表参道で人気の“廃タイヤから作るカバン” 仕掛け人が重視する「じつはエコでした」のバランスと、キャッチーなストーリー

持続可能(サステナブル)な開発目標――。

聞き慣れない言葉かもしれないが、「SDGs」と言い換えれば、耳にしたこともあるだろうか。

「SDGs」とは、2015年の国連サミットで採択された、よりよい世界を目指すための国際目標を意味する言葉。貧困問題や不平等、環境問題などの課題について、17のゴールを定められている。

日本でも政府や多くの企業がSDGsに取り組んでいるが、実際どのような活動が存在するのか、いまいちピンとこない人も多いかもしれない。

そこでテレ朝POSTでは、SDGsに関連する取り組みを行っている「企業」や「人」を“詳細に”取材、発信していくことで「SDGsの実態とは」を浮き彫りにする連載企画「SDGsの輪郭」をスタートする。

今回紹介するのは、タイヤやビニール傘など廃棄された素材を、洗練されたプロダクトへと生まれ変わらせる株式会社モンドデザイン。

廃棄物を資源化する“リサイクル”とは異なり、元の素材の価値を高める形で新たなものを生み出す“アップサイクル”を行っている会社である。

主力ブランド「SEAL」は、廃タイヤを素材に使ったカバンを展開しているほか、売上の一部をWWF(世界自然保護基金)ジャパンなどに寄付。これを継続している。

レザーのような質感は高級感があり、タイヤの性質上、防水性と耐久性が高く、エコな視点を抜きにしても、高いクオリティとデザイン性を併せもつブランドだ。

自然環境に関する番組の多い『ディスカバリーチャンネル』、特撮作品『仮面ライダードライブ』、アーティストのMAN WITH A MISSIONなど、ときには幅広いジャンルのコラボ商品も展開しながら、徐々に固定ファンを増やしてきた。

「ただ廃材を組み合わせるだけではなく、ストーリーをもつプロダクトを作りたい」。こう語る代表の堀池洋平氏はなぜ、エコビジネスに着目したのか。そして、彼らが目指す世界を聞いた。

◆防水性と耐久性を兼ね備える一点物のカバン

きらびやかな表参道。駅から徒歩約7分、高級セレクトショップが立ち並ぶ骨董通りから少し入った路地裏に「SEAL」の看板を掲げた表参道本店がひっそりとたたずむ。

店内には黒のレザーバッグが並んでいる…かに見えるが、じつはこれらのカバンの素材は廃タイヤのチューブ。デザイン性は高いが、近隣の高級店に並ぶ商品と比べ、良心的な価格設定だ。

売れ筋の商品は、1万円台のカジュアルなワンショルダーバッグ。顧客たちはどのような点が気に入って購入しているのだろうか。

「デザインと使い心地、価格のバランスがよいと言っていただくことが多いです。まず、クルマのタイヤのチューブを再利用しているので、防水性と耐久性が高い。そして、長年道路を走り込んだ後に廃棄されたタイヤなので、多くの溝が刻まれています。

年間で1万本ほどの廃タイヤを使っていますが、さまざまな場所から仕入れており、すべてのタイヤが違う表情をもっている。おのずとカバンも世界にひとつだけの一点物になるので、その部分を気に入っていただく方も多いですね」

近年、高機能な化学繊維の素材が開発され、アウトドア用品に留まらず、街着やカバン、クツなどにも防水性を望む人は多い。しかし、それらの化学繊維素材の製品は、大量生産されるため均一的になってしまう。つまり防水性や耐久性が高く、さらに一点物であるSEALは貴重な存在だといえる。

「ブランド名『SEAL』の意味は『印鑑』。日本人にとっては意味深い印鑑のように、一点物をもっていただきたいという思いから、この名前に決めました」

2006年、堀池氏は26歳で創業し、翌年にSEALブランドの販売を開始。2011年には路面1号店の「SEAL表参道本店」をオープン。現在は、基本的には卸売を行わず、直販にこだわってビジネスを続けている。

「商品がもつ物語や性能を知っていただいたうえで、購入していただきたいと思っています。こういった商品の場合、1万人に買っていただくよりも、1,000人の方にコアなファンになっていただくことを目指した方がよいと考えている。

SDGsを意識した活動は、長く続けないと意味がないですよね。一過性の大きな売上よりも、根強いファンに繰り返し買っていただくことが、長続きさせるためには重要だと思います」

この施策は実を結んでおり、現在の顧客のリピート率は約40%にのぼる。しかし、顧客とのコミュニケーションを重視して製品の物語を共有する一方で、「エコを理由に買っていただこうとは思っていない」と断言する。SDGsの機運の高まりは追い風のようにも感じるが、いったいなぜなのか。

