「ショウヘイは必ず復活を遂げる」担当医師が語る“二刀流復帰”への見通し。2度目の手術で施したリスクを伴う工夫
テレビ朝日のスポーツ番組『GET SPORTS』では、歴史的偉業から紐解く「大谷翔平の進化」を特集。
2024年に大谷がカメラの前で発した数々の言葉を振り返りながら、ドジャース首脳陣や対戦相手、手術を担当した医師など総勢14名の関係者へ独自取材し、「54本塁打・59盗塁」の裏にあった独自の思考と大胆な改革を解き明かした
テレ朝POSTでは、その内容を全4回に分けて紹介。今回は、二刀流復活の秘訣に迫る。
◆投手へのこだわり「強い覚悟を垣間見た」
2024年、伝説的なシーズンを駆け抜け、満場一致のMVPを受賞した大谷。
栄冠を手にした直後、次なる偉業を期待する声があがった。全米も待ち望む投手・大谷の完全復活だ。
2018年に渡米した大谷は、ルーキーイヤーで10試合に登板し、4勝2敗。順調な滑り出しに見えたが、シーズン途中に右ひじ靱帯を損傷し、手術を余儀なくされた。
その影響で2019年は一度もマウンドに上がることはなく、2020年も本来の力を示せぬまま、わずか2試合の登板にとどまった。
翌2021年、9勝を挙げて再起を果たすと、打者としてもリーグ2位の46本塁打を放ち、二刀流でメジャーを席巻。満票でリーグMVPを獲得した。
投手としての真価を発揮したのは、翌2022年。15勝、防御率2.33、219奪三振という驚異的な数字で規定投球回へ到達した一方、規定打席も満たし、 MLB史上初の“ダブル規定”を達成する快挙を見せた。
続く2023年は、2年連続となる2桁勝利を達成するも、またしても右ひじの靱帯を損傷してしまう。手術を経て、2024年は登板ゼロに終わった大谷。マウンド上で再び躍動する日は訪れるのだろうか。
復帰への見通しを探るべく、 2度の手術を担当した医師、ニール・エラトロッシュ氏を直撃した。驚くべきことに、エルトロッシュ氏は大谷の怪我の再発を予期していたという。
エラトロッシュ:「1度目の手術後、彼の直球は103マイル(約165.8キロ)に達しました。人々が熱狂するなか、私はひとり心配な気持ちで見ていました。わずか3年でおよそ6キロも球速が伸びていたからです。100マイル超えの直球をコンスタントに投げ続けたことで、彼の靱帯にかかる負荷は手術前とは比べ物にならない大きさになっていました」
100マイル超えの剛速球を連発する規格外の急成長が、右ひじの靱帯に限界をもたらしたのだ。
一度目は手首などの他の部位から腱を移植するトミー・ジョン手術を受けた大谷。怪我の再発を受け、二度目は異なるアプローチを採用した
エラトロッシュ:「もしショウヘイが野手としての復活だけを見据えていたら、断裂した靱帯をただ縫い合わせるという選択肢もありましたが、彼は投手としての完全復活を強く望んでいました。『1日でも長くマウンドに立ち続けたい』と。そこで、靱帯の修復に加え、人工靱帯の導入に踏み切りました」
投手としての完全復活に向け、ほかの部位から腱を移植したのち、人工靭帯を使って「補強」も行った。この治療法はまだ症例が少なくリスクを伴うが、靱帯の強度を高めることができ、規格外の成長に長く耐えうるものだ。
エラトロッシュ:「ショウヘイは必ず復活を遂げる。彼に投球再開のスケジュールを伝えたとき、すぐにカレンダーに書き込んでいました。その強い覚悟を垣間見たのです」
◆「さらに強くなったパフォーマンスを」
並々ならぬ覚悟で復帰に向かう大谷は、どのように実戦の舞台へ返り咲いていくのか。
同じく右ひじの手術から復活した経験を持つ五十嵐亮太氏に展望を聞いた。最速158キロの速球を武器に、ニューヨーク・メッツなどで活躍した剛腕だ。
