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浪曲界の新星・玉川太福が“異端の新作”をやる上で意識すること「代々流れている匂いを…」

三味線に合わせて節と啖呵を交えながら物語る話芸「浪曲」。

©テレビ朝日

愛好家には独特のグルーヴ感を醸し出すうなりの魅力に酔いしれる通な年配者のイメージが強いが、近年は女性を中心に若年層からも支持を集めているという。

その新風の中心にいるのが、渋谷・ユーロスペースで行われている初心者向け落語会『渋谷らくご』などに出演する玉川太福である。

放送作家やコント芸人などの職を経て、27歳にして二代目・玉川福太郎門下に入門した彼は、電気工員として働くカナイくん(30代)とサイトウさん(50代)の2人の些細な日常を描いた新作創作浪曲『地べたの二人』シリーズなどで人気を集め、浪曲界の若手代表として多くのメディアに取り上げられる存在となっている。

目下、若返りが進みつつある演芸の世界において、浪曲界の新星はどんなエンターテインメントの未来をみているのだろうか。

◆浪曲師は十人十色。私はその入り口になりたい

©テレビ朝日

ーー講談師の神田伯山さんが2月に、落語家の瀧川鯉八さんが5月に真打昇進されるなど、太福さんと同世代の芸人さんたちによって演芸界に注目が集まっていますね。

いまはメディアや娯楽がものすごく多様化しているじゃないですか。私の頃の娯楽はテレビが圧倒的だったけど、動画配信などの多種多様なサービスが身近になっていくなかで、その対極にあるアナログの価値が、逆に再認識されているような気がしています。音楽でも、レコードが見直されていたりするけど、その場所に行って実体験することの流れが、少し上向いてきたんじゃないかなと。

ーー落語、講談と合わせ三大話芸と呼ばれる浪曲においては、やはり太福さんの存在が大きいかと思います。

もちろん多くの人が得られないような機会をたくさんいただけている実感はありますが、浪曲は歌、語り、演目などさまざまな要素があって、私はそのなかの笑いの要素、面白おかしいところに特化してやっているので、いわゆる浪曲界全体を背負っているような意識はまったくないんです。

浪曲師は十人十色で、聞いていただければお客さんそれぞれにささる浪曲が必ずあります。自分はその入り口になれたらいいなと考えています。

ーー太福さんは、古典演目も磨かれていますが、『地べたの二人』に代表される、現代劇的なアプローチで些細な日常を描いた新作浪曲が印象的です。ご自身が注目されている理由は、どんなところにあると考えていますか?

そうですね。私は浪曲をはじめる前にコントをやっていた時代があって、日常的なものを面白がるというのは土台にあると思います。ただ、もし私が浪曲師としてすこし抜けているところがあるとしたら、浪曲を知らない人にどう楽しんでもらうか?ということを、めちゃくちゃ考えていることかもしれません。

浪曲はお客さんのパイが少ないので、愛好家の方に喜んでもらおうとすると、どうしても一見さんの入りにくいお店のようになっていってしまうんです。

もちろん、馴染みのお客さんに成長を見せていくことも大事なんですが、私は常に浪曲を知らない方に食いつかせようと腹にグッと力を入れて戦ってきたので、その積み重ねですこしずつ引き立てていただけるようになったのかなと思います。

◆「あんなの浪曲じゃない」と言われたことも

©テレビ朝日

ーー太福さんは、放送作家やお笑い芸人の経験を経て、27歳のときに入門されていますが、そのような経歴で演芸の世界に入ってくる方は多いのでしょうか?

浪曲は、お芝居や民謡の経験者が多いですね。お笑いをやっていた人は落語に行くことが多くて、人を笑わせたくて浪曲師になろうという人はほぼいません(笑)。

でも、私はそこに何かがあるんじゃないかと思って入ってきたので、変わっているのかもしれないですね。

ーー太福さんが入門された当時の浪曲界は、いまよりもっと伝統的な世界観が強かったのでしょうか?

それはもちろんありました。浪曲の歴史は浅く、台本作家の人が書いたものを浪曲師が演じるという形が一つの定番だったので、新作、創作に対するハードルは低かったんですけど、それが例えば「弁当のおかずを交換するだけの話」や「大家さんから自転車のサドルを貰った話」となると、そんなことを唸る浪曲師はまずいなかったので(笑)。

なかには「あんなの浪曲じゃない」と言っていた某師匠もいたと耳にしましたが、それをお客さんが喜んでくれるようになっていくと、ある日「あれ面白いね」と声をかけてくれたりするようになるんです。

ーー最近では、浪曲師になりたいという若い入門者も増えているそうですね。

ありがたいことに、去年はどかんと7人も入ってきて。それはもうひとえに私の功績だと思います…と、ちょっと(瀧川)鯉八兄さん風に自画自賛してみましたが(笑)、敷居が下がったということもあるのかなと思います。

極端にいえば浪曲も歌舞伎のように、その家に生まれなければできないのかな、と思われるくらいわからない世界だったと思うんですよ。

それを私くらいの世代の人間たちが下手なりにメディアに出させていただいたり、勉強会などを開催したりしていくうちに、お笑いをやっていた人がゼロから始めたことなどが認知されていって、「自分にもできるかも」と浪曲の世界に足を踏み入れるようになったのかなと。

※瀧川鯉八:演芸ブームを牽引する気鋭の若手落語家。創作落語の歴史を書き換える“天才”の呼び声高く、本人もそれを否定しない飄々としたキャラクターで人気を集めている。太福氏とは、ともに創作演芸ユニット「ソーゾーシー」を組むなど旧知の間柄である。

ーーいま浪曲師になろうというのは、どういう方が多いんですか?

