「世界に境界がないことをウイルスに教えられた」ボーダレス掲げるチームラボ・猪子寿之が描く未来

テレビ朝日が“withコロナ時代”に全社を挙げて取り組む初の試み『未来をここからプロジェクト』

本プロジェクトの先陣を切る『報道ステーション』では、10月26日(月)~30日(金)の5日間にわたり、「未来への入り口」というコンセプトのもと、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る「人」を特集する新企画『未来を人から』を展開している。

第5回に登場したのは、アート集団「チームラボ」代表の猪子寿之(いのこ・としゆき)氏

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2001年、東京大学工学部を卒業後、在学時からの友人とともにチームラボを創業。プログラマー、建築家、デザイナー、アニメーターなど幅広いバックグラウンドの持ち主たちが集まる“アート集団”として、これまでにない新しい作品をつくってきた。

彼らが長年掲げてきたテーマは「ボーダレス」。物理的な境界をはじめ、現在と過去という時間の境界、生命と非生命の境界など、さまざまな“ボーダー”を超えるアート作品をつくり、20を超える国や地域で作品の展示を続けてきた。

世界の最も優れた文化的施設に贈られる権威的な賞「ティアアワード」や、アメリカの有力誌「TIME」の企画「世界で最も素晴らしい場所」に選出されるなど、世界中で高い評価を受けている。

さまざまな“境界”を超え続けてきた猪子氏が、分断が進むコロナ禍のいま、考えることとは――。

◆デジタルアートで“過去”と“現在”の境界を越える

猪子氏がインタビュー場所として選んだのは、佐賀県の御船山(みふねやま)。江戸後期につくられた場所で、自然に存在する巨木や岩と人の手でつくられた庭園が境界なく混在する土地である。

「この場所には、3000年以上生きている木や洞窟の中に奈良時代に掘られた仏像、磐座(いわくら:古代神道で神として祭られる対象であった岩)など、いろんなものがそのまま残っている。過去から現在まで、人の営みがあったことでいまにつながっていると気づける場所なんです。この世界が連続して成り立っている様子を、複雑に連続し合っているこの世界そのものを味わってほしいです」

チームラボはこの御船山で「かみさまがすまう森」という展示を開催。これは「Digitized Nature」というプロジェクトの一環で、非物質的であるデジタルテクノロジーによって“自然が自然のままアートになる”という試みだ。

「人は自分が生きた時間よりも長い時間を認識することはできないと思っていて。昨日や5年前のような、肉体があるいまの時間と連続していることは何となくわかる。でも、例えば江戸時代というと、そんなに遠くないはずなのに、今とは完全に分断されている世界のように感じてしまうんです」

彼らがデジタルアートで目指すのは、“過去”と“現在”の境界を越えること

「長い時間が連続して、奇跡的にいまがある。そんななことを感じられたら、すごく高級な体験だと思いますね」

◆人は、人に会うと許してしまう

チームラボの魅力は国境を超え、これまでに20以上の国や地域で作品の展示会を開催してきた。

世界の最も優れた文化的施設に贈られる賞であるティアアワードでは、彼らの手掛けた「地図のないミュージアム」が優秀功績賞を受賞(日本国内の施設では東京ディズニーシー、ユニバーサル・スタジオ・ジャパンに続いての受賞)。

アメリカの有力誌『TIME』で「世界で最も素晴らしい場所」、日本サービス大賞で総務大臣賞受賞など、硬軟あわせてさまざまな角度から高い評価を受け、「いま最も面白いアート集団」として世界中で注目を集めている。

そんなチームラボが今年、世界をさらに驚かせたのが「質量のない雲、彫刻と生命の間」という作品。

2020年6月、マカオに新設されたミュージアムに展示される予定で、宙を舞う白く巨大な塊は、中に人が入ることもできる。形が崩れても、生命のように自ら修復する。その様子は「生命」と「非生命」の境界を表しているという。

「“生命”と“非生命”は、簡単に言葉で定義して境界線をつくれるようなものではないかもしれないと思っていて。この雲は人が中に入ってくるんだけど、中に入って割れてもある程度は生命のように自己治癒する。巨大な塊が空中に浮いて、1時間ぐらいで散り散りになっていくっていうのを繰り返していくんです」

