年収1,000万円から年俸120円!42歳の“脱サラJリーガー”が起こした奇跡の物語
“激レア”な体験を実際にした「激レアさん」をスタジオに集め、その体験談を紐解いていく番組『激レアさんを連れてきた。』。
7月18日(土)の放送では、“年俸120円の現役Jリーガー”を紹介した。
現在42歳のアビコさんは、J3リーグのY.S.C.C.横浜に所属し、10代から20代に混じってプレーする正真正銘のJリーガー。
プロになったのはなんと40歳のときで、それまでは15年間普通のサラリーマンをしていた。その後、一念発起してプロを目指し、昨年ついにJリーグ史上最年長デビューを達成したのだ。
もともと幼いころからプロサッカー選手を目指し、17歳で単身ブラジルへサッカー留学するほどの腕前の持ち主だったアビコさん。ところが、帰国後はクラブチームに入団することなく、23歳のときにサラリーマンになることを選んだ。
その後は「なぜプロを諦めたのか」と聞かれるたび、「ブラジルにいたとき、足を削られてケガをした」「トライアウトに入ったが、熱中症になった」と、真っ赤なウソをつきつづけていたという。
なぜそんなウソをついたのかというと、15年前のトライアウトでのあるできごとがトラウマになっていた。
◆きっかけは、15年間つきつづけてきたウソ
ブラジル留学を終えて意気揚々と帰国したアビコさんは、清水エスパルスのトライアウトに挑戦した。
その試験は、プロを目指すトライアウト組と高校生のチームが練習試合をして、動きを見るというもの。試合開始3分後、さっそくアビコさんにボールがまわり、チャンスがやって来る。
すると、年下の高校生がボールを奪いに猛ダッシュでやってきた。アビコさんはブラジル仕込みのフィジカルでかわそうとしたが、一回りも小さい高校生にいとも簡単に吹き飛ばされ、あっさりボールを奪われてしまう。
この衝撃で自信消失。高校生相手にすっかり恐れをなし、その後は味方の後ろに隠れたり、足に爆弾を抱えているふりをしてプレーには参加せず、あえなく不合格に。
たったワンプレーで心が折れ、実力の半分も出せずにプロへの想いを封印し、つかなくてもいいウソを15年間言いつづけるハメになってしまった。
それからはサラリーマンとして働き、年収は約1,000万円と相当稼いでいたが、30代の終わりに人生の大きな転機が訪れる。
◆リップサービスで想いが再燃!
サッカーを辞めてから15年間ほぼ運動することがなかったアビコさんは、なまった体を動かすためスポーツジムに通うことに。そこで、ジムのトレーナーに運命を変える一言を言われる。
その言葉は、「素晴らしい筋肉をもっていますね。現役のアスリートの方ですか?」。
実はこれ、“リップサービス男”として有名なトレーナーの営業トークなのだが、そんなこととは知らないアビコさんはこの言葉に強い衝撃を受け、15年間封印していた気持ちが一気に解き放たれた。
うれしくてトイレで男泣きし、鏡に映る自分を見つめながら「俺、まだやれる?」と問いかけたアビコさん。心の奥底では、トライアウトで実力を出せなかったことと、それを15年間偽ってきたことをずっと後悔していたのだ。
だからこそ、トレーナーの言葉で再び火が付き、「この後悔を晴らすなら今しかない」と決意した。
アビコさんはその足で会社に直行すると、「俺、Jリーガーになります!」とすぐさま退職届を提出。そして再びジムへ戻り、今度は「会社辞めてきました。Jリーガーにしてください!」と宣言。驚くことに、これらは1日のなかで起こった出来事だ。
トレーナーは当然そんなつもりで言ってないのでパニックとなるが、ついにはアビコさんの熱意に心揺さぶられ、本気でJリーガーへの道をサポートすることになった。
◆ロン毛おじさんの無謀すぎる挑戦
若いころ、アスリートとして厳しいトレーニングをしていたとはいえ、15年ものブランクがあった者がいきなりプロになるのは、実現不可能に近い話。しかも、トライアウトまでの時間は4か月しか残されていない。
