【世界ラリー(WRC)】第7戦でシーズン5人目の勝者!ニューヒーローも誕生
2017年FIA世界ラリー選手権(WRC)、第7戦となる「ラリー・イタリア」が6月8日~11日に開催された。
2017年シーズンの折り返し(2017年は全13戦)となるこのラリー・イタリアは、地中海に浮かぶサルデーニャ島で開催。もちろん、シーズン後半、そしてチャンピオンシップの行方を占う意味において、ラリー開始前から大いに注目を集めてはいたが、今回はそれ以上に注目を集めるニュースがいくつもあった。
そのひとつが、昨年までのチャンピオンチームであったVWの撤退により移籍先が注目の的となっていたVWドライバーのひとり、アンドレアス・ミケルセンのWRC復帰だ。ここラリー・イタリアでシトロエンからスポット参戦することが発表された。
この発表を歓迎したのは、エースドライバーのクリス・ミークだ。「チームがアンドレアスと契約したことはとても良い兆候だと思う。彼は大いに経験を持っているし、勝利するだけの力がある。彼が加わることで、さらにシトロエンが勝てるようにお互いに協力できるはずだからね」と、ミケルセンとの協力体制を期待する。
そしてもうひとつのニュースが、トヨタからWRC2戦目出場を果たすエサペッカ・ラッピだ。若手ドライバーの登場は、ラリー全体に大きな刺激を与える。しかもラッピは、新人らしからぬ落ち着いた雰囲気を持つ。
「僕は今回、いくつかの新パーツを投入するマシンをドライブする。つまり、僕に求められることは正確なデータ収集だ。その上で、さらに経験を積むことができる。いまはとにかくトラブルフリーで最終日のゴールを迎えたいと願っているよ」と、今回は新パーツを投入することを明らかにしたラッピであった。
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新車や新パーツが続々と投入されてくると、シーズンも後半戦に入ってきたことを実感する。それを自信として、今回並々ならぬ意気込みでラリー・イタリアへやってきたのは、フォードのオット・タナクだ。
「じつは前戦のラリー・ポルトガルで、僕たちは新車投入とともに、最高のマシンセッティングを発見した。正直、シーズン前半戦でいちばん決まったセッティングだったんだ。そして、それを引き継ぐラリー・イタリアにはすごくポジティブなイメージがある。僕自身は、ここラリー・イタリアでは、さらなる高みを目指したいと思っているよ」と、ラリー・イタリア開幕を待ちきれない様子であった。
ラリー・イタリアは、木曜日にひとつだけあるSS1でスタートを切り、金曜日はSS2からSS9。土曜日はSS10からSS15、そして日曜日がSS16からSS19という形で開催された。
オープニングを飾るSS1はヒュンダイのティエリー・ヌービルが取り、2日目のラリーでは、同じヒュンダイのヘイデン・パッドンが首位に立ち、ヒュンダイがラリーの主導権を握るように見えた…。
また、シトロエンからWRC復帰したミケルセンは、総合8位でシトロエン勢のトップに立つなど、起用を決めたシトロエン首脳陣たちの期待に応えた。しかし、サルデーニャ島の細いグラベル(未舗装路)は、次々とマシンを苦しめていく。
3日目の土曜日、ヌービル(ヒュンダイ)はブレーキトラブル、セバスチャン・オジェ(フォード)はパンク、ダニ・ソルド(ヒュンダイ)はパドルシフトが機能しなくなり、ミケルセン(シトロエン)はパンクと駆動トラブルで一時後輪駆動だけの2WDカー状態になる…等々、数々のトラブルが各車を襲っていく。
その結果、土曜日を終えた時点では、首位はタナク(フォード)、2位にはトヨタのエース、ヤリィ‐マティ・ラトバラ、3位にヌービル(ヒュンダイ)が続き、その後の4位にユホ・ハンニネン(トヨタ)、5位にラッピ(トヨタ)と、上位5台のうちトヨタが3台入る展開となった。
トヨタは大きなトラブルに見舞われることもなく、かつ、ハンニネン、ラッピともにステージ最速を飾るなど、マシンの調子も上がってきたようで、3台同時入賞、そしてラトバラはトップに24秒3差と、難しいが決して届かない距離ではないところまでトップのタナクを追い詰めていった。
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そして迎えた最終日、トップのタナクは大いにプレッシャーを感じたはずだ。なにしろ、前戦のラリー・ポルトガルでも、総合トップを狙える位置で最終日を迎えたが王者オジェを超えることはできなかった。
何度も頂点の横にまでは来ていたが勝つことは出来なかったエストニア出身の29歳。2009年のデビュー以来、今回がWRC74戦目かつ9年目。初勝利が心のそこから欲しいと願っていた男の最終日が始まった。
SS16は4位、SS17は3位、SS18は4位という具合に、無理にトップは狙わないが、上位で各SSを走っていく。最後のSS19はパワーステージのため、多くのドライバーが勝負をかけるが、タナクはここでも8位と自分自身をコントロールすることに務めた。
そして、ついにWRC初勝利を手に入れた。
最終日スタート時24秒3差だったリードは、12秒3差へと半減していた。後ろとのタイムを常に見据えて、かつ確実にゴールを目指すことで、ついにWRC勝利を引き寄せたのだ!