そうですね、やっぱり変わり者です(笑)。

あと、元々落語が好きで、その流れで浪曲に出会うという経緯が、お客さんも含めていま多い印象があります。特に、立川談志師匠の落語が好きな人が多いですね。

というのも、談志師匠はご自分の芸はもちろんですが、埋もれている他の寄席演芸の価値を自分のファンやお客さんにすごく伝えていて、そのなかでも「浪曲は面白いぞ」とめちゃくちゃ仰ってるんです。今の浪曲界にとって談志師匠の功績はものすごく大きいですね。

©テレビ朝日

ーーみなさん、太福さんのような新作がやりたくて入ってくるのでしょうか?

いや、ほぼいないです(笑)。現代的な浪曲をやっているのはわずかな人数で、全体で言うとまだまだ異端なんです。

伝統的な古典をやられている師匠方が殆どで、やっぱりみんな師匠の浪曲を聞いて衝撃を受け、師匠のようになりたいと入ってくるので。

ただ、私が新作で評価されることで、なにがしかの影響を受けてる人もいるだろうし、さらにこれから増えてくるということは、大いに考えられるかなとは思います。

ーー新作をやる上で、ここだけは変えてはいけないなど意識していることはありますか?

やっぱりベースに古典がある上での新作なんですよね。昔の人たちが作った浪曲の型に乗っかってやっているので、やっぱりそのありがたさは絶対忘れてはいけない。だから、浪曲師である限り、死ぬまで古典と新作に優劣を付けずに全力で極め高めていくことが絶対だと思っています。

歌舞伎のように型を崩さずに受け継ぐことを良しとする一門もあるんですが、うちの一門はそうではなくて、先人の流れを受け継ぎながらも、自分の型を作っていけ、という教えなんです。弟子入りしてわかったことなんですが、この点は本当に良かった。貪欲に太福節を模索していきながら、玉川(一門)に代々流れている匂い、そのバトンを下の人間に繋げていくことも自分の義務だと考えています。

◆我々にとっては生の舞台が一番というのは変わらない

©テレビ朝日

ーーまもなく5G(第5世代移動通信システム)の時代がやってきて、動画配信を中心に、エンターテインメントはさらなるデジタル化が進むと見られています。演芸の世界にも影響はありますか?

今回、テレ朝動画で『WAGEI』という新番組をやらせていただくのですが、会場で見ていただくのと、映像として画面越しに見ていただくのでは、伝わり方にまた別の要素があるような気がしているんです。

我々はどうしても目の前のお客さまを笑わせたくなってしまうので、その場の空気を盛り上げることを第一に考えてしまうのですが、それが行き過ぎるともしかしたら画面越しに見ている方たちからすると「こっちに向いてないじゃん!」と感じられてしまうのかなと。そのバランスは案外難しいような気がしています。

私もまだ映像などのメディアを通した公演の経験値が少ないので、そこを掘り下げて磨いていけたらいいなと思っています。

ーー『WAGEI』では、太福さん以外の噺家さんも客演予定です。初回は落語家の瀧川鯉八さんが登場しました。

鯉八兄さんは創作話芸ユニット『ソーゾーシー』も一緒にやっていますし、本当によく知っていて、といっても別にプライベートでは全く会わないんですけどね。全く、全く、全く会わないです(笑)。でも、舞台の上で100%のぶつかり合いをしてきたので、それこそ戦友という意識がありますね。

ーー演芸の未来を考えると、やはり今後動画での配信は増えていくと思いますか?

そうですね。ちょうど新型コロナウイルスの騒動で我々も舞台の中止、延期が軒並み起こっていて、苦肉の策として動画配信をはじめている人もいますが、医療の世界などでも、こういうことをきっかけに技術が発達して、世界が開かれていくということがあるじゃないですか。

それと同じようなことが演芸の世界でも起きていくんじゃないかという気がします。

ただ、神田伯山さんが真打の披露目に合わせてYouTubeで『神田伯山ティービィー』を始めて、意外だったのがさっそく丸々一席の配信を押し出しているんですよね。楽屋裏を見せたりして面白いことやるなとは思ったんですけど、連続物の配信を見て、完全に寄席に見にきてもらう入り口としてやっているんだなと思いました。

©テレビ朝日

ーー現場に足を運んでもらうための動画なんですね。

やっぱり我々は「生じゃないと」って考えるし、それが一番なんですよ。

でも、例えば「浪曲って何?」と思ったときに「浪曲 面白い」で検索してもなにも出てこないような状態ではいけないなと思ってます。

そのくらいの興味の人まで捕まえて娯楽として普及させようと思ったら、やっぱり動画というのはもう必須なんですよね。

そのときに動画を見て「つまんねえな」と思われたらやる意味がないので、動画というメディアに合わせた形での浪曲の見せ方、聞かせ方を手探りでも挑戦していく時期なんですよね。

それも、片手間とかじゃなくて、全力で取り組まないとできないようなことなんだろうなと思うんですけど…。

ーー具体的になにか考えていることはありますか?

『太福ティービー』を作ってそっくり丸パクリ…って、それはできないですけど(笑)。

でも、結局は動画でもなんでも本当に素晴らしいものはブレイクするし伝わるじゃないですか。

だから、自分の浪曲の魅力、技術を高めるってことに尽きるような気がします。動画で見聞きしてイマイチだとしたら、それはひとえに私の芸が未熟だということ。

だから、いま一番やらなきゃいけないのは「浪曲師」として芸を一段も二段も高めることで、それができたときには、自然と動画やメディアにも還元できるんじゃないかなと思います。

©テレビ朝日

<取材・文/森野広明>

※番組情報:『WAGEI
テレ朝動画で期間限定無料配信中
出演:玉川太福(浪曲師)・瀧川鯉八(落語家)/清野茂樹(進行)・髙石あかり(ゲスト)

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