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【世界ラリー(WRC)】最も厳しいラリー・メキシコでトヨタが証明した事とは?

2017年FIA世界ラリー選手権(WRC)第3戦となる「ラリー・メキシコ」が、3月9~12日に開催された。

開幕戦、第2戦と続いた雪道などを走るウインターラリーから、気温30度近い温度と標高2000m級の乾燥した高地のなかを走るメキシコへと大きく舞台を変えたラリー・メキシコ。走る道も、今シーズン初のグラベル(未舗装路)だ。

開幕戦で2位、第2戦で優勝と、期待以上の好調ぶりを示したトヨタだが、エースドライバーのヤリ‐マティ・ラトバラは「今シーズンでいちばん厳しいラリーイベントになると思う。5位以内を目標にしたい」と非常に控えめな事前コメントを出していた。

また、なにかハプニングがあればという期待を見せていたチーム代表のトミ・マキネンも、今回のラリー・メキシコは「しっかりデータを取りたい」と冷静。この、優勝直後のラリーにも関わらずまったく浮かれない姿勢は、後々結果としてついてくることになった。

ラリー・メキシコは、初日だけ首都のメキシコシティの街なかに設定されたスペシャルステージを走り、2日目からは北西に約400km離れたグアナフアト州にあるレオンという地域へ移動する。初日、巨大なメキシコ国旗の掲揚で知られる中央広場(ソカロ)を中心に作られた特設コースでトップに立ったのは、ヤリスWRC(日本名:ヴィッツ)をドライブするユホ・ハンニネン(トヨタ)だった。

「雨で濡れた後の路面でまったくグリップしない難しい状況だった。そんななか、2本目に走った分は本当にいい感じだった。今日はすごくハッピーだ。明日からのレオンでもいい感じでいきたいね」とハンニネン。

そして迎えた2日目。SS2からSS8までが行われたが、ひとつ小さな事件が起きた。

メキシコシティからレオンまで各チーム移動していたのだが、事故渋滞などの影響もあり、時間までに到着できなかったのだ。そのため、SS2とSS3はキャンセルとなった。ラリー・メキシコを盛り上げるため、初めて初日をメキシコシティで開催するというアイデアだったが、イベントは大いに盛り上がりながらも「交通渋滞」という新たな課題も見つかった。

2日目の目玉は、SS2(キャンセル)とSS4に設定された、54.9kmという最長のSS。距離がある分、ミスなどが続くと大きく引き離されてしまう。このSS4を勝利し、2日目で総合トップに立ったのは、シトロエンのクリス・ミーク。

シーズン開幕前のテストでとくにグラベルでの速さが目立っていたシトロエンが本領を発揮してきた。そして、2位には王者セバスチャン・オジェ(フォード)、3位にはティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)がつけた。

「今日はいい感じだった。ただ、まだ勝利を目指す段階じゃなく、まずはミスなく走りきりたい。SS5でミスをして8~9秒ほどロスした。明日も今日のようなペースで走りたいね」と、ミークは長丁場のSSが多いメキシコではミスを避けたいと語った。

初日トップだったトヨタのハンニネンと、8位スタートとなったエースのヤリ‐マティ・ラトバラは、エンジンとブレーキのオーバーヒートに悩まされた。ヤリスWRCにとって初となる暑い環境下でのラリーでは想定外の出来事だ。オーバーヒートを避けるため、一時的とはいえ、あえてスピードを落として走る必要に迫られ、ハンニネンは4位、ラトバラは8位だった。

「低速で走る区間でエンジンの水温上昇に悩まされた。何が起きたんだ?って思ったよ」とハンニネン。ラトバラからは、「ブレーキがSS4の半分くらいで熱くなりすぎてしまった。この先のことを考えると何か対策をしなければいけない」とコメントが出た。

3日目はSS9からSS17まで行われた。

この日も好調だったのは、1位のミーク(シトロエン)。2位の王者オジェ(フォード)とのタイム差を徐々に広げて、2日目終了時に20秒9のタイム差を30秒9にした。3位はヒュンダイのヌービル。

2日目にオーバーヒートに悩まされたトヨタだったが、3日目はメカニックたちが対応できるだけのことを施し、2日目のようなトラブルはなかった。エースのラトバラが、2台同時走行するSSS15とSSS16でそれぞれステージ2位となり、総合順位を8位から6位にまで上げた。ハンニネンは7位となった。

「メカニックとエンジニアが対応してくれたおかげで、オーバーヒートトラブルは解消することができた。明日もこの順位以上を守りたいことと、パワーステージでポイントを獲得したい」とラトバラ。

そして最終日。残る2つのSSのうち、最初のSS18でステージ勝利をしたシトロエンのミークだったが、最後のSS19に「あわや!」という事件があった。

最後のSSは、上位5人にポイントが追加されるパワーステージ。そこで2位に37秒2差をつけてスタートしたミークだったが、ゴール間近のコーナーでコースオフしてしまい、なんと観客たちが止めた駐車場スペースへとマシンが入り込んでしまったのだ。

幸運にも、マシンをいためたり駐車していたクルマにぶつけたりすることはなく、コースに復帰することができ、無事フィニッシュラインを通過した。このとき、2位オジェとの差は13秒8。大きなリードのおかげで、なんとか総合優勝を勝ち取ることができたのだった。2位には王者オジェ(フォード)、3位にはヒュンダイのヌービルが入った。

トヨタの2台は、エースのラトバラが6位、ハンニネンが7位となり、連続表彰台こそ逃したものの、シーズン初の2台同時入賞を果たし、最も厳しいと思われたラリー・メキシコでも十分戦っていけるマシンのポテンシャルがあることを証明できた。

「この最後のパワーステージでおきた出来事は、今後きっと100回以上語るだろうね。コースオフ自体は僕のミスで、リカバリーできたのは本当に幸運だった。すぐにコースに戻らなきゃって思ったよ。まだなんとか勝てるはずと分かっていたからね。今回の勝利でC3WRCのポテンシャルを証明できたことが最高に嬉しいよ」と、勝利したミークは最後のコースオフは一生の語り草になるだろうと語った。

世界ラリー(WRC)は、第2戦を終え、ドライバーズランキングは66ポイントでフォードのオジェがトップ。2位には58ポイントでトヨタのラトバラ、3位には48ポイントでフォードのタナクが続く。

チーム同士のランキングとなるマニュファクチャラーズランキングは、103ポイントでフォードがトップ。67ポイントのトヨタが続き、65ポイントでヒュンダイが追い上げる。そして、ミークが優勝したシトロエンが55ポイントで続く。フォードは頭ひとつ抜け出しているが、4つのメーカーのチカラは非常に拮抗していると言えるだろう。

次戦「ラリー・フランス」は、4月6日から9日にかけてフランスのコルシカ島で開催される。ここは、「ツール・ド・コルス」と呼ばれる伝統のラリーイベント。

コーナーだらけのターマック(舗装路)ラリーとして知られ、マシンの競争力ももちろんだが、コ・ドライバーの正確なナビゲーションとドライバーの腕が試されるコース。

そして、一般的にはフランス皇帝ナポレオン一世が生まれた島としても非常に有名な場所だ。次のラリー・フランスにもぜひ注目してもらいたい。

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

※写真はすべて©WRC/無断転載禁止です。

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