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「定年まで安定の会社を辞めて」24歳でプロ野球を夢見た若者、運命のドラフト会議で掴んだ“ドラマみたいな結末”

「定年まで安定の会社を辞めて」24歳でプロ野球を夢見た若者、運命のドラフト会議で掴んだ“ドラマみたいな結末”

新潟市の古町にある通称「ドカベンロード」。商店街には水島新司氏の野球漫画のキャラクターが並び、野球の聖地として知られる。

その店先で1日店長として接客していたのは、新潟のサポーターから愛されるオイシックス新潟アルビレックス・ベースボール・クラブ(以下、オイシックス)の選手たち。

この球団から、人生を懸けてプロの世界を目指した選手がいる。

今年のプロ野球ドラフト会議で、読売ジャイアンツから育成5位で指名された知念大成(25歳)だ。

テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』は、新潟からプロの夢を追った知念とサポーターたちの絆、彼を信じて見守った運命のドラフト会議を追った。

◆NPB2軍に新規参入「1軍のないプロ野球球団」

チームは2006年、独立リーグに加盟する球団として「新潟アルビレックスベースボールクラブ」の名称で創設された。2012年には、元ヤクルトの髙津臣吾が選手兼監督となって話題になった。

その後、2024年にNPBファームリーグ拡大により、くふうハヤテベンチャーズ静岡とともにNPB2軍に新規参入。「1軍のないプロ野球球団」ではあるが、イースタンリーグでNPBに所属する選手たちと年間約140試合、同じ舞台で戦っている。

チームには、陽岱鋼(元日本ハム・元巨人)や髙山俊(元阪神)ら一軍の舞台で活躍した選手をはじめ、NPBを戦力外となり返り咲きを目指す選手、そして何よりNPB入りを目指す選手たちが所属している。

チームの編成・育成を担当する元巨人の野間口貴彦チームディレクターは、球団の存在意義についてこう語る。

「独立リーグの時からNPBに輩出することを目的としていました。アマチュアでは経験できないことを数多く経験できますし、NPBの2軍と対戦して自分の現段階の実力がはっきりとわかる環境ではあると思います」

今シーズン、オイシックスはNPBの2軍相手にイースタンリーグ7位と大健闘。観客動員数は巨人に次いでリーグ2位で、地方への野球の普及に大きな効果をもたらしている。独立リーグ時代は300人集まればいいほうだったという観客数が、見違えるような盛り上がりだ。

試合を観に来ていた観客に話を聞いてみると、次のような声があがった。

「みんなで一生懸命に野球している姿いいなと思って、ファンになりました」

「昨シーズンからよく見に来るようになりました。NPBの2軍とやるレベルの高い試合が見られるようになったので」

「対戦相手に有名な選手が来る。ヤクルトの村上もホームランを打ったよね。普通じゃ見られない選手が見られることが全然違いますね」

◆ファンに愛される全力プレーの「ハッスルシーサー」

試合後、選手たちが向かった先は、サポーターと触れ合う通称「お見送り」。ホームゲームの時には必ず行われ、独立リーグ時代から続く古き良き伝統だ。これもまた、地域の人々に愛される要因である。

シーズン最終戦だったこの日、お見送りでひときわ長い列を作っていた選手が、沖縄県出身の知念大成。

サポーターは「元気いっぱいにプレーしていて楽しそうに野球やっているところが大好き」「全力でプレーする姿に憧れて応援しています」と彼の魅力を語る。

常に全力でプレーするため、ユニフォームはいつも泥だらけだ。そんな姿から「ハッスルシーサー」と呼ばれ、愛されている。

実は、彼もまた並々ならぬ想いで新潟にやって来た。

高校は、今年の夏の甲子園で優勝したあの沖縄尚学。当時はエースで4番だった。高校卒業後は、地元の名門企業・沖縄電力に投手として入社し、社会人3年目に野手転向。仕事と両立しながらプロ入りを目指すなか、社会人5年目に大きな決断を下す。

「野球一本の生活にしようと。ずっとプロを目指して野球に取り組んでいて、仕事の面を野球に全部注いだ時に、もっと自分の野球の能力を引き出せるんじゃないかと思いました」(知念)

周囲から「定年まで安定の会社を辞めて、もしダメだったらどうするの?」と多くの反対があった。それでも「ダメだった時のことなんて考えていない。成功することしか考えない」と反対を押し切り、プロへの強い気持ちを持って2024年、24歳の時にオイシックスへ。

勝負の世界に身を投じたその覚悟は、1年目から結果となって表れ、イースタンリーグで首位打者、最多安打の打撃2冠を成し遂げた。

しかしその年、ドラフト会議で知念の名前が呼ばれることはなかった。

なぜ指名されなかったのか。オイシックスの監督を務める武田勝(元日本ハム)は、次のように指摘する。

「野手の場合はやることが多く、打って守って走らなければいけない。試合に出ない時も代打や代走などいろいろな仕事があるので、そこに適合する選手じゃないと選ばれにくいのかなとは思います。年齢も含めて、若い選手を育てようかという目で見られるケースが多いかもしれないので。本当に彼に必要なのは、そこを払拭する爆発的な力」

