「ミスしたら小学生にも負ける」一発勝負の過酷なスポーツ・トランポリンの知られざる世界
11月28日(木)に開幕した「第34回世界トランポリン競技選手権大会」。東京五輪と同じ会場で開催されている同大会は、個人決勝に進出した上位8名(1か国最大1名)の選手に五輪出場枠が与えられる大一番だ。
昨日29日(金)に行われた女子団体決勝では、日本が初の金メダルを獲得するなど、今後の日本勢の活躍も期待される。
トランポリンは地上7~8メートルほどの高さまで跳びあがり、空中で10種類の技を連続して実施。その技の難度や美しさ、高さを競い合う。
軽やかな身のこなしで空中を優雅に舞うトランポリン競技だが、実はおよそ20秒ですべてが決まるシビアな世界となっている。
そう教えてくれたのは、2012年ロンドン、2016年リオ五輪に出場したトランポリン元日本代表選手の伊藤正樹氏。
長年第一線で活躍し続けた伊藤氏に、トランポリン競技の意外な過酷さ、そして魅力を聞いてみた。
◆「ビルの3階にいる人と目が合う」
――トランポリンの楽しさや魅力を一言でいうなら何でしょうか?
伊藤:サーカスのようなアクロバットな技の連続で、美しさも高さもあり、見た目には華やかで楽しそうなスポーツです。
その反面、選手たちは、一発勝負の緊張感や「点数がどれだけ出るのか…」という不安の中で戦っているので、意外と見る方とやる方でギャップがあるスポーツなのかなと思います。
――ひとつのミスが命取りになるので、かなり緊張感はありますか?
伊藤:そうですね。採点競技の中でもトランポリンは特にやり直しがきかないスポーツです。
たとえオリンピック選手でも10個の技を実施できなければ、小学生にも負けてしまうような競技なので、まず10個やり切らなければならない。ここがシンプルだけれど難しいところです。
――そもそもトランポリン選手はなぜあんなに高く跳べるのでしょうか?
伊藤:男子だと、ビルの3階にいる人と目が合うくらいまで高さが出ます。ただ、今のトランポリンのトレンドは、高く跳ぶだけではなく、難しい技を成功させて、なおかつ美しく跳ぶということ。
それを全部やるのは相当難しいですが、世界のレベルはどんどん上がっています。一昔前より誰が勝つかわからないので、見ていてかなり面白いと思いますよ。
――体にかかる負荷はかなりありそうですが?
伊藤:跳んでいる側からするとあまり感じないですが、科学的には1トン~2トンくらいの衝撃がかかっていると言われているので、思っているより過酷な競技です。
10個の技を実施しなければならないという緊張感もあるし、肉体的にもかなりの負荷がかかっているので、意外と楽しく跳んでいるだけではないという競技です。
――恐怖や怪我のリスクもある中で、どんなことを意識しながら跳んでいますか?
伊藤:選手によってそれぞれだと思います。まず10個の技を実施できるか不安に思いながら跳んでいる選手もいれば、10個の中で、ここは苦手だから絶対頑張ろうとか、ここを美しく跳ぼうという風に考えている選手もいると思います。
――一発勝負に向けて、メンタルコントロールのトレーニングはしていましたか?
伊藤:僕はトレーニングというほどはやっていませんでした。ただ、経験というか慣れは必要です。
こういう状況ならこうなるとか、どんな時に成功してどんな時に失敗したかというのは、たくさん大会に出ることでわかってきます。
本番の緊張感も大会に出てみないとわからないので、本番でどれだけ自分のものにできるかは大事なところです。
◆より美しく、より高く、より難しく
――初心者が観戦するうえで注目してほしいポイントなどはありますか?
伊藤:まずは10個の技を連続で実施できるかどうかが重要なポイントです。難しさとか美しさはわかりにくいと思うので、どれだけ着地点が真ん中から移動したかを見てみてください。
また、個々の技にも注目してみて「同じ技だけど、この選手の方がきれいだな。ひねりがうまいな、回転がスムーズだな」というのがわかると、面白みが増えてくるかなと思います。
――選手の実力差が一番現れるところはどこですか?
伊藤:美しさでいうと、同じ技でも練習量が少なかったり完成していなかったりすると、演技の後半で膝が曲がったり、高さが下がったりすることがあります。
トップ選手はそこをうまくつなげて、減点の幅を少なく正確にやってきます。“より美しく、より高く、より難しく”というのがトランポリンの採点項目なので、そこをどこまでできるかがメダルの色を分けるポイントです。
◆日本勢は悲願のメダルも夢じゃない!
――今大会の日本人選手で、活躍が期待される選手について教えてください
伊藤:男子は堺亮介(22)です。今月の全日本選手権で優勝して、今大会の予選でも日本勢最上位と右肩上がりなので期待が持てますね。
女子だと森ひかる選手(20)。成績は安定していて、ワールドカップでも2戦連続でメダルを獲得しています。決勝どころかメダルも期待できますよ。
――最後に、今回の世界トランポリンの見どころを教えて下さい。
伊藤:今大会はオリンピックの枠がかかった大事な試合です。まず決勝に行くことが一番のミッションなので、日本人が何人決勝に行けるのか、誰が決勝に行くのかが一番の見どころです。
そして、来年2020年の東京オリンピックを見据えて、メダルを取れるかどうかにも注目して見てください。
はなやかに見えて、意外と過酷、そんな魅力が詰まったトランポリン競技。個々の選手の着地や姿勢などに注目しながら今大会の行方を見守ると、より一層楽しめるかもしれない。
※番組情報:「世界トランポリン東京2019」
<CSテレ朝チャンネルで生放送>
11月 29日(金)夜7:25~9:20 トランポリン団体決勝
11月 30日(土)昼2:55~5:10 トランポリン個人準決勝
11月 30日(土)夜6:20~7:50 トランポリンシンクロ決勝
12月 1日(日)昼3:10~5:10 トランポリン個人決勝