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石黒賢、“伝説のドラマ”で織田裕二とW主演。ともに負けず嫌い、手もとしか映らないのに…

©テレビ朝日

高校3年生のときにドラマ『青が散る』(TBS系)で主演デビューして以降、つかこうへいさんに鍛えられ、数々のドラマ、映画に出演。田中邦衛さん、仲代達矢さん、緒形拳さんという偉大な名優たちと共演したことがきっかけで、俳優として生きていく決意を固めたという石黒賢さん。大学卒業後、本格的に俳優の道を歩み始めることに。

©テレビ朝日

◆ともに負けず嫌い、手もとしか映らないのに…

-俳優として生きていく道を選んだことをお父様にはどのように?-

「父もやっぱり心配だったんでしょうね。『大学卒業したらお前どうするんだ?』って言われまして、『役者をやろうと思います』って言ったら、『ああ、そうか』って、ホッとしたのか、えらいことになっちゃったなと思ったのかわかりませんけど(笑)」

-お仕事のほうも順調で印象に残るドラマもいろいろありましたね。なかでも『振り返れば奴がいる』(フジテレビ系)は衝撃的でした-

僕も織田君も負けず嫌いで吹き替え嫌いだから、優秀な外科医の役でしたけど、手術で縫うシーンなんて、結局手もとしか映らないんだけど、縫合とかも全部、陰で練習して『自分でやる』って言ってやっていました。

-織田さんとW主演でしたけど、2人とも亡くなるという斬新な展開で-

「そう。僕はスキルス性胃がんという設定で。通常主人公というのは最終回の前ぐらいでそういうドラマチックな展開になるんだけど、監督が『賢ちゃん、来週がんになるから痩せて』って言うんですよ」

-いきなりですか?-

「そう。それでスタッフにダイエット方法を聞いてみたら、『ゆで卵の白身だけ食べる』とか、『1日にリンゴ1個だけ』とか、教えてくれたんですよ。それで、『結果はどうだった?』って聞いたら『やってません』って。女性は色々知識あるんだけど、誰もやってなかった(笑)。

それで結局、自分で考えて、こんにゃくをゆでたのを何もつけないで一つ。あと、豆腐を4分の1。割り箸で食べると1口で終わっちゃうから、つまようじで食べると20分位かかるんですよね。

そうすると、その20分の間に脳がだまされて、お腹(なか)がいっぱいになった気になるんですよ。豆腐4分の1でお腹がいっぱいになるわけないのにね(笑)。それで1週間やって5kg痩せました」

-もともとスマートな方が5kgというのはきついですよね-

「そうですね。でも何とか減ったんですよ。撮影も過酷でしたからね。痩せた1番の原因は睡眠不足だったと思います。

1日に2時間とか3時間しか寝られませんでしたから。そうなると、髪の毛はパサパサ、肌はガサガサ、イライラするけど、織田君と『イライラする設定だから、ちょうどいいね』なんて言いながらやっていました(笑)」

-バチバチの設定でしたものね-

「そうですね。視聴者の方々からも、『2人が近くでやり合うのがいいですね』って投書が多かったみたいで。あの頃は視聴者の方から届いた投書を編成部の人たちが『こんな意見が来ていました』って話し合っていましたから。

そうすると制作陣も、『ああ、このカットが面白いわけね』ってなって、監督もどんどんテストで僕と織田君の顔を近づけるんです。

『もっと寄れ、もっと寄れ』って。『近すぎて寄り目になっちゃいますよ』って言ったんだけど、『関係ない。横から撮ってるんだから寄り目になっても映らない』とか言われて(笑)」

『振り返れば奴がいる』で親友になったという織田さんとは、映画『ホワイトアウト』や『株価暴落』(WOWOW)、『IQ246~華麗なる事件簿~』(TBS系)など共演作も多い。

-そういう熱い思いが男性の視聴者も魅了したのでしょうね。後々まで語られる作品になりました-

「彼はすごく芝居に対して真面目な人なので、一緒に芝居をするのが楽しいんです。昔から現場でいきなりセリフ合わせをし始めたりするんですけど、僕はそんな彼に慣れていますからね。一緒にやるのは本当に楽しいですよ」

©テレビ朝日

◆「良い人」のイメージから抜け出して

20代のときに『振り返れば奴がいる』など多くのヒット作出演が続いた石黒さん。30代半ばに近づいた頃、悪役に興味を持ち始めたという。

-爽やかな良い人のイメージで-

「そう。でも、自分はそんなに良い人じゃないしって。みんながいい人だと思ってくれるのはありがたいけど、もっと違うことがやりたいって思ったときに、ある監督に『賢ちゃんなんかはね、「サイコ」のアンソニー・パーキンスみたいなのをやったらいいんだよ。お前みたいな奴が、ああいうのをやったらいいんだよな。もっといろんなところで言ったらいいよ』って言ったんですよ」

-悪役は面白いでしょう?-

「やっていて本当に面白いですね。作り代(しろ)があって。ニュースでもよくあるじゃないですか。まさかあの人が…みたいなことが、往々にしてあるでしょう?