彼らの信条である“ボーダレス”を表す作品のひとつであるが、現代社会はその言葉とは正反対に進んでいるように思える。

「ニュースで世界中がロックダウンする様子を見て、恐怖を感じました。人々が混乱していくなかで、しかもずっと家にいなければならない状況で分断が煽られていく。すごく悲しいことだと思う。だったら逆に、自分が家にいても実は世界中とつながっているんだということを祝福できるような作品をつくりたいなと思ったんです」

新たにつくったのは、家にいながら誰もがアートに参加できる作品だった。紙やスマートフォンなどで花の絵を描いてアップロードすると、世界中の人々が描いた花と組み合わさってテレビ画面にアート作品となって現れるのだ。

このようにコロナ禍でも楽しめる作品をつくりながら、猪子氏は“アフターコロナ”における社会変化の可能性には否定的な立場だという。

「大枠では、前と後で変わらないと思っています。コロナ前から起こっていることは、コロナ後も起こるだろうと。場合によっては、コロナ前から起こっていたことの一部は加速するかもしれないけど、その前になかったことは、その後にも起こらない」

コロナ禍によりロックダウン、ソーシャルディスタンスといった“境界”を意識することが増えたことについて、どのように感じていたのだろうか。

人が人に出会えること自体が幸福なこと。それはビールを飲みながらよもやま話をすることでも、会社で同僚に仕事の相談をすることであっても。もう少しいうと、人は人に会うと許してしまうんです。少々ストレートなことを言い合っても、目の前にいるだけで許してしまう

でも目の前にいないと、Twitterでもずっとケンカしてるでしょう。ケンカをするか、もしくは強い発言がなくなってコミュニケーションが薄っぺらくなる。薄っぺらい会議でよければオンラインでいいかもしれないけど。なにかを生み出そうとするなら、いろんなことを許し会える関係のなかで、一緒につくっていくしかないんだと思いますね」

◆「この世界には境界がないことを、ウイルスがまじまじと教えてくれた」

そもそも“境界”とは、人間が勝手に意識のなかでつくりあげた存在である――。猪子氏はこう断言する。

本来、世界は複雑に連続し合っていて、独立して存在するものはないと思う。ただ人間はそこまで賢くないから、どうしても認識するときに“言語”や“論理”で切り離して認識する。本来存在しないはずの境界を、自分の意識のなかでつくり続けて、切り離し続ける。まるで初めから境界があったかのように。または、境界があるかのように錯覚してしまう。カン違いしてしまうんですね」

世界中に混沌をもたらせた新型ウイルス。しかし、この勝手につくりあげた“境界”という存在を改めて考えるきっかけとなったのも、このウイルスなのかもしれない。猪子氏は「ウイルスが、分断によってなにも解決しないと教えてくれた」と語る。

「医療、薬、ワクチンも、なんらかの科学によって解決していくわけで、科学とは、全人類が共同的に積み上げてきたものの象徴のようなもの。ある一地域やある一民族だけで科学が発達したのではなくて、全人類が互いに連携を取って積み上げたことで発達した、非常に分かりやすい存在ですよね。

コロナ前から世界中で分断が強く起こっていて、コロナを理由によりそれが煽られた。でもその一方でウイルスが教えてくれたのは、直面する大きな問題のほとんどは世界中が連携しないと解決しないという事実

例えるなら気候変動のような問題と同じ。日本でも気候変動で台風が大きくなったり、それによって洪水が増えたりしている。こういう問題はひとつの地域だけでは解決できない。人類が協力的に連携を取ることでしか解決できない。

この世界には境界がないことを、ウイルスがまじまじと教えてくれたとも言えるのかもしれない

あらゆる“境界”を意識し続けてきた猪子氏が描く未来とは――。

いまは分断が煽られて、多くの大国でナショナリズムが強くなっている。そこで日本が自国第一主義ではない立場を取って、世界中と連携を取れる。そんな立ち位置になれるとしたら、これから社会で日本がリーダーシップを取れるチャンスかもしれない。いつの時代でも寛容な都市が必ず豊かになってきたわけで、世界中と交流をすることでより豊かな場所によりなりやすいと思うんですね。

我々からは厳格にみえる宗教の中心的な土地があって、その都市は国の中で最もリベラルで寛容な場所になっている。なぜかといえば、宗教の中心だから世界中から人が集まってくる。世界中の人が互いに会ってしまうから。出会ってしまえば、やっぱり人は許すんだ。

寛容とは、もしかすると相互理解じゃないのかもしれない。自分とは違う価値観を持つ存在に対して、価値観が違うことを許すっていうことなのかもしれないですね

<構成:森ユースケ>

※番組情報:『未来をここからプロジェクト

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