そこでアビコさんはトレーナーを巻き込み、禁断ともいえるトレーニング方法を編み出してサッカー選手としての経験値を上げていった。
まず導入したのは、心肺機能を高めるための秘密兵器。鼻からしか空気を摂取できない特殊なマスクを取り入れ、就寝時も入浴時もほぼ24時間着用し、持久力を強化した。
また、関東中の草サッカーの試合に勝手に出向き、「俺を使ってみてください」と直談判。 “流しのフォワード”として何試合もはしごし、試合勘を鍛えた。
さらにメンタル面では、「褒められて伸びるタイプだから、褒めてもらえばとんでもない力が出る」と考え、朝晩「俺の体どう?」とトレーナーにメール。毎回「最高です」と返信をもらっていたそう。
そんなトレーニングを繰り返すこと3か月。最初は5分ももたなかった持久力が、3か月後には90分フルで動けるようになり、試合でもゴールをどんどん決められるようになった。
こうしてさまざまな努力をつづけた末、ついに運命のトライアウトを迎える。
◆前代未聞のアピールでプロ志願
アビコさんが受けたのは、当時J2に所属していた水戸ホーリーホック。アラフォーの参加者は、もちろんただひとりだ。
最初にはじまった参加者の自己紹介で、アビコさんはさっそく賭けに出る。
なんと「お金は一切要りません。だから入れてください!」と前代未聞のアピールに打って出たのだ。
「ここでクラブからお金をもらわないのが、僕の人生の後悔を取り返しに行く意味でもあった」というアビコさん。しかし、この自己紹介を聞いた担当者は「本当に?」と何度も聞き返したそう。
最終的にアビコさんは“仮合格”となり、3か月間練習生としてチームに参加した結果、見事念願のプロ契約を勝ち取る。
すべての練習メニューをあきらめることなく消化したことにくわえ、「ピッチ内はもちろん、ピッチ外でも120%やります! 広報や営業もぜんぶやります!ピッチ内外含めてフル出場させてください!」という異例の訴えがクラブに響き、今までにない新しい選手スタイルがチームの刺激になると評価されたのだ。
プロになることが決まると、アビコさんは「給料は0円でいい」とあらためてクラブに伝えたところ、「それではプロとして成立しない」と言われ、希望額を聞かれた。
悩んだ末、出した答えは「10円」。月1円で10か月契約なので年俸10円というワケだ。
お金よりも「とにかくその舞台に立ちたかった」アビコさん。その10円で、わざわざ公衆電話を使って両親に電話し、プロになったことを報告した。
◆おじさんJリーガーがチームを変革!
こうしてJリーグ史上初の40歳のルーキーが誕生。
アビコさんは持ち前のコミュニケーション能力でチームメイトとの距離を縮め、20歳の選手に食事をごちそうしてもらうなど、すぐにチームに馴染んでいった。
練習では、年下の選手たちに混じってがむしゃらにプレー。公式戦に出場することはかなわなかったが、何事にも一生懸命に取り組む姿勢はチームメイトに刺激をもたらし、チームのムードが徐々に変わっていった。
そしてひとつにまとまったチームは、その年の歴代最高順位を記録。40歳で加入したアビコさんからの刺激も、チームを躍進させた要因のひとつとなったのだろう。
その後、1年間の契約期間が終了し、水戸ホーリーホックを退団したアビコさんは、現チーム・Y.S.C.C.横浜からオファーをもらい、年俸12倍増の120円で契約。
ここでも持ち前のコミュニケーション能力でチームを活性化し、2019年3月10日(日)には念願の公式戦初出場をはたす。あのジーコがもっていたJリーグ最年長デビュー記録を更新し、サッカー界の歴史を動かした瞬間だった。
年齢の壁をぶち破り、長年の夢を実現したアビコさんは、今年限りでの引退を宣言する一方、残された時間をJリーガーとして活動すべく、自分を鼓舞しつづけている。
最後には、「ラストイヤーなので感謝を込めてプレーしたい。ゴールを決めるとJ3の最年長ゴール記録を更新できるので頑張りたいと思います」と笑顔で決意を語った。
※番組情報:『激レアさんを連れてきた。』
【毎週土曜】よる10:10~、テレビ朝日系24局(※一部地域を除く)