村野武範、熱血教師役の“髪型”で大騒動に!「無理やり切られそうになって…」
1971年に公開された映画『八月の濡れた砂』の不良高校生役で注目を集め、ドラマ『飛び出せ!青春』(日本テレビ系)の熱血教師で人気を不動にした村野武範さん。1988年には『くいしん坊!万才』(フジテレビ系)の7代目くいしん坊をつとめ、俳優、歌手、リポーター、司会業など幅広い分野で活躍。
2015年、70歳の誕生日を迎えた直後に末期の中咽頭がんだと告げられるが、陽子線治療により復帰、転移や再発もないという。現在は俳優業を中心に歌謡番組のMC、講演、CDのリリースと多忙な日々を送っている村野武範さんにインタビュー。
◆商社マンを目指したが挫折、暇つぶしで入った大学の劇団に有名人が…
商社マンになることを目指して早稲田大学商学部に進学した村野さん。専門的な英語も身につけたほうが良いと考え、クラブも「商業英語会」に入ったが、そこでは日本語が一切禁止。すべて英語でなければいけないと知り、早々に諦めたという。
「商業英語も簿記もやらなきゃいけないし、とてもじゃないけどできないって。1年の夏休みになる前に商社マンになるのはもうやめようって思って、ぶらぶらしていたの。
でも大学に入ったばかりだから、まだあと4年近くあるわけですよ。そうしたらすぐ上の姉が、『お前はもともと真面目なことをやるような人間じゃないんだから、自分でやりたいとか面白いと思ったものじゃなきゃだめよ。そういうのを見つけないと』って言ったんですよ。
それで、中学生のとき、演劇部に女の子しかいないから手伝ってくれって言われて入ったら、東京都の代表になったりして結構面白かったなあって思い出してね。
大学を卒業するまでに3年半ぐらいあるし、時間つぶしにやってみるかって思って、早稲田の学生劇団『こだま』に入ったの。
そうしたら、そこに久米宏さんが1級上でいて、同級生には長塚京三とか田中眞紀子がいたんだよね。授業は代返ばかり頼んでいたけど、一応卒業だけはしないとまずいだろうって。
そんな風だから、卒業したってたいしたことできないしさ、それでそのうち『どうせ飯なんか食えないけど役者になっちゃおうかな』って『文学座』を受けて。それで役者になっちゃったの。だから若気の至りだね(笑)」
-文学座の競争率はかなり高かったと思いますが-
「どうってことないんですよ。後に『なんで私が受かったんですかね?』って聞いてみたら、『たまたまお前みたいにアホみたいなのがいなかっただけだよ。そんなもんだよ』って(笑)」
大学卒業後、文学座の研究生となった村野さんは、1969年、ドラマ『走れ玩具』(NHK:文化庁芸術祭優秀賞受賞)で主演デビューを果たす。
「舞台の発表会をしたときにドラマの関係者が見に来ていたみたいなんですけど、オーディションみたいなこともあったんですよ。3回ぐらいNHKに行かされて。
初めてのオーディションだったし、『どうせ受かるわけないだろうなぁ』と思ってたんだけど、『受かりました』って言われてね。後から見ると、芝居なんかは本当にもうひどいもんですよ(笑)」
-村野さんが長い間ドラマのフィルムを持ってらしたそうですね-
「『天下堂々』という時代劇をやったときに、スタッフが『あんたのフィルムあるよ、走れ玩具っていうのも。いるんだったらあげようか?』って言うから『いいんですか?』って(笑)。
『いいよ、あげるよ。どうせこれ捨てちゃうんだから、処分しちゃうんだから。そのかわり、金を取って人に見せちゃだめだよ』って言われて、『わかりました』って言ってもらったの。
それがずっと家にあったんだけど、後々NHKのアーカイブスから『貸してください』って言われてNHKに寄贈したら、私にはDVDに焼いてくれたんです。
もとは16ミリのフィルムでしたからね。結構大きいし、フィルムだと自分では見られないからDVDにしてもらって良かったですよ」
※村野武範プロフィル
1945年4月19日生まれ。東京都出身。文学座研究生時代にドラマ『走れ玩具』(NHK)で主演デビュー。1971年、映画『八月の濡れた砂』(藤田敏八監督)に出演。1972年、ドラマ『飛び出せ!青春』に主演。料理の腕を活かし、『こんにちは2時』(テレビ朝日系)のなかの『村野武範の押しかけ料理』というコーナーを担当し、料理本2冊出版。『くいしん坊!万才』(フジテレビ系)の七代目くいしん坊(リポーター)として出演。
映画『BOX 袴田事件 命とは』(2010年)、土曜ワイド劇場『深層捜査』(2017年)など映画、ドラマに多数出演。司会をつとめる『BS歌謡スクエア』(BS12トゥエルビ)、『村野武範と剛たつひとの『飛び出せ!歌謡曲!』(Tokyo Star Radio)』が放送中。
◆25歳で映画『八月の濡れた砂』の不良高校生に
初めて受けたドラマのオーディションで主演デビューしたものの、まだ俳優としてやっていく自信は全くなかったというが、1971年、藤田敏八監督の映画『八月の濡れた砂』に出演することに。夏の湘南を舞台に、やり場のないエネルギーを持て余し、セックスと暴力に明け暮れる若者たちの姿を描いたこの作品で注目を集める。
「あのとき、私は25歳。もう結婚して女房のお腹(なか)に子どもがいたんですよ。それなのに高校3年生の役をやっているの。ずうずうしいでしょう(笑)。公開された8月なんて、もうお腹もかなり大きかったからね(笑)」
-『八月の濡れた砂』もオーディションですか?-
「いや、あれはオーディションじゃないの。それも、みんなパキさんって呼んでいたんだけど、藤田敏八監督に聞いたんですよ。『なんで私だったんですか』って。
そうしたら、その前に私が『この青春』という反戦映画に出ていたんだけど、それを見て私を使おうと思ったって言ったんですよ。
だから『あれはすごい真面目な夜間高校生の役なのに、なんでこんな不良の役で使ったんですか?』って聞いたら、『じゃあ、何だ?お前は一つの役しかできねえのかよ。そうじゃねえだろう?いろんな役ができるんだろう?』って言うんですよ。
だから、『そりゃあ、まあそうですけど』って言ったら、『だからだよ。何を言ってるんだ、お前は。バカじゃねえか?』って言われてね。面白い監督なんですよ」
-藤田監督は俳優としても何作か出てらっしゃいますけど、色気があってすてきな方でしたね-
「そうですね。65歳だったかな?早くに亡くなっちゃいましたけど」
-日活がロマンポルノに移行する前の最後の作品でしたね-
「そう。時間もなくて、徹夜徹夜で撮影をしていましたよ。あれは最初、俺の相手役は沖雅也だったんだけど、オープニングシーンでバイクに乗ってすっ転んで…というシーンを撮影していて鎖骨を折っちゃったんだよね。
それで代役を探すってことになって大変だったの。1週間ぐらい休みになっちゃったんだけど、ケツはもう決まっているから凝縮して撮らないと間に合わないわけ。
だから、危ないことはもう一切やれなかった。崖から海に飛び込むシーンも吹き替えだしね」
-メインの役どころですから、時間がないなか、色々と変更があって大変だったでしょうね-
「沖の代役は広瀬昌助になったんだけど、作品としてはバランスが良かったんじゃないかな。私が兄貴分なのに、沖のときには背が高いから見上げていたんですよ。
兄貴分が見上げて、弟分が見下ろすという絵は、あまりバランスとしては良くないんだよね。代役で出た広瀬は私より背が低いから、そのほうが作品としては良かったかなっていう気はしていますけどね」
-後々まで語り継がれる作品になりましたが、完成した作品をご覧なったときはいかがでした?-
「自分じゃわからないのよ。日活の撮影所で試写会をやったとき、日活最後の作品だっていうので、スタッフもみんな来ていたんだけど、みんな拍手して『これは良い作品だよ、パキ。お前は最高だなあ』って言って、『おい村野、世が世なら、お前は新人賞もらえるよ』って言われて、『そうなのかなぁ』って(笑)。
それで封切りになって女房と一緒に映画館に行ったらガラガラ。ポツンポツンとしかお客さんがいないの。
だから、『あのときはみんなお世辞で良かったって言ってくれたんだなあ』って思ったわけ。やっぱりだめだったんだろうなって思って。自分じゃあんまり冷静な判断ができないからね。
でも、それから1年、2年と経ったら、いろんなところで上映されるようになって、いつの間にか『幻の名作』なんて言われるようになって。そういういきさつがあるんだよね」
-石川セリさんが歌う主題歌も印象的でした-
「あれはね、監督が最初から現場でも歌を流していたんだけど、『この曲はこの作品と合うのかな?』って思った。あの歌はソフトタッチじゃないですか。
やっていることはちょっとガラの悪いやつだから、どうなのかなぁって思ったんだけど、最後の方で流すと、アラン・ドロンの『太陽がいっぱい』じゃないけど、やっぱり合うのかなあって…いろいろ発見がありましたね」
◆無理やり長髪を切られそうになって…
『八月の濡れた砂』で不良高校生役を演じていた村野さんは、それから数カ月後、学園青春ドラマの代表的作品として知られている『飛び出せ!青春』に主演。全国から落ちこぼれが集まっている太陽学園に赴任してくる長髪の熱血教師・河野先生役で大人気に。
-不良高校生を演じた後、今度は熱血教師役に-
「あれは高校の先生といっても、どっちが先生で、どっちが生徒かわかんないという、ふざけているやつだったからね。だから髪の毛もあのままにしちゃったでしょう?」
-先生役には珍しい長髪でしたね-
「そう。あれもいろいろあったんですよ。プロデューサーに『教師役なのに髪が長い』って言われて大変だった。今度は学校の先生だから『村野君さ、もちろん本番のときには髪の毛を切るんだろう?学校の先生なんだから、スポーツ刈りにするとかさ、こざっぱりするとか、やるんでしょ?』って言うから、『このままやらせてください』って言ったの。
