「圧倒的に便利で疲れない世界を」“日本最強のAI技術者集団”率いるPFN西川徹が描く未来
テレビ朝日が“withコロナ時代”に全社を挙げて取り組む初の試み『未来をここからプロジェクト』。
本プロジェクトの先陣を切る『報道ステーション』では、10月26日(月)~30日(金)の5日間にわたり、「未来への入り口」というコンセプトのもと、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る「人」を特集する新企画『未来を人から』を展開。
第4回に登場したのは、高いAI技術を誇るベンチャー企業CEOの西川徹氏だ。
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2006年の東京大学大学院在学中、プログラミングコンテスト世界大会に出場した仲間等と前身となる会社を設立。2014年にはAI技術(深層学習技術)に特化した事業に取り組むべく、プリファードネットワークスを設立、CEOに就任した。
その企業価値は3500億円ともいわれ、2019年には「日本ベンチャー大賞」で内閣総理大臣賞を受賞。
自動車の自動運転技術やガンの早期発見システム、全自動お片付けロボットなど、AIの力で世界を変えるべく奮闘する西川氏が思い描く未来とは――。
◆AI・人工知能の技術で、現実世界の課題を解く
「私たちはAI・人工知能と呼ばれる技術を用いて、現実世界の課題を解いていきたいと考えております」
力強くこう語る西川氏は、数多くの“未来的”な技術を手掛けているが、新型コロナウイルスについてはどのような展望を持っているのか。
「現在の技術進展の流れを見ていると、今後は高い確率でウイルスの脅威も無くなっていくのではないかと考えています。空気中のウイルスを捕まえてシーケンシング(遺伝情報を解析)をすれば、どんなウイルスがいるのかが分かるようになる。将来的には空間中のウイルスの動きを読むなど、さまざまな対策が可能になっていくと思います」
東京大学の大学院在学中に起業をしたのち、2014年にAI技術(深層学習技術)に特化したプリファードネットワークスを設立。現在、その企業価値は3500億円以上ともいわれている。
自動運転技術にAIを活用するためトヨタ自動車とともに研究開発をおこない、2017年には105億円の追加出資を受ける。さらに今年6月、AI開発のために自社開発したスーパーコンピュータが省電力性能の評価ランキングで世界一を獲得した。この高い技術力が世界中から注目を集めているのだ。
「いま私たちが特に注目しているのは、AIという広い分野のなかにある機械学習の、さらにそのなかの“深層学習”(ディープラーニング)と呼ばれる技術です。例えばこの“バラ積みロボット”では、ある物体をどこかからどこかまで運ぶという、“もののつかみ方”を機械に自動的に学習させる試みを行ってます。
これまでは、こういった物体を指定された場所まで運ぶタスク――“バラ積みタスク“というのですが――をやるためには、人間がルールをつくってコードを書く必要があったんですね。センサーにどう映ったときに、どこをつかめばいいのか、という具合に。
それには数日を要するのですが、深層学習を使うと、機械を動かし続けるだけで、つかめたときとつかめなかったときの違いをだんだん学習していくんです。8時間程度動かしておけば、人間がつくったプログラムと同等の精度になる。人間が教えなくても、機械が自動的に最適なパラメータを獲得していくわけです」
物体のどの部分にアプローチすれば的確につかむことができるのか。成功例と失敗例の画像を記録しながら、機械が自ら調整していく。つまり、人間がルールをプログラムとして打ち込むのではなく、深層学習により機械そのものがルールをみつけて学習するのだという。
「ロボットがなにをやれば生活が便利になるのかを考えたときに、僕は片付けが苦手なので、家にいない間に勝手に片付けてくれるロボットがいたら便利だなと思ったんですよ。世の中にロボットの可能性を示せるのではと考えて、“全自動お片付けロボット”を開発しました。
ロボットがいろんな物体を正確に認識してつかむ。この動作が非常に難しくて、これまではできなかった。どの部分を、どのくらいの力でつかむかを判断するのは非常に難しいんです。
例えば透明なペットボトルをつかみたいとして、まずは形を正確に認識しないと、少しズレるだけで落としてしまう。形がまっすぐだと認識して、この部分をつかめばいいという“目“の部分が不足していた。
今回私たちは、この“目“の部分に深層学習の技術を応用したことで、物体を正確かつ高速に認識できる技術を開発できました」
この全自動お片付けロボットでは、トヨタ自動車のロボットをプリファードネットワークスのAI技術で制御する。繰り返しトレーニングをして、つかむ物体の種類と形状を正確に認識することが可能になった。
「例えばスリッパを単につかむだけではなく、揃えて置いてくれる。ウェットティッシュも向きを揃えて棚に収納することも実現できるようになりました。このように“もののつかみ方”を学習したことで、つかむ対象の周りにある物体をどかす、ということも可能になる。そのどかせる方法も、機械が勝手に学んでいる。実世界の問題を解くなかでパーソナルロボットをつくっていくのは、重要なミッションのひとつだと考えております」
◆お手本としている人物、水樹奈々さん
この深層学習を活用してトヨタ自動車と共同開発を進めているのが、次世代型の自動車に搭載する“自動運転技術”だ。これはAIで自動制御された白い車が動くなかに、人間が操作する不規則な動きの赤い車が現れ、衝突を回避するというデモンストレーション。2016年、世界最大級の家電やIT技術の見本市CESで発表されたものだ。
