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M-1グランプリ2019:会場が沸点に達した3つの瞬間と、前年王者が漏らした3文字

12月22日(日)に行われた「M-1グランプリ2019」。

©M-1グランプリ事務局

令和初となる今大会、結成13年目のコンビ・ミルクボーイが5040組の頂点に立ち“15代目王者”に輝いたことは、すでに多くの人が知る通りだ。

本記事では、決勝が行われたテレビ朝日スタジオの雰囲気をレポートしたい。

◆スタジオは、温かい雰囲気に包まれていた

記者がM-1グランプリをスタジオで観覧するのは今回が初めてだが、放送開始前からそのスタジオの雰囲気に驚かされた。

日本一の漫才師が決まる年に一度の特別なイベントということで、てっきり尋常ではない緊張感が漂うはりつめた空間を想像していたが、その予想は大きく裏切られる。

放送開始のおよそ10秒前まで行われた“前説”に登場したレギュラー・ザ☆健康ボーイズ(なかやまきんに君・サバンナ八木真澄)・バイク川崎バイクら人気芸人、そして、笑顔で明るく大きな声で客席に語り掛けるフロアスタッフたち。

彼らが作り上げる空間はとても温かく、「盛り上がってください!」という要望も、決して強いるようなものではない。

「笑いたいところで笑ってください」「声を出せる人は出してください」という姿勢により、観客たちがそれぞれ自由に笑い、自由に拍手し、自由に歓声を上げていいような空気が整っていた。

そんな“自由な観客”たちが、大会中もっとも沸いた場面。もっとも拍手し、もっとも歓声を上げた場面。

そのトップ3は、決勝ファイナルステージに残った3組の1本目披露後の“得点発表”の瞬間だった。

◆かまいたちの「660点」で会場中が歓喜

©M-1グランプリ事務局

M-1ファンにとって、かまいたちは特別な存在だ。

2017年にキングオブコントを制した彼らだが、その栄誉に満足することはなく、漫才とコントの2冠を目指し果敢にM-1に挑戦し続けてきた。

その努力。そして、「2冠をとって“ネタの神”になる」と語る自信に満ちた姿勢。さらに、審査員の松本人志も今回「圧巻」と評した、彼らの彼らにしかできない迫力の漫才。

これらをもって、たとえ一番の“推し”ではなくとも、多くのM-1ファンはかまいたちに対して“応援”を超えた“尊敬”ともいえる気持ちを抱かずにはいられない。

©M-1グランプリ事務局

しかし、2017年は総合4位、2018年は総合5位。かまいたちはこれまで、優勝候補と言われながらもM-1の決勝ファイナルステージの舞台に立ったことはなかった。

今年は、ラストイヤー。最後の挑戦。そのことは、観覧に来るほどのM-1ファンであれば、全員が知っていることだ。

いわば、かまいたちが“圧巻”の1本目を終えたとき、会場にいる誰もが彼らに「ファイナルステージに残って欲しい」、そして「もう1本見たい!」と思っていた、と言っても過言ではないだろう

そうしたなかで発表された、「660点」という得点。

審査員席向かって左端のオール巨人から順に93点・95点・95点・93点・94点と表示されていき、6番目・松本人志の「95点」が表示されたとき、“自由な観客”たちは一斉に叫ぶ。

続けて最後の上沼恵美子からも「95点」と出た瞬間、スタジオは文字通り“割れんばかりの”歓喜の拍手に包まれた。

2番手という早い登場順のプレッシャーを跳ね除け、660点という超高得点をたたき出したかまいたち。M-1ファンなら、すぐに分かる。「この得点は、ファイナルステージに確実にいける点数だ」と。

ラストイヤーにして、かまいたちが遂にファイナルステージ進出を決めたともいえる瞬間。それが、この日スタジオがもっとも沸いた瞬間の一つ目だ。

◆スタジオに“波”を起こしたミルクボーイ

かまいたちの高得点により、盛り上がりのギヤを一段上げたスタジオ。

その後も、和牛の敗者復活決定、彼らの「652点」というかまいたちに続く高得点、そして、初の決勝進出組・すゑひろがりずによる非常に“めでたい”ネタなどにより、ギヤはどんどん上がっていく。

