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大地康雄、主役演じるも再びバイト生活に…窮地を脱したきっかけは、伊丹十三のオファー

©テレビ朝日

ドラマ『深川通り魔殺人事件』で主役を演じ、これでようやく俳優として食べられるようになると期待した大地さんだったが、あまりにリアルでインパクトが強かったため、更にイメージが固定。以前にも増して悪役ばかり。再びバイト生活を送ることに。

 

◆再び「食えない時代」に“神”からの指名…?

―ドラマの主役を演じたのにバイト生活ですか-

「そうです。約4年間、また食えない。もうやめちゃおうかなって、1回思ったこともありました。何か1つの山を登っているときは人間頑張れますけど、せっかく頂上まで登っても、ガターってまた突き落とされると余計きついですね。挫折を初めて味わいましたから」

―主役演じたからこそ、味わった挫折ですか-

「そうですね。やっとアルバイトをしないでこの世界で食っていけると思っていましたから。それでも働かないと食えないしね。

バイトで建築現場に行くと、朝、仕事を始める前にラジオ体操をやるんですよ。そうすると、4,50人がみんな体操やりながら俺の顔を見てるんですよ。どこかで見た顔だと(笑)。あの明るい朝の記憶がまたせつなくてね」

―直接声をかけてくる人はいました?―

「いや、みんなちょっと遠巻きに見ていましたね。酒を飲みに行っても女の子は『キャーッ』って悲鳴をあげて逃げるし…。『あの人よ、あの人』って、もうゲテモノ扱いですよ(笑)。こっちはただ飲みに行っているだけなのに、世間ってこんなものかって思いましたね。

だけど、それでもやっぱり、主役を演じさせてもらったというのは、俳優としての醍醐味を体験させていただいて、表現する喜びも、初めて味わせていただいて…。やめると言ったって、ほかにやることがないんです。

だから、まあ辛抱して頑張っていれば、また良いことがあるかもしれないということで続けていましたら、4年目かな。35歳の時に伊丹(十三)さんが探しているということで『えーっ!?』って」

―伊丹監督が大地さんを指名されたそうですね―

「はい。そのときはもう宮本信子さん、津川雅彦さんなど出演される皆さんは国税局への取材も終わって、クランクイン直前。あとで知ったことなんですが、決まっていた俳優さんがおりられて俺が代わりにということで、これもピンチヒッターだったんです。だから『ピンチヒッター役者』って言われたりしました(笑)」

―それまでは悪役だったのが、取り締まる方に-

「初めてですね。最初に決まっていた俳優さんがおりられたので、『代わりを大至急探せ、もうクランクインだから』ということになって、伊丹さんが『誰かいないのか?』ってテレビをつけたら、たまたま『深川通り魔殺人事件』の再放送をやってたそうなんです。

あれは視聴率が良かったので、年に1回、テレビ朝日で再放送をやってたんですよ。それで、3年目の再放送をやってたらしくて、それを伊丹さんが見て、『彼を連れて来い』ということになったと聞きました。こんな不思議なことってあるのかなあって」

―たまたまつけたテレビに大地さんが出ていたというのがすごいですね-

「はい。それでお会いしたら伊丹さんがニコーッと笑って『いやあ、会いたかったんですよ』って。それで1時間くらい『徹子の部屋』のようなやり取りをして、最初は『芦田伸介さんが演じるやくざの親分の用心棒役を作るから、それでも良いか』と言うので、『もう何でも結構です』って言ったんですけど、1週間ぐらい経った後、今度は『マルサをやって欲しい』って連絡があって。

でも、マルサって何のことか知りませんでしたからね。『マルサって何ですか?』って聞いたら、伊丹さんはやっぱり、さすが元俳優さんだけあって、説明が一言でうまいなあと思ったんですけど『税金の刑事だと思ってやってくれ』っておっしゃったんです。

それで、マルサ関係の本がいっぱいあったので、3冊お借りして、独学でまた勉強して、慌てて撮影に参加したんですよね」

―それにしてもドラマで殺人犯役の大地さんを見て、マルサ役にというのは冒険ですね-

「そうですね。普通はステレオタイプで使われちゃいますからね。伊丹さんは、これだけの犯人役ができたんだから、ほかの役もできるはずだという発想をなさったらしいんですよ。そのように俳優を幅広く見る力を持ってらっしゃる方でした。伊丹さんが『マルサの女』に出して下さったおかげで、やっとまともな役をいただけるようになりました」

―伊丹監督はどんな方でした?―

「本当に多才な方でした。ご自身も俳優をやってらしたので、俳優の気持ちをよくわかってらっしゃいました。現場で俳優を緊張させないように気を配ってくださいましたね。現場で怒鳴る監督さんが結構多いですけど、伊丹さんは決してそんなことはありませんでした。『リラックスして、いつでもいいですよ』って感じで穏やかでしたね」

※『マルサの女』
脚本・監督:伊丹十三。“マルサ”と呼ばれる脱税摘発のプロ、国税局査察部に抜擢された板倉亮子(宮本信子)が、ラブホテル経営者(山﨑努)を脱税で摘発するまでを描く。

©テレビ朝日

 

◆憧れの三國連太郎さんと夢の共演

『マルサの女』(1987年)で話題を集めた大地さんは、悪役のイメージを脱し、さまざまな役のオファーが来るようになり、バイト生活からも解放される。そして1988年『マルサの女2』ではさらにうれしい出来事が。

―『マルサの女』は続編も製作されました―

「続編に出られたのも良かったですが、もうひとつうれしかったのは、憧れの三國連太郎さんと共演させていただいたことでした。

石垣島にいた中学2年のとき、三國さんが映画『神々の深き欲望』(1968年)の撮影で石垣にいらしたんです。町で初めてお見かけしたときにはドキドキしました。

子どもの頃から映画が大好きでしたから、よく見に行っていて、三國さんの『飢餓海峡』を見たときに、すごい俳優さんがいるものだなあってインプットされてましたから。貧乏な男が金持ちになって女を殺して…という話でしたけど強烈な印象で…。

あと2回目にお会いしたのは、私が伊藤雄之助先生の弟子時代に先生が舞台をやってらっしゃるとき、コーヒーを持って三國さんがいらしたんです。私はもうお二人の話を正座して真剣に聞いてましたね。

だから、まさか『マルサの女2』で共演できるとは思ってもいませんでしたから、夢のようでしたね。初めて現場でお会いしたときには緊張しました」

―三國さんにはファンだということを伝えたんですか-

「はい。伝えましたら『それは光栄です』と謙虚におっしゃってらして。三國さんには不思議なことによく散歩でも偶然お会いすることがあったんですよ。

私は以前、杉並に住んでいたんですけど、そのときも散歩で偶然お会いするんですよ。それで、今は世田谷なんですけど、世田谷でも散歩でよくお会いしました。三國さんも世田谷に引っ越してらしたんですね。それでちょっと立ち話をしたりして…」

―ご縁がありますね-

「そうですね。マルサが終わってