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「夢を叶える道」はひとつじゃない。一度就職した漫画家が、“趣味“を突き詰めてブレークするまで

「私なんて格下なんですけど、なぜかエマ・ワトソンの気持ちがわかるんです」――苦笑しながらそう話すのは、今ノリに乗っている漫画家・ビーノ氏だ。

©テレビ朝日 顔出しNGのため、鹿のお面をかぶってインタビューに答えたビーノ氏。

個性派ぞろいの女子高生=JKたちが、女子高生活をただただ無駄に浪費する日常を描いた学園コメディー漫画『女子高生の無駄づかい』(以下『女子無駄』)が大ヒット。2019年にはアニメ化、先月からはテレビ朝日よりドラマ版も放送され、話題を集めている。

(c)ビーノ/KADOKAWA

そんなビーノ氏は音楽への造詣も深く、夫婦でボーカロイドを駆使して創作活動を行う“ボカロP(プロデューサー)”としても活躍中。驚くことに『女子無駄』を描いたきっかけは、ボカロ曲の宣伝のためだったという。

いったいどんな経緯で大ヒット作は生まれたのか。異色の漫画家・ビーノ氏に、波乱万丈の漫画家人生を語ってもらった。

◆19歳でデビューするも挫折し、夢は「一度諦めた」

『少年ジャンプ』に『りぼん』、『なかよし』などなど…子どもの頃からたくさんの漫画に親しんで育ったビーノ氏。絵を描いたり、話を作ったりすることも大好きで、「恥ずかしいから」と周りには隠しながらも、ひそかに少女漫画家を夢見る少女だった。

高校を卒業すると、両親には「進学したい」と言って上京し、19歳のときにとある漫画賞を受賞。夢憧れた少女漫画家デビューを飾る。

――デビューは少女漫画誌だったのですね。
「少女漫画誌でデビューして、読み切りを何本か描いていた時期がありました。だけどなかなか連載に持ち込むことができなくて、いつも“ボツ”ばかりでしたね。実は、当時から『女子無駄』のモトとなるようなコメディーを描いていたんですけど、編集者には『どう評価していいかわからないから載せられない』と言われていました。

『女子無駄』のような“日常系”のジャンルは、今でこそありふれたものだけど、当時はあまり見かけなかったのでそう思ったのかもしれません。ただ、自分としては気に入っていた作品だったし、『私はこっちの路線かもしれない』と思って描いたものだったから、正直がっかりしました。

その雑誌はラブコメが一番人気で、『学園モノのこういうのが流行っています』とか『俺様系の男の子がグイグイ引っ張るラブコメを描いて』とか言われたりするうちに、『ちょっと少女漫画誌は無理かもしれない』と気付いたんです。そのとき一度諦めて、結局それからしばらく漫画は描きませんでした」

――その間、何をしていたのですか?
「社会に出たことがないことがコンプレックスになっていたので、就職して何年か社会経験を積みました。そしたらあるとき、『もう趣味に生きよう』と吹っ切れたんです。

実は当時、漫画以外に「やりたいのにやれていない」ことがいくつかありました。そのうちのひとつが音楽です。元々曲を作るためにギターを買ったのに、ずっと触ることもなく部屋のなかでオブジェ状態になっていました。

だけど、『趣味だと割り切って、やりたいことは何でもやるべきだ』という風に考え方が変わってからは、ギターの練習を始めたり、音楽仲間を見つけたりして、やりたいことを徐々に広げていきました」©テレビ朝日

――考えが変わったきっかけは何だったのですか?
「就職がひとつのきっかけだったのかな。それまではどこかで漫画のことを引きずっていて、『描かなきゃいけないのに描けていない』という焦りから、漫画以外のことに手を出す気持ちの余裕がありませんでした。

だけど就職したことにより、定期的な収入も得て、土日の存在が輝かしいものになり、『今を楽しむ』ことに気持ちが切り替わりました」

◆転機は“友人”との出会い

音楽好きのビーノ氏が興味を持ったのは、パソコンに歌詞とメロディーを入力するだけで、歌声を合成することができる「ボーカロイド」というもの。いわゆるボカロPとしてボーカロイド曲の制作に取り組み始めるが、ある壁にぶち当たる。

「歌詞を考えたり、鼻歌レベルの曲を思いついたりすることはできても、自分の力だけで曲を完成させることはできませんでした。でも、趣味で音楽制作をしていた主人(当時・友人)と出会い、『この人となら一緒に出来るかもしれない』と思ったんです」

――ご主人とはどんな出会いだったんですか?
「主人とは元々音楽系のイベントで知り合ったんですけど、はじめは音楽を作っていることは知りませんでした。話してみて、仲良くなった後に知った感じです。

ただ、彼は音を並べることは得意だけれど、歌詞を作ったり曲のイメージを言語化したり、世界観を作ることが苦手。逆に私は絵を描いたり、ストーリーを考えたりすることは好きだけれど、曲をすべて作ることはできません。お互いの足りないところを補いあえるという点で、気が合いました」

――それでは、音楽が縁でお付き合いされるようになったのですか?
「そうですね」

◆音楽の宣伝のために漫画づくりを再開。キャラのモデルは今のご主人!

その後、ご主人と共同で音楽制作をはじめ、「低所得P」というユニット名でニコニコ動画に楽曲を投稿。再び漫画を描き始めたのは、その後だという。

――もう一度漫画を描こうと思ったきっかけは何だったんですか?
「曲作りが形になり始めたときに、『そういえば私、漫画描けるじゃん』と思い出した感じです(笑)。

実は自分たちで作った曲をニコニコ動画に投稿していたんですが、有名なボカロPがたくさんいるなかで埋もれてしまい、なかなか聴いてもらえませんでした。そこで、ニコニコ静画(漫画やイラストを投稿して、楽しむことができるサイト)に漫画を投稿し、その漫画のなかで曲作りをしているキャラクターを登場させたら、漫画を読んだ人に楽曲にも興味を持ってもらえるんじゃないかと思ったんです」

――それって今までにあまりない方法ですよね。思い付いたきっかけは?
「昔の話になるんですけど、『SIREN』というホラーゲームが好きで。あの作品、すごく小細工が効いていて面白いんです。キャラクターの学生証に書いてあるURLをクリックしたら、実際にページが作られているんですよ。

そういうところから影響を受けました。漫画に登場する楽曲を調べてみて、その曲が本当に実在したら、『してやられた』というか“おまけ感”があってより面白く感じてもらえるかなと」

――とはいえ、ネットに作品を投稿することは今よりもメジャーじゃなかったですよね。抵抗のようなものはありませんでした?
「たぶんプロを目指している身だったら抵抗があったと思います。だけど、当時の私はそもそも諦めていた状態で、むしろ『みんなに読んでもらいたい』と思っていたので、全く抵抗はありませんでしたね」

こうして生まれた漫画『女子無駄』。主要キャラ・ワセダは、教員をしながら趣味でボーカロイド曲を制作しているボカロPという役どころだ。驚くことに、ビーノ氏はご主人(当時の友人)をワセダのモデルに据え、作品のなかで外見から雰囲気まで忠実に再現した。その再現ぶりは、インタビューに同行されたご主人を見て、スタッフ一同がどよめいたほどだ。

(c)ビーノ/KADOKAWA 漫画のワセダ。

©テレビ朝日 ワセダのモデルになったご主人。(曲作りを始めた当時)