「アップサイクルというエコな視点に価値を置く方もいますが、それがカバンを買うメインの理由になる人の数はまだまだ少ないのが現状だと思います。あくまで前提はデザインと機能、価格で選んでいただく。その後で、実はエコなんだ、と知っていただいたり、環境問題やアップサイクルに興味をもっていただくきっかけになったりしたらいいかな、という考えです。

実際にカバンを使ってくれた人から、仕事相手との会話で『このカバン、じつは捨てられたタイヤが素材なんですよ』と、話がひろがるきっかけになったと聞いたときは嬉しかったですね」

◆アイデアと職人魂をかけ合わせてストーリーを紡ぐ

“エコ×デザイン”の視点を武器にプロダクトを仕掛ける堀池氏の原点は、生まれ育った土地、福島県にある。幼い頃のある経験から、漠然と「将来は環境問題に取り組んでみたい」と考えていたという。

「小さい頃は近くの湧き水をよく飲んでいたのですが、小学2年生の頃に先生から『湧き水を飲んではいけない』と言われたんです。山の上にゴルフ場が作られたことで、そこで使われた農薬が山の下に流れてきていると。この鮮明な記憶が土台となって、エコや環境問題に興味をもつようになりました」

しかし、その思いが即座に行動につながったわけではない。環境意識が低い時代には、気軽に手を出せる取り組みがまだまだ少なかったのだ。

「環境問題に関するボランティアに踏み出すほどの意識の高さはなかったですし、環境に貢献するプロダクトを買おうと思っても、高額な物が多く、結局、自分のお金を払ってでも買いたいと思えるものがありませんでした。

だったら、自分で作ったらいいのではないかと思ったのが、起業をするきっかけでした。どうせ仕事をするなら自分の関心に近いことをやりたい。また、ビジネス的な観点からも、そういった分野の仕事は将来的に増えていき、廃れないのではないかとも考えました

2000年代前半に、レオナルド・ディカプリオがアカデミー賞授賞式にプリウスで登場して大きな話題となったときには、社会の意識の変化を感じました。起業をしようと考えたきっかけのひとつだったと思います」

そして2006年、広告会社に勤めていた堀池氏は26歳で会社を設立。翌年には廃タイヤが素材のカバンの販売を開始した。

「最初からタイヤに着目していたわけではなく、まずは世の中にはどんな廃材があるのか、探すところからはじめました。すでに世界的に人気なスイスのバッグメーカー・フライターグの場合は、トラックの幌(ほろ、荷台にかける布)を素材にしているわけですが、日本で作る場合はどんな素材がよいのか。

ウェットスーツや工事現場の廃材、ぬいぐるみやクルマの部品…と、いろいろと探したなかで出会ったのがタイヤでした。一定の廃棄量があって、耐久性も高い。バッグの素材としてよいのではないかと感じたんです」

廃タイヤをバッグに…という試みは新鮮な一方で、いざ作る段階になると、誰もやったことがないだけに、高い技術力と柔軟性が要求される。堀池氏は「この仕事を受けてくれる職人さんがなかなか見つからず、100軒ほど問い合わせてなんとか見つかった」という。

そして現在、SEALのプロダクト製造を主に担当するのは、カバン職人を束ねる株式会社アライブの代表、若山浩三氏だ。新しい素材に取り組む難しさに「職人魂をくすぐられた」のだという。

「革の加工に近い感じもありますが、他の素材に比べると手間がかかってしまいます。まずゴムは分厚いので、縫うためにはすいて薄くする必要がある。次に、滑りが悪いのでミシンにくっつきやすく、スムーズに縫うことができない。そして、元がタイヤだからすべてのゴムが湾曲していて、組み立てる際にも微調整が必要です。

それぞれの工程で手間がかかりますが、ただ、新しい素材と向き合う瞬間に『これはどうしてやろうかな』と四苦八苦する瞬間が、おもしろい。難しければ難しい素材ほど、職人魂がくすぐられる。それが今の仕事を続けている理由のひとつです」(若山氏)

キャッチーなストーリーをもつSEALのプロダクトは、廃材を利用するアイデアとデザイン力、日本の職人魂で磨き上げられた結晶なのである。

◆少なくとも10年続けないと意味がない

堀池氏がSEALブランドの素材を廃タイヤに決める際、素材の供給量や性能に加えて重視したのは廃タイヤがもつ“イメージ”と“ストーリー”だった。

「廃タイヤって“環境悪”みたいなイメージがあると思うんです。野原に積み上げられて景観を損ねたり、タイヤに貯まる水で虫が増えて感染症の媒介になったり…。いままで捨て去られて見向きもされなかった存在を、有効に活用する。

