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堤幸彦監督、死ぬ前は『トリック』を見て笑いながら旅立ちたい…最期に見たい「象徴的なエピソード」

2000年7月にテレビ朝日金曜ナイトドラマ枠でスタートするやカルト的な人気を誇り、劇場版やスペシャルドラマ、よもやのよる9時台に進出…などなど話題を呼び、14年もの長きにわたって愛され続けてきた『トリック』が、2020年7月7日(火)で放送開始から20周年を迎えた

20年前と同日・同時刻である「7月7日よる11時09分」には、シリーズの原点でもある初回エピソード『母之泉』の記念すべき第1話がYouTubeテレビ朝日チャンネルでプレミア公開された。

さらに地上波では7月10日(金)・17日(金)の2週連続で、傑作選として連続ドラマ第1シーズンから最終エピソード『黒門島』の放送も予定している。

今回この『トリック』20周年を機に、“トリックワールド”の生みの親として知られる、堤幸彦監督にインタビュー。前編では、本作との出会いや魅力、主演の仲間由紀恵、阿部寛との出会いについて伺った。

後編では、主人公・山田奈緒子(仲間由紀恵)と上田次郎(阿部寛)の凸凹な関係、濃すぎるキャラクター、繰り出されるギャグや小ネタの数々…。どこか珍妙でありながらエッジが立った世界観が後のドラマに多大な影響を与えた『トリック』の魅力とは何か? 今回はじめて見る視聴者へのガイドから、ファンが気になる今後まで。堤監督が、かく語る。

◆今これをやれ…と言われたらできなくはないけど、同じ熱量のものは作れない

ーー2020年7月7日(火)よる11時09分で、『トリック』放送開始20周年を迎えました。記念すべきシーズン1のエピソード1『母之泉』(第1~3話)は、ご自身にとってどんな回ですか?

「『トリック』は、監督・演出家としてもう身体がきかないな…となったときに見返したいドラマなんですが、とくに『母之泉』は最期に見たい、シリーズの象徴的なエピソードですね。

というのも、“どうなるかわからないけれど、とにかくアドリブで(撮影的に)やってみよう”という『トリック』の手法、撮り方の原点となったから。

仲間さん、阿部さん、演者のみなさんとの距離感もまだまだ詰まっていなかったと言いつつも、その後14年間にわたって続くシリーズの原型が作られていたんだなということが、今見返すとハッキリとわかる。そんな大事なエピソードになります」

ーーこれからはじめて見る視聴者に『母之泉』の見どころを教えてください。

「同じ格好ばかりしている印象の奈緒子ですが、『母之泉』では“ファッションショーか!?”っていうくらいコロコロと服装が変わるんですよ。

また仲間さんの表情もシリーズを重ねるごとに山田奈緒子として固定されていくなか、このエピソードには当時20歳の、ビックリするくらいカワイイ仲間さんの姿が映像に収められていて。たぶん、私もその仲間さんに射抜かれていたんでしょうね。正面のアップがやたらと多いのも見どころ(笑)。

あとは奈緒子と上田が出会う封筒マジックのシーン。『超能力はすべて人為的なネタがあるのだ』という『トリック』の根底を成すテーマが提示されています。未見の方にはネタバレになりますが、(2014年公開の)シリーズ最終作『トリック -劇場版- ラストステージ』にもつながる大事な出発点なので、一度ご覧になった方も見返していただきたいです」

ーー『トリック』シリーズは全編がロケーションでの撮影。苦労されたことや印象的な出来事はありますか?

「『母之泉』のロケ中に突然、それこそ真横に稲妻が走るくらいの嵐に見舞われまして。どうしようもないから大広間に集まって、みんなでカラオケ大会になったんですよ。で、阿部さんの姿が見えないなと思ったら、わざわざボディペインティングを施して現われて(笑)。

何事にも全力投球。真面目であるがゆえにおもしろいという上田のキャラクターの幅が、そこから広がっていきました。そうやって演者・スタッフが一丸となって大はしゃぎしながら作った“力”というものは、たしかに映像に焼き付いていると思います」

ーー初期衝動が詰まった1stアルバムは1枚目にしてベストアルバムなどと言いますが、シーズン1はそんな勢いと熱、そして濃さを感じます。

「今これをやれ…と言われたらできなくはないけど、同じ熱量のものは作れないでしょうね。そのときに思いつく限りのことを出し尽くしましたから。

“1個でも多く笑いをとりたい”と言うと語弊がありますが、脚本家の蒔田光治さんや桑田潔さんをはじめとするプロデューサーチームが考えてくださった横溝正史的・日本的な世界観のミステリー、あるいはサスペンスに、私の考えた笑いの要素やギャグ・アイデアをいかに詰め込めるか。緊張感のあるなかで、楽しくやらせていただきました。

でも、だからこそ、ある熱に浮かされていた40代半ばの自分がこれだけ無茶でおもしろいことができたんだな、ということをあらためて感じることができて。見返すと『お前、あのころの熱を忘れているだろ!』と背中を押される。そういう意味で、監督・演出家としての私自身が帰るべき場所でもあります」

