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ヤドカリ、タコ、ビーバー、生き物との「セッション」で作品を生み出す現代美術家、AKI INOMATAの発想の源を探る

新感覚アート番組『アルスくんとテクネちゃん』、第6回の放送に登場したのは、生き物とセッションをするように作品づくりを行う現代美術家、AKI INOMATAさん。

貝殻のかわりに都市をかたどった殻を背負うヤドカリや、アンモナイトの殻に住まうタコなど、その生態をつぶさに観察しながら生み出される作品の数々は、時に私たちと生き物の共通点を提示し、社会や都市の持つ意味を紐解くきっかけをくれる。生き物にもクリエイティビティがあると語る、AKI INOMATAさんの発想の源を探る。

◆有機的な貝殻と無機的な都市を結びつける

―INOMATAさんの代表作ともいえるヤドカリの作品ですが、何度見ても新鮮です。これはどういう経緯で制作されたんですか?

「やどかりに「やど」をわたしてみるーBorderー」

2009年にフランス大使館で『No Man’s Land(誰のものでもない土地)』展という展覧会が開催されたんです。大使館の建物が取り壊されるので展覧会をやることになったんですが、その土地は一旦日本に貸し出されて、約60年後にまたフランスのものになるという話を聞いて、ひとつの場所が日本になったりフランスになったりするのが印象的で。それをヤドカリに見立ててみようと思ったのがはじまりです。

―よく結びつきましたね!

友達の弟がヤドカリを飼っていて、頭のなかにヤドカリのイメージがあったんです。それと、私たちはあの殻を見て「ヤドカリだ」と認識するけれど、実は貝殻を借りているだけなんですよね。

カタツムリの殻は本人が生成している身体の一部ですけど、ヤドカリの場合は違う。間借りしているだけなのに、アイデンティティになっているのが不思議だなあと。私自身、作品制作のためにヤドカリを飼ったとき、殻が緑だから「ミドリちゃん」って名前を付けましたし。

―たしかに、殻=ヤドカリだと思ってしまいますね。

私たちの社会も同じで、土地を国で識別したり、誰かを国籍で判断したりしている。そういったことと結びつく気がしたんです。変更は可能なはずなのに、中身ではなく外側の何かにアイデンティティを見出しているというか。それで、ヤドカリにフランスと日本の都市を背負ってもらって、行ったり来たりしてもらいました。

―形もまた美しいですね。

最初、私が自由に作ってみたら全然入ってもらえなかったんですよ。それでヤドカリを観察していたら、彼らが選ぶ貝殻には、なんとなく「これが好き」という傾向があることがわかってきて。

まずヤドカリが好きそうな貝殻を集めて、CTスキャナーというレントゲンの三次元バージョンみたいな機械で形をスキャンしました。

次にそのデータを使って3Dプリンタで貝殻を出力。そうやって出来上がったオリジナルの貝殻に建物を建てていったんです。結果的に有機的な貝殻と無機的な都市が合体したような形になっていて。コントラストが強い作品になったなあと。

―背負っているのが都市というのも興味深いです。

私自身ずっと東京生まれ東京育ちで都会っ子だったので、小さい頃は街に自然がないことが不思議だったんです。小学校や公園には生き物がたくさんいて、木々や緑があるのに、一歩踏み出すとアスファルト、というふうにバキッとわかれている。自然と隔たりがある都市の状況にずっと違和感を感じていて。

でも「都市を捨てよう!」というよりは、「都市で生活しつつも、有機的なものと一緒にありたい」という気持ちなんですよね。どうにか繋がりが見つけられないかなと。その意識があらわれているのかもしれません。

―しかもそれをヤドカリが気に入ってくれたという。

どうやらヤドカリの立場からすると、殻のなかのすべすべ具合が重要らしいんですよ。この作品は私がかなり力を入れてすべすべにしているので、気に入ってもらえているみたい。

あと重量ですね。3Dプリンタで出力している自然界にはない素材ですけど、それが貝殻に比べて軽くて動きやすいらしくて。ちゃんと引っ越ししてくれます。

―かわいらしいですねえ。

でも宿の取りあいになったり、ちょうどいい宿がなくて困っているヤドカリもいたりして、なんだか人間社会の縮図のように見えることもあります。それこそ国籍やアイデンティティを考えたときは、やはり移民問題のことを考えましたし。制作当時、日本ではあまり取り上げられていなかったんですけど。

―ヤドカリの姿を見て、私たちの社会を省みるというか。

そうですね。私もそうですけど、日本で暮らしていると、国籍や移民問題が身近ではない人も多いと思うんです。そういう人がこのヤドカリの作品を見て、何かを感じてくれたらいいなと思っています。

◆3億5000万年の時を越えたタコ

―考えさせられる作品だなと思いました。アンモナイトの作品も殻が印象的ですね。

進化の考察#1:菊石(アンモナイト)

技術的にはヤドカリと同じCTスキャナーと3Dプリンタを使っています。ただ、こうした技術を使うというのがこの作品にとって大きな意味があって。先端技術を使って時空を歪めるというか。

―時空を歪める?

