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WRC(世界ラリー選手権)再開の第4戦は、母国凱旋勝利。勝田貴元も成長みせる

ついに再開を果たしたWRC(世界ラリー選手権)。その最初の舞台となったのは、第4戦「ラリー・エストニア」だ。

国が全面バックアップという万全の体制で行われたWRC初開催のラリー・エストニアで勝利しその名を歴史に刻んだのは、エストニア人として2019年シーズンに初のWRCワールドチャンピオンを獲得し、母国エストニアで圧倒的人気を誇るオット・タナック(ヒュンダイ)。まさに母国凱旋の勝利だ。

「とにかく嬉しい。もちろん、ヒュンダイ移籍で初の勝利の意味は大きいし、みな本当にハードな仕事をこなしてきた。そして母国で勝利出来たことは大きい。ホームならではの、本当に多くの人からのサポートがあった。初開催のラリー・エストニアでの勝利を僕が挙げたのだから、そりゃ嬉しいよ」

勝利を決めた最終SSゴール時点で、タナックはこのように大いに喜んだ。

ラリー・エストニアの最終結果は以下の通りだ。

1位:オット・タナック(ヒュンダイ)
2位:クレイグ・ブリーン(ヒュンダイ)/1位から22秒2遅れ
3位:セバスチャン・オジェ(トヨタ)/同26秒9遅れ
4位:エルフィン・エバンス(トヨタ)/同41秒9遅れ
5位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)/同1分18秒7遅れ
6位:ティーム・スンニネン(Mスポーツ)/同2分39秒6遅れ
7位:エサペッカ・ラッピ(Mスポーツ)/同2分52秒0遅れ
8位:ガス・グリーンスミス(Mスポーツ)/同4分53秒8遅れ

新型コロナウイルス感染拡大の影響から、無観客ではなかったものの、出場者と観客の間にはかなりのディスタンスが取られていた。また、競技日程は金曜日から日曜日だったが、金曜日のSS1は1.28kmの顔見せであり、1位から2秒以内に17台が並ぶという横一線。

事実上、土日の2日間の争いとなったラリー・エストニアは、ひとつもミスが許されないラリーとなった。

◆ミスが許されないラリー

土曜日の午前。ラリー・エストニアのグラベル(未舗装路)コースは滑りやすいこともあり、最初に出ていくマシンはどうしても不利なコースの掃除役となってしまう。

土曜日午前中の走行順は第3戦までのポイントランキング上位から走行するため、ポイントリーダーのセバスチャン・オジェ、同2位のエルフィン・エバンスが掃除役となった。

この走行順アドバンテージを得て、午前中最後のSS6を終えた時点で、トップにタナック、2位ブリーン、3位ティエリー・ヌービルとヒュンダイ勢が上位を独占。対するトヨタ勢は4~7位に勝田貴元を含めた4台が並び、追い上げを狙った。

午後最初のSS7で、ひとつの波乱が起こる。

まず、トヨタのエバンスが、SS7ゴール近くのストレートで突然左リヤタイヤがバースト。マシンのボディワークを大きく破損した。しかし幸運なことにタイムロスは数秒で、ゴール後にタイヤ交換で対応する。

一方、大きく不運に見舞われたのがヒュンダイのヌービルだった。右リヤタイヤをコースの轍部分で激しくぶつけてしまい、タイヤがサスペンションごと外れそうになりながら3輪で走行。1位から1分15秒7遅れでなんとかゴールしたものの、大きく破損したマシンを修復するには至らず、SS8を走ることなくデイリタイアとなってしまった。

こうして土曜日を終えると、1位と2位をヒュンダイ、3位から6位をトヨタが占めた。1位タナックと3位オジェの差は28秒7あり、オジェとしては日曜日に2位を目指す展開となった。

◆優勝のタナック「昨年までとは戦いのレベルがまるで違う」

最終日の日曜日、今度はトヨタに波乱があった。

総合5位につけていた日本人ドライバーの勝田貴元が、SS13走行中、右カーブの進入でミスがあり派手に横回転するクラッシュ。クラッシュ直後、勝田本人はコース復帰を狙ったが、マシンはコース脇のくぼみ部分に沈むように止まっていてコース復帰は不可能な状態。このままリタイアとなってしまった。

勝田のクラッシュはあったものの、トヨタ勢の3台は日曜日のSS12からSS17まですべてのSSでトップを獲得して1位と2位のヒュンダイを追いかけたが、逆転には至らなかった。

