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“道の悪さ”随一のラリー・トルコ。トヨタ、Wタイトルに向けミス許されぬ正念場<WRC>

第4戦「ラリー・エストニア」で無事再開を果たしたWRC(世界ラリー選手権)。WRC初開催となったこのラリー・エストニアでは、母国ドライバーのオット・タナック(ヒュンダイ)が見事優勝を果たした。

しかしチャンピオンシップを見れば、トップはトヨタのセバスチャン・オジェ。2位には同じくトヨタのエルフィン・エバンスが続いており、今週行われる第5戦「ラリー・トルコ」を含めた残り3戦をいかに戦うかがドライバーズチャンピオンシップとマニュファクチュアラーズチャンピオンシップのダブルタイトルを狙うトヨタにとっては重要となる。

©TOYOTA GAZOO Racing

第5戦「ラリー・トルコ」の開催地は、マルマリスというトルコの南西部。エーゲ海沿いにある港町にサービスパークを用意する。

マルマリスは入り組んだ入り江があり、古代ではオスマン帝国がロードス島へ遠征するときの拠点となっていたそうだ。軍港として優れていた名残か、現在もロードス島へのフェリー運行路線のひとつとして栄えている。

また、マルマリスの町は前を海、後ろを山々に囲まれており、地形的には日本の鎌倉に似ているといえるかもしれない。

©TOYOTA GAZOO Racing

そんなマルマリスを中心に開催されるラリー・トルコの特徴をドライバーはどう捉えているのか。

昨年のラリー・トルコで2位を獲得したエサペッカ・ラッピ(Mスポーツ・フォード)は、公式TVのインタビューでラリー・トルコをこう表現している。

「とにかく路面が酷く荒れている。ズルズルと滑る。そこらじゅうに大きな石や岩がゴロゴロと転がっていて危ない」

このラッピの言葉通り、昨年はヒュンダイのティエリー・ヌービルが荒れた路面が原因でサスペンションが壊れるという厳しいラリーを経験している。

「とにかく良い順位を守りたい。できれば表彰台の真ん中を狙いたい。スピードを保てることを願うばかりだ」とヌービルは語り、チャンピオンシップ争いでももう後がないだけに、最初の走行順をフルに活かしたいところだろう。

◆“走行順”にトヨタはどう対処するか?

ラリーは、新型コロナウイルスの影響もあり、前戦同様に通常の金曜日から日曜日の3日間をフルに争う方式ではなく、金曜日にシェイクダウンとSS1~2、土曜日にSS3~SS8、そして日曜日にSS9から最終SS12までと短縮して行われる。昨年のラリー・トルコはSS17まであったことを考えると、ほぼ1日分ステージ数が短い。

全SSの走行距離は、9月14日に最終日のSSにコース修正が加わり、昨年比で88.54km短縮されて221.46kmとなった。

総走行距離が短くなると、前戦ラリー・エストニアでも顕著だったように、小さなミスの挽回が難しい。

前戦では、土曜日最後のSS11を終えた時点で2位を走行していたクレイグ・ブリーン(ヒュンダイ)と3位のオジェの差は17秒だった。そして日曜日最後のSS17を終えた時点では4秒7差。12秒以上縮めたが逆転には至らなかった。

もし、金曜日もフルに1日あり、その時点で17秒差であれば、土曜日と日曜日の2日間かけて逆転の戦略を練ることも出来たはずだ。しかし、これが1日だけとなると、リスクを背負ってまで無理をすることは難しい。

しかもWRCルールでは、決められたSSまで(ラリー・エストニアでは土曜日午前のSS6まで)ドライバーズチャンピオンシップのランキング順で走行しなければならない。

今回のラリー・トルコはグラベル(未舗装路)ラリーで、しかも道の悪さはすべてのWRCコースのなかでも随一と言われている。

©TOYOTA GAZOO Racing

どうしても先に走行するドライバーは泥や埃を掻き出す道の掃除役となってしまい、タイム的に不利となる。それでいて無理をすれば、路面にある岩とも呼べる石などが隠れていて意図しないタイヤのパンクやサスペンションなどの車体へのダメージもあり得る。

これまでは、金曜日から日曜日の3日間をフルに戦えていたので、初日午前中のランキング順走行はラリーを面白くさせる不確定要素となっていた。しかし、距離が短くなり、新型コロナウイルスの影響で実質2日となっている現在では、どうしても最初に走るドライバーは不利となる。

ヌービルが走行順を活かしたいと語ったのは、これが大きな理由だ。この厳しい状況に対してトヨタ陣営がどう対処していくのかも大いに注目すべきポイントだろう。

◆オジェ「出走順がトップの我々にとっては特に難しい1戦」

©TOYOTA GAZOO Racing

実際、チームが発表したトヨタドライバーたちのコメントを見ても、走行順の厳しさが感じられる。

※セバスチャン・オジェ
「昨年、ジュリアンと一緒に勝利をあげたラリー・トルコには、もちろんいい思い出があります。しかし、昨年と同じ結果を残すことは簡単ではないでしょう。誰にとってもタフなラリーですが、出走順がトップの我々にとっては、特に難しい1戦になると覚悟しています。

それでも、ヤリスWRCでどんな戦いができるのか、ワクワクしています。トルコに向けたテストを最近おこないましたが、クルマに改善を施し、大幅に進化させることができたと信じています。ラリー本番がとても楽しみです」

※エルフィン・エバンス
「ラリー・トルコは常に難しく、ハイスピードな道が多かったエストニアとは正反対の低速なラリーになるでしょう。非常に暑く、選手にとって体力的に厳しい1戦ですが、クルマにとっても非常に過酷なイベントになることは間違いなく、それに適応するための準備が必要です。

数週間前にギリシャでテストをおこなった際、クルマの感触はとても良かったので、その良いフィーリングがラリーに反映されることを期待しています」

※カッレ・ロバンペラ
「トルコの道は非常に荒れているため、僕にとってかなり難しいラリーになるでしょう。昨年、ラリー・トルコのWRC 2カテゴリーに出場したので、どのようなラリーなのかある程度は理解しています。しかし、自分のキャリアにおいて、このようなラリーへの出場経験は多くありません。チームは昨年よりもクルマを大きく進化させたようなので、このような荒れた道でのパフォーマンスは上がっているはずです」

このように、トップに立ちながらも決しておごりを見せないトヨタチームの面々だが、今回唯一残念なのは、前戦のラリー・エストニアでトヨタドライバーたちと互角の走りを見せた勝田貴元が出場しないことだ。

これは元々予定していた参戦スケジュールにラリー・トルコが組み込まれていなかったため仕方ないのだが、明らかに何かを掴みだしている勝田の走りが見られないことは日本人ファンとして残念だ。次戦のラリー・イタリアには出場予定なので、ぜひとも熱い走りを期待したい。

金曜日のSS1は現地時間17時8分スタート(日本時間は23時8分)を予定している。土曜日のSS3は現地時間8時45分スタート(日本時間は土曜日14時45分)、日曜日のSS9は現地時間7時30分スタート(日本時間は日曜日13時30分)の予定だ。

残り3戦、ここからはミスが出来ない高度な駆け引きと争いが展開される。トヨタにとっては1994年以来、WRCに復帰しTOYOTA GAZOO Racingというチーム名称になってからは初のダブルタイトルを目指す戦いに注目していきたい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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