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WRC初戦、日本人ドライバー勝田貴元が7位入賞!“意志の強い走り”で結果を残す

現地時間の1月23日~26日、2020年のWRC(世界ラリー選手権)開幕戦となる「ラリー・モンテカルロ」が開催された。

2020年シーズンを占う最初のラリーを制したのは、ヒュンダイのティエリー・ヌービルだ。

©WRC

ベルギー出身のドライバーがラリー・モンテカルロに勝利したのは、1973年から始まったWRCでは初の快挙であり、1911年からの(ラリー・モンテカルロの)長い歴史を振り返っても1924年に勝利したジャック・エドワード・ルドュー以来2人目となっている。

上位陣の最終結果は以下の通りだ。

1位:ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)
2位:セバスチャン・オジェ(トヨタ)/1位から12秒6遅れ
3位:エルフィン・エバンス(トヨタ)/同14秒3遅れ
4位:エサペッカ・ラッピ(Mスポーツ)/同3分9秒0遅れ
5位:カッレ・ロバンペラ(トヨタ)/同4分17秒2遅れ
6位:セバスチャン・ローブ(ヒュンダイ)/同5分4秒7遅れ
7位:勝田貴元(トヨタ)/同11分27秒9遅れ
8位:ティーム・スンニネン(Mスポーツ)/同13分30秒4遅れ

今回のラリーは、トヨタとヒュンダイの力が拮抗しているのではないかと多くのWRC関係者が予想していたが、それは想像以上のものだった。

©TOYOTA GAZOO Racing

初日の木曜日は、セレモニー後に夜間走行となるSS1とSS2が行われ、SS1では1位オジェ(トヨタ)、2位オット・タナック(ヒュンダイ)、3位エバンス(トヨタ)、4位ヌービル(ヒュンダイ)と“トヨタ→ヒュンダイ→トヨタ→ヒュンダイ”の順に並んだが、SS2では1位ヌービル、2位オジェ、3位タナック、4位エバンスに。

“ヒュンダイ→トヨタ→ヒュンダイ→トヨタ”の順に並び、いきなり2強チームによる対決模様を示した。

一方Mスポーツは、ラッピ、スンニネン共にマシントラブルに見舞われ本来の速さを発揮できない厳しいスタートとなった。

◆大クラッシュのアクシデント発生

©WRC

2日目の金曜日はSS3からSS8までが行われたのだが、この日はWRC関係者だけでなく、世界中の視聴者の心臓が縮むようなアクシデントがあった。

SS4にて、ヒュンダイをドライブするタナックが、時速160km以上でコースオフする大クラッシュをしてしまったのだ。

クラッシュした状況は、緩やかな右コーナー、左コーナー、そして右コーナーと続く峠の下り道。右コーナーでほんの少し路肩の雪を右側タイヤが踏んでしまい、次の小さな左コーナーに向けて左側へとマシンは少しスライドしてしまった。

その挙動を修正するために少し多めに右へと切ったステアリングだったが、今度はタイヤがグリップしてしまいコース右へと飛び出してしまったのだ。

マシンは空母のカタパルトから飛び出すようにしてコース右へ。飛び出すと同時にマシンは左のドライバーズシート側のサイドウインドウが空方向に向いた90度横になり、最初に地面に触れた瞬間に高くマシンが飛び跳ねると、そのまま車体が高速縦回転するようにして緩やかな崖下へと落ちていった。

マシンの回転が止まったのは、じつに15秒後。不幸中の幸いだったのは、飛び出した瞬間の場所は木々が伐採された畑のようになっていた場所で、その後も樹木を直撃することなく車体が転がり続けたことで衝撃を吸収し、ドライバーのタナックとコ・ドライバーのマルティン・ヤルヴェオヤは怪我もなく自らマシンを降りることができた。

もし、時速160km以上でコースを飛び出した際に樹木へとマシンが直撃したら、強固に守られたWRCマシンとはいえ、ドライバーとコ・ドライバーが無事だったかは定かではない。それほどに危険なクラッシュだった。

マシンは修復不可能で、タナックのヒュンダイでの最初のラリーはこのSS4で終了してしまった。

ただし、ドライバー、コ・ドライバーともに病院で検査を受け無事が確認され、次戦の「ラリー・スウェーデン」には出場できるであろうことが本人の口からもSNSを通じて語られている。