その加速が少し落ち着き始めた頃に登場したのが、7組目のミルクボーイだ。

©M-1グランプリ事務局

話題沸騰の1本目「コーンフレーク」ネタ。その“ウケ方”は、尋常ではなかった。

記者は観客席の最後列の右端、つまりスタジオ全体を見渡せる位置に座っていたが、そこから見える観客席は、まるで“波”のよう。腹を抱えて爆笑し前後に揺れる観客たちが、“波”をつくっていたのだ

観客の誰もが手を叩き、大声を上げて笑うことで、最高潮に盛り上がったタイミングでは少し漫才の声が聞こえなかったほどの大爆笑。

そして、その余韻が残ったままの状態で発表された「681点」というM-1史上最高得点。

このときスタジオは、「歴史的瞬間に立ち会えた」というような喜びに包まれていた。もちろん、大歓声・大拍手の音とともに。

ただ記者はこのとき、「今回のM-1のピークは今だ」と感じた。これほど盛り上がるのは、最後の優勝者発表の瞬間までもうないだろうと。

しかし、最後に登場したぺこぱによって、嬉しいカタチで裏切られることになる。

◆みんな好きになっていく…。ぺこぱの大逆転

7組目のミルクボーイの後に登場した、8組目のオズワルドと9組目のインディアンス。

この2組もネタ中何度も爆笑をとっており、彼らによってスタジオが“盛り下がった”ということは決してない。しかし、ミルクボーイ・かまいたち・和牛という上位3位に食い込むことはできず、ファイナルステージへ向けた結果が動かなかったため、スタジオは少し落ち着いた雰囲気になっていた。

「このまま最後の10組目が終わって、ミルクボーイ・かまいたち・和牛でファイナルステージかな…」なにせ、7組目に大・大・大爆発があった後のこと。なんとなくだが確実に、そんなムードが漂っていたのだ。

その雰囲気は、ぺこぱが登場し、ネタを始めてしばらくしてからも続いていた。

©M-1グランプリ事務局

後に審査員の立川志らくは、「はじめは嫌いなネタかと思ったけど、どんどん好きになっていった」とコメントしているが、“嫌い”とまではいかなくても、観客のほとんどは最後の最後に出てきた強烈な“キャラ芸人”に最初は戸惑っているような雰囲気だった。

しかし、キザな松陰寺太勇が“ノリツッコまない”ツッコミ、ボケた相手を肯定するような優しいフレーズを次々発していくたび、スタジオに響く笑い声は次第に大きくなっていく。そして、観客がどんどん、彼らのことを「好きになっていく」のを肌で感じた

©M-1グランプリ事務局

そして結果はご存知の通り、和牛を逆転する「654点」。まさか最後に順位が入れ替わるとは…。スタジオは、驚きの大歓声、喝采で大いに沸く。

記者自身は、逆転はないだろうと思ってしまっていたぶん、反省の気持ちも込めて大きく強く拍手した。同じような人は少なくなかったはずだ。そうして、かまいたち・ミルクボーイの得点発表時と並ぶ盛り上がりの瞬間となっていた。

◆M-1グランプリは「エグい」

落ち着いていた会場のムードが、ぺこぱの漫才によって一変した直後のこと。

これから始まるファイナルステージへの期待で会場の誰もが胸を躍らせているなか、CM中に顔見知りのスタッフを見つけた前年王者・霜降り明星のせいやは、「M-1ってやっぱエグいっすね!」と嬉しそうに話しかけていた。

「エグい」とは、彼がバラエティ番組などでも頻繁に使う口癖だ。

あくが強く、喉や舌を刺激するような味“えぐみ”が語源であるこの言葉は、本来はネガティブな表現で用いられるが、「やばい」という言葉がポジティブな意味でも使われるようになったのと同じく、昨今では若者の間で何かを褒めたたえる際に用いられるようになってきた。

単なるポジティブな一言では表現できないほど刺激的で凄まじい、すなわち「エグい」といったところか。

©M-1グランプリ事務局

M-1は、まさにエグい。

最後の挑戦者が勇姿を見せたり、新しいスターが誕生したり、たった4~5分で“嫌い”から“好き”になる感情を味わえたり…。いくら言葉を並べても表しきれないほどの刺激に満ちあふれている、凄まじい大会だ。

ただし、これははっきりと言えるが、その凄まじい大会の軸は最初から最後まで「笑い」でしかない

これほど平和で素敵なことがあるものかと、最後の最後の最後、放送終了後の壇上で松本人志がミルクボーイのボケ担当・駒場孝を「HG!」と呼んで会場の爆笑をとっているときに感じた。

©M-1グランプリ事務局