(以下、オット・タナクのコメント)
「僕はもう、何度も惜しいラリーをしてきた。だから、いつかは勝てるとは信じていた…けれど、ここラリー・イタリアで勝利できたことは僕には意味があったよ。だって、次は昨シーズン2位だったラリー・ポーランドだ。きっともっと凄いプレッシャーを感じたに違いない。
だから、調子が良かった前戦のラリー・ポルトガルでも勝利を目指して勝負したけど勝てなくて、マシンの調子が良い今こそ、ここで何とか初勝利をあげたいと思っていたんだ。
最後のパワーステージは、すごく自分をコントロールした。無理をする必要はないけど、2位以下との差は考えて走る必要があったからね。自分自身の仕事をすることが一番大変だったよ。そしてついに勝った! 何よりも、今年のチャンピオンシップはすごく激戦で、各競合者の差が小さい。そんな接戦のシーズンで初勝利をあげることができたのは本当に嬉しいし、自信に繋がるよ!」
このように、ついに手にした初勝利をタナクは噛み締めていた。
そして、ここラリー・イタリアでタナク同様に大いに自信を掴んだのが、トヨタの3台だろう。終わってみれば、2位・4位・6位と3台同時入賞。3台目だったラッピは、レギュラードライバーのような活躍を見せ、2日目・3日目とSS最速を取り、最終日はパワーステージでトップを飾るなど、ラリー前に語っていた新パーツ等のデータ取りという自分の仕事以上のことをしてみせた。
2位のラトバラも、ここでオジェ(フォード)やヌービル(ヒュンダイ)より上位でゴールしたことで、チャンピオンシップ争いの最前線に踏みとどまった。
まず、大いに活躍したラッピは、「最後のパワーステージは自分のすべてを出し切って走った。今回のラリーでは、細く入り組んだ低速コーナーで多くのことが学べたと思う。次は高速コーナーの走りを学ぶことができると思うよ」と、立派な結果を残したにも関わらず、謙虚にまだまだ貪欲に走りを勉強中であることを語った。
トップを追い詰めたラトバラは、「まずはタナクの初勝利を称えたい。最終日、もちろんトップを目指して走ったのだけど、じつは2度も自分自身でミスをしてまった。それがなければ、もっと違った展開になったかもしれない。でも、2位という結果にはとても満足している。今回はチームにとっても、結果もマシンの状態も満足がいくラリーだったと思う」と、2位表彰台獲得と同時にシーズン後半戦にも手ごたえを感じるマシン状態を喜んだ。
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第7戦を終えて、ドライバーズランキングは141ポイントでフォードのオジェがトップ。2位には123ポイントでヒュンダイのヌービル、3位には今回勝利したタナクが108ポイントで浮上。1ポイント差で4位にトヨタのラトバラがつけている。
チーム同士のランキングとなるマニュファラクチャーズランキングは、234ポイントとフォードがトップ。2位はヒュンダイで194ポイント、3位はトヨタで143ポイント、そして4位シトロエンは97ポイントとなっている。
シーズン後半戦最初のステージは、ラリー・ポーランド。平地中心のグラベルラリーだ。
ここラリー・ポーランドから次のラリー・フィンランドへと、高速ラリーイベントが続く。高速ラリーでは、エンジンパワーやマシンの潜在的な速さも重要だが、エンジン全開率が高いほどマシンには負担がかかる。マシンを労わる走りも重要だ。
果たして、各車どんな走りを見せるのか。混戦続きの戦いだけに、後半戦スタートも目が離せない。
<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>