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ザギトワは「スペシャルな存在」。フィギュア帝国を築くエテリ・コーチが、初対面で感じた“資質” <インタビュー>

2月16日(日)に放送した『激動!フィギュア新時代 ~女王ザギトワ 引退騒動の真実~』。来シーズンの競技復帰を表明したザギトワを指導するエテリ・コーチのインタビューを、番組内では伝えきれなかった部分も含めてお届けします。

写真:アフロ

同番組では、ザギトワを指導するエテリ・トゥトベリーゼ氏にインタビューを実施し、自身の指導哲学やザギトワとの知られざる秘話を語ってもらった。

◆ザギトワを育てた最強コーチの哲学

五輪金メダリスト、アリーナ・ザギトワをはじめ、多くのトップ選手たちを育ててきたエテリ氏。選手をめったに褒めることはなく、容赦なく厳しい指導から「鉄の女」とも呼ばれる指導者だ。

エテリ氏が指導するのは、「サンボ70」と呼ばれるトップアスリート養成学校。旧ソ連時代に格闘技サンボを強化するため国が設立し、現在は五輪メダリスト養成のため、24種目の競技で育成が進められている。

なかでも重要視されているフィギュア部門には700人もの選手が在籍し、ザギトワやエフゲニア・メドベージェワをはじめ、昨年12月に開催されたフィギュアスケート「GPファイナル」で女子シングルの表彰台を独占したアリョーナ・コストルナヤ、アレクサンドラ・トゥルソワ、アンナ・シェルバコワも輩出している。

©テレビ朝日

――「サンボ70」という施設から次々と有力選手が出てくる理由を教えてください。
エテリ・トゥトベリーゼ氏(以下、エテリ):
よく、「サンボ70」について「一番良い選手ばかりが集まってくる」という表現をされることが多いですが、成功した選手がここにやって来ることがありません。彼女たちはここで“良い選手”に成長していくのです。

私は「絶望のどん底にいる」選手がやって来るのが一番嬉しい。そんな選手が大好きなんです。

他の場所で上手くいかなかった選手、つまり絶望している選手は、自分の人生を本気で変えたいという思いから、誰よりも真剣にトレーニングをしますからね。

――絶望のどん底にある選手が来るということですが、そのような選手たちに成功する力を与える秘訣はどこにあるのでしょうか?
エテリ:私でしょうかね(笑)。私たちは長年チームからトップ選手を輩出し続けてきました。

選手たちは、皆個性があり、一人として同じ人はいません。私たちは、それぞれの選手に合わせた指導をするようにしています。たとえば、サーシャ(アレクサンドラ・トゥルソワ)は男勝りな女の子です。彼女にとってとても大切なのは、記録を更新したり、ギネスブックに掲載されたり、前人未到のことを成し遂げる・・・といったことなのです。
選手の個性を壊して作り替えるようなことはしません。まだまだ彼女たちは子どもですから。

――どのような基準で受け入れる選手を決めているのですか?
エテリ:私は、やってきた選手は全員もれなくアイスリンクに連れて行きます。最初にピンと来なくて「私の選手になる子ではないわ」と感じたとしてもです。そして私は、リンクで滑る選手を見ながら、「この選手を愛することができるのか」「ちゃんと理解することができるのか」、と自問し、受け入れるかどうかを決めています。

◆ロシア3人娘の活躍にも「満足していません」

――「GPファイナル」「ヨーロッパ選手権」と教え子が表彰台を独占しましたが、コーチとして満足されていますか?
エテリ:満足していません。誰一人としてしかるべき形で演技を完遂することができなかったからです。選手たちは、スケジュール的にも余裕がなく、皆あまり準備できていませんでしたから。

――それでも、金・銀・銅の全てがエテリ・コーチのチームの選手でした。コストルナヤ、トゥルソワ、シェルバコワ。一人一人の強さ、いいところを挙げてください。
エテリ:彼女たちは、それぞれ違う性質の選手です。サーシャ(アレクサンドラ・トゥルソワ)は男勝りな女の子で、自分の滑りに全く満足していません。アリョーナ(アリョーナ・コストルナヤ)は、本当に女の子らしい女の子で、何かが上手くいかないと、泣いたり怒ったりします。そして、アンナ(アンナ・シェルバコワ)は、フィギュアスケートを心から愛しています。

これから彼女たちがどのように選手として成長し、変わっていくのかはわかりません。

何故なら、彼女たち自身も、もちろんのこと、自分で「名声」というものに対峙していかなければならないからです。彼女たちが、この「名声」をどのように乗り越えていくのか、引き続き目標に向かって努力し続けていくのか、それとも、色々と考えて・・・・

その先は、どうなっていくか自然と見えてくるでしょう。良い成績をおさめて、メダルを獲得した選手が往々にして犯してしまいがちな過ちがあります。

(メダルを獲得した)選手は思うのです「もうここまできたら、もう大丈夫」と。

しかし、そうではないのです。「ここまできたら、安泰だ」などということはありえないのです。そこから、さらに道は険しくなっていくのです。なぜなら、インタビューやらTV出演など色々なことに気をそらされるようになるのです。

つまり、これまでよりもトレーニングのために費やせる時間が、減ってしまうのです。

そして短い練習時間の中で、より努力しなければならなくなるのです。

 

