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新しい逸材も現れたGPシリーズ米国大会。“無観客”での工夫に佐野稔&織田信成も感心「見ないと損!」「選手たちの手助けになる」

日本時間の10月24日(土)より開催された「フィギュアスケート・グランプリシリーズ」アメリカ大会。

フィギュアスケート解説者の佐野稔氏と織田信成氏の目には、新型コロナウイルス感染症の影響で従来と異なるイレギュラーな条件のなか行われた本大会はどのように映ったのか。

グランプリシリーズ開幕戦となる本大会で感じたことや特別な会場演出の効果などについて聞いた。

◆観客席に犬や猫!? 効果音も用意した運営の工夫

今季のグランプリシリーズ、選手たちは、自国開催の大会か練習拠点を置く国(近隣国含む)の1大会のみ出場することができる。

そして、開幕戦アメリカ大会は万全な感染防止策が講じられており、「無観客開催」。会場の中には出場する選手とコーチ1名ずつ、演技を評価するジャッジ、大会運営を行う限られた関係者のみ。

ところが、最初の演技者がリンクに姿を現すと、大きな拍手と歓声が会場に響いた。これは、運営が用意した効果音だ。

さらに、スタンドを見渡すとファンの写真を等身大パネルにした“観客パネル”が幾枚も並べられている。大人や子供、中にはペットの犬や猫の姿も。普段ではまずあり得ないが、ユニークな顔ぶれが選手たちの演技を見守っていた。

そんな環境のなか、女子では昨季グランプリファイナルに出場したブレイディー・テネルを抑えて、マライア・ベルがグランプリシリーズ初優勝を飾り、次代を担う若手選手の活躍もみられた。

<女子シングル結果>
1位:マライア・ベル(24)    アメリカ 合計212.73(SP 76.48/FS 136.25)
2位:ブレイディー・テネル(22) アメリカ 合計211.07(SP 73.29/FS 137.78)
3位:オードリー・シン(16)   アメリカ 合計206.15(SP 69.77/FS 136.38)
4位:カレン・チェン(21)    アメリカ 合計204.90(SP 68.13/FS 136.77)
5位:アンバー・グレン(20)   アメリカ 合計190.09(SP 67.85/FS 122.24)

――女子を解説した織田氏が感じたこと、印象に残ったこと

織田氏:「優勝したベル(24)、2位のテネル(22)という経験豊富なベテラン選手たちはしっかり演技をまとめてきた。力のある選手はどういう状況でもしっかり演技できるんだなというのを感じました。そんななか、3位に入った16歳のオードリー・シンは、特に今大会一番の輝きを放っていました。ショートもフリーも大きなミスはなく、これからのアメリカを背負っていく選手だと世界に印象付ける演技ができたのではないかと思います」

 

◆「こんなにすごい逸材も見られるんだよ!」という新しい楽しみ方があった

<男子シングル結果>
1位:ネイサン・チェン(21)   アメリカ 合計299.15(SP 111.17/FS 187.98)
2位:ビンセント・ジョウ(20)  アメリカ 合計275.10(SP 99.36/FS 175.74)
3位:キーガン・メッシング(28) カナダ  合計266.42(SP 92.40/FS 174.02)
4位:樋渡 知樹(20)       アメリカ 合計245.30(SP 87.17/FS 158.13)
5位:イリア・マリニン(15)   アメリカ 合計220.31(SP 76.75/FS 143.56)

――男子を解説した佐野氏が感じたこと、印象に残ったこと

佐野氏:「男女各12人の出場選手を揃えるのに、今回は自国の選手たちをたくさん出す形で行われたんですよ。それが僕は、とっても楽しかった! なかなか全米選手権をじっくり見る機会は少ないですけど、“アメリカにはこんな選手がいるんだ!”というのを見せてくれた。これは非常に大きいことです」

さらに続ける。

佐野氏:「アメリカは世界王者のネイサン・チェンという偉大な選手がいるんですけど、彼を筆頭にして、今回僕が一番注目したのはイリア・マリニン君、15歳です!