©TOYOTA GAZOO Racing

そんな大クラッシュが発生した金曜日だったが、ラリーを制したのはトヨタだった。6つのSSのうち5つでステージトップを獲得。1位オジェ、2位エバンスとトヨタがワンツーを獲得して金曜日を終えた。

◆ヒュンダイのヌービルが速さ見せる

3日目の土曜日はSS9からSS12までの4つのSSが行われたが、トヨタ同時の争いが激しかった。

SS9ではオジェが総合トップだったが、SS10ではエバンス、SS11ではオジェ、そしてSS12では再びエバンスと、総合トップがSSごとに入れ替わる展開に。

©WRC

しかし、そのトヨタ2台の争いを上回る速さを見せたのは、ヒュンダイのヌービルだった。SS9・11・12と3つのSSを獲得。土曜日を終わってみれば、トップのエバンスから3位のヌービルまでの差は5秒4。

4位のセバスチャン・ローブは2分17秒9遅れで、ラリー・モンテカルロの勝者は完全に3人のドライバーに絞られた。

こうして迎えた最終日。日曜日はSS13からSS16まで4つのSSが行われた。

最後のSS16はパワーステージと呼ばれ、総合順位によるポイントに加え、SS16の1位から5位には、5~1ポイントの追加ポイントが加算される。

ここでポイントについて説明すると、WRCでは、最終結果に応じてドライバーズチャンピオンシップと、チーム同士が競うマニュファクチュアラーズチャンピオンシップのポイントが獲得できる。順位とポイントの関係は以下の通り。

1位/25ポイント
2位/18ポイント
3位/15ポイント
4位/12ポイント
5位/10ポイント
6位/8ポイント
7位/6ポイント
8位/4ポイント
9位/2ポイント
10位/1ポイント

ドライバーは、これに加えてパワーステージにて1~5位にポイントが加算されるのだ。

1位/5ポイント
2位/4ポイント
3位/3ポイント
4位/2ポイント
5位/1ポイント

つまり、最終結果が1位でパワーステージも1位を獲得すれば、最大30ポイントを獲得できる。また、チーム間で争うマニュファクチュアラーズタイトルは、最終結果から上位2台のポイントが加算される。

©WRC

話をラリー・モンテカルロに戻そう。最終日、最強マシンと名高いトヨタのヤリスWRCを上回る速さを見せたのは、ヌービルだった。

SS13から最後のSS16まで全てのステージでトップタイムを獲得。見事な大逆転で2020年初のウィナーとなった。

2014年にヒュンダイへと移籍して7年目。これまでセバスチャン・オジェの牙城とも言えたラリー・モンテカルロで初勝利を上げたというわけだ。

◆初戦でトヨタが得たもの

正直、マシンの差は感じられなかった。それどころか、自ら開発の中心となって7年間一緒に作り上げてきたマシンに自信を持って乗るヌービルに対して、シーズンオフからトヨタに加入し、まだテストしか重ねていないヤリスWRCでオジェとエバンスは総合2位と3位を獲得している。

最後のパワーステージに至っては、1位ヌービルと2位オジェのタイム差は1/10秒差までの画面表示では同じ。後の正式リザルトで確認すると、ヌービルが9分39秒076に対して、オジェは9分39秒092と、0秒016差だった。

つまり、マシンポテンシャル差はほぼ互角か、ほんの少しトヨタに分があるようにも見えた。だが、今回はヌービルの熱い走りを高く評価すべきだろう。

©WRC

じつは最後のパワーステージ、ヌービルの右後輪のホイールは一部が欠けており、タイヤにも僅かながらヒビ割れがあった。

いつタイヤがパンクしてもおかしくない状態で攻め続けた結果の勝利。これについては。ラリー後の会見で記者質問にも答えている。

――最後のパワーステージについて教えてください。あなたのマシンはホイールリムの一部が欠けている状態でしたが…。

「あれ(ホイールリムの欠け)はSS14の時点で見つかった。理由はわからない。ただ、重要なのはそこじゃない。僕たちは最後のパワーステージに3本のソフトタイヤを残しておきたかった。だから、あのホイールのまま走った。問題はなかったよ」

このようにヌービルは、勝つために、あえて欠けがあるホイールを使用したことを明らかにしている。

©TOYOTA GAZOO Racing

一方、最終日で負けたトヨタだったが、得たものも大きかった。

まず、オジェとエバンスがほぼ同じ速さを見せたこと。これはヤリスWRCのポテンシャルが高く、両ドライバーにとって扱いやすいマシンであることを証明している。また、新人のロバンペラと日本人ドライバーの勝田貴元が、それぞれチャンピオンシップポイントを獲得したことだ。