――ワセダのキャラは、ご自身がボカロ楽曲を作られていたことから発想を得て、そこからキャラクターを作られたのですか?
「ワセダは完全にそうですね」

――本当にそっくりですよね。漫画から飛び出てきたかのような(笑)。はじめからご主人にそっくりなキャラクターにしようと考えていたんですか?
「はじめは『ボカロ楽曲を作っているキャラを作らないと』というところから始まり、『どうせだったら寄せちゃおう』と思い付きました(笑)。当時は商業連載する前で、漫画も趣味だったので、そんなにたくさんの人に読んでもらえると思っていなかったんです」

◆まさかのブレイク。「あ、売れちゃった」

音楽の宣伝のために作られ、作者の友人をモデルにしたキャラが登場する『女子無駄』。そんな異色のギャグ漫画は、日を追うごとにファンを増やしていった。

――読者の反応などはいかがでしたか?
「当時は今ほどニコニコ静画に漫画を投稿している人はいなかったのですが、意外とたくさんの人に読んでもらえました。しかも『面白い』『好きだ』とか好意的なコメントがほとんどで、本当にうれしかったです。

今までけなされてばかりだったのに、『こんなにいい反応をもらえるんだ』と(笑)。読者の反応が漫画を描くモチベーションにつながり、ここまで続けられたと思います」

――漫画から楽曲、楽曲から漫画に興味を持った人もいるかと思います。相乗効果のようなものは感じましたか?
「楽曲の方は元々そこまでの知名度はありませんでした。でも低所得Pの曲から知って、漫画を読んで「あ、このボカロP、この漫画描いている人なんだ」とつながった人もいるみたい。どっちから入ってくれてもいいので、ちょっと『おいしいな』とは思います(笑)」

――どちらの宣伝にもなっているって、いいですね。
「ありがとうございます! そんな風に連動している漫画ってあまりなかったので、『作れたら面白いかも』と思っていました」

ニコニコ静画で投稿を始めてから約1年後、ビーノ氏は無料コミックポータルサイト「ComicWalker」に同作を持ち込み、とんとん拍子に連載が決まる。

「『コミティア』という1次創作の大きい即売会みたいなのがあって、そこの出張編集部に持ち込みました。ラッキーなことに『ネットで見たことあるよ』と言ってもらえて、すぐに連載させてもらえたんです。そのときは、『地道に活動してファンを増やしてきて本当によかった』と思いましたね」

プロの漫画家としての連載が始まり、作品の魅力を知った『女子無駄』ファンはさらに急増。2019年にはアニメ化、そして2020年にはドラマ化もされ、ようやく人気漫画家の仲間入りを果たした。

©テレビ朝日 ドラマ版の主要キャラ。左からヲタ(恒松祐里)、バカ(岡田結実)、ロボ(中村ゆりか)。

――2019年にアニメ化、そして2020年にドラマ化。ここにきて一気に作品が注目されました。ここまでの反響は想像つきましたか?
「正直アニメ化が決まったとき、『あ、売れちゃった』と思いました(笑)。一番変わったのは、コミケで初めて行列ができたことです。外国の方とかも見に来てくださって、『こんなにダイレクトに変わるんだ』と、アニメの影響力を改めて実感しましたね。

ただ、周りはもてはやしてくれるけど、私自身の生活は変わらないので少し違和感もあります。アニメも制作者たちが頑張ってヒットしただけだし、ドラマもドラマの人たちが頑張って話題になっているだけですから」

――売れた人はそういうこと言いますよね(笑)
「そうなんですか。そういえばエマ・ワトソンもそんなこと言っていましたよね。『自分は運が良かっただけで、すごくないのに』と思い込んでしまう心理状態(詐欺師症候群)でしたっけ?」

――ありましたね。でもすごいので大丈夫ですよ。
「いやいや。私なんて格下なんですけど、勝手にエマ・ワトソンの気持ちに共感しています。『一緒にすんな!』って怒られそうですけど(笑)。ホント、今はそんな感じです」

©テレビ朝日

番組情報:『女子高生の無駄づかい』第5
2020年2月21日(金)深夜11:15~0:15、テレビ朝日系24局(※一部地域で放送時間が異なります)

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