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松木安太郎が、サッカー日本代表戦の解説で「絶対に諦めない」理由

日本サッカー史上初の「五輪で金メダル獲得」を期待されているU-23日本代表。

オリンピックイヤーとなる今年の日本サッカー界の行方を占う国際大会「東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権」が、1月8日(水)にタイで開幕した。

本大会は、2年に1度開催される23歳以下の選手たちによるアジアNo.1決定戦。今回は東京オリンピックのアジア最終予選も兼ねており、開催国の日本を除く上位3カ国に出場権が与えられる(日本が3位までに入った場合は、4位に出場権が与えられる)。

グループステージではA〜Dの4つのグループにわかれて総当たり戦を行ない、各組上位2か国がノックアウトステージに進出。東京五輪世代となるU-23のメンバーで挑む日本は、まずグループステージでカタール、サウジアラビア、シリアと熱戦を繰り広げる。

そこで、1月9日(木)に行われる日本VSサウジアラビア戦を前に、U-23日本代表の活躍が期待される今大会の展望や東京五輪世代の印象について、サッカー解説者の松木安太郎氏にインタビュー。さらに、松木氏の代名詞とも言える日本代表戦での「絶対に諦めない解説」について、その理由を聞いた。

◆「もっと個々の持ち味を」

ーー2020年、ついに東京五輪イヤーに突入しました。オリンピックの男子サッカーでは、“23歳以下”という制限があります。先日話を伺った中村俊輔選手や遠藤保仁選手が「この世代の選手たちには“特有の難しさ”がある」という話をされていました。松木さんは、東京五輪世代の選手をどう見ていますか?

松木安太郎(以下、松木):「かつてはU-23の世代は、まだまだ発展途上の選手とみられがちでしたが、昨今のU-23選手はチームで主力になっていないとダメな年代。もう23歳以下といっても“若い”とは思わないですよね。世界では中心選手になっている世代ですから。

それに今では、23歳以下の日本人選手も海外のリーグでたくさんプレーしている。ですから『23歳以下の代表だから…』という言い訳は、もう通用しない時代になっています。

今回の東京オリンピックで日本代表がメダルを狙えるチャンスは十分にある。その目標に向かって頑張ってもらいたいですね」

ーーメダルも期待される東京五輪世代の選手たちに求めるものや、何かアドバイスはありますか?

松木「『俺がこの試合をどうにかしてやる』っていう“ガツガツした選手”がもっと出てくるといいなと思います。そこが、東京五輪世代の日本代表に求めたい部分ですね。

みんな良くも悪くもジェントルマン。でも、ピッチの上では燃えたぎるようなガッツをもっとみせて欲しい。

個人の目標より、チームのためにプレーすることは、もちろん必要。ただ、自分の良いところはもっと押し出さなきゃ。もし、そのことが原因で和が乱れるようなら、チームで話し合って解決すればいい。そうしたプロセスが、チームの成長に繋がる。

だから選手たちが、自分の良さをもっと表現していけるような環境やチームづくりも必要。森保監督には、そういう競争も含めてチームを成熟させていただきたいですね」

ーー監督側の視点だと、チームのためにプレーしてくれる献身的な選手は大切だと思います。一方で、我を出しすぎる選手は扱いが難しかったりするのでしょうか? 監督業を経験されてきた松木さんは、その点をどうお考えですか?

松木「前へ行こうとする選手を止めるのは簡単だけど、前へ行かない選手を行かせるようにすることほど難しいものはない。だからみんな自分の良さをガンガン出したほうがいい。

“フォア・ザ・チーム”という言葉にとらわれず、どんどん個々の持ち味を出して欲しい。それでチーム内で衝突が起きたとしても、それを乗り越えることでチームは成長していくから」

ーー東京オリンピックを占う上で重要な「東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権」が、1月8日(水)からタイで開幕しました。同大会に臨むU-23日本代表の印象を教えてください。

松木「気になる選手はたくさんいます。食野亮太郎選手もそうだし、遠藤渓太選手に、橋岡大樹選手、田中碧選手、前線の上田綺世選手や小川航基選手も気になる。

日本代表は東京五輪への出場は決まっていますが、アジア勢に勝たないとオリンピックでメダルを取るのは難しい。だからその意味でも『東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権』で、優勝してもらいたいですね。

