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土井善晴「料理は女性が作る、もうそんな時代じゃない」“一汁一菜”という提案に込めた想い

『おかずのクッキング』(テレビ朝日系)、『きょうの料理』(NHK Eテレ)など多くの料理番組に出演し、『土井善晴のレシピ100』、『一汁一菜でよいという提案』、『土井善晴の素材のレシピ』など著書も多い料理研究家・土井善晴さん。

「毎日の食事作りが大変」と悩む人のために、ご飯を中心として、汁(味噌汁)と菜(おかず)それぞれ1品を合わせた「一汁一菜」を提案。日常の食事を「一汁一菜」と決めてしまえば、食事のストレスはなくなり、もっと気持ちも楽になるはずと話す。


※「一汁一菜でよいという提案」著者:土井善晴
発行所:グラフィック社
編集協力:おいしいもの研究所
暮らしにおいて大切なことは、自分自身の心の置き場、心地よい場所に帰ってくる生活のリズムを作ること。その柱となるのが、一汁一菜という食事のスタイル。

◆一汁一菜は手抜きではない

ごはんを炊いて、具だくさんのお味噌汁を作るというのは、料理の上手い下手もないし、男女の違いもなく、一人でもできる。食との向き合い方に悩む人にとって、わかりやすい入口になるのではないかと考えたのが「一汁一菜」だったという。

「食べることは大切だとわかっているのに、子育てに追われて時間が取れないとか、仕事で疲れて料理する気になれないとか、一人分を作るのは面倒とかで、ついつい料理がおろそかになってしまいがちな人もいらっしゃるでしょう。お料理する人が大変だと思ったら、やっぱりいけない。

でも、ご飯と味噌汁って決めたら精神的にも楽。一汁一菜は、ご飯さえあれば、たっぷりの具を入れた味噌汁をおかずにしてしまおうというもの。

それに、一汁一菜のすごいところは、毎日食べても飽きないということ。

ご飯と味噌汁だけというと、手抜きだと思われるかもしれませんけど、一汁一菜は決して手抜きではないんです」

-先生のご著書『一汁一菜でよいという提案』を読むと、料理がしやすくなりますね-

「基準になりますから。基準ができると、そこからいくらでも応用できますが、すでに応用ずみのレシピは複雑ですし、自由になれません。

身につかないし、積み上げるものがなくて、まず違うレシピをさがすでしょう。ですから『一汁一菜』という基本をスタイルにすれば、そこからふくらませます。

私の修業時代の賄いは、ずっと一汁一菜が基本だから、できるんです。今でも、忙しいところは一汁一菜しかできない。みんなそうだと思います。

一汁一菜の菜、つまりおかずに夏やったら冷奴、さつま揚げに大根おろし。冬やったら厚揚げを焼いたり、大根を炊いていたり、そんなもんですから。

基本を一汁一菜にして、時間や気持ちに余裕があるときには、お肉やお魚でおかずを作ってもいい。

親の世代はお料理がたくさん並んでいることが当たり前だったのが、それが今でも続いているんです。それだと作る人の負担…どころか苦しみです。

一汁一菜が家族にとっても基本になれば、いつもはないはずのお肉やお魚があると子どもたちも大喜びです。

自分も料理をすることが楽しいことだってわかったって人も多いんです。人間は心が自由にならないと楽しくならないんですね」

-お料理ができない人でもわりと簡単に入っていけるような感じがいいですね-

「そうそう。できないことを言っているわけじゃない。

『おかずのクッキング』は、やっぱり見ている人が作れる料理を放送しているわけなんです。

でも、自分が作りたくならないと作らないでしょう?

だから、そのためには、視聴者の家族とか、その人の生活感を思うということです」

-2020年はコロナの影響で、普段だったら会社に行っているはずのパートナーが家にいて、せっかくご飯を作っても『これだけ?』って聞かれて頭にきたという話もよく聞きます-

「その通りだと思います。家庭料理いうのは、無条件に作らないといけないもの、『今日お休み』というわけにはいかない。たまに作るのと意味が違います。

だから、食事とか、料理っていう意味をもっと知るべきだと思いますよ。知らないと、全部自動的に昔から女の人がやるもんだと、自分とは関係ないことと思っている男性がいまだにいる、家に帰ったら、いつでもご飯がある。でも、今はもうそんな時代ではないですよ。

