“美女とムササビ”―ドラマ『警視庁・捜査一課長』のサブタイトルの作り方
4月よりシーズン2が放送されている内藤剛志主演のドラマ『警視庁・捜査一課長』(毎週木曜日午後8時~)。
内藤演じるヒラから這い上がった“叩き上げ”の捜査一課長・大岩純一と刑事たちの熱い奮闘が描かれている同作において注目すべきポイントのひとつが、毎回の“サブタイトル”だ。
「夫に1億円の保険をかけた2人の美人妻!! カレーとタマネギのアリバイトリック」――これは、2015年に「土曜ワイド劇場」で放送された2時間ドラマ版『警視庁・捜査一課長』第4作のサブタイトル。
夫に保険をかける、というサスペンスドラマではよく目にする設定を説明する“上の句”の後に登場する「カレーとタマネギのアリバイトリック」という17文字は、その食材とトリックという言葉のミスマッチさも相まって、当時サスペンスファンを大いに驚かせた。
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新聞のラテ欄などに記載される、サスペンスドラマのサブタイトル。
視聴者にドラマの内容を伝えるために大きな役割を果たすものだが、一体どのように付けられているのだろうか? そして、付ける際の“極意”はあるのか?
これについて、『警視庁・捜査一課長』のみならず、これまでに「土曜ワイド劇場」をはじめ多くのサスペンスドラマでサブタイトルを付けてきた関拓也ゼネラルプロデューサー(以下、関GP)に話を聞いてみた。
◆「映像が浮かぶワードを入れる」
関GPは最初に、「土曜ワイド劇場」のサブタイトル付けから振り返る。
関GP:「土曜ワイド劇場では、サブタイトルを出し合ってそれをみんなで“練る”という会議を毎週やっていたんです。僕は10年以上それに出てきましたが、そこで大変勉強させていただきました」
このように話す関GPにまず、気になる“カレーとタマネギのアリバイトリック”のことから聞いてみた。
関GP:「とりあえず、サブタイトルの中には“具体物”を入れておきたいというのがあるんですね。新聞のラテ欄で“カレーとタマネギのアリバイトリック”って見えたら、一瞬ハッとなって引っ掛かるし、その文章だけでは意味は分からないかもしれないけれど、頭になんとなく映像が浮かぶじゃないですか」
――確かに、意味は分からないけど気になりますね(笑)
関GP:「はい(笑)たとえば、『捜査一課長』のシーズン1の第1話のサブタイトルは、“終着駅同時殺人!? 捜査範囲は路線全駅!! セレブ妻vs 680円のブラウス女、サバ塩焼きのアリバイトリック”です。
いきなり“サバ塩焼きのアリバイトリック”とか“カレーとタマネギのアリバイトリック”とかって言われても、さっぱり分からないじゃないですか。
ただ、ラテ欄ではやはり目を引くことが重要なので、こういう“サバ塩焼き”や“ブラウス”のような、サスペンスとしてはちょっと意外で、かつ映像的に想像が膨らむような具体物を入れることで、視聴者の皆さんにどんなストーリーだろうと気になっていただきたいんです。
僕は、“空飛ぶ~”とか“瞬間移動”とかっていう動きがある表現も好きなんですけど、これも同じで、読んだ人の頭に映像が浮かびやすいんですよね」
◆ラテ欄は「デザイン」
サブタイトルを付ける前には、前述の“頭に映像が浮かぶような具体物”をはじめ、まずは台本から気になるキーワードを書き出すという。
そこで次に、キーワード選びの基準についても聞いてみた。
関GP:「昔から言われている基本中の基本でいうと、“680円のブラウス女”はまさにそうですけど、カタカナと数字を入れるのは大切ですよね。
サブタイトルはある程度“デザイン”ということも意識しなくてはいけなくて、やはり漢字が続くとパッと見で読めないじゃないですか。カタカナと数字が入ると、デザインが良くなるんです。
あと、デザインということでいえば、“折れ”も考える必要がありますね。新聞のラテ欄は、10文字で折れてしまう(=行が変わってしまう)。折れてもすぐに読める単語なのか、折れちゃうと読みにくい単語なのか。そこもキーワード選びと実際のサブタイトル付けでは非常に重要です」
――サブタイトルひとつでも、やはり非常によく考えられているんですね。
関GP:「バカバカしいサブタイトルだと感じる人もいると思うんですけど、一応、広告のコピーのマニュアル本なども買い漁って研究してきました。
あと個人的には、高校生のときにラジオの“ハガキ職人”だったので、おもしろくないサブタイトルというのが許せないんです」
このように話す関GPが自らお気に入りとして挙げた『警視庁・捜査一課長』のサブタイトルが、シーズン2・第1話の“帰って来た最強の刑事VS絶対に捕まらない殺人犯! 首都高を完全封鎖…時速15キロで脱出した美女とムササビ”だ。
ポイントはもちろん、映像が頭に浮かぶ具体物である“ムササビ”。「このムササビを入れるかどうかについては、周囲からは大多数で反対を受けましたけど、そこは押し切って付けました(笑)」と語っていた。
◆字数制限が工夫を生む
昨今はテレビの番組情報をネットで見ることも普通となり、ラテ欄より多い文字数で詳しく書かれた番組内容に触れる機会も多い。しかし、そんななかでも関GPは、“限られた文字数でサブタイトルを書く”ということの重要性を次のように語る。
関GP:「古臭いことを言ってしまいますが、ラテ欄の良いところっていうのは、絶対的な文字数制限があるところなんですよ。やはり制限があるからこそ工夫が生まれるんですよね。何事もそうだと思います。
制限がなかったら“カレーとタマネギのアリバイトリック”なんて表現は絶対に生まれないだろうし、制限なく書けるからっていろんな要素を入れ過ぎたら、結局何を伝えたいのか全然分からなくなってしまう。
字数制限のあるなかで簡潔に表現できるというのは、ドラマプロデューサーにとって非常に重要な資質でもあると思います。ドラマのストーリーもセリフもサブタイトルも、文字数が違うだけで、やろうとしていることはみな同じですから。いかに視聴者の方々に、内容をおもしろく簡潔に伝えるかが勝負なんです。
おもしろいラテが書けなければおもしろい本はつくれない。僕はそう思っていますし、先輩プロデューサーたちを見ても、実際にそうでした。
だから、僕と仕事を一緒にしてくれている若いプロデューサーたちには、ラテを頑張って考えるようにと言ってるんです」
このように、サブタイトルに対する熱い想いを存分に語ってくれた関GP。
今後の『警視庁・捜査一課長』をはじめとしたサスペンスドラマでは、どんなサブタイトルが付けられていくのか? 一層楽しみだ。