トヨタ3人のドライバーコメントは、チームからリリースが出ている。

※セバスチャン・オジェ

©TOYOTA GAZOO Racing

「ポジティブな結果にとても満足しています。もちろん、さらに良いリザルトを期待していましたし、チームに勝利をもたらしたかったのは事実です。しかし、新しい環境に適応することは常に大きな挑戦ですし、特にこのような難しいラリーではなおさらなので、素直に喜ぶべきでしょう。

週末を通して、自分が快適に感じられる領域を越えないように走りました。僅かに優勝には届きませんでしたが、選手権を考えると22ポイントを獲得できたのは上々です。

ラリー中はクルマのフィーリングがとても良く感じられるときもあれば、十分な自信を得られず限界まで攻め切れないときもありましたが、それでもこのクルマのポテンシャルは十分に感じました。とても運転が楽しく感じられたので、もう少し時間が経てば一緒に素晴らしい結果を掴むことができるはずです」

※エルフィン・エバンス

©TOYOTA GAZOO Racing

「勝てるポテンシャルがあったと思いますので、今日は少し失望しています。ラリーをリードすれば自然と期待も高まり、優勝を狙いたくなるので、今は辛い気持ちです。とはいえ、全体的にはポジティブな週末でした。

残念ながら、今日はフィーリングがあまり良くなく、一生懸命プッシュしましたが、スピードが伴いませんでした。全てのコーナーを攻め切ることができず、それがタイムを失うことに繋がったと思います。学ぶべきことはまだありますが、全体的には悪くないスタートになったと思いますし、きっと今後の礎になるでしょう」

※カッレ・ロバンペラ

©TOYOTA GAZOO Racing

「良い週末だったと思います。今年のモンテカルロは本当にトリッキーで、コンディションが頻繁に変わるなど、新しいクルマを学ぶ場としてはかなり難しいラリーでした。しかし、週末を通して常に成長することができ、自分が慣れているコンディションで走ったときは、少し良い走りができました。この週末は本当に多くのことを学びましたし、シーズンの開幕をミスなく終え、ポイントを獲得できたのは大きな収穫です」

◆日本人ドライバー・勝田貴元、7位入賞

©TOYOTA GAZOO Racing

そして日本のファンにとって嬉しいのは、勝田貴元が7位入賞を果たしたことだ。

各SSを走るごとに公式TVのインタビューで「慎重に走っている」ことを強調。まずは完走し、自分自身の基準となる結果を出さなければならない。その意志がハッキリと伝わってきたラリーだった。

難しいことで有名なラリー・モンテカルロに苦労していたことも事実だが、日曜日はSS15でトップのヌービルから13秒9差を記録し、SS14では同じトヨタのロバンペラを上回った。フォーミュラドライバー出身で、ターマック(舗装路)でのスピードへの恐怖心に打ち勝つというラリーに必要な才能の片鱗を感じさせている。

ひとつひとつ結果を出し、慣れない部分を克服していけば、確実に上位争いするドライバーへと成長するだろう。

©WRC

こうしてラリー・モンテカルロは終了。パワーステージのポイント加算を加えたドライバーズチャンピオンシップは以下の通りだ。

1位:ティエリー・ヌービル/30ポイント
2位:セバスチャン・オジェ/22ポイント
3位:エルフィン・エバンス/17ポイント
4位:エサペッカ・ラッピ/13ポイント
5位:カッレ・ロバンペラ/10ポイント
6位:セバスチャン・ローブ/8ポイント
7位:ティーム・スンニネン/7ポイント
8位:勝田貴元/6ポイント

マニュファクチュアラーズチャンピオンシップは、1位ヒュンダイ/35ポイント、2位トヨタ/33ポイント、3位Mスポーツ/20ポイントと、上位2チーム接戦でのスタートとなっている。

次戦は、舞台を雪上ラリーへと変える。バレンタインデーに重なる2月13日~16日に行われる「ラリー・スウェーデン」だ。

次戦もトヨタとヒュンダイの争いは接戦となりそうであり、今回はクラッシュでリタイアしたタナックも昨年優勝者として復帰する。果たして、どんな走りを見せるのか。オジェはトヨタに2020年初勝利をもたらすのか。楽しみが尽きない。<文/モータージャーナリスト・田口浩次>

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