パートナーと一緒になって、外の仕事も家の仕事も、どうするかって、考えないといけません。幸せはコロナ以後、とくに家のなかにあるものです」

◆昔の人は発想がもっと自由だった

まだレシピなど売ってない、自分の家庭料理以外は見られない時代から料理が大きく変化する時代を体感していたと話す土井先生。はじめて洋食をレストランで食べたときの記憶も鮮明に残っているという。

「中学校1年生のとき、高松の父の実家の国際ホテルでエビフライ。家の食卓に、ローストチキンがどんと載っていた日は、びっくりしました。

母は知り合いの職人に家に来てもらって、パンやお菓子とかを習っていたこともありました。

そうして、身につけた我が家に入ってきた料理を、また授業で教えることもあったのでしょう」

-まさにそれを実際に体感されて-

「そうですね。ずっとそうでした。フランスに行って、シェフの家庭で住み込みながら、レストランで仕事させてもらいました。いくらシェフでも、家庭では普通のもんです。

フランスの家庭で毎日食べるのは、温かいスープとチーズとパンとワインと、あと果物。

これがフランスの一汁一菜です。バランスが取れているし、それで十分なんです。

色々なことをやりますけども、私はほかの人のレシピをほとんど見てないですよ。

無意識にでも影響を受けるのが怖いですし、料理研究家にも流行りみたいなのがあるようですが、絶対にその方向へは行きません。

フランスのガストロノミーは、好きですから、自分でも楽しませてもらっています。

フランス人のシェフや普通の人が、何を考えているかということに興味があります。

彼らは、料理のセオリーでも、セオリー通りするとありふれた味になるというんです。

そういう一言が勉強になります。知らない間に、固定観念をもってしまう。

父に聞いたことがありますよ。鳥のささみに胡麻やアーモンドスライスをまぶして焼き上げにすると、香ばしくて美味しいのはわかるけども、それをしてもいいか悪いかというのが、わからなくて。

わからないというのは、それを私がする意味があるのかという問題です。それがないと、作る意味さえないでしょう。

私は日本料理の世界にいてたから、工夫するいうことを知らなかったんですね。

東京に来たらみんな工夫してはったから、工夫してこなかった自分というものに対して、『何をしてたんや?』ってすごく落ち込んだことがあります」

-お父様は何ておっしゃったのですか-

「そんなことは聞いていません。父が亡くなってからの話です。

自分が思いついたことでも、してもいいかどうかっていうことに関しては、自分では判断できなかったですね」

-今はどのように考えてらっしゃいますか-

「今は、人がするならええんちゃうかって。何でもそうやけど、自分でするには理由のないことはしません。

逆に、自分がやっていることについては、全部説明できます。そんな説明聞きたくないと思いますが。でもそれが、自分の料理を進化あるいは、深化する力になっています」

◆愛娘も同じ道へ…親子三代料理研究家に!

以前、土井さんが伊勢名物の赤福にお味噌汁が今日の朝食だと投稿したツイートが、「朝食に赤福はおかしい」「栄養が偏っている」と物議を醸したことがあった。それに対し、「何言うてんねん。石頭やなあ(笑)。どうぞ、家のなかの多様性を認めてください」と返して話題に。

「あれは自分の実生活の話をしただけで、生活のなかであるわけやからね。『バランスの悪い組み合わせや』というような意見があったから、別にバランスが今日悪かっても、明日それの帳尻合わせができるから、1日だけの問題じゃない。

それを毎日食べ続けるわけやないからね。赤福だって、早く食べないとダメにするし、もったいないからね」

-お味噌汁にパンというのもありましたね-

「お味噌汁にトーストを入れるいうのは父のレシピにもあります。パンをお麩と考えるのは別におかしいことじゃない。

ハンバーグにパン粉を入れる前の日本人は、ひき肉にお麩を入れていたでしょう。それがつみれです。

昔の人はもっと自由だった。今の人のほうが石頭、囚われているんです。

若い芸人さんとかを見ていると、女の子が野菜のスパゲティを作って味噌汁をつけたら、『そらあかんやろう』って言ってたけど、『なんであかんねん?』って。

アイドルやと思いますが、言われて女の子がかわいそう。それはダメなんだと思うでしょう。

そんなん言うから、パートナーが料理をする気をなくしてしまうんです。アホやなあ。

ほかの人がやっていることを見て、学んでやったりすることがあると思います。そのときに、『田舎のおばあさんに教えてもらったことです』って、ちゃんと説明をするのは大事なことです。

