<WRC>ヒュンダイがトヨタを抜き1位に。再び“残り2戦”となり熾烈な争い続く
WRC(世界ラリー選手権)第6戦「ラリー・イタリア」が終了した。
新型コロナウイルスの影響で無観客ラリーは継続したものの、金曜日の朝から日曜日まで、通常と変わらない3日間のラリーが開催された。徐々に新型コロナウイルスの影響から脱しつつあるWRCだが、ラリー・イタリアの開催中に2つのビッグニュースが飛び込んできている。
1つ目は、これまで最終戦と思われていた第7戦「ラリー・ベルギー」に続き、新たに最終戦として第8戦「ラリー・モンツァ」が発表された。
開催地はF1イタリアGPで有名なモンツァ・サーキットを中心としたその周辺となっている。すでに「ラリー・イタリア」としてイタリアの名称を使っているため、名称は「ラリー・モンツァ」となる。
開催予定日は12月4日~6日の3日間。これにより、2020年WRCシーズンは12月までの全8戦開催となった。
2つ目のニュースは、2021年のWRCカレンダーが発表されたこと。
こちらも新型コロナウイルスの影響がまだ残り、北米ラウンドの「ラリー・メキシコ」はカレンダーから外れた。新たに、今年初開催された「ラリー・エストニア」に続き、美しい景色の地として有名なクロアチアが加わった。2021年WRCカレンダーは以下の通りだ。
第1戦:ラリー・モンテカルロ/1月21日~24日
第2戦:ラリー・スウェーデン/2月11日~14日
第3戦:ラリー・クロアチア/4月22日~25日
第4戦:ラリー・ポルトガル/5月20日~23日
第5戦:ラリー・イタリア/6月3日~6日
第6戦:ラリー・ケニア/6月24日~27日
第7戦:ラリー・エストニア/7月15日~18日
第8戦:ラリー・フィンランド/7月29日~8月1日
第9戦:ラリー・ユナイテッドキングダム/8月19日~22日
第10戦:ラリー・チリ/9月9日~12日
第11戦:ラリー・スペイン/10月14日~17日
第12戦:ラリー・ジャパン/11月11日~14日
欧州中心の全12戦開催となり、ケニア、チリ、そして最終戦の日本が大陸を変えた土地での開催となる。最終戦「ラリー・ジャパン」の開催は、11月11日~14日の4日間を予定している。
◆最終ステージまで続いた2位争い
話を「ラリー・イタリア」に戻そう。まず、最終結果は以下の通り。
1位:ダニ・ソルド(ヒュンダイ)
2位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)/1位から5秒1遅れ
3位:セバスチャン・オジェ(トヨタ)/同6秒1遅れ
4位:エルフィン・エバンス(トヨタ)/同1分2秒3遅れ
5位:ティーム・スンニネン(Mスポーツ)/同1分33秒9遅れ
6位:オット・タナック(ヒュンダイ)/同2分27秒5遅れ
7位:ピエール・ルイ・ルベー(ヒュンダイ)/同4分43秒8遅れ
8位以下は、格下のWRC3クラスとWRC2クラスのマシンが並んだ。
今回1位を獲得したソルドは、2019年に続き2年連続優勝。しかし、ラリーの注目は週末を通じて2位ヌービルと3位オジェの激しい2位争いに集まった。
初日の金曜日、最初にトップに立ったのはフォードのマシンを駆るスンニネン(Mスポーツ)。金曜日の午前中はチャンピオンシップのランキング1位から走行するメリットを活かし、多くのマシンが掃除役をした後のSS1でいきなり2位に12秒4差をつけるタイムを叩き出した。
同じMスポーツのエサペッカ・ラッピが2位、ヒュンダイのソルドが3位となり、走行順のアドバンテージをトップ3台が得た形だ。
しかし、Mスポーツのラッピは次のSS2でマシントラブルによりストップしリタイア。初日のSS6を終えた時点で、トップはヒュンダイのソルド、2位にMスポーツのスンニネンが続いた。
そして3位にはヒュンダイのヌービル、そしてヌービルから遅れること0秒8でトヨタのオジェが続く。
この時点では、この2台による1秒の争いがまさか最終ステージまで続くとは誰も予想しなかったはずだ。また、チャンピオン争いをしていたヒュンダイのタナックだが、SS1でいきなりサスペンションを痛め、その影響による振動が出ていたためタイムが伸びず、初日を終えて総合8位(1位から1分53秒7遅れ)と大きく出遅れ、チャンピオンシップ争いに黄信号が出てしまった。
初日からヌービルとオジェの争いは注目されていたが、2日目の土曜日になると完全に2hチオの争いにファンは釘付けになった。