東京五輪世代の日本代表は“史上最強の五輪世代”と言っても過言ではない。選手の実力は十分あるので、あとはタイトルがついてくるかだけ。

いい選手が集まって“いいチーム”を作ることはできるけど“勝てるチーム”なのかというと、また別の話。だから、日本代表も“勝てるチーム”になってほしい。そうなるには、大会を通しての選手の成長やチームの成熟も重要になってくる。

タイで行われる今大会は、オリンピック前最後の公式戦。自分の持ち味を出しながらチームとして強くなるために、どんどん選手同士で意見をぶつけ合っていけるような雰囲気づくりも重要です」

◆「まずは点取り屋に頑張ってもらいたい」

ーー「東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権」で日本代表はアジアのチームと対戦します。松木さんが感じる、日本代表が“アジアで勝つ難しさ”を教えてください。

松木「南米やヨーロッパの強豪国では、同じ大陸のチームとの大会よりワールドカップ本戦の方が勝つのが楽だと言われています。

ワールドカップでは別の大陸や地域のチームがグループに入ってくるので、クジ運が良ければグループステージ突破の可能性もぐんと高まる。ただワールドカップより、ユーロやコパ・アメリカなど各大陸の大会で勝ち進む方が難しい。

なぜなら、お互いのチームのことを熟知していたり、練習試合でしょっちゅう対戦していたりするので情報も豊富。そんな国のナショナルチーム同士がぶつかり合う大会なので、ワールドカップの本戦と比べて勝つことが難しいと言われています。

しかも各大陸の大会では、優勝候補の強豪国をターゲットにして他のチームは研究して臨んでくる。

アジアの場合だと、ターゲットになるのは日本や韓国。他の国は『日本を崩せば、オリンピック出場への勝算が見えてくる』と、シナリオを描いて挑んでくるので、日本にとってはすごく厳しい試合になります。

今大会は、東京五輪世代の日本代表に、そうした相手を跳ね返す力があるのかどうかを知ることができる“非常に大事な試金石”となるでしょう。

選手個々の良さとチーム全体の成長が見られれば、オリンピックのメダルに手が届く可能性は大いにある。大会を勝ち進むためには、とにかく点をとらないといけないので、まずは点取り屋に頑張ってもらいたい。チームの得点源として小川航基選手や上田綺世選手の活躍に期待しています。

今回の日本代表には、フォワード登録の選手としてこの2名しか選ばれていない。だから、この2人が試合に出る可能性は高い。点取り屋がどれくらい活躍できるかが、今大会で躍進するためのポイントのひとつ。点取り屋にゴールを決めさせるための周囲のバックアップも大切です」

◆「“まさか”をみんなの力でつくっていくのもスポーツの魅力」

写真:JFA/アフロ
2019年12月28日 キリンチャレンジカップ2019 U-22日本代表×U-22ジャマイカ代表

ーー「東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権」で日本代表は、アウェーの環境での厳しい戦いが予想されます。これまで松木さんが解説者として参加した試合で、最も“アウェー感”を感じた試合を教えてください。

松木「スタジアムの停電や解説席のモニターの電源が切れたとか…解説者として参加したアウェーの試合では色々な経験をしました(笑)。

プレーしている選手たちも感じたと思いますが、やっぱり一番“アウェー感”を感じたのは『AFCアジアカップ2004』ですね。しかも、決勝戦は開催国の中国とでしたから。

あとは、2006 FIFAワールドカップのアジア最終予選のイラン戦(2005年)。10万人が収容できるアザディ・スタジアムでの試合だったんですけど、午後7時にキックオフなのに会場周辺が混雑して入れなくなるから午前9時ごろにスタジアム入りしないといけないなんてこともありました。

アウェーの試合では、ピッチ上空に紙飛行機が飛んできたり、国歌斉唱中のブーイングだったり、帰りの車をなかなか出してもらえなくて困ったこともありました。

海外での試合は何が起こるかわからない。アウェーはどこも大変でしたね」

ーーアウェーの厳しい試合で日本代表が窮地に追い込まれても、決して諦めることなく勝利を信じて解説し続ける松木さんの姿勢が印象的です。その諦めない気持ちはどこから湧いてくるのでしょうか?