「現実世界で自動車のようなデバイスを動かす際には、未知の状況に出会うこともあるわけですね。ルールに書かれていないことはできない従来のやり方に対して、機械が自ら学習することで対応できるようになる。自動運転によって事故の確率を圧倒的に減らすこともできる。
もちろん100%なくすことはできないのですが、いま人間が起こす事故があまりにも多いので、そこが完全に機械化されることで大部分のリスクは軽減できる。この深層学習が持つさまざまな状況や環境に対応できる力は、現実世界の問題を解いていくうえで極めて重要な意味を持つと、私たちは考えています。
とはいえ、まだまだわからないことはたくさんあります。人間の脳を模しているといっても、その人間の脳自体、まだまだわからないことばかり。このまま人工知能がずっとブラックボックスのままでは良くないので、ある方法で精度が上がる理由、下がる理由を一つひとつ解きほぐしながら、日々研究開発を進めています」
このほかにも、大手IT企業のDeNAと血液中の分子のパターンからガンを早期発見するシステムを共同開発で進めている。さらにプロが描いたような高品質なアニメキャラクターを自動生成して、髪型や表情を簡単に編集できる技術を独自に開発。
あらゆる領域への挑戦を続ける西川氏がお手本としているのは、どのような人物なのだろうか。
「これらは水樹奈々さんのグッズですね。ライブの DVD や CD に、これはファンクラブ・ SC NANA net のキャラクター“ななちょも”。そのクッションと、マスコットキャラクターですね。奈々さんが書いた『深愛』を熟読しているなかで、“前例のないことをやる”という言葉がとても印象的でした。
歌手であり声優である二足のわらじを両方成功させるだけでなく、ライブでは毎回新しい挑戦を続けている。私自身も常に前例のない挑戦を続けて、テクノロジーの世界を突っ走っていくことを目標としているわけですが、奈々さんからの影響は大きいです。もし奈々さんのことを知らなかったら、私の会社もここまで続いていなかっただろうと思っております」
◆現在とはまったく違う次元の能力を発揮できる未来
2019年には社会的インパクトが強い新事業を創出したベンチャー企業を表彰する「日本ベンチャー大賞」で内閣総理大臣賞を受賞。AIを駆使して新たな時代を切り開く西川氏が目指す未来とは――。
「私たちがつくりたい未来とは、圧倒的に便利で疲れない世界です。ストレスを減らして人が亡くなるリスクを最小限にすることで、長生きできるようになるし、可能であれば500年後にどんな世界が待ち受けているのかを見てみたいですね。
治らないと言われてた病気も治るようになっていくだろうし、コンピューティングの力を借りることで人間の多様性や生物の複雑さも徐々に明かされつつある。きっといまとは全然違う未来が待ち受けているのではないかなと思ってます」
新型コロナウイルスを含むさまざまな要因により世界は分断しつつあるが、ロボットやAIはどのようにして課題解決の助けとなるのか。
「これまでは地理的な意味での分断が多かったのですが、これからロボットやAIが進化していくと、空間的な概念はなくなっていくと思うんですね。例えば遠隔でテレプレゼンス(直接対面しているかのような仮想現実を演出する技術)を使って通信することもできる。
加えて、いま深層学習という分野で非常に進んでいるのが言語処理の技術で、言語の壁は5年後にはなくなると思います。この地理的要因と言語の壁がなくなることで、これまでの歴史とは違ったかたちの分断と集中が起こるのではないでしょうか。私はこのことを非常にポジティブにとらえています」
AIが人間とともに進化するためにはなにが必要なのか。一部では、有名映画のようにAIやロボットが人間に反旗を翻すおそれを抱く人たちもいるが、そのような事態が起こる可能性は?
「それはあると思いますね。人工知能が登場する以前から、さまざまな兵器が存在する。地球を破壊しようと思えば、すでにそれが可能な状況であるといえます。AIも社会システムの重要な構成要素だと認めたうえで、ガイドラインや規則を丁寧に設計していく必要があります。
これから20年、30年後にはテクノロジー中心の社会になっていることは間違いありません。そのときにきちんとテクノロジーを理解、制御できる人材がたくさんいないといけないと思います。未来を支える子どもたちが技術を正しく使えるようになってほしい。そのためにも技術の本質を理解したうえで制御できるようになってほしいですね」
将来テクノロジー中心の社会が訪れたとき、人間の存在価値は無くならないでしょうか。
「無くなってほしくないですね。正直、世の中がどちらに転ぶのかは読めないですが、AIの技術、深層学習の技術を作る側の立場として、人間の役割がきちんと残るような設計で技術の開発を慎重に進めていく必要がありますし、なにより、私自身は人間の可能性をものすごく信じています。
機械学習、深層学習と対峙することによって、人間にしか見いだせない視点を含め、やっぱり人間ってすごいと感じる部分が見えてくるんですよ。これまでにも自動車や電話が発明され、携帯電話になり、スマートフォンがつくられた。こんなふうにさまざまなテクノロジーが出てきたなかで、我々人間は複雑なデバイスを当たり前のように使いこなしていますよね。人間の持つ適応能力は凄まじいと感じます。
しっかりと技術に触れる機会を提供できれば、デジタルの世界に溶け込んでいけるほどのすごい適応能力がある。これから先の未来では、人間はいまとはまったく違う次元の能力を発揮できるようになっていくのではないでしょうか」
<構成:森ユースケ>
※番組情報:『未来をここからプロジェクト』