◆女王ザギトワも「初めは才能があるとは思いませんでした」

――あなたの最も才能ある教え子の一人であるザギトワですが・・・
エテリ:私たちは、現状では彼女をその中でも「スペシャル」な存在としています。彼女は、やはり特別な存在です。彼女は特別です。

――2014年、ザギトワに初めて会った時、彼女となら心を通わせることができるだろうなというような印象を受けましたか?
エテリ:まず、初めに私が目にしたのは、素材としての点で優れている女の子だということ。
しっかりとトレーニングを受けていて容姿が優れているということ。

つまり、その時点から始められるということ、彼女に衣装を着せたら、もう美しいのです。そして彼女の私への視線を通して、彼女が私を理解しよう、私にしっかりとつかまろうとしているのを感じたのでした。また、彼女が今後、美しい女の子に育っていくであろうことが感じられました。

――当時彼女は何歳でしたか? 12歳でしたっけ?
エテリ:はっきりは覚えていないけれど、11才か12才だったと思います。いや11才の頃だったと思います。何故なら、私はあとで彼女を一旦、追い出したことがありましたから。

――その辺の話は、あとで別途お聞かせ下さい。先ほどの質問に関してですが・・・彼女がコーチのもとを訪れました 可愛い女の子でした・・・
エテリ:(可愛いではなく)綺麗な女の子でした。可愛らしい子と、美しい子がいるわけです。

――ザギトワはどんな女の子なのですか?才能の片鱗を当初から感じられましたか?
エテリ:いや、私が、彼女は大きな才能を秘めていると感じたことはありませんでした。スケートの滑りの部分では、かなり出来が良くなかったです。ジャンプは・・・ ループジャンプはできていました。

全ての種類のジャンプの中で、彼女はループジャンプができました。実際のところ、これは、かなり良い基礎的なジャンプであり、これさえできれば、他はいらないというようなものです。

彼女の過去のビデオを見てきました、彼女がどのようにスタートしてきたかと。彼女はしっかりと「スタート」できていたわけではなかったのですが、でもループジャンプはできていたのです。

つまり・・・ このループジャンプに、そのほかのありとあらゆるエレメントを後付けすることができたのです。
もし彼女がコーチの話をちゃんと聞いて、練習に励むならば、です。

そして、彼女の視線です。なんとかして受け入れてもらいたいという(目で)「助けてください」と。

ですから、彼女も、少し絶望した状態の選手だったのです。少しだけ絶望していたのです。徹底的に絶望していたわけではありません。

――つまりループジャンプ以外に、特別な才能は特に見られなかった・・・
エテリ:美しい、そして体が柔らかいという点でしょうか。こういう考え方があります、「ポーズを感じる力」です。

選手がただ単に何らかのポーズをしているだけで、美しいということがあります。一方ポーズの仕方を手取り足取り教え込まなくてはならないような選手もいます。

色々と努力しても、選手自体が自分の身体を感じることが苦手で、どうすれば美しいかということを分かっていないのです。

そうです、彼女(ザギトワ)には、この「ポーズを感じる力」が備わっていたのです

――先ほど、ザギトワを一旦、追い出したというお話がありましたが、その「追い出した」ところについて教えていただけませんか?何が実際に起こったのか、彼女を追い出した原因は何だったのか・・・・

エテリ:そうですね、彼女は、日常生活のルーティーンにはまり・・・ まあ、選手が(うちで)滑り始めると、「ああ、なんて幸せ、私はトゥトべリーゼ・グループの一員」となるわけです。

「遅かれ早かれ、私をスターにしてくれるのだから」と「私は、ここにいるんだから、安泰だわ」と

そして選手たちは、訓練をやめ、もしくは、自分の中から最良のものを作り上げようとする死闘を止めるのです。

今日、今、この瞬間に自分ができることをやらなくなるのです。そして、ただ存在し続けるのです。

そして「私は、ここにいる」という日常のルーティーンの中に埋没していくことで、その先、何も起こらなくなります。

そうなると、私は理解し始めます・・・

例えば、選手が、地下鉄で二駅先から練習に来ては帰っていく・・・そういった場合、選手が失うものはほとんど何もありません。

彼女たちは、ただ、ここモスクワに住んでいて、ここのリンクか、別のリンクで練習をしているわけです。

しかし、それとは別の話なのです。選手たちは、別の町からここに出てきたのです。

そして、モスクワで賃貸アパートに住んでいます。自分の家族から遠く離れたところに住んでいるのです。

このような別離によって、家族も苦しむし、選手本人も苦しみます。

もし、私が、このような大きな代償を払った上で、結果が伴うのかどうか、確信が持てない場合、私は、その選手と別れることにするのです。

なぜなら、私は、そのような責任を負うことはできないのです。つまり「トゥトべリーゼだったら何とかしてくれる」という・・・両親は信頼を寄せてくれています。

つまり、両親が(選手の)アパート代を支払い、自分の子供から遠く離れたところで生活し続けます。

けれども子供自身が努力しなければ何も起こりません。

ですから、最初に、何らかの警告のような形で話をしても何も変わらないようであれば、「はい、さようなら」となるわけです。

――あなたのトレーナーとしてのお仕事の哲学は何ですか?もっとも重要なモットーは?
エテリ:特にこれと言ったものはありません。ただひたすら、与えられた条件のなかで、その日をもっとも有益なものにするように努力しているだけです。「最大限に有益に過ごす」「その日できることのベストを尽くす」「明日に持ち越さない」。これが私の仕事の哲学です。