◆ふざけられたのはストーリーや要となる推理・トリックがしっかりしていたから

ーースタートから20年が経ち、今では親子で楽しんでいる視聴者も多いようです。

「若いクリエーターにお会いすると、3分の1くらいの方に『見ていました』と言われるようになってきて。まだまだ現役のつもりですので、カリスマや伝説になるというのはあまり居心地のいいものじゃないんですけど(笑)、そうやって世代を超えて見ていただけていると聞くとうれしいです」

ーー奈緒子や上田の髪形や衣装、関係性もなんら変わらない。その普遍性が世代を超えて支持される、ひとつの理由だと思います。

「よる11時台の金曜ナイトドラマで放送しようが、よる9時の木曜ドラマで放送しようが映画になろうが、変わらないアプローチで臨むこと。

多少のマイナーチェンジなどありながらも、流行に左右されないことは『母之泉』のころから意識していました。

付かず離れずの凸凹コンビが人里離れた山奥に行って事件を解決。しかし、結末は物悲しい。その黄金のパターンはシーズンを通して変わらない。舞台となる村の、日本独自の風土や湿った空気感も変わらないものだと思います」

ーー逆に変わったことは?

「最初が深夜枠の放送だったからか、あるいはそういう言葉なりにアレルギーがなかった時代なのかはわからないですけど、当時は平気だったエロい表現が今ではちょっと…となるところですかね(笑)。その反面、犯人なりの人物像が反文明的と言いますか。

『人類は近代、現代と本当に正しい進化を遂げたのか?』という、蒔田さんによる壮大なテーマ性がシリーズにわたって描かれている。その両方の側面が共存するところが『トリック』のおもしろさですよね」

ーーくだらなさと真面目さ、物悲しさが同居しているところも『トリック』の魅力です。

「実際にある商品名や個人名もずいぶんイジりましたから、テレビ朝日さんの懐の深さには感謝しかないのですが(笑)、ふざけられたのは横溝正史的な世界がお好きな蒔田さんをはじめとするプロデューサーチームの作るストーリーや要となる推理・トリックがしっかりしていたからこそ。みなさんの尽力のおかげで、私は思い切り遊ぶことができました」

◆死ぬ前は『トリック』を見て“おもしろいな”と笑いながら旅立ちたい

ーー2014年公開の『トリック劇場版 ラストステージ』でシリーズは終了。しかし、2017年にはスピンオフドラマ『警部補 矢部謙三』シリーズの最新作が配信されるなど、『トリック』の新作も期待されています。

「それは私もよく思い浮かべる妄想なんですが、先ほども言ったようにこれまでと何も変わらずやっていきたいですよね。新作と聞いて二人は結婚しているのか? 子どもいたりして!? などと想像されるファンもいるでしょうけど、奈緒子と上田は前と同じようにそこに存在していて、まったく同じことを淡々とやって、最後は歩いてどこかへ去って行く――。そうなるといいなと。

ちなみに(奈緒子が暮らすアパート)池田荘もまだ残っていますよ。来るべきその日のために、取り壊さないようきつーく言ってあります(笑)」

ーー前編でもおっしゃったように、仲間さん、阿部さんという俳優を得たことでできた『トリック』。他のキャストは考えられますか?

「あの時代、あの瞬間でしかできなかったドラマが『トリック』で。今まったく別なキャストでやることは考えられないですね。

よく“奇跡の瞬間”なんて言うけど、まさにそんなお二人。魅力的な俳優さんはたくさん出てきていらっしゃいますが、『トリック』における奈緒子と上田は仲間さんと阿部さんでしかあり得ないです」

ーーでは最後に、堤幸彦監督にとって『トリック』とは?

「終了から6年が経った今も病院でカルテを見た先生から『「トリック」の方ですか?』と言われるということは、やはり私の代表作なんだろうなとあらためて思うんですよ。さらには狙いに狙って作ったドラマとは違って、どちらかというとアドリブ任せでやって、一定の評価を受けた。それが14年間も続いたことが私自身、非常にうれしくて。

ですので死ぬ前は、ぜひベッドの周りをたくさんのモニターで囲んで。私が演出した『トリック』を同時に見て。“このネタおもしろいな…”と笑いながら旅立ちたいです(笑)。(秋葉原人役の)“イケテツ(池田鉄洋)”には、私の葬儀の仕掛けを頼んであるので、このくだりもぜひ書いておいてください」

<取材・文:橋本達典 撮影:You Ishii>

※番組情報:『トリック』傑作選
2020年7月10日(金)深夜2:50〜、テレビ朝日(※関東ローカル)
2020年7月17日(金)深夜2:50〜、テレビ朝日(※関東ローカル)

動画配信プラットフォームTELASA(テラサ)『トリック』特設ページ
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『トリック』公式Webサイト

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