未来のカギを握る2人の30歳。食べチョク代表・秋元里奈&前つくば市副市長・毛塚幹人が考える“新しい地方と都市の関係”

テクノロジーの急速な進化、新型コロナウィルスの感染拡大による生活様式の変化、地域格差や環境破壊の深刻化など、この数年の間に地球規模の社会課題が次々に顕在化し、複雑化する今、変化に適用する柔軟性、そして時代の流れを捉え、実行に移す行動力を持つ人材が強く求められている。

農家と消費者をつなぐサービス「食べチョク」を立ち上げた秋元里奈さんと、歴代最年少となる26歳でつくば市の副市長に任命され、地方都市の先進的な取り組みを次々に実行してきた毛塚幹人さんは、まさにそんな時代の寵児ともいえる若きイノベーター。

2019年にはForbes JAPANが毎年行っている世界に大きな影響を与える30歳未満の30人を選出する「30 UNDER 30 JAPAN」に選出された2人は、今年ちょうど30歳を迎えた。

それぞれ別の角度から地方と都市の関係にアプローチし、その理想的な関係や、地方創生の方法を模索し実行してきた秋元さんと毛塚さんは今、どんなことを考え、何を実践しているのか?

本記事では、7月23日にオンライン開催されたイベント「DEPARTURE 2021 SUMMER-U30がつなぐ未来-」のイベントレポートを通して、2人の生い立ちから、食べチョク、つくば市での活動内容、そして、地方と都市の新しい関係や、共生社会の理想像などについての想いを紹介する。

◆漫画家志望のおとなしい女の子が組織のリーダーに

農家や漁師などの生産者と消費者をつなぎ、野菜や水産品などをオンライン販売するサービス「食べチョク」の代表として日々の業務をこなし、生産者とのオンライン通話を毎日欠かすことなく行い、報道番組のコメンテーターとしてテレビにも出演…と、多忙を極める秋元さん。

今の活躍ぶりから、幼い頃からクラスのリーダー的存在の積極的なキャラクターだったのでは?と想像してしまうが、意外にも幼い頃の夢は漫画家。

「内気で、あんまり前に立つようなタイプではなかったんです」、「名探偵コナンが好きで。好きすぎてマンガを描いていました」と自身の幼少期を振り返る。

そんな彼女がリーダーとしての才覚を見出されたのは慶應義塾大学在学中のこと。大学3年の時に入った学園祭実行委員会で、真面目に定例会議に出席していたのが秋元さんひとりだったことから、成り行きでステージ運営のリーダーを務めることになったという。

秋元:「“消去法”でリーダーになったんです。リーダーをやってみたら、自分の力でみんなをまとめて、ひとつのことを成し遂げるって良いな、と思って、そこから興味を持つようになりました。そこで性格が変わりました」

大学卒業後に就職したのはDeNA。

もともと大学での専攻が金融工学だったため、金融機関へ就職をめざしていた秋元さんだったが、学園祭の経験を通して、このまま金融機関に就職すべきなのか、疑問を感じるようになったという。

秋元:「ちょうど就職活動の時期にDeNAの創業者・南場智子さんの講演を聴く機会があって。1年目から打席に立って挑戦できる環境を求めてDeNAに就職を決めました」

秋元:「入社して半年で営業チームのリーダーになったんです。経験も技術もない中でやる、成功確率50%の仕事をふる、っていうのを南場さんは言っていて、残りの50%を埋めにいく努力をすることで、気づいたら人は成長していく、仕事でしか人は成長しないからとにかく打席に立たせる、という組織でした」

DeNA時代は週10回とかたくさん飲み会に行って、人脈を広げていたという秋元さん。

秋元:「(飲み会や集まりに)誘われたら断らない、と決めていました。なるべく多くの人の価値観に触れたい、と思って新卒の頃に他部署の先輩に連絡したりして、社内外の人脈を広げていきました」

DeNAで数多くの企画に携わり実績を積み上げていった秋元さん。それでも入社から3年が経ってもなかなか自分が一体何をやりたいのか見つけられずにいたという。

秋元:「そんな時に、実家の畑に帰ってみたら、すっかり荒れ果ててしまっていて。中学校の頃に廃業してしまっていて畑は楽しい場所ではなくなってしまっていたんです」

実家の畑から感じとった日本の農業が抱える問題点を秋元さん自身の“足”を使って調べていく過程で、農業のために何かできないか、という想いが強くなったという。

秋元:「農家さんを回ってみると色んな課題があることも分かってきて、DeNAで培ったITの知識や経験を使って何かできないか?と思って、起業することになりました。最初は社内で起業する、週末やる、農業系の企業に転職する、の3択だったんですが、すでに起業していた年下の友人に、やらない理由は歳を重ねるごとに増えていくから、今やらないなら一生やらない、と言われて。その友人と話した1時間の間に、起業することを決めました」

