テレビ朝日が“withコロナ時代”に全社を挙げて取り組む初の試み『未来をここからプロジェクト』。
本プロジェクトの先陣を切る『報道ステーション』では、10月26日(月)~30日(金)の5日間にわたり、「未来への入り口」というコンセプトのもと、多岐にわたる分野で時代の最先端を走る「人」を特集する新企画『未来を人から』を展開。
第3回に登場したのは、現役大学生にして教育ビジネスを手掛ける起業家の仁禮彩香(にれい・あやか)さんだ。
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中学2年で起業し、高校1年時にはかつて自身が通った母校を買収。23歳になった現在は慶應義塾大学総合政策学部に在籍しつつ、教育事業をおこなう株式会社TimeLeapを経営している。
経済誌『フォーブス』日本版で“世界を変える「30歳未満の30人」”に選ばれた経歴を持つ、若くして凄腕経営者である彼女はいま、教育界に一石を投じ続けている。
「テストをどう乗り切るかという部分に目的が置かれている」
「最大の目的は、(受講生たちに)自分の人生を自分で決めて、切り拓いていけるようになってもらうこと」
このような理念で最先端の教育プログラムを展開。
教育という分野で最先端を走る彼女が見据える教育の未来とは――。
◆小学1年生で抱いた“教育のあり方”への疑問
話を聞いた場所は、神奈川県・藤沢市にある仁禮さんの母校、湘南インターナショナルスクール(以下、SIS)。彼女の原点となった場所だ。ここでどんな教育を体験したのだろうか。
「まずいちばん大事なことは、“一人ひとりが違う人間である”とみんなが受け入れること。そのうえで、違いがある人同士が一緒にハッピーに生活するためにはどうしたらいいかを考える。これがSISの教育の基礎で、すごく特徴的な場所だと思っています」
サラリーマンの父と専業主婦の母の元で育ち、SISで2年間過ごしたのち、地元の公立小学校に進んだ。しかし、そこでさまざまな違和感を覚えたという。
「(私が通っていた)幼稚園とは反対に、正解がすべて決まっていて、先生が言ったことが正しい。先生の指示通りに動いた子が“偉い”と褒められるんです。
学校は学んで成長するための場所と思っていたけど、私が英語を話そうとすると“他のみんながしゃべれないからやめて”と言われてしまったこともありました。
そこで、“なんのために学校に来ているんだっけ?”と思ったんです。小学校は6年間もあるから、その間ずっとここに通い続けるのはしんどいなと思いましたね」
小学1年生で教育のあり方に疑問を持ち、自身が学んでいたSISの園長に相談した結果、もともとは幼稚園しかなかったSISに小学校をつくってくれた。仁禮さんはこの学校に通いながら、中学2年で起業という道を選んだのだ。
「より良い教育を提供する会社をつくって、自分がそこで働く。そうすれば、社会勉強をしつつ教育業界にも貢献できるんじゃないかと思って、中2のときに会社をつくりました」
“子どものアイデアを実現する事業”として、企業と組んで学校に出張授業をするプログラムを展開した。事業は軌道に乗り、次に仁禮さんが手がけたのは学校の経営。そして、買収したのは自身の母校・SISだった。
「(母校・SISは)運営が大変で、授業料が高くなるなどさまざまな問題があって、(首脳陣たちが)もっと持続可能な経営スタンスに転換できないかと話し合っていた時期でした。
うちの会社としても、“学校経営をしている会社の教育プログラムだ”といえると信用が上がります。その意味では、お互いにとってすごく良いかたちでチームを組めるんじゃないかと思ったんです」
◆最大の目的は「人生を自分で決め、切り拓いていけるようになってもらう」こと
10代にして学校を経営するまでに至った彼女はいま、次世代の起業家を育てるための塾を手掛けている。生徒は小学生から高校生までの40人あまり。起業家やデザイナーらを講師として招き、子どもたちが事業を立ち上げるためのアドバイスをおこなう。
この日の講師は業界の最前線で活躍するプロダクトデザイナー。
スライドを見せながら、
「左は中世のフランスの哲学者が書いた人間の構成図」
「コンセプトというのは止まっていないエンジンみたいなもの」
「正直さ、曖昧さ、優しいといっても中の内容物はちゃんとあるという」
と、一緒に聞いている仁禮さんを含め、大人でも理解するのが難しい内容だ。そこで彼女は、講師と子どもたちの橋渡し役に注力する。
「みんながこれからやりたい事業はどういうもので、どんなことを大事にしたと思っているか。まずはそこから考え始めてみて、自分がなんのためにこの仕事をやっているのかを伝える努力をしていく必要があると思う。
ちょっと難しかったかもしれないけど、(今回の講師は)超本質的で、(難しすぎて頭が)宇宙に行っちゃいそうな話をしました」
このようなハイレベルな授業を行う狙いとは?
