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世界ラリー(WRC)第2戦で優勝したトヨタ。その後の記者会見での心温まるやり取り

2017年のFIA世界ラリー選手権(WRC)第2戦となる「ラリー・スウェーデン」が2月9~12日に開催され、18年振りに復帰したトヨタが見事優勝を果たしたのは、すでにニュースなどで報じられたとおり。

通常、ラリー終了後には表彰台に上ったドライバーとコドライバーが揃い記者会見が行われるのだが、今回のラリー・スウェーデンの記者会見では非常に心温まるやり取りがあった。

まず、18年振りの優勝を果たしたトヨタと、新加入したチームで今季初優勝を手にしたヤリ‐マティ・ラトバラに対して、4年連続王者のセバスチャン・オジェが自身への質疑応答中で賛辞を送ったのだ。

「是非この場で、言いたいことがある。僕はトミ(トミ・マキネン、トヨタチーム代表)とトヨタに対して、本当におめでとうと彼らの勝利を賞賛したい。そして、ヤリ‐マティとコドライバーのミッカに対してもね。僕たちはチームメートとして素晴らしい時間を一緒に過ごしてきた。その彼が、再びチャンピオン争いに燃える輝きあるドライバーに戻った。それが嬉しいよ」

じつは、セバスチャン・オジェは2016年のラリー・アルゼンチンにおいてテレビ朝日クルーによるインタビューを受けており、そのときに2017年にトヨタが世界ラリー(WRC)へ復帰することに対してこう語っていた。

「トヨタはWRCにおいて素晴らしい伝統を持つチームだ。彼らはきっとすぐに活躍するだろうね。それは、WRCで最高の競争相手が増えるということ。もちろん、VW(当時の所属チーム)の僕にとっては、トヨタの成功は喜ばしい話じゃないけど、伝統あるチームと戦えることはいまから楽しみだよ」

それだけに、この記者会見での唐突なトヨタへの賛辞には、トヨタが活躍することでさらに世界ラリーが盛り上がることへの王者オジェの期待と喜びが素直に表れていた。そして、元チームメートであり最高のライバルでもあるラトバラの復活も嬉しかったのだろう。

ラトバラもまた、今季の自分が昨年までと何が変わったのか、じつは昨年まで苦しんでいた心のうちを、この記者会見で吐露した。

「昨シーズン後半は、いまだから正直に認めるけれど集中力も落ちていたと思う。だから、僕がトヨタという新たなチームでドライビングするチャンスを得たことで、僕自身へのモチベーションを一気にブーストアップすることができたんだ。トヨタは素晴らしいスピリットを持ったチームで、僕の気持ちを再び奮い立たせてくれた。以前のチャンピオンを目指していた僕を呼び戻してくれたよ」

こうしたラトバラのモチベーションを大いに引き出した人物のひとりとして間違いなく挙げるべき存在が、チーム代表であり同じフィンランド人のトミ・マキネンだろう。

4度の世界王者を経験したマキネンの言葉は、ラトバラのモチベーションを高くキープしたままシーズンを迎えさせ、ラリー・スウェーデンでは勝利への鍵ともなった。

ラトバラはマキネンへの感謝も語っていた。

「今回の優勝は、2008年にここラリー・スウェーデンでWRC初優勝をしたときの気分に似ている。あのときも勝利は最高の驚きだった。そして、今日の勝利も同じように驚きだった。

というのも、昨日までのパフォーマンスを振り返れば、オット・タナクが今回の勝者になるだろうと確信していたから。しかし、今日のステージはすべて僕のドライビングスタイルにしっくりときた。だから、マシンを別次元に操ることができたんだ。

最後のSS前にトミ(マキネン代表)に話しかけたんだけど、彼は『それまでの2つのSSと同じように飛び出していけ!』ってアドバイスをくれたよ。たしかに、最後のSSをゆっくり走ることもできたけど、実際のところマシンの感触は最後まですごく良かったから、それまでと同じアプローチで走ることを決めたんだ」

最終日の朝、マキネン代表はラトバラに対してこう言って送り出していた。

“飛び出していけ。路面に集中しろ。運転に集中しろ。セットアップのことは考えるな。ただ飛び出して、運転するんだ!”

こうした、ポイントポイントにおけるマキネン代表の言葉が、すでに実績や能力には申し分ないラトバラのポテンシャルを最大限に引き出したと言えるのではないだろうか。

そして、このシンデレラストーリーのような魔法を仕掛けたマキネン代表は、記者からの質問にこう答えた。

「誰からも聞かれる質問なのだけど、“どうやってこれほど競争力のあるチームを作り上げることができたのか?”と。だが、正直なところ、ヤリ‐マティの存在なくしては、この週末の結果は得られることはなかった。僕は間違いなくこう断言できる。ヤリ‐マティは、この週末において誰よりも強く、誰よりも速いドライバーだったと。

競合者と戦い続けることは非常に興味深いことだ。そして、表彰台に新しい自動車ブランドが登場したことも興味を引く。ただ、この素晴らしい結果も、昨日のティエリー(ヌービル)のミスがなければ起きなかった。だが、そうしたことが起きることこそがモータースポーツなんだ。

思い返してほしい。きっと昨年の年末に、僕たちがここスウェーデンで勝利しているなんて誰も想像していなかったはずだ。しかし、僕たちは自分たちの潜在能力を信じていた。もちろん、僕たちには経験がなく、次へのステップへのノウハウもなかった。だから、ライバルたちより前へ進む作業が難しいことは事実だ。だが、僕たちはここで勝利した。この経験によって、次へ進むことはより効率的になると思う」

そしてマキネン代表は、自身のチームだけを賛辞するのではなく、答えのなかにこうした言葉も残している。

「ヤリ‐マティだけでなく、この週末を戦ったすべてのドライバーが、世界中のファンを魅了してくれたと思う」

つまり、世界ラリー(WRC)では誰もがお互いにリスペクトし合う競争相手であり、同時にファミリー的な存在なのだと。命の危険があるギリギリのところで戦っている同士だからこそ、こうした連帯感がしっかりとしている。

◇◇◇

モータースポーツの表面的な戦いや派手な走りだけではなく、その裏にある人間ドラマや心温まる関係性の一部を、このラリー・スウェーデンの記者会見では見ることができた。

そうした部分にも興味を持ってもらうと、さらに世界ラリー(WRC)を楽しく見ることができるに違いない。

文/田口浩次(モータージャーナリスト)

※写真はすべて©WRCもしくは©TOYOTA GAZOO Racing/無断転載禁止です。

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