松木「これは僕に限らないと思いますが、中継に携わるスタッフの皆さんも日本代表と一緒に戦っているという気持ちで試合に臨んでいます。

カメラマンもそうだし、中継に関わっているすべての方たちが日本を代表して現地に乗り込んでいる。選手はもちろん、現地に行くことが難しい日本代表サポーターの皆さんの思いを背負って、スタッフ全員で放送に臨んでいます。

そうした方々の気持ちを最前線で表現するのが僕ら解説の仕事。中継に携わる裏方の皆さんの頑張りも直接目にしているので、諦めることは絶対にできないですよ。

2019年のラグビー・ワールドカップでも、強豪相手の番狂わせなど“まさか”と思えるようなことがたくさん起きました。2020年のサッカー日本代表戦でも“まさか”がいっぱい起こるでしょう。その“まさか”をみんなの力でつくっていくのもスポーツの魅力のひとつだと思いますね」

ーーそうした諦めない姿勢を貫くようになったのは、いつ頃からですか?

松木「いつからって…もう、最初っからですね(笑)。それは選手のときから一緒。僕が現役のとき、アウェーで戦う環境はいまよりも過酷な時代だったから。いつもアウェー戦には『心して行くぞ』って気合を入れ直し、覚悟して向かっていました。

去年、ラグビー日本代表の稲垣啓太選手が“笑わない男”として有名になりましたけど、僕が現役のころはアウェー戦のピッチ上で誰も笑っていなかった。それが普通でした。昔の日韓戦は、今よりもっと殺気立っていたからね。コーチや監督も、アウェー戦で今以上のプレッシャーを感じていましたから」

ーーでは最後に、1月9日(木)に日本代表の初戦が行われる「東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権」の見どころを教えてください。

松木「タイは1月でも気温が30℃ぐらいあるみたいなので、選手の体調管理もポイントになるでしょう。現地の気候に慣れている“ダークホース”が出てくる可能性もあります。

日本が入ったグループBは中東の国が多い。1戦目のサウジアラビア戦は特に大切です。サウジアラビアは上位に行く可能性のあるチーム、カタールもワールドカップ開催が決まって国をあげて代表を強化している。シリアもアグレッシブに向かってくるチームなので気が抜けません。

『東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権』は、東京オリンピック代表のメンバーを決めるうえで重要な大会。オーバーエイジの3枠をフルに使うと仮定すれば、23歳以下の選手は15人しか残れない。今回選ばれた選手の半分は選ばれないので、代表入りをアピールしたい選手にとっては過酷なサバイバルになる。

また相手のチームはオリンピックへの出場権をかけて、躍起になって向かってくる。そのなかで、選手は自分の持ち味をアピールしながら代表で生き延びないといけない。色々なプレッシャーのなかで戦わないといけない厳しい試合が続きます。

さらに今大会だけではなく、その先にある自国開催の東京オリンピックで成果を残さないといけないというプレッシャーもある。オリンピックに向けて選手、チーム、そして国としても注目を集める大会になるんじゃないかな。それぐらい様々なものが詰まっている大会です。

日本はオリンピックの出場権は確保しているので、他の国からターゲットにされる。油断していると足元をすくわれる可能性もある。だから、心して大会に臨まないと。中途半端な気持ちで試合に臨んでボコボコにされたことも過去にあったので、そこだけは気をつけないといけない。

日本代表の選手たちには、自信を持って頑張って欲しい。今回選ばれた選手は日本代表のエンブレムやユニフォームで戦うんじゃなくて、自分自身の“中身”の部分で戦ってもらいたい。日本代表のユニフォームを着ているだけじゃ勝てないですよ、中身が伴わないと。精一杯戦える選手がどれだけいるか、今大会ではそこが肝心。だから、日本代表は心して試合に挑んで欲しい。そのぶん、我々解説陣も心して応援しています」

※番組情報:『東京五輪アジア地区最終予選 AFC U-23選手権』(テレビ朝日系24局で放送)
日本×サウジアラビア 2020年1月9日(木)よる10時5分~
日本×シリア 2020年1月12日(日)よる10時5分~
日本×カタール 2020年1月15日(水)よる9時54分~

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