SS7を終えて2秒8差でオジェがヌービルを逆転し3位に浮上。SS8ではヌービルがオジェとの差を1秒3にまで詰めるその裏で、2位だったスンニネン(Mスポーツ)はオジェとヌービルに抜かれて4位となり、ここからはオジェとヌービルによる2位争いがスタートした。
SS9ではオジェがリードを2秒9にまで広げたが、SS10でヌービルがオジェに3秒差をつけて逆転。SS11でオジェが1秒4差まで詰めると、SS12ではオジェが1秒5差で逆転し2位を奪い返す。まさにシーソーゲームのような展開がSS毎に繰り広げられたのだ。
続く4位にはトヨタのエバンス。6位にはヒュンダイのタナックが順位を上げてきており、チャンピオンシップ争いにも注目が集まった。
ただ残念なことに、同じくチャンピオンシップを争っていたトヨタのカッレ・ロバンペラはSS8のクラッシュでマシン後部が大きく破損する事態となり、ここでリタイアが決まった。
◆ヒュンダイが逆転1位に
そして最終日。やはり注目は2位争いだ。
SS13では総合2位のオジェがステージトップタイム。ヌービルが0秒2差で続き、差は1秒7へと僅かに広がった。
しかし、SS14ではヌービルがステージトップタイムを獲得。オジェとの差は0秒1にまで縮まり、事実上の横並びに。
続くSS15では再びオジェがステージトップタイムを獲得し、差を1秒7に広げた。そして決着は最後のパワーステージに。ここでヌービルが意地を見せてオジェを逆転。最終的には1秒差で総合2位を獲得した。
また、ヒュンダイのタナックはこのパワーステージでステージトップを叩き出し、5ポイントを加算。チャンピオンシップ争いに踏みとどまった。そしてトヨタのエバンスは総合4位とパワーステージ4位を確実に押さえ、チャンピオンシップのトップを守っている。
こうしてラリー・イタリアは終了。トヨタはドライバーズチャンピオンシップのリードは守ったものの、最終結果で1位と2位をヒュンダイに奪われ厳しいラリーとなった。
激しい2位争いを繰り広げたセバスチャン・オジェは次のようにコメントしている。
「非常に集中して戦い続けた週末でした。3位という結果はここでの我々の真のパフォーマンスを示すものではないかもしれませんが、ラリーとはそういうものです。今回は多くのステージで2番手スタートとなり、多くのタイムを失いました。その後も常に難しい状況が続きましたが、我々はベストを尽くして戦いましたし、自分たちのパフォーマンスには失望していません。
また、十分なポイントを獲得することもできました。ヤリスWRCにはかなり慣れ、パフォーマンスも感じています。このようなアプローチを続けていけば、将来は明るいと確信しています」
ドライバーズチャンピオンシップ上位は以下のようになった。最終戦にラリー・モンツァが加わったことで、チャンピオン争いはまだまだ予断を許さない状況となっている。
1位:エルフィン・エバンス/111ポイント
2位:セバスチャン・オジェ/97ポイント
3位:ティエリー・ヌービル/87ポイント
4位:オット・タナック/83ポイント
5位:カッレ・ロバンペラ/70ポイント
6位:ティーム・スンニネン/44ポイント
マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、1位と2位を獲得したヒュンダイが208ポイントまで伸ばしてトヨタを逆転。2位トヨタが201ポイント、3位にフォードを使用するMスポーツが117ポイントとなっている。
トヨタは逆転されてしまったが、その差はわずか7ポイント。こちらも残り2戦、どうなるか目が離せない状況だ。
そして、日本人ドライバーの勝田貴元にとっては、今回はかなりほろ苦いラリーとなってしまった。
金曜日のSS4でコースオフしてデイリタイア。土曜日に復帰してSS10とSS12ではステージ7位と速さを見せたものの、日曜日のSS14でマシンを横転させる大きなクラッシュにより再びリタイア。2度のリタイアは、勝田に経験と共に新たな課題を示した形だ。次戦ラリー・ベルギーでの走りに期待したい。
再び“残り2戦”となったWRC。果たして、ドライバーズチャンピオンシップはどんな戦いとなっていくのか。トヨタとヒュンダイによる争いからも目が離せない。
次戦ラリー・ベルギーは、11月19日~22日を予定している。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>