事件を起こすような人には見えないんだけど、連行されるときに、ちょっと口角をあげたり、目線がすごく底知れぬ冷たさをたたえていたりして、その一瞬だけで、『実はこういうことをやる要素を内包していたのね』っていうことが表現できるなとか。

僕は下地がないから、そういったことで引き出しを埋めていく作業をしたりして、今度はこういう目線をやってみようかなとか、こういうトーンでしゃべってみようかなって思ったり…。そうやって、トライアル・アンド・エラーを繰り返してきました。

どんなにすごい悪党で、こんな奴には感情移入できないよって思っても、何かシンパシーを感じるものがあるかもしれないというものを見つけ出して、自分のなかにある黒い部分をグーンと増幅させてやるということが大事なのかもしれないですね」

悪役にも挑戦し始め、演技の幅が広がり俳優として新境地を開拓した石黒さん。活躍の場は俳優だけでなく、ウィンブルドンをはじめ、テニスの試合中継の番組ナビゲーターや児童文学の翻訳、情報番組のコメンテーターと多岐にわたっている。

-ウィンブルドンの試合の番組中継もされていますね-

「子ども時代も知っている選手もいますし、なおかつ僕は、結構名選手の人に、子どもの頃レッスンしてもらったことがあるので、ウィンブルドンとかに行くと会えるんですよね。

そういう人たちが現役選手のコーチをしていたりして、『お父さんどうしてる?昔、修とはウィンブルドンでも試合したんだよ』とかって言うんですよ。

それでインタビューをお願いすると、『もちろんいいよ』って言ってくれて、そういうレジェンド中のレジェンドみたいな人に話が聞けたりしますから、父に感謝ですね。それに本当に素晴らしいプレーを生で見られますし」

-選手やコーチのこともよくご存じの石黒さんならではのナビゲートですよね-

「ありがとうございます。今、テニスはおそらく100年に1度の選手たちが3人ないしは4人いる時代なんですよ。

つまりゴルフで言えばタイガー・ウッズが3人も4人もいるという稀有(けう)な時代。ジョコビッチ、フェデラー、ナダルがいて、そこに錦織(圭)がいて、彼らに勝つという。

昔だったら考えられないですよね。圭がどれだけすごいのかということを、やっぱりわかってほしい。テニスを知らない人にも、錦織圭というのは本当に凄いんだぞっていうことを伝えたいです」

私生活では3人の子を持つ父でもある石黒さん。イシグロケンという翻訳家名でこれまでに6冊の絵本を翻訳して出版している。

「あれは面白いですね。僕は父に絵本なんて読んでもらったことがないですけど、自分に子どもが生まれて、いろんな人から『読み聞かせはいいぞ』って言われて、やってみようかなと思ったのがきっかけでした。

日本の絵本は『桃太郎』みたいな勧善懲悪(かんぜんちょうあく)な話が多いんですけど、海外の絵本にはフランス映画みたいに、『えっ?ここで終わっちゃうの?』みたいなのが結構あるんですよね。

そうすると親子でそのことについて色々話したり、子どもたちの想像力のベクトルを広げてあげられる。なおかつ色もすごくきれいなものが多いので。

それで『Scary(スケアリー)』(怖い)という本を持ち帰ったら、知り合いの出版社の人に『出してみませんか?』って言われたんです。

英語もそんなに難しくなかったので、これなら僕にもできるかなって思ったんですけど、やってみたらこれが大変で(笑)。

直訳したら面白くも何ともないんですよ。近くの公園で子どもたちが何に喜ぶのか、色々研究して何稿も重ねたので、結構大変でしたけど面白かったですね」

©『時の行路』製作委員会

◆「知らないことは面白い」探求心旺盛、何事にもチャレンジ

昨年9月からは『情報プレゼンター とくダネ!』(フジテレビ系)の月曜日スペシャルキャスターにも就任。日々のニュースに対する私見に加え、得意分野のテニスなど週末に行われたスポーツのコーナーも担当している。

-生番組はかなり緊張すると思いますが、いかがですか?-

「いやあ、難しいですね、本当に。ああいう番組は反射神経が非常に必要とされるじゃないですか。当意即妙(とういそくみょう)に、時事問題についてコメントしなくちゃいけない。

役者っていうのは、やっぱり積み重ねていく作業でしょう?

