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53歳白石康次郎、世界で最も過酷なヨットレースに再挑戦 アジア人初の完走目指し“夢の新艇”で臨む

「単独」「無寄港」「無補給」のもと、ヨットだけで世界一周――。これはつまり、たったひとりでヨットに乗り、どの港にも寄らず、燃料補給もせず、食料もヨットに積んだものだけで、風のみを動力として世界を一周するということ。

この、常人には想像することすら難しい“世界一周”を競うのが、4年に一度開催される世界で最も過酷なヨットレース「ヴァンデ・グローブ(Vendée Globe)」だ。

フランス西部の“レ・サーブル・ドロンヌ”よりスタートし、再び同地点に戻るまでのおよそ4万5000キロ、80日足らずの世界一周レース。1989年に初開催され、今年2020年に9回目を迎える。

開催国のフランスでは「全仏オープン(テニス)」や「ツール・ド・フランス」に匹敵する人気を誇り、他のヨーロッパ諸国でも高い認知度を誇るこの大会。そんな「ヴァンデ・グローブ」に、アジアから唯一参戦している日本人選手がいるのをご存知だろうか。

その選手とは、プロセーラーの白石康次郎(所属:DMG MORI セーリングチーム)。

4年前に行われた前回大会でアジア人として初めてヴァンデ・グローブに挑戦した白石。このときはマストトラブルにより無念のリタイアとなったが、今回も同大会における初の完走を目指して参戦。

日本時間11月8日に、レ・サーブル・ドロンヌを出発する。

◆念願の夢「新艇での参戦」が叶った53歳

1967年生まれの53歳、現役スポーツ選手では“キング・カズ”こと三浦知良と同じ年齢である白石康次郎。

鎌倉で育った彼は、少年時代から「船で海を渡る」という夢を抱いており、高校在学中に単独世界一周ヨットレースで優勝した多田雄幸氏に弟子入り。レースをサポートしながら修行を積み、1994年、当時26歳でヨットによる単独無寄港無補給世界一周の史上最年少記録(当時)を樹立した。

ヨットの世界に飛び込んでからおよそ30年以上、数々のヨットレースやアドベンチャーレースで活躍してきた白石。

中古艇で参戦しマストトラブルに見舞われた2016年大会から約2年後、2018年10月よりDMG森精機が立ち上げた日本初の外洋ヨットチーム「DMG MORI セーリングチーム」のスキッパーに就任した彼にとって、今大会は「新艇での参戦」という念願の夢が叶う特別なレースにもなる。

長さ18.28m・幅5.85m・高さ29mの新艇について白石は、「もの凄く激しい、過激な船。あんな疲れる船だと思わなかった」と話す。

動力は風のみといいながらも、最新鋭の新艇がもたらすスピードは凄まじい。白石は新艇での走りを“飛ぶ”とまで表現している。

「ただ走っているだけでも辛い。正直言って10年前に欲しかったね(笑)」と自ら年齢を皮肉って話す白石。

「オールドセーラーは自分の年齢と戦わないといけない。視力もそうだし、新陳代謝も落ちているし、関節の痛みも。50年間世界何周もさせてくれたこの腕も、ガタが出る。それを競技中にケアしながら維持するというのが今回の僕の新しいポイントです。今までは何やっても平気でした。今回からは歳との戦いですね」

とはいえ、約30年かかってやっとたどり着いた“夢の新艇”。やはり今大会は、白石にとって特別な大会のようだ。

◆死の危険も…「覚悟はできてる。それが日常」

“世界で最も過酷なヨットレース”といわれる「ヴァンデ・グローブ」。

これまでの計8回大会で延べ167人が出場し、完走者は延べ89人。つまり、完走率は半分程度だ。

そしてこの大会は、文字通り「命がかかっている」競技だ。船との衝突、赤道の無風帯、鯨との激突……危険要素は枚挙にいとまがない。

死の危険性があることについて、白石はどう考えているのだろうか。

「逆にもう、覚悟ができてる。なんとかなるもんじゃないから。途中でなにかあってもすぐ救急車が来れるわけでもないし、飛行機だってヘリコプターだって届かない。なにかあれば死ぬんですよ。この大会も何人も亡くなっていますし、完走率は半分。半分しか返って来られないんだから。でも、それが“日常”なんですよね。一般の人たちがたとえば山へ行きますって言ったら、すごく覚悟が必要で大変なことだと思うんですけど、僕はそれが日常だから」

海という自然を舞台にした戦い。そこに挑み続けることは、非日常が日常になるということだ。白石はさらに語る。

「僕らにとって、“予期せぬ出来事”は特別じゃない。考えもしない、今までにない出来事が起こる世界だから、(予期せぬ出来事でも)驚かないですね、全然。世界一不特定要素の多い競技です」

◆アジア人初の“完走”を目指して

そうしたなかで白石が今大会の目標として掲げているのが、ずばり「完走」だ。アジア人初の完走を目指している。

「前大会で失敗したのは、スタートのイメージばかりしていたこと。(スタートで)夢が叶ってしまって、フィニッシュの連想をし忘れていた。今回はずっと、フィニッシュを考えてる。フィニッシュして、皆で祝杯を挙げて“康ちゃん良かったね”って肩抱き合う想像をずっとしてます。今回は、必ずフィニッシュする。とにかく最後まで諦めないで、皆で最高の祝杯を上げたい」

では、ゴールするために最もポイントになることは?

自分のモチベーションを下げないことかな。あの船で楽しみを見出すのって、結構大変なんです。何故かといえば、船が速いからシールドされてるんですよ。ほとんど外が見えない。昔は“ああ綺麗な星だな”とか“今日良いセーリングだな”と思うことも多かった。今はほとんど、戦車の中にいるみたいです。小さな窓はあるけど、常にしずくを被って前なんか全然見えない。見上げても、天井しか見えない。そういう船で、どう自分で楽しみを見出していくか。セルフコントロールですね。誰も助言してくれないので。自分で自分の機嫌をとるのが大切です。それが一番のポイントですね」

11月8日にレ・サーブル・ドロンヌを出発し、クリスマスも大晦日も元日もヨットの上でひとり迎え、およそ3カ月後、およそ2000時間後のゴールを目指す白石をはじめとした参加セーラーたち。

他の多くのスポーツと違い、このヴァンデ・グローブには“休み”がない。約2000時間、競技はずっと続いていく

白石は今回、悲願の完走をはたすことができるのか。11月8日からの約2000時間、われわれも日々のちょっとした時間の中で、世界の海で戦う日本人セーラーに思いを馳せたい。

※番組情報:DMG MORI presents『ヨットだけで世界一周 ひとりぼっちの大冒険~白石康次郎 世界最高峰レース ヴァンデ・グローブ2020出航直前SP~
2020年11月8日(日)13:55~15:20、テレビ朝日系24局

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