こうして初開催となったラリー・エストニアは、オット・タナックが初の勝者となった。

表彰後の公式会見でのタナックのコメント概要は以下の通り。

「(母国での勝利は)ハッピーだというべきでしょう。ただ、実際はきつかったです。普段、エストニアの道を走ることは楽しいのですが、2回目以降はきつかったです。あの(高速)スピードをコントロールすることはかなりの集中力が必要でした。それでも予想外のこともありましたし大変でした。

プレッシャーもあり、ここではポイントが必要で、勝利しなければと思っていました。ただ、ここは(母国の)エストニアであり、何かしらのアドバンテージがありました。(WRC初開催ということで)昨年までとは戦いのレベルがまるで違いました。誰もが最大限にプッシュしていて、コースも新しい部分が多く、体験したことのないコンディション下にあり、まるで違うイベントでした。

(今シーズンのタイトル争いは)スプリントレースになると思います。すべてが上手くいけば計画どおりになるでしょう。ただ、外的要素は厳しいですから何が起きるかを見据えなくてはなりません。とにかく僕たちのベストを尽くすのみです」

タナックはこう語り、今シーズンのタイトル争いをスプリントレースに例え、今後もミスが許されない戦いになることを示唆した。

◆勝田貴元の成長

一方、トヨタの3台はしっかりとポイントを獲得し、ドライバーズチャンピオンシップ、マニュファクチュアラーズタイトルのリードを保った。オジェのコメントだ。

「我々にとってはポジティブな結果です。ポディウムを獲得できたのはチャンピオンシップにとっても良いことです。とはいえ、今週末はさらに良い結果を残すことができたはずなのに、それができなかったことに少し悔しさを感じています。優勝は難しかったかもしれませんが、もっとタイム差を縮めることはできたはずですし、少なくとも2位にはなれたはずです。

また、パワーステージではより多くのポイントを獲得したかったのですが、ステージはこの週末もっとも荒れていたので、リスクを負わず、表彰台の確保を最優先しました。それでも、この難しい週末に十分なポイントを獲得できたことを嬉しく思います」

なお、タイトル争いは以下のようになっている。

1位:セバスチャン・オジェ/79ポイント
2位:エルフィン・エバンス/70ポイント
3位:オット・タナック/66ポイント
4位:カッレ・ロバンペラ/55ポイント
5位:ティエリー・ヌービル/42ポイント
6位:ティーム・スンニネン/34ポイント
7位:エサペッカ・ラッピ/30ポイント
8位:クレイグ・ブリーン/25ポイント
9位:勝田貴元/8ポイント

マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、トヨタが137ポイントを獲得。2位ヒュンダイが132ポイント、3位にフォードを使用するMスポーツが83ポイントとなっている。今回、1位と2位を獲得したヒュンダイが大きく差を詰めてきた。

次戦は、第5戦ラリー・トルコ(9月18日~20日開催)だ。

今シーズンは新型コロナウイルス感染拡大による中断のため全7戦に短縮された。残りはわずか3戦。表彰後の会見でタナックが語ったように、チャンピオン争いはスプリントレースのような戦いとなるだろう。

今回ノーポイントに終わったヒュンダイのヌービルはかなり厳しい立場に追い込まれた。しかし、これはトヨタ勢にもいえる。

オジェがコメントしたように、リスクを負わず、かつ最高の結果が求められる。そうした戦いにおいて、6度のタイトルホルダーであるオジェの経験は間違いなくトヨタチームに生かされるはずで、残り3戦もトヨタの戦いに期待したい。

また、今回大きな驚きを関係者に与えたのは、勝田貴元の成長だろう。

残念ながらSS13でクラッシュリタイアしたものの、そこまでの走りは完全にトップドライバーのものだった。SS2からSS12までのステージ結果を見ると、勝田の各SS結果は、8位、6位、8位、6位、6位、6位、6位、6位、6位、5位、7位で、確実に上位へ食い込んでいる。

それだけではなく、トヨタのエースであるオジェと比較すると、SS4で0秒5差、SS8で1秒2差、SS9で1秒2差という僅差で追いかけ、SS11では2秒6差でオジェを上回ってみせたのだ。

もちろん、今回の結果だけで評価することは時期尚早だが、勝田貴元という存在がWRCの中心へと着実に登り始めていることを実感するラリーであった。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>