五十嵐:「たぶん大谷選手は『自分はいけるし、やる』っていうスタンスで来た結果、怪我してしまったと思います。リハビリ中って怪我をしているネガティブな気持ちがありつつも、良くなってくると『自分もっといける』という気持ちがどんどん大きくなってしまう。それを止めるのがトレーナーだと思います。『この段階ではこれだけで十分』というところを一歩一歩やっていく」
焦る気持ちを抑え、トレーナーの指導のもとで適切なペースで体を戻すことが重要だという。
大谷のリハビリの現場を観察すると、軽いキャッチボールでさえも常にトレーナーが目を光らせていた。
手術から半年が経過した2024年3月。公の場でのキャッチボールを再開すると、野手として試合に出場する傍ら、投手としてのリハビリを続け、9月には150キロに迫る速球を投げた。
その先に見据える完全復活。大谷自身がMVP受賞の場で語った言葉に、そのヒントがある
「まずは復帰して、もう一回さらに強くなったパフォーマンスを(見せたい)」(大谷)
この言葉について五十嵐氏は…。
五十嵐:「選手の心理としては、手術する前よりもいいピッチングしたいんです。普通に戻ってくるだけじゃ、ただ肘を治しただけなので1年が無駄になってしまう。アスリートとしてはもったいない気持ちになっちゃうんですよ」
強くなって戻ることへのこだわりは、一度目の手術前後にも表れていた。
五十嵐:「めちゃくちゃ大きくなったじゃないですか」
手術をした2018年と本格復帰を果たした2021年を比較すると、首や肩の筋肉を中心に体格の変化が見られる。これはリハビリ期間がもたらした成果だ。
五十嵐:「丸1年間トレーニングするって、野球選手にとってはなかなかないんです。筋量が弱い部分の強化など今までできなかったことをやって体を大きくすることで、今までと同じ出力でも負担を減らすことができる。抜き球など負担のかからないボールで試合を作ることができたら、シーズンを戦うことができ、その先も見えてくると思う」
筋量を増やすことで、投球の質を落とさずに負担を軽減。これが安定したパフォーマンスの鍵となる。
◆瞬発力の強化につながった盗塁
さらに、投手・大谷の復活を後押しする意外な要素が、盗塁。これはいったいどういうことなのか?
五十嵐:「ピッチングって、速いボールを投げようと思ったら、瞬発系のトレーニングをするんです。その中のひとつにダッシュは絶対あるので、その質を高めるなら試合で走ったほうが絶対いいと思うんです。緊張感のある中でダッシュするほうが体にはいい刺激がいくはずなんですよ」
瞬発力の強化は、投球の質を底上げする重要な要素だ。今季59盗塁の大谷は試合の緊張感のもと、高い強度の全力疾走を繰り返した。そうすることで、瞬間的な爆発力を向上させたのだ。
五十嵐:「ピッチングは静止した状態からボールを投げますし、盗塁も静止した状態から走り出します。静止した状態からMAXまで上げる瞬発系のトレーニングは、つながる部分があると思う。こういったことが2025年のピッチングにもいい影響を及ぼすんだろうなと僕は勝手に思っています」
2025年、大谷はどんな姿を見せるのか。
五十嵐:「投げるボールや投げ方、球種の割合によって、大谷選手がどういった考え方でリハビリをしてきたが見えてくるはずなので、すごく楽しみですよね。あと期待するのは、やっぱり胴上げ投手」
進化を続ける研ぎ澄まされたバッティング。新たな境地を見せた走塁。そして、完全復活を期すピッチング。二刀流の侍が描く物語――その続きはまだ誰も知らない。
※番組情報:『GET SPORTS』
毎週日曜 深夜1:55より放送中、テレビ朝日系(※一部地域を除く)