パリ五輪の敗北から1年。ダンス日本代表、Shigekixが涙のリベンジ戦 被災地で誓った「ブレイキンの力」
ブレイキン男子・Shigekixこと半井重幸、23歳。
2024年のパリ五輪。日本代表旗手を務めるなど、まさに「日本の顔」となった。
【映像】Shigekix、涙のリベンジ戦 魂のパフォーマンス
しかし、金メダル候補とされながら結果は4位。メダルには手が届かなかった。
あの敗戦からShigekixは何を感じたのか。何のために踊るのか。テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、その生き様を追った。
◆「勝つことだけが勝負の醍醐味じゃない」
「結果だけ見たら挫折みたいに感じたり、パリのステージを楽しみにしてくれたみなさんにとっては、『がっかりした』『悔しい』って思いが強いかもしれない。自分で今振り返っても悔しさがすごくあるんですけど、それもまた新たなモチベーションや気づきになったりする。勝つことだけが勝負の醍醐味じゃないので」
オリンピックから1年。大舞台で味わった悔しさをこう語ったShigekix。
悔しさの中で芽生えた新たな思いは、「人にみせる」ということだ。「『人にみせる』という部分が、この1年の自分のテーマ。やっぱり人の魂を感じる踊りは人の心を動かす」と前を向く。
“人の心を動かす踊り”を届けるため、今年は全国各地を回った。トークショーやパフォーマンスを披露し、子どもやその親世代から「見ていました」「今日会えるのを楽しみにしていました」と、あたたかい言葉をかけてもらったという。
今年1月には、能登半島地震と豪雨で被害を被った石川県・輪島市を訪れた。
昨年は震災の影響で中止となってしまった輪島市が催すブレイキンのイベント。その出演オファーを受け、2か月後におこなわれる本番を前に、被災の現状を知るため現地へ。
倒壊した家屋の群れを前に、「衝撃です。直視するのは心が痛い」とあらためてショックを受けた。
「今自分にできることは何だろうと、この現状を見て考えさせられます。ブレイキンの大きなテーマは『世界平和』や『心が平和』。被災地では心が傷ついたり、なかなか平和な状態にはなれない。でも、そういった方たちの心を少しでも平和にしたり、あたたかくする。ブレイキンにはきっとその力があると思う」
イベント当日。まず向かったのは、震災による火災で焼失した朝市の出張営業。Shigekix自らイベントへの来場を呼びかけ、震災の爪痕が残る会場におよそ500人が集まった。
体験会では子どもも大人もブレイキンに挑戦。クライマックスは思いに賛同してくれた仲間とパフォーマンスを披露した。
避難所のおばあちゃんは「見たことねえもん見たって思うくらいびっくりした」と目を丸くし、家族連れも「めっちゃ力もらえた」「弱音を吐いていられない」と笑顔で語った。ブレイキンが、集まった人々の心に確かなパワーを届けた瞬間だった。
Shigekixは「地震があろうと、ブレイキンとか人の心をひとつにしてくれるものさえあれば、こうやって楽しい空間が生まれたり、人が集まって忘れられない時間が生まれるんだな。引き続き自分なりにできることはやっていきたい」と、活動への強い意志を語った。
さらに、「次世代のために」という思いから、子どもたちのための大会「BREAKIN’ SUMMIT」を開催。積極的に活動する彼のことを、子どもたちは「憧れ」と話す。
「ブレイキンって自己満足の究極みたいなものではあるんですけど、僕はその自己満足の果てに、人のことを幸せにできたり、人に影響を与えられることがすごく大事だなって。僕自身の挑戦はもちろん、最終的には人のためになったらいいなって思います」(Shigekix)
◆パリの雪辱の舞台へ
人のために活動してきたShigekix。今度は、自らがパリのリベンジの舞台に挑んだ。
「Red Bull BC One World Final」――。20年以上の歴史があり、1on1ブレイキンバトルでは世界最高峰といわれる大会だ。
Shigekixにとってこの大会は思い入れが深い。2017年、史上最年少の15歳で出場し世界に名を轟かせ、その3年後、18歳で最年少の世界王者となった。
大会まで2週間、練習へ向かう途中で本音がこぼれる。
「近づいてくるとどうしても力が入ってしまうっていうか、ちょっとでもうまくいかないことがあると『わー』みたいな。五輪と比べてどうってことではないんですけど、やっぱり五輪も経験しているからこそ、今大会の挑み方も変わってくるかなと思います」
オリンピックの雪辱を果たすべく、本番を想定した練習を開始。映像を確認し、改良を重ねていく。起き上がれなくなるほど追い込み、マネージャーからは「人間の限界」と言われた。
見てくれる人にパワーを届けるため、全身全霊でステージへ。
◆涙のリベンジ戦。伝えたかった想い
バトル当日。Shigekixは本番直前まで念入りに準備し、「パリ五輪では自分のブレイキンを見せられたけど、今度はみんなの前で“勝ったよ”って言ってやりたい」と意気込みを話した。
初戦。徐々にギアを上げ、代名詞“音ハメからのフリーズ”に会場が沸く。
準決勝まで勝ち上がり、対するは同じ日本代表のISSIN(20歳)。長年、世界のトップを争うライバルだ。
Shigekixは見ている人の心に思いを届けるパフォーマンスを披露したが、より会場を沸かせたライバルに惜しくも敗北した。
「悔しいですね。いやぁなかなか勝たせてくれないな…。パリのステージのリベンジっていう気持ちはありましたね。あのときに悔しい思いをした仲間がもう一回集まってくれたので、彼らに『やったよ』って言いたい気持ちが強かった」
悔しさを語りながら、涙を拭ったShigekix。
大会後、仲間たちと抱き合って感謝を伝えた。パリのリベンジはならなかったものの、全身全霊で踊ったから届いた確かなものがあった。
「ちょっとでも『Shigekixががんばってるなら、僕も、私もがんばろう』って思ってもらえるような存在で居続けたいなと思う。勝っておごらず、負けて腐らずで」
Shigekixの挑戦はまだ続く。
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※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)













