【世界ラリー(WRC)】ポーランドで2017年シーズンの後半戦スタート。更なる激戦へ
FIA世界ラリー選手権(WRC)の2017年シーズン・第8戦「ラリー・ポーランド」が、6月29日~7月2日、ポーランドの首都ワルシャワから北東に250kmほど離れた地域で開催される。全13戦のWRCの後半戦がスタートする。
ラリー・ポーランドの歴史は意外に古く、ラリー最古のラリー・モンテカルロ(1911年初開催)に続く、1921年初開催である。
1973年にスタートしたWRC初年度のカレンダーにもラリー・ポーランドは載っていた。しかし、カレンダーに載ったのはこの1973年のみで、それ以降はヨーロッパラリー選手権のカレンダーには載ったことがあるが、2009年までWRC開催はなかった。
歴史あるラリー・ポーランドがWRCカレンダーに載らなかった最大の理由は、1945年から1989年まで続いた”冷戦”の影響だ。当時ヨーロッパは東西に分断されており、1973年こそ、当時はデタントと呼ばれる東西の緊張緩和時期にあり、その開催が実現したのだった。
ただし、ポーランドは当時の西側諸国から見ると東欧の入口にあり(ドイツ、チェコスロバキア※当時の国名、ソ連に挟まれた位置)、多少西側の情報が入ることはあっても、おおっぴらに情報が伝わることはなく(もちろん、当時インターネットなどはない)、WRCを通じて西側の情報が東側の人々に広がるリスクを考えると、1973年のみの開催だったことは理解できる。
ポーランドは国土の大部分がヨーロッパ平野と呼ばれる平坦な地で、農場に適した肥沃な土地がある。その一方で、この平坦な地は守るに難しいということもあり、ポーランドの歴史を振り返ると、幾度も戦乱に巻き込まれてきた苦い歴史も併せ持つ。
◆シトロエンは新型車を投入、巻き返しを図る?
後半戦スタートとなるラリー・ポーランド。今回も注目は、アンドレアス・ミケルセン(ノルウェー出身/27歳)の存在だ。
前戦のラリー・イタリアで突然スポット参戦という形でシトロエンと契約を結んだミケルセン。チームはその後も継続契約を望んでいたという情報どおり、今回のラリー・ポーランドにも参加する。しかも、エースのクリス・ミークの代わりとして出場。マシンも1台だけ新型パーツを投入したエース仕様のマシンでチームの期待の大きさが見える。
そして、もうひとり注目すべきが、前戦ラリー・イタリアで初優勝を飾ったオット・タナク(フォード)。タナクは昨年、目前だった優勝をパンクで逃し2位。一昨年も3位と、ここラリー・ポーランドとの相性が良い。マシンの速さも定評あるフォードだけに、連続優勝という期待がかかる。もちろん、同じフォードの王者セバスチャン・オジェも優勝候補のひとりだ。
ヒュンダイの存在も侮れない。現在ドライバーズランキング2位のティエリー・ヌービルは、“ラリー・ポーランドはミスが許されない”だろうと語る。「ラリー・ポーランドは僕の好きなステージだ。危険なコーナーが少なく、道幅もそれなりに広い。攻めるには最高の高速ラリーだ。ドライバーに勇気が必要なほどにね。でも、攻めやすい分ミスは許されないね」。
ヌービルのコメントどおり、ここラリー・ポーランドは、次戦のラリー・フィンランドに次ぐ高速グラベル(未舗装路)ラリーとして知られている。そこで、期待されているのが、トヨタの存在だ。トヨタのヤリスWRC(日本名ヴィッツ)は、車体の開発がフィンランドで行われていることや、第2戦のラリー・スウェーデンで優勝を飾るなど、高速ラリーに強いイメージがある。実際、ドライバーたちも同じような意見を持っているようだ。
マシン開発を担当してきたユホ・ハンニネンは、「ヤリスは低速ラリーよりも高速ラリーのほうが合っていると思います。また、高速ラリーはセットアップよりもドライビングに集中できる点もポイントです」と語り、高速ラリー向けのマシンに期待を寄せた。
また、トヨタは今回も3台目のドライバーとしてエサペッカ・ラッピを起用。その速さはこれまでの2戦で証明されており、最後まで走り切れば結果も着いてくるだろう。
そして、最も期待されるのがエース、ヤリ‐マティ・ラトバラだ。ラリー・ポーランドに向けたテストを、似た路面状況が多いといわれているエストニアで行った。ラトバラは、「テストではサスペンションの動きに大きな影響を持つダンパーの改善に努めました。マシンの安定性が向上したことに手ごたえを感じています」と順調なテスト結果を振り返った。
現在チャンピオンシップ争いは、141ポイントで王者オジェ(フォード)がリードしているが、2位ヌービル(ヒュンダイ)が123ポイント、3位タナク(フォード)が108ポイント、4位ラトバラ(トヨタ)が107ポイントと混戦状態にある。
ここラリー・ポーランドで王者オジェがライバルたちを引き離しにかかるのか、それを追うライバルたちが一気に差を縮めるのか、見どころは尽きない。
ラリー・ポーランドは平地の高速ラリーということで、ヘリコプターやドローン映像にも迫力だけでなく美しさがある。そうした映像にも注目だ。
<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>