このストーリーはキャッチーで伝わりやすいと感じました。以降、SEAL以外のブランドでも、ただなにかの素材を組み合わせるのではなく、ストーリーを感じさせるプロダクトを作ろうという気持ちは強いです」

そんな思いから、2020年には新ブランド「PLASTICITY(プラスティシティ)」の開発を行う堀池氏。捨てられたビニール傘をバッグや帽子にリメイクして商品を展開している。

「ビニール傘は年間に8,000万本廃棄されるといわれていて、実際に傘を使い捨てたことのある人も多いと思います。分解して再利用するのが難しい傘をプロダクトにできれば、資源を有効活用するイメージをもちやすいと感じ、商品化を決めました。

もともと防水性が高い素材ですが、何枚もビニールを重ねて圧着する、世界初の特殊加工法を開発。なるべく素材をそのままの形で使うことで、製造工程でも環境負荷をかけないかたちをとっています」(堀池氏)

鉄道会社などから忘れ物の傘を買い取るほか、現在は消費者からの買い取りも行っている。傘からビニールを取り外し発送。同社の通販サイトにアカウントを登録することで、ビニール1枚につき100円相当のポイントが付与される。今後は他社ポイントや電子マネーへの交換も視野に入れているという。

その結果、ブランド発足から1年以内に約1万本の傘を回収し、約2,000個のバッグを販売した計算だ。

しかし、PLASTICITYが画期的なのは取り組みの新しさだけではない。ブランドを共同で手がけるクリエイターの齊藤明希氏は、堀池氏とともにモンドデザインで働いていた過去をもつ。SEALというブランドへの思いが受け継がれた証ともいえる。

「もともとうちで働いていた齊藤さんが、カバン作りの専門学校に通いはじめ、学内コンペで出した企画がビニール傘を再利用したバッグでした。話を聞いて見に行ったらクオリティが高かったので、モンドデザインで製品化することになったんです」

プロダクトを通じて、環境問題に興味をもつきっかけを作る――。

SDGsを考えるきっかけをデザインし続けているように見える堀池氏だが、「エコ」や「サステナブル」を追求しすぎることで「“便利な暮らし”を捨てる方向には行くべきではない」と警鐘を鳴らす。

「ビニール傘を有効活用するブランドを運営する私自身、突然雨に振られてビニール傘を使うことだってあります。エコだからといって、傘を使わずに風邪をひけば本末転倒で、よいバランスを考えていく必要がある。

一時的によいことをするのではなく、それぞれのできる範囲で活動を続けていくのが、結局は持続的な社会につながると思います」

近年、UNIQLOとGUやH&M、ZARAなどの大手アパレルが自社商品リサイクルの受付を開始。

NIKE、adidasなどもリサイクル素材を利用したスニーカーを続々とリリースするなど、エコやサステナビリティを重視したサービスが増えている。この流れについて、堀池氏はどのように見ているのか。

「ヨーロッパでは、すでにサステナビリティの意識が根付いていて、日本でも徐々にそうなっていくと思います。過去の日本や欧米、現在の中国が経済成長するときには環境負荷をかけていたわけで、それを度外視して各国を規制するのは難しいですが、日本企業にとっても環境への配慮は喫緊の課題となるでしょう。

課題が目前になった瞬間から事業を転換するのは難しいため、どの企業も徐々に考えはじめる時期が近づいているはずです」

現状の活動について「環境問題の解決には直接的には貢献できていない」と自ら消極的な評価をくだす堀池氏だが、エコなストーリーをもつバッグを作り続ける理由はどこにあるのか。

「売上の一部をWWF(世界自然保護基金)などに寄付したり、廃タイヤを使ったりしていますが、即座に環境問題に貢献できるわけではありません。プロダクトを通じて意識を伝えたり、考えるきっかけを作る役割だと思って活動しています。

我々がビジネスをはじめる少し前、2005年に京都議定書が発効されたタイミングでは、環境問題への意識が若干高まったタイミングがありましたが、その後は下火になった。盛り上がって下火になる、その繰り返しの中で重要なのは、続けること。時流にのって短く設けるのではなく、少なくとも10年、できれば数十年は続けないと意味がないと思っています。

そのためにも、エコを意識しすぎず、ユーザーに強要しない。バランス感覚をもって、“魅力的なプロダクトを手にとってみたら、じつはエコだった”と、そんな環境問題を考える“きっかけ”を作り続けていきたいです」

<取材・文:森ユースケ>

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