そういうことが、仕事を大きくするし、死者や他者に敬意を払うということになります。そういうことに関しては気を使っていますね。

そやけど、私が説明していても番組のほうでカットすることだってあるわけやからね(笑)。

そういうことは別に余計なことかもしれないけど、でもそれは大事なことやとは思うんですよね」

2019年6月には、愛娘で料理研究家の光さんと『徹子の部屋』(テレビ朝日系)に親子で出演。光さんはフランスのアンスティテュ・ポール・ボキューズで料理を学び、フランスのレストランでも修業を積んだという。

-お嬢さんも料理の道に進まれて、親子三代ですね-

「まあ、ずっと話を聞いてきてるからかもしれないけど、よくわかってますよね。物の見方というか。この場ではおいしいけど、この場ではそうじゃないとか、その場にふさわしいものがあるということが、やっぱり重要やと思いますね」

-お嬢さんは6年間もフランスに行ってらしたのですか-

「またフランスに行くつもりで帰ってきたんです。本当は、今頃はもうフランスに行っているはずだったんですけど、コロナでそれがダメになって。

自分でも色々と考えていると思いますけど、コロナはやっぱり大きいですよね。どうなる、こうなるというのはわかりませんけど、楽しそうにしてるし、もう今のままでええやんて思います(笑)」

-もう海外に行かなくてもということですか-

「何かになるまですごく頑張る、今は苦しむときとか。一生そんな自分の満足なんて、よっぽどの人しかないでしょう?

だから、もうオーケーやって。ずっとそのままおれるのやったらそれでいいと思ってます。

彼女は自分で色々と考えているだろうから、彼女が選んだものは、すべてそれで正しいと思ってます」

-お嬢さんは、自発的に料理の道へ?-

「すべて自発的やね。彼女は私以上に自発的です」

-お嬢さんのお料理はいかがですか?-

「コロナの時期は毎日、お昼ご飯か夕ご飯を作りに来てくれて、デザートまで作ってくれてましたけど、美味しいですよ。

世界中に友達がいますから、私の知らない世界中の料理を色々作ってくれてね。今の時代の料理のネットワークいうのは、本当に南米から中国から世界中ですごいよね」

-先生と同じように探究心があってチャレンジ精神もあるのですか-

「どうやろう?なかなか料理いうのは、こっちで習ったことがこっちでいかせるいうのは、ちょっと時間かかるかもわからんね。

私なんかはもうあっちもこっちもみんな一緒くたに自分のカラダのなかに入ってるから、これ何料理かわからんみたいなことも、結果としてはやってるかもしれませんが、それはする意味や理屈がきちんとわかっています。

それがないとあきません。本当のことはできないですよ」

-お嬢さんは先生みたいにテレビでというのは?-

「やりたかったらやったらええ思うけど、私は別にやれとも、やるなとも何も言いませんよ。

でも、そんなにやりたいと思ってないんじゃないですか。どうやろ?わかりませんけどね。

私なんかが思う料理っていう技術的な到達点みたいなものがあって、色々あるけれども、私から見たら未熟な人も出てはるからね、そういう意味では、もう十分できんのちゃうかなと思いますけどね」

-『徹子の部屋』を見て、お二人での料理番組も見てみたいと思いました-

「いやーどうかなぁ。私なんかでも普通にしゃべれるようになるまで、すごく時間がかかってますからね。そっちの方が大変やと思う」

-今後はどのように?-

「今やっていること、その積み重ねしかない思ってますけども、そのことはやっぱり、自分の子どもらとか、その先まで何か料理をするという文化がなくなったら、やっぱり人間ってどうなるんかなって思うし…。

あるいは料理をしなくなったら自然をおろそかにするとか思うから、料理を通じて幸せになるっていう道をちゃんと残したいと思う。

そういう意味で、老若男女全員ができる。楽しめるっていうことになったらいいなあっていうふうには思っています」

テレビでおなじみの軽妙でやわらかい関西イントネーションの語り口が心地いい。「食卓」は家庭それぞれでいい、多様性を認めてという言葉に励まされたという声は大きい。これからもすてきなメニューを楽しみにしている。(津島令子)


※『おかずのクッキング』(テレビ朝日系)
毎週土曜日 あさ4:55(一部地域を除く)
出演:土井善晴 堂真理子
旬の食材を使った作りやすい家庭料理を紹介。テキスト「おかずのクッキング」には、番組で紹介したレシピのポイントを詳しく掲載。


※『土井善晴の素材のレシピ』
発行所:テレビ朝日
『おかずのクッキング』の人気連載「素材のレシピ」約10年分が本に!野菜、肉、魚、加工品など75素材・300レシピを一挙収録。定番からひねりの利いたアイデア料理まで、素材を生かしたシンプルレシピ集。

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