◆「NPBの壁」を乗り越える挑戦

今年で25歳の正念場。プロへの道を切り開くために、知念は新たな武器を磨き始めた。

「今年は安打というよりも、長打や強い打球にこだわってバットを振ってきました。長打一発ホームラン、一振りで試合の流れを決定づける武器だと思うので、そこを磨きたい」(知念)

プロ入りへのカギは長打力。そのために大きく変えたのは、バットの長さだ。

昨年まで使用していたのは、多くの選手たちが使う長さである85cmのバット。そこから3cm伸ばし、今季は88cmの長尺バットをメインで使用している。

「長くしても5mmとか1cmの世界なんです。3cm伸ばしたのは1人だけじゃないかなと思います」(知念)

長尺バットは遠心力で長打が増える反面、操作性が難しくなる。知念は早朝から夜遅くまで振り込むなどトレーニングを重ね、長いバットに順応してきた。

この地道な努力が実り、今シーズンのホームラン数は、去年の4本から9本に倍増した。さらに、シーズン通じて試合に出続け、最多安打・最多打点の打撃タイトル2冠を手にした。

7月には、若手の登竜門と呼ばれるフレッシュオールスターにも出場。ライトスタンドに刺さる先制の2ランホームランを放ち、NPB12球団の選手たちを差し置いてMVPに輝いた。

知念は、2軍でNPBの選手たちと試合をしながら得たさまざまな“気づき”が、自身の成長に繋がったと話す。

「楽天の浅村栄斗選手がファームにいた時期があって、何本もヒットやホームランを打っている選手でも、めちゃくちゃ考えて逆方向に打ったり、ポイントを合わせたりして必死に練習していました。ロッテの角中勝也選手もゴロでも全力疾走を怠ってなかった。自分もそういった姿勢で野球に取り組まないといけない。とても勉強になります」

◆運命のドラフト会議「間違っていなかったんだ」

ドラフト会議の前日。今年こそはと周囲の期待も高まるなか、本人の心中は…。

「自分に期待できない。(NPBに)行きたいですけど、全然まだまだ足りない。高山さんや陽さんから『次元が違う』と聞いたので。そういう選手の意見を聞くと、本当にヤバイ世界だなと思いますし、今の自分の結果と照らし合わせて厳しいなと思うのが多いので…」

迫る運命の日を前に、思わず本音がこぼれた。

迎えたドラフト会議当日。パブリックビューイング会場には、指名の瞬間を待つ多くのサポーターの姿があった。

「知念選手が選ばれたら嬉しいです」

「今年1年本人も努力してきたと思うので、今年こそは本人の夢が叶ってくれるといいな」

「指名されてもされなくても、野球を続けてもらえるのが一番。先に続くような結果になればいいなと思います」

選手の行く末を、全員が固唾を飲んで見守った。

上位指名が進み、開始から1時間半が経った頃、阪神の5位指名でオイシックスの投手・能登嵩都の名前が呼ばれた。今季イースタンリーグで投手4冠の結果を残しているエースだ。

その後、支配下の指名は終わり、育成指名へ。中日から育成1位指名で名前が呼ばれたのは、オイシックスのリリーフエース左腕・牧野憲伸。ともに戦った仲間の指名を知念も祝福する。

育成指名も次々と終了が告げられるなかで、ドラフト会議開始から3時間近くが経過した。残るはあと5球団。

ここで巨人、最後の育成5位指名でついに知念の名前が呼ばれた。パブリックビューイング会場は一斉に沸き、喜びで涙するファンの姿も。

胸をなでおろした知念がサポーターのもとへ挨拶に向かうと、万雷の拍手と「頑張れ頑張れ知念!頑張れ頑張れ知念〜!!」のエールで迎えられた。

歓喜から一夜明け、知念は新潟で過ごした2年間への想いをこう語った。

「間違っていなかったんだなって。その気持ちが今に繋がっているので、気持ちを変えずにというのは自分に言いたいです。(NPBの世界は)絶対厳しいと思いますし、嬉しいことよりも辛いことのほうが絶対に多いと思う。そうなった時に、新潟にいた2年間を思い出して、1個1個壁を乗り越えていけたらいいなと思う」

◆新潟での出会いを胸に、次の舞台へ

11月7日。巨人の秋季キャンプに、ただひとり、オイシックスのユニフォームを着て参加した知念。新たなスタートを歩み出した。

いつものように、泥だらけで食らいつく姿で、すでに巨人ファンからも視線を集めていた。

そして、新潟で行われたサポーター感謝デーに参加。新潟を離れる知念に、ファンから温かい応援の言葉が送られる。

知念は元気いっぱいにこう返した。

「知念です。ジャイアンツに行きます! 球場でお会いしたら、『新潟時代から応援しています』とか声掛けてくれると、自分もやりやすくノってプレーできるので、これからも応援よろしくお願いします!」

新潟で愛され、夢を叶えた男は、新潟での思い出を胸に、NPBでの活躍を誓った。

「あっという間の2年間でした。入団した時は不安が多くて、結果が出なくて眠れない時期もあったんですけど、サポーターが『頑張って』『大丈夫』と声を掛けてくれたことが力になりました。ここにきて良かったとこの瞬間に思えたので、出会いを大切にして、これからは違うステージになるんですけど、自分のプレーで元気付けられるように必死になって頑張っていきたいです」

番組情報:『GET SPORTS
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)

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