「小学生たちがすべての言葉を理解できるかというと、そうではありません。でも、本質的に大事なことを必ずひとつは吸収できています。大人たちは“子どもだから何もわからない”と思い込んでなにも話さなかったり、質問をしなかったりするんですけど。子どもたちはスポンジのようなすごい吸収力があるので、その観察力や彼らの力を信じることを、すごく大事にしています」
この講義の終了後、ある生徒の変化に気づいた仁禮さんがふたりきりで話を聞くことに。話をするうちに泣き出してしまった生徒に対して、彼女は起業家としての経験を基にアドバイスをする。
「そういう感情になるのは、成長する手前の段階だから良いことなんだよ。私もメンタルがボロボロになったこともあるし、そういうときはしかたない。焦るとより深みに入っちゃうから、いまはそういうタイミングだと思って一回落ち着いて。あんまり悩まないでね」
このやり取りについて、仁禮さんはこう語る。
「メンタルを揺さぶる授業なので、フォローはしないといけませんね。どうしても他の子と自分を比較しちゃう子もいるし、メンターの熱量を感じて、自分がついていけないと思ってしまったり。すごく優秀だからこそいろんなものを感じ取ってしまって、感情の起伏が起こるので、一人ひとりフォローアップするように心がけています。
感性が研ぎ澄まされている時期だし、この授業では学校で拾ってもらえない感性を生かしています。学校の授業では知識や目に見えるものしか教えてもらえないけど、私たちは生きるうえで直感を使いますよね。それは、ものを作るときにも必要な要素なんです」
起業家を育てる授業でありながら、いちばん大事なのは起業家を輩出することではない――。仁禮さんはこう断言するが、その理由とは。
「私たちの最大の目的は、(受講生たちに)自分の人生を自分で決めて、切り拓いていけるようになってもらうこと。起業家塾でやらせがちなのが、とりあえず事業計画をつくって、何千万円稼げるようになればいいという形式なのですが、そこには意味がないんですね。
“自分とはどういう人間なのか”を認識したうえで、自分がやってみたいと決めたことじゃないとなにも進められないし、その先に学びも得られない。人を、生きる力を育む。これが私たちのやっていることなのかな、と思っています」
◆現代社会は“生きづらい社会”だと「めっちゃ思います」
“最先端の教育”を進める彼女だが、それゆえのジレンマも抱えているという。
「私たちの事業・TimeLeapは、まだニーズをつくっている段階なので、その心配が必要なステップまで至っていないのですが…。いま自分がやっていることだけを進めていくと、できる人に良い教育プログラムを提供し続けて、どんどん格差を広げることになってしまうと懸念しています。
でも、いつかはその課題も超える必要があります。このプログラムを必要とする人たちを認識して、ちゃんとお金を動かせるようになって、政府やいろんな組織が(望むなら誰もが)教育を受けられる体制を整えてくれないと実現できません。今はそのファーストステップに立っていると思います」
教育界に新たな風を送り込む仁禮さんは、どのような未来を見ているのだろうか。
「もっと“教育の多様性”を打ち出す必要があると考えています。教育が画一的とは、ゴールのバリエーションが少ないことを意味すると思うんですよね。たとえば勉強やスポーツ、音楽や芸能といった方向だと、若い子が活躍している例もあるんですが、ゼロイチで仕事をつくっていくなど、そういったアウトプットをする機会がとても少ないじゃないですか。
でも、多くの人たちは資本主義の世界に生きているから、仕事をする。だったら、もっと若いときからそういった体験をさせたほうがいいと思っています。
特に、起業家のような新しいものや価値観、未来をつくることに向いている子どもたちは存在するので、そういう子たちがサポートを受けながら実践できる教育機関も必要です。私たちはそういう機会をつくりたいし、まだ足りてないのは教育のバリエーションの幅なんです。
そこでモデルケースをしっかりつくらないと、画一的な教育を受ける層と多様な教育を受ける層で格差が広がっていくので、どこでも多様な選択ができるモデルケースをつくらないと…っていうのが、今の課題です」
多様性のある社会は理想だが、生きづらさを抱える人が増えている現代社会については、どのように考えているのか。
「(生きづらい社会だと)めっちゃ思いますよ! 私もすごく生きづらいと思っていて、なんでこんなにみんなが苦しみながら生きなきゃいけないんだろうって思います。
人の不完全性を許容できなくなっているのかなと思うんですよね。人間ってみんな完ぺきじゃないし、みんな欠けてる部分がある。それでも補い合って生きていくのが、人の素晴らしさだと思う。
これからの教育でも同じ問題があると思います。先生が完ぺきじゃないといけない、親が子どもに対して完ぺきな存在として向かい合わなきゃいけないという思い込みは、子どもを育むことをしんどくさせているのかなと感じていて。
エラーな部分、欠けている部分を出していけるようになれば、そこの(問題を解決する)仕組みを導入したり、助け合いの心が生まれたりすることもできる。教育の現場でも、そんなふうに人が育まれる環境になっていったらいいな、と思います」
<構成:森ユースケ>
※番組情報:『未来をここからプロジェクト』