絶滅したアンモナイトと現在のタコというのは、ルーツが一緒だと言われていて。そのふたつを時空を越えて出会わせたいなと思ったんです。実際にはありえないですけど、デジタルテクノロジーを使えばちょっとありえるかもしれないなあと。

―ルーツが一緒なんですね。

そうなんですよ。タコも昔は貝殻をもっていたらしいんですけど、進化の過程で捨ててしまったと言われていて、きっとアンモナイトのような形だったときがあったはずで。“先祖”と言うと語弊があるけれど、同じ頭足類でルーツは同じ。そのタコに、アンモナイトの殻をあげてみたらどうかなと思ったんです。

―およそ3億5000万の時を越えてふたつの生き物を引き合わせようと。

そうなんです。まずアンモナイトの化石の形をCTスキャナーで読み取って、化石なのでちょっと欠けている部分は復元をして、3Dプリンタで出力しています。

―3Dプリンタが精巧に形を再現しているので、こういう生き物がいてもおかしくないんじゃないかと思ってしまいますね。

出会わないはずのふたりを出会わせたことで、“本当はあり得なかった未来”を見ているような不思議な感覚になってほしいなと。

あと、ちょっと私たちみたいだなと思うところもあって。タコは進化の過程で殻を捨て、機動力をとってやわらかい身を晒している。それって人間みたいじゃない?と。私たちも日々こうしてやわらかい肌をさらして生きていて、傷つきやすくて防御力も低いけれど、動きやすさだとか、発想力だとか。まったく別のもので補っていると思うんです。

◆著作者性を問う、ビーバーのかじった木

「彫刻のつくりかた」Photo: Kuniya Oyamada

―そしてこちらの木の作品。一見すると彫刻のようですが、実はビーバーがかじって作ったものだと。

そうなんです。ビーバーって川のなかにダムを作って、その中心に巣を作る習性があるんですね。

そのダムづくりの材料として木が必要なんですけど、歯で木をかじって幹を細くして、どんどん切り倒していくんです。その形がすごくおもしろいなと思ったので、国内の5つの動物園にお願いして、四角い角材をビーバーに渡して「はいどうぞ」とかじってもらった作品です。

―目のつけどころがさすがです。

本当に、かじったあとの木の形がすごく美しいんですよ。くびれがあって、まるで人間の身体のようで。まるで私たちを観察して、模刻したような人体像が出来上がっていくのがすごく不思議だったんです。

―そうなるとでも、この作品はビーバーが削ったもの、ということになるんでしょうか。

まさに「著作者性はどこにあるのか」という点をテーマにしている作品なんです。作者はセンスよくかじったビーバーかもしれないし、あえてかじりにくい節を用意して形状をコントロールした木かもしれない。あるいはちょうどいい素材を渡した私かもしれない。

現代アートには参加型の作品も多いので、全員が作者ともいえる。一体誰が作者なんだろうというのが、この作品のひとつの問いでもあります。

―たしかに、その誰がかけても作品は出来上がらないわけですもんね。

自分で作っていると思っているけど、何かに作らされてるかもしれない。意思の根源はどこにあるのか、そのあたりを考えてみてほしいなと思います。

◆予測不能だからおもしろい、生き物たちとの制作

―生き物との制作って大変なんじゃないかなと思うんですが、手掛けてみていかがですか?

ありますよ。ビーバーって気が向いたときしか木をかじらないんですよ。

インコと一緒にフランス語を習いに行く作品(「インコを連れてフランス語を習いに行く」)でも、インコが全然フランス語を習う気がなくて、授業中に寝て、終わるとパチッと起きるという(笑)。

―ダメな生徒みたいな(笑)。

でも、インコがあるとき「シルヴプレ」という言葉を覚えて、そのあと、そのインコはわさびちゃんていう名前なんですけど、急に「わさびっちょシルヴプレ」って言い出して、さらに短縮されて「わさびヴプレ」って言葉を作っちゃったんです。

そのときに、「ああそうか、彼は自分の言葉を話しているんだ」とハッとして。

―なるほど!

私はそもそも“日本語とフランス語をないまぜにしたい”という発想から、言葉を覚えるインコを連れていったんですけど、インコはフランス語と日本語の音の違いを踏まえたうえで、さらに新しい言葉を作った。

それって、私が普段話しているのは“日本語”ではなくて、“私の言葉”なんだなと。

その人ごとに言葉があることに気付かされたというか。生き物と制作をしていると、そんなふうに自分の思考がドライブする瞬間があるんですよ。

―彼らの生き様を見て学ぶことがあると。

彼らは彼らの世界で生きているので思ったとおりにならないのは当然なんです。

でもそうやって思いがけないことが起こるのが、作品づくりのおもしろさでもありますしね。何がどうなるかわからない不確実性のなかで一緒にコラボレーションしてみるのは、ちょっとしたセッションのような感覚もあって。

コントロールできない自然の営みのなかに、新しい気づきがあるような気がします。

―生き物たちには技術がありますからね。

そうなんですよ。創造力や創作力って人間だけがもっていると思われがちなんですけど、生き物はむしろ人間にとてもできないような創作物をつくったり、コミュニケーションをとったりしているんですよね。そこから学ぶことって本当に大きいと思っています。

◆自分たちの社会を紐解いていきたい

―生き物がお好きなのは昔からですか?