それと真反対にいるなかで、石黒賢54歳がどういう人生を送ってきて、どういう価値観を持っているのか、それを的確に、限られた時間内で伝えなきゃいけないわけですから」

-見た目も爽やかですし、落ち着いていますね-

「そうですか?ありがとうございます。半年経ってだいぶ慣れましたけど、毎回緊張はしますね。ただ、僕は知りたい欲がすごく強いんです。知らないことは面白いですから。そういう意味では毎回新たな発見があって本当に面白い」

今月3月14日(土)からは主演映画『時の行路』も公開されている。この映画は、リーマン・ショックの嵐の吹き荒れる2008年末、愛する家族や仲間たちに支えられ、理不尽な「派遣切り」に立ち向かう派遣工の姿を描いたもの。石黒さんは主人公の派遣工・五味洋介役。

-青森に家族を残して自動車メーカーの工場に単身赴任をしている派遣工ということで、イメージが全く違いますね-

「そうですね。ひとつはやっぱり神山(征二郎)監督が撮るということが、非常に大きな出演を決めた理由でした。30年ぐらい前に『白い手』(1990年)という神山監督の作品でご一緒させていただいて。

それでレイオフされた派遣の話ですけど、自分の身に照らし合わせてみても、僕たちだっていつ『いらなくなったからお役御免』って言われるか分からないわけで、今やっている仕事をちゃんとやらないと、次にはつながらないという危機感を持って、常に仕事には臨んでいるつもりです。

そういった意味においては五味洋介には投影できる部分もあったし、やっぱり家族の話もあるしということで、すごくいい作品に巡り会えたなぁと思っています」

-撮影が始まってすぐに神山監督が体調を崩して入院するというアクシデントもありましたが-

「そうですね。監督もご高齢なので心配でしたけど、お元気になられて良かったです。

映画の撮影って大変ですからね。でも、神山監督に、『俺がいなくても大丈夫だ』って思ってもらおうって、結束力がすごく高まりました」

-青森弁のセリフに苦労されたのでは?-

「方言指導の方にご指導いただきましたけど大変でした。八戸ロケもあったので、数日前に入らせていただいて、街中をずっと歩いて、地元の方たちはどういうトーンでしゃべっているのか予習したりはしましたけど、なまりすぎてもいけないし、標準語でもいけないし…。

最後に、裁判官に切々と訴えるシーンがあるんですけど、そこは特に感情に任せたらセリフが飛んでしまいそうで大変でした。

あそこはワンカットで行くだろうなって思っていたから緊張感がありました」

-石黒さん演じる五味洋介は本当につらい目に遭う役でしたね?-

「やっぱり非常にエモーショナルになったのは、中山忍さん扮する妻が、抗がん剤治療をしている病院に行って、頭に帽子をかぶっているところを見たときです。グッときました。

でも、僕がそこで感情を爆発させたら子どもたちもいるし。何より見ているお客さんが引いちゃうだろうと思って。その辺が結構難しいところでした。

映画の舞台にあるのはリーマン・ショックですが、今は新型コロナウイルスの影響で大変な状態になっていますからね。色々考えさせられるものがあります」

探求心旺盛で何事にも一生懸命。役作りも情報番組も十分下準備をしてシミュレーションした上で臨むのが信条。「ときには失敗したり恥をかいたりすることもあるけれど、挑戦することで会得できるものもある。何事も経験です」と真っすぐなまなざしで話す姿がすがすがしい。(津島令子)

ヘアメイク:藏本優花
スタイリスト:寳田マリ

※映画『時の行路』公開中
配給:「時の行路」映画製作・上映有限責任事業組合
監督:神山征二郎
出演:石黒賢 中山忍 松尾潤 村田さくら 渡辺大 安藤一夫 綿引勝彦 川上麻衣子
2008年のリーマン・ショックによる経済不況のあおりを受けて「派遣切り」の危機に直面した労働者たちの戦いを描く。
www.tokinokouro.kyodo-eiga.co.jp