◆人生は「逆張り」あえて反対を選ぶことで、切り拓いてきた人生

一方の毛塚さんも、どちらかというとコミュニケーションが苦手なタイプの学生だったという。

毛塚:「自然が大好きで、口下手な中学生でした。子供の頃は行政で働くなんて思っていなかったんです。科学が好きで自然が好きで。高校時代は理系だったんです。植物学者とか、自然を守るような仕事をしたいと思っていました」

宇都宮の田舎で自然に囲まれた地域で育ち、植物図鑑をながめるのが好きだった毛塚さんは、理系科目が得意だったにもかかわらず、あえて東京大学法学部への入学を選ぶ。高校の友人たちが研究者になるなら、自分は研究に専念できる環境を行政の立場から応援できないか、と考えての進路選択だったという。

毛塚:「自分が何に人生をかけたいかな、と思った時に、自分が東京に出て改めて地方と東京のギャップを強く感じるようになって、そこが自分のミッションなんじゃないかと思い始めました。省庁への就職を目指してはいましたが、大学卒業の頃にはもう地方都市の仕事をやりたいと思うようになっていたんです。でも最初から地方に行ってしまうこれまでのやり方ではない、違うアプローチをとらなくてはいけないんじゃないかと思って、国のお金が関わる場所で国家の動き方の根本を知りたくて財務省に入りました」

将来自分がどんなことをしたいか? そのためにどんな経験やキャリアが必要か? これらを逆算して、あえて回り道をする“逆張り”の人生の選択をしてきた毛塚さん。財務省ではG20やIMFの国際交渉や、税法を変えるための法改正に伴う関係各所の調整など、重要かつ細やかな調整を伴う業務を担当していたが、2017年に転機が訪れる。

毛塚:「学生時代にインターンで関係性があった今のつくば市長が当選して、電話がかかってきて、4年ぶりにタッグを組んでやらないか?と誘われたんです。最初は悩みましたが、自分が本当にやりたいことに直結すると思って財務省を退職してつくばに行きました。こういったチャンスはもう来ないかもしれないと思って覚悟を決めました」

◆“足”で築いた信頼関係 「食べチョク」のユーザーは1年で43倍に

起業をすると決めた秋元さんのスタートは決して楽なものではなかった。

秋元:「事業を立ち上げるノウハウ以外は何も持っていなかったですし、一緒に働く人も集まらないし、生産者さんの信頼もなかったので、何もなかったです」

秋元さんが最初にぶつかった壁は、「どうやって農家の方々の信頼を得ていくか?」という根本的な課題だったという。

秋元:「当時、農業の領域ってIT企業が数年やって撤退するというのが続いていて、どうせあなたもすぐやめるんでしょ、と思われてしまう。熱意を分かってもらうためには時間をかけてやらないと、と思っていました。夜行バスで全国の農家を一軒一軒回って。最初は一緒にたまねぎを植えるところから始めました」

ある意味泥くさく“足”で回って1軒ずつ生産者との信頼を築いていくことを粘り強く続けていった結果、ようやくサービスは軌道に乗り始める。一緒に働く仲間も増え、サービスとしての規模も拡大していった。

一方、歴代最年少26歳という若さでつくば市の副市長に着任した毛塚さんも、人間関係の構築には色々な試行錯誤をしてきたという。

毛塚:「市の職員の方々との信頼関係をつくるために、残業して明かりがついている部屋を確かめて、そこに差し入れを持って行って話をしたりもしていました。今の若い職員は飲み会に行きたくない人もいますし、例えば休日に筑波山に一緒にのぼりに行ったり、ランチをご一緒したり、飲み会以外のやり方も模索していました。私のような若いよそ者は成果が伴わないと地域でもなかなか信頼してもらえないので、短期間で成果を出せるように着任する前から100日計画を作ったり取り組みの初速も大事にしていました」

毛塚さんは副市長を引き受けるときから「一期限り」と決め、4年間で兆しが出ないのなら可能性がないくらいの気持ちで、徹底的に4年間副市長の仕事にまい進。科学のまち・つくばの力を引き出して、つくばの研究所の活動を産業に結び付け、持続可能な町にしていく仕組みづくりを次々に実行していった。

◆地方の魅力を再認識できる社会を目指して

秋元:「サービスがやっと育ってきてようやくスタートラインに立ったという感じです。今は生産者さんの販路拡大のお手伝いをしています。去年コロナの感染拡大が本格化し始めた頃から、生産者さんからたくさんのSOSが来ました。社員みんなが生産者さんの方向を向いて仕事をしていて、たった1日でこれまでの1か月分に匹敵する量の注文が入るような状況にもなりましたが、何とか乗り越えて、去年1年でユーザー数が43倍に増えたんです」