はい。ずっと東京で暮らしてきて、どうして私たちは多様な生き物と一緒に生きていないのかっていうことがとても気になっていて。

その多様性を取り戻すにはどうすればいいのかとか、私たちの都市をどう変えていけばいいのか、そういうことに興味がありますね。

じゃあ大自然のなかで暮らせるか、というと難しいと思うんですけど、よくわからないから知りたい!っていう好奇心が強いんだと思います。

―お話を聞いていると、本当にそうですよね。生き物に対して探究心があるというか。

街に生き物がいなかったから余計に気になったんですよね。よくコオロギとかを捕まえて、もって帰って怒られていました(笑)。

―一連の作品を拝見してきて、人工的なものと自然との混ざり合いが絶妙だなと感じるんです。人間は自然を切り開いて文明を発達させてきた経緯がありますが、環境保護のような観点につながる部分もあるんでしょうか。

作品を通じてそうしたことを訴えたいというよりは、生き物との関わりを通して、私たちの社会を紐解いていきたい、という思いが強いです。

私たちはどうして都市を築いたのか、どういう社会にしていけばいいのか、生き物の生態とリンクさせながら、自分たち自身について考えていきたいなと思っています。

―一貫して、生き物から学ぶ姿勢があるわけですね。あと、INOMATAさんの作品はテクノロジーを多用しているところもおもしろいなと思いました。

自然は好きなんですけど、別にアウトドア派というわけじゃないんですよ。

自然は好きだけど、おっかなびっくりというか、少し距離があるからこそ憧れも大きくて。

でもコンピュータは、小さいときからファミコンで育ってきたし、パソコンも小学校から使っていて、ともに育ってきたみたいなところがあるんですよね。身体の一部というか。

自然とのコミュニケーション方法がわからないので、慣れている現代の技術を使ってどうにかしよう、みたいな感じですね。

―では、美術への入り口はコンピュータから?

いえ、最初は絵を描いていました。あと現代アートがすごく好きで、中学のときから展示を観て「アーティストになりたい」とずっと思っていたんですよ。

それで東京藝術大学に進学したんですけど、ゼミみたいな感じで劇作家の唐十郎さんの演劇を観る機会があって、それがすごく衝撃的で、一旦演劇を勉強するんです。大学1、2年のときですね。

―なるほど、演技をやってらしたんですね。

もう俳優さんって本当にすごくて、「演技は私にはムリ!」って諦めたんですけど、とにかくそこで見た舞台がすごかったんです。

唐十郎さんはテントで演劇をやるので、書き割りがさーっとはけるんです。そうすると、外の路地と舞台空間が繋がって、土砂降りの花園神社と一体化する。その瞬間にものすごくリアリティを感じて。

そういうことを私もやりたいなと思いました。自分の想像力が及ぶ範囲と及ばない範囲をコネクトさせたい、その気持ちが今の作品づくりに通じている気がします。

―すごくわかる気がします。今後も生き物との関わりは続いていくわけですよね。

はい。ただ、そのときそのときに探求しているテーマが違うので、ちょっとずつアプローチは変化していくのかなとは思います。

―生き物たちの予測不可能な生態も含めて、何が出来上がるかわからないのが楽しみですね。

そうですね。そもそも作品制作には目的地がなくて、山登りをしている感じなんです。

登った先に何が見えるかは私にもわからない。でも、その登っていく体験を誰かと共有できるのが現代アートだと思うんですね。常に旅をするような気持ちで、作品を作っていきたいと思います。

<文:飯田ネオ 撮影:大森大祐>

AKI INOMATA

現代美術家

あき・いのまた|1983年、東京都生まれ。2008年に東京藝術大学大学院先端芸術表現専攻を修了。2009年に『やどかりに「やど」をわたしてみる』(Why Not Hand Over a “Shelter” to Hermit Crabs?)シリーズを発表。2017年アジアン・カルチュアル・カウンシルのグランティとして渡米。 ナント美術館、十和田市現代美術館(青森)、北九州市立美術館(福岡)での個展のほか、 2018年「タイビエンナーレ」(クラビ)、2019年「第22回ミラノ・トリエンナーレ」トリエンナーレデザイン美術館(ミラノ)などで展示。 2020年『AKI INOMATA: Significant Otherness 生きものと私が出会うとき』(美術出版社)を刊行。

※番組情報:『アルスくんとテクネちゃん
毎週木曜日 深夜0時45分~50分、テレビ朝日(関東ローカル)

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