そうしたら、『何言ってるの。先生役だよ、君』って言うからさ、『企画書を読むと、どっちが先生だか生徒だかわからないっていう役だから、このままやらせてください』って言ったら、『何を言ってるんだよ、(学園青春ドラマの)君の先輩の夏木陽介さん、竜雷太さんもみんなこざっぱりしているんだよ。ダメだよ、そんなの。ダメに決まってるだろう』って。
それで床屋に連れて行かれて、『親方、悪いけどさ、これをきれいにさっぱりやってくれよ』って言うから『いやだ!』って言って。それで、『やる、やらない』ってなったわけ」
-大変じゃないですか-
「そう。それでプロデューサーとか監督とか全部呼んで『どうするんだ?』ってなったから、『すみません。このままやらせてもらって、もし一通でも、あの髪の毛は似合わないとか、汚い、先生らしくないって来たら、私はきれいさっぱり丸刈りにしますから、このままやらせて下さい』って言って。
バカだからさ、今だったら『はい!』ってすぐに切っちゃうのにね(笑)。
そうしたら、『あっ、そう。今、言ったね?本当なんだね?本当に丸刈りにするんだね』って言うから『します』って言って、そのまま撮影することになったんだよね。
それでオンエアしたら1カ月経って、2カ月経っても何も文句が来ない。それどころか、半年ぐらいしたら『先生らしくなくていい』とか、『庶民的で良い』とか、そういうふうな意見が寄せられるようになったわけ」
-村野さんの先生以降、長髪の出演者は結構多くなりましたね-
「ちょっとはみ出している先生だから、いいんじゃないかなと思って。長髪が流行る兆しもあったしね。ビートルズだとか、ヒッピーが話題になったりしていましたからね」
『飛び出せ!青春』の放送が始まってから半年後、同じプロデューサーによるドラマ『太陽にほえろ!』がスタートする。
「新人刑事役がショーケン。肩までの長髪で三つ揃いのスーツでノータイ。私のときに散々言われたからさ、プロデューサーに、『先生役でも相当言われましたけど、今度は刑事ですよね?ショーケンさんの髪はあれでいいんですか?』って言ったら、『時代には勝てないね』って言ったわけ(笑)。
それでショーケンが殉職して辞めることになって、今度は文学座で私の後輩の松田優作になったんだけど、チリッチリパーマにサングラス、Gパンの上下。
もちろんまた聞きましたよ、プロデューサーに。『優作はこれでいいんですか?』って。そうしたらまた『いやあ、時代には勝てないよ』って(笑)。私のときとは全然違うよね。
私が先生役になったときには『やりにくいやつが来ちゃったよ、今度は』って言っていたらしいよ(笑)」
-『飛び出せ!青春』は1年間放送のドラマでしたから大変だったのでは?-
「大変といえば大変だけど、監督が早いんですよ、撮影が。酒が好きで、夕方になると酒が飲みたいから、早い早い。撮影が終わって、『何時だ?今』、『3時です』、『早いな』とかって言って(笑)。だから仕事としてはそんなにしんどくなかった」
-お子さんはもう生まれてらしたのですか?-
「12月29日にクランクインだったんだけど、その日に飛び出たんですよ。だから、病院に行って飛び出したのを見てから『飛び出せ!青春』のロケに行ったの(笑)」
-お子さんが生まれたばかりなのに、撮影が終わると連日酒盛りですか?-
「そう。あのとき、私は先生でしょう? 剛(たつひと)とか石橋正次は高校生役。22、3歳なんだけどね。頭師佳孝も生徒役で出ていたんだけど、お母さんが来ていてさ、3時頃になるとスタッフルームでお酒の用意をしているんだよ、つまみとかも全部。
私のことを『先生』って呼んでいて、関西のおばちゃんだからさ、『先生、したくできているからおいで。早う飲みや』って(笑)。
それで、剛とか石橋が、『俺たちも飲ませてくれよ』って言うと、『ダメよ、あんたたちは高校生やから』って言って。
それで『役は高校生だけど、20歳過ぎているんだからいいじゃないか』って言うと、『ダメダメ!世間の人たちが見たら、あんたたちは太陽学園の高校生やろ? 酒なんて飲んだらダメよ、決まってるじゃないの』って言うんだよ。
だから『私は?』って聞いたら、『あんたは先生だから良いのよ』って(笑)。セットで撮影するときには、そうやって待っているからさ、撮影が終わると毎回飲んでいるわけ。それでベロベロに酔って帰っていた。良い時代だったなあ」
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古き良き豪快な時代を懐かしそうに振り返る。次回後編では、料理作りに目覚めたきっかけ、ステージ4の中咽頭がんからの生還について紹介。(津島令子)
※『BS歌謡スクエア』
毎週日曜あさ5時29分~6時
MC:村野武範・安倍里葎子
※『村野武範と剛たつひとの「飛び出せ!歌謡曲!」』
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