式にいけなかったんですけど、1年後に司会をして引退するって、自分のなかでは思っていたんです。『引退するしかないな』って。

『引退したい』とかじゃなくて『引退になるかな』って、事実上の。本当にそう思っていました」

発病から約1年後のブルーリボン授賞式では司会という大役を無事つとめることができた片岡さん。もう一人の司会は『楽園』(2019年)で共演することになる佐藤浩市さんだった。一度は引退を決意した片岡さんだが、2年間のリハビリを経て、みごとな女優復帰をはたす。

-2019年からだけでも、『楽園』(瀬々敬久監督)、『閉鎖病棟-それぞれの朝』(平山秀幸監督)、『RED』(三島有紀子監督)など、いろいろな映画に出てらっしゃいますが、毎回作品が楽しみな方です-

「ありがとうございます。本当にうれしいです。そう言っていただけるだけで私は永遠に頑張れます」

※映画『楽園』
限界集落にUターンしたが、愛妻に先立たれ犬と暮らす養蜂家の善次郎(佐藤浩市)は、村おこし事業を巡る話のこじれからつまはじきにされる。やがて善次郎は恐ろしい事件を起こしてしまう…。片岡さんは秘かに善次郎に思いを寄せるシングルマザー、久子役。

-『楽園』では佐藤浩市さんとのラブシーンもありました-

「そうですね。役によって体型は調整します。その役柄が幸せな状態なのか、不幸せな状態なのかを意識しています。

不幸せだけど大人の色気って言われたら難しいんですけど、『楽園』はあんな感じで(笑)。

ロケ地の山里のさらに奥にあるお墓での撮影だったんですけど、自分の出番が終わった後、浩市さんの芝居を見学していたんです。

浩市さんが先祖のお墓にペンキで落書きをされたのを消すシーンを見ていたら、本当に胸が痛くて悔しくなりました。印象深い作品です」

-大変なご病気をされたという感じはまったくないですね。お元気になって本当によかったです-

「ありがとうございます。一応、前より元気というカテゴライズのなかに自分を置いてますけど、実際そうみたいですね。

家庭内でも、うるささは倍増っていう感じの印象で(笑)。でも、本当にやっぱり不摂生が減っていて、前より馬力はあると思います(笑)。

でも、あれだけのことがあって、今があると思ったら奇跡ですよね。まずはリラックスして、反省もし、笑いをとることを心がけ、楽しいものを見るようにして、いかに現場とか、起きたことに対してポジティブに向かっていくかというのが最重要ですね(笑)」

いきいきと明るく話す姿が印象的。片岡さんにはやっぱりスクリーンがよく似合う。“映画界のミューズ”として輝き続けてくれることに期待している。(津島令子)