サービスが軌道に乗り、生産者の登録数、ユーザー数も順調な伸びを記録している食べチョク。

そんな中で秋元さんがこの先目指したいことは、世の中の人々が「地方の魅力を再認識すること」だという。

秋元:「地方と都市が補完関係にあるのが理想で、地方の魅力を改めて認識することが大事だと思っています。地方の魅力の一例でいうと、地域のネットワークの強さ。地方で暮らす人にとっては当たり前で気づいていないことを、魅力として再認識して活かしていくことが大切なんじゃないかなと。一方で都市の価値って利便性とか人が多いとか、誰にとっても分かりやすい点が魅力だと捉えられてきたけれど、価値観が多様になってきた今、眠っていた魅力にあらためて光を当てられる可能性もあると思っています。

自分には、こういう世界を創りたいという想いがあって、自分の存在は、その自分がつくりたい世界を創るための駒みたいな感覚です。2030年までに、私は第一次産業を変えたいと思っています。日本の第一次産業をいかに維持していけるかについて、民間の立場から貢献していきたいと思っています」

◆都市は「経営」する時代。「経営」の思想こそが地方の可能性を拓く

今年3月末で4年間の副市長の任期を終えた毛塚さんが今取り組んでいるのは、民間の立場から地方行政にアプローチしていくこと。

毛塚:「今は民間の立場で、色々な地域の政策をつくったりしています。既存の行政組織だけだと斬新な政策をつくりにくかったり、新規事業に取り組みにくかったりするので、そこをお手伝いしている感じです。外から行政を動かすことをやってみると、こんなに動かないんだと感じる。それは自分が副市長の時に市民の方々が感じていたことだと思うんです」

そんな毛塚さんの将来の目標は、“都市経営”という仕事を日本の社会に根付かせることだという。

毛塚:「自分は“都市経営”を仕事として日本で確立していきたいと思っていています。例えばアメリカでは市長とは別に“シティマネージャー”という仕事があるんです。その人は選挙で選ばれる政治家ではないんですが、都市経営のプロとして色々な地域を渡りながら、地域に合った政策を展開していく仕事で。そういう仕事を日本にも根付かせたいと思っています」

毛塚:「今の日本は、制度疲労もあって、世の中を変えていくときに国家レベルのトップダウンでもはや動けないんじゃないかと思っています。唯一の希望がそれぞれの個人や企業の挑戦で、それこそが突破口を開けていくと思っています。地方で良い事例ができるとそれが全国に広がっていったり、スタートアップでいい事例があるとマーケットが一気に変わっていったり。そういう突破口を開けていくことに答えがあると思うので、挑戦を全力で応援する社会にしていきたいと思います」

さらに、毛塚さんは同じ歳の起業家・秋元さんに対しても大きな期待を寄せているという。

毛塚:「秋元さんのような方と行政がコラボレーションできるともっと希望を持っていけると良いなと思うんです。今まで企業経営をしてきた人を行政に巻き込みながら、地域を変えていくことが大事だと思っています。実はもうここ数年で民間の方は行政に入っているけれど、まだ試行錯誤の段階。“経営”という考えのもと、地方都市で色々な施策を実現させていくことで、地方の魅力は発信できると思います」

別々の経歴を歩んできた2人の30歳イノベーターが今目指すのは「地方の魅力の再認識と発信」。

固定概念にとらわれることなく、行政や民間の枠組みを超えた取り組みにより、新しい地方と都市の関係が生み出されていくのかもしれない。

もっと良い未来の社会を築くためのヒントとなるメッセージが詰まったトーク内容は、これからの社会を担うU30世代はもちろん、先人のオトナ世代にとっても、新しい時代へと漕ぎ出す「船出=DEPARTURE」のきっかけになるだろう。

※イベントのアーカイブ動画はテレビ朝日公式YouTubeチャンネルからご覧いただけます。

DEPARTURE 2021 SUMMER 特設サイト

DEPARTURE 2021 SUMMER 公式Twitter 

なお、8月29日(日)午後2時からは、「DEPARTURE 2021 SUMMER」の第3弾企画として、「子どもの貧困」の本質的解決に取り組むNPO法人、Learning for All 代表理事・李炯植(りひょんしぎ)さん、世界を舞台に活躍中のバレリーナ・永久メイさんらが出演する「世界で活躍するU30」をテーマにしたトークセッションイベントの開催が決定。

テレビ朝日公式YouTubeチャンネルにてライブ配信予定となっている。

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