「『クレヨンしんちゃん』の本質は、コント」あの人気アニメはどう作られる?ムトウユージ監督インタビュー
1992年にアニメがスタートし、今年で放送29年目を迎える『クレヨンしんちゃん』。
放送以来、5歳の幼稚園児・野原しんのすけの嵐を呼ぶ日々の生活を放送してきた。
そんな同作は、今日に至るまでいかにしてつくられてきたのか。
長年同アニメの監督を務めるムトウユージ氏に、『クレヨンしんちゃん』がつくられる過程について話を聞いた。
ムトウ監督の口から飛び出したのは、『クレヨンしんちゃん』だけに見られる、ある表現方法の話。
『クレヨンしんちゃん』の本質とは、一体何なのか。
それがこのインタビューで明らかになる。
ーー『クレヨンしんちゃん』は、1992年からアニメがスタートし、30年近い歴史を持つ作品です。アニメ放送時から今に至るまで、変化した点はありますか?
時代を反映しているシーンはよく出てきます。たとえば、最近だと風間くんがママからスマホを借りてきているシーンがあったり。テレビがアナログ放送から地デジに移行するタイミングでは地デジのコマーシャルをパロディ化させたシーンが登場しています。『クレヨンしんちゃん』は、常にその時代の幼稚園児が登場するアニメなんです。1992年なら、1992年の幼稚園児。2020年なら、2020年を生きる子どもたちが出てきます。しんちゃんは、その時代・世代での生活に沿っていますね。
ーー時代の象徴をパロディとして出すのも『クレヨンしんちゃん』の特徴ですよね。
しんちゃんの住む春我部駅前にあるイトーヨーカドーをパロディ化したスーパー「サトーココノカドー」みたいに、パロディはよく出てきます。固有名詞をそのまま使えなかったりするので(笑)。今は、逆にコラボしてくれたりします。
◆しんちゃんが愛される理由は?
――1月11日(土)放送の「おパンツストーリーだゾ」は、Twitterでも「あのクレヨンしんちゃんが過激に戻っている」とかなり話題になりました。お気に入りのアクション仮面のパンツが古くなり、みさえに捨てられそうになったパンツを守るため、しんちゃんがパンツと共に外に逃げ出すという話でした。
あの回のテーマは、あくまでも「自分のおパンツを大事にしている」ということです。少し過剰になったかもしれませんが、モノを大切にしているというのが主たるテーマです。ちなみに、Twitterの反応も少しではありますが、チェックしています。
――Twitterでツイートされた一部を紹介すると、「このご時世に攻めてる」「飛ばしてる」「こんなにカオスだったっけ(笑)」「久々のお下品さ」といったコメントが見受けられました。
放送できているということは、放送コードは大丈夫というのは前提として、少し過剰だったのかもしれません(笑)。でも、おもしろければ何でもいいというわけでないし、過剰な表現も見せ方次第だと思っています。仮にしんちゃんが下ネタを言ったり、風間くんに迷惑をかけても、ちゃんと友情関係が成り立っている、というのを前後シーンに挿入するようにしています。絵コンテの段階では、そういう中和するシーンがなくても、アニメにしたときに「やっぱり、このシーンを挟もう」と提案することはよくあります。なので、過剰なことをしてもちゃんと許される、かわいげのあるようにしています。
◆「それが『クレヨンしんちゃん』が愛されるおケツ…いや、秘訣ですね(笑)」
ーーキャラクターがわかっているので、視聴者も許せるという点はあるかもしれません。
そうですね。それが『クレヨンしんちゃん』が愛されるおケツ…いや、秘訣ですね(笑)。それと、『クレヨンしんちゃん』では、他の人気アニメでは明らかにしない表現があるんですけど、なんだかわかりますか?
ーー他と違う…。なんでしょうか。
シーンが変わらない話があるんですよ。リビング(茶の間)だけで最初から最後まで完結することがあるんですね。ああいうシーンがあるのって『クレヨンしんちゃん』だけなんですよ。他のアニメはリビングのシーンがあっても、前後で場所が展開してから、リビングを落ち着くシーンで使ったりするんです。
ーーたしかに!ヒロシと遊ぶとか、みさえとの掛け合いだけで場所はリビングから変わらずに終わる物語もありますね。
そう。一室だけで話が成立するんですよ。シーンが変わらない。それはなぜか。『クレヨンしんちゃん』ってコントみたいな話が多いからなんですよ。『クレヨンしんちゃん』の本質は、芝居でありコントなんです。たとえば、父ちゃん(ヒロシ)としんちゃんがリビングで回転寿司屋ごっこをしたりする。これって、ようするにコントです。役割を自分たちに与えてボケたり、ツッコんだり。
ーーたしかに、ボケとツッコミのやりとりが多いですね。
『クレヨンしんちゃん』はアニメなんだけど、芝居としては実写感覚でつくっています。だから他のアニメと違って場所が変わらなくても、会話の掛け合いを楽しめるアニメなんです。事実、僕は『クレヨンしんちゃん』のネタ探しをするときには、お笑い芸人のコントをよく見ます。『志村けんのだいじょうぶだぁ』とか、ドリフとか、最近のお笑い芸人とか、色々見てます。最近だと、納言(なごん)っていうコンビがおもしろくて、常にしんちゃんで参考にできないか考えています。
ーー言われてみると、長年愛されている理由がしっくりきますね。
ただ、もう30年近く放送してますから、当然時代に合わないシーンも出てきます。たとえば、数年前にしんちゃんがオオクワガタを捕まえるために森を探検してたら、細川ふみえさんの写真集を発見するシーンがありました。そこでしんちゃんがなんて言ったと思います?
ーー細川ふみえさんと言えば、初期のしんちゃんではよく登場していましたよね。しんちゃんが大好きなセクシーな大人の女性という文脈で。しかし、グラドルの象徴としてはちょっと古い…。
そう。だから、当時の放送でしんちゃんが言ったセリフは「こんな時代に細川ふみえの写真集が!珍しい!!」なんですよ(笑)。ちゃんと時代の経過を反映しています。こうやって昔のネタも、もう一度おもしろくネタにしたり、実写感覚、コント感覚を盛り込みつつ作っています。これからも、そのスタンスは変わりません。親子三世代で見られるアニメになっていきますが、おじいちゃんも、孫もネタがわかっている作品にしていきたいですね。
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『クレヨンしんちゃん』は、アニメなのに、実写感覚であり、コント感覚で作られていたーー。
時代は変化すれど、春我部に住む幼稚園児の革命は、まだまだ続いていきそうだ。
※番組情報:『クレヨンしんちゃん』「大金を落としたゾ/父ちゃんの日曜日だゾ/何かしながら帰るゾ」
2020年2月1日(土)午後4時30分~5時00分、テレビ朝日系24局