<WRC>ラリー・メキシコ開催!トヨタの復帰後メキシコ初勝利、オジェのシーズン初勝利なるか
現地時間の3月12日~15日、2020年WRC(世界ラリー選手権)の第3戦ラリー・メキシコが開催される。
開幕戦のラリー・モンテカルロ、第2戦ラリー・スウェーデンはウインターラリーだったが、舞台は一気に変わる。暑いメキシコで争われるグラベル(未舗装路)ラリーだ。
首都メキシコシティからラリーのサービスパークがあるグアナフアト州レオンまでは、飛行機だと約1時間から1時間半、長距離バスで約5時間の距離。
木曜日から日曜日までの4日間で行われ、木曜日はSS1~2、金曜日はSS3~12、土曜日はSS13~21、そして日曜日はSS22~24の合計24のスペシャルステージを予定している。
このレオン周辺で行われるラリーは、標高1800~2700mを超える高地が舞台。さらに最高気温は30度に達する。ふだん運転をしていて意識することはないが、じつは標高や気温というのはクルマに大きな影響を与えている。
そして当然、ギリギリまで性能を挙げたWRCマシンともなると、その差は顕著に出てしまう。その最大の違いが、馬力と呼ばれるエンジンパワーだ。
自動車のエンジンは、ガソリンを燃焼してエンジン内部で爆発を発生させ、その爆発力を回転エネルギーに変換することで自動車を走らせる動力となる。この爆発は、同じ分量のガソリンでもどれだけ酸素を多く得られるかで爆発力が変化する。当然、大きな爆発力を得られれば、それだけエンジンパワーも発揮できる。
そこで大きな役割を持つのが、気温と標高だ。
少々理科の授業のようになってしまうが、空気には酸素・窒素・二酸化炭素などが含まれている。この空気にも実は重さがあり、標高0mはいちばん空気圧が高い。つまり密度が高くなる。そして標高2000mや3000mになると空気圧は低くなっていき、密度も小さくなる。そのぶん、酸素も少なくなる。
さらに、気温も空気の密度に関係がある。
空気は、あたためると上に上昇する。冬の暖房器具であたためた空気は上に溜まるので、冬でも扇風機を使うと部屋の暖房が効率的になるのは、温かい空気をかき混ぜるからだ。温かい空気が冷たい空気よりも上昇するということは、そのぶん軽いということ。つまり、空気密度が小さい。より多くの酸素を得るには、冷たい空気のほうが良い、ということである。
話を自動車のエンジンに戻すと、ガソリンを燃焼してより大きな爆発力を得るには、より多くの酸素が必要となる。となると、気温が低く、標高が低い状態がベストだ。
それと比較すると、標高と気温が高いラリー・メキシコでは、ラリー・モンテカルロやラリー・スウェーデンに比べて約2割パワーダウンしていると言われている。
2割もパワーダウンすると、当然加速などにも影響が出る。加速が多少なりとも悪いとなれば、いかにロスなくコーナーを曲がっていくかも重要になってくる。更に気温が高いため、エンジンの冷却性能が落ちてオーバーヒートなどのトラブルが発生しやすい。
◆セバスチャン・オジェ、初勝利なるか
過去、そうしたラリー・メキシコ独特の環境に苦しめられてきたのがトヨタだ。
2017年のWRC復帰以降、毎年のように最強マシンと呼ばれているが、ここラリー・メキシコでは復帰以降、未だに勝利は獲得していない。昨シーズンは冷却トラブルを克服して初勝利に近づいたものの、オット・タナックが2位表彰台と惜しくも勝利には届かなかった。
今年はWRC復帰から4年目。そろそろ初勝利の声が聞きたいところだ。
今シーズン、トヨタのエースドライバーとして迎えられたセバスチャン・オジェは、過去5度の勝利をラリー・メキシコで挙げているが、まだトヨタでは初勝利を獲得していない。トヨタファンはもちろんだが、オジェ自身も得意とするラリー・メキシコでの勝利を虎視眈々と狙っているはずだ。
そんなオジェのシーズン初勝利に向けて大きなポイントとなりそうなのが、ラリー2日目、金曜日の走行順だ。木曜日は顔見世となるSSであり、実質初日は金曜日からとなる。
WRCでは、初日の走行順はチャンピオンシップの上位からとルールで決まっている。つまり第2戦を終えた時点で、エルフィン・エバンス(トヨタ)、ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)、オジェ(トヨタ)の順なので、金曜日、オジェは3番手スタートとなる。
ラリー・メキシコのコースはグラベル(未舗装路)。最初の1~2台は路面の掃除役となってしまい、タイムが伸び悩む傾向にある。
昨シーズンのタナックもこの走行順で1番手となり、金曜日最初のSSで8番手と大きく出遅れてしまい、最後までそれを挽回することが出来なかった。つまり、3番手スタートのオジェは有利な位置からスタートできる。
ただし、より後ろの走行順が有利となるので、6番手スタートのタナック(ヒュンダイ)が初日からの強敵となりそうだ。
オジェは、トヨタのチームリリースを通じて次のように意気込みを語っている。
「メキシコに行くのを、いつもとても楽しみにしています。ラリー・メキシコには多くの良い思い出があり、2008年に初めてWRCに出場しジュニアカテゴリーで優勝したのもメキシコでした。そして、それ以降何度も良い結果を残しています。
このラリーのために、最近スペインで2日間のテストを行いましたが、グラベルでのクルマのフィーリングはとても良いものでした。開幕2戦はそれなりに良いペースで走れましたが、まだ勝利を手にしていないので、メキシコでの目標はもちろん優勝です。
走行距離を重ね、ヤリスWRCがどんどんと自分のものになってきていると感じています。3番手というSSの出走順は悪くないので、優勝を目指し全力で戦いたいと思います」
ラリー・メキシコの初日、木曜日のSS1とSS2は、レオンの中心街に設定された特設コースで行われる。SS1の現地スタート時間は午前8時6分から。日本時間では金曜日の午前11時6分からのスタートとなる。
現在ランキング1位のエバンスも昨年3位表彰台を獲得しており、ラリー・メキシコと相性は良い。本命オジェ、対抗エバンス、そして大穴カッレ・ロバンペラとトヨタの3台がどう活躍するのか、ラリー・メキシコ初勝利を期待してこの週末を楽しみたい。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>