ショートプログラムで2回の4回転ジャンプを入れる、フリーでも2回の4回転を入れてくる。自分よりもキャリアが上の選手たちをなぎ倒して5位に入ったわけですから。“僕がいるんだよ”と、その存在を世界に知らしめましたよ。

来シーズンは北京冬季五輪(2022年2月予定)がありますが、北京の次は“僕だよ”とこっそり言っていた感じ、態度で示しましたよね。

次の中国大会(11月6日・7日)も同じようなことが言えるんじゃないかと思いますし、日本大会も楽しみな逸材たちがいまっせ! 新しい楽しみ方、“こんなにすごい逸材も見られるんだよ!”というのを、今回見せてくれたと思いますね」

 

◆コーチがいない、選手ひとりの“キス&クライ”

無観客のなか、運営サイドの取り組みや選手たちの心情はどう映ったのか? まず、織田氏が答える。

織田氏:「こういった状況で選手が一番苦労するのは、いかに試合感を保つか。衣装を着て、本番を想定した練習をしていても、(無観客の試合は)どうしても“練習風”になってしまうところがあるので、いかに気持ちを盛り上げていけるかが大事だと思います。観客パネルや拍手音を用意してくれると、選手たちの手助けになると思います

織田氏が挙げた女子3位の16歳オードリー・シンは、大きなミスのない演技を終えた後、安堵と喜びの表情を見せたが、リンクを上がるとすぐに顔の半分を覆ってしまう大きなマスクを着用し、キス&クライにひとりで腰かけた。感染防止のため、いつも隣に座るコーチ(先生)はいない。

グランプリシリーズデビューでいい演技ができた喜びをひとりで噛みしめながらカメラに向かって微笑んだ。

織田氏:「キス&クライにも客席のように先生のパネルを置いたらいいかもしれませんね(笑)。キス&クライの寂しさはあるかなと思いますけど、本当にこういう大変な状況でも大会をやってくれるということに対して選手たちはみんな前向きに捉えていると思います

どのスポーツも大会の延期や中止が相次いでいて、大きな国際大会、世界と戦う大会がないスポーツのほうが多いと思うので、こうして国際大会を開催してくれるからには選手としてもフィギュアスケートをアピールするというか、しっかり感染防止対策をしながら大会ができるんですよ!という発信が大事だと思います」

織田氏の言う通り、男子で優勝したネイサン・チェンをはじめ選手たちは大会開催の実現に携わった関係者への感謝を発信していた。

では、佐野氏の目には会場の演出、選手たちの様子をどう映ったのか。

佐野氏:「生の声とは違いますけど、やはり演技が終わった瞬間に歓声がぶわーっと会場内に流れるというのは、何もない状態とは全く違うと思います。選手たちはジャッジの方々にアピールするため、評価されるために演技をしますが、会場にいるジャッジの皆さんは絶対拍手はしませんので、効果音ではありますが、拍手や歓声が選手たちをサポートしてくれたのは大きいんじゃないですかね。

たぶんアメリカのスケート連盟は“何かやらなきゃ”と。第1戦でどうしようかいろんな形で悩みに悩んだ結果こういう形になったと思いますが、大成功でしたね! とっても楽しく見させて頂きました。本当に“ありがとうございます!”というくらい、楽しかったです。皆さんにも是非楽しんでもらいたい。絶対に見ないと損しますよ!

最後に、次戦・中国大会(11月6日・7日)では男女とも解説する織田氏がみどころを話した。

「男子はやはり閻涵(えんかん)や金博洋の4回転ジャンプに注目しています。女子は今回初めて見る選手もたくさん出るので、誰が優勝するか分からない。こういう機会だからこそいい結果を残す、ある意味チャンスだと思うので、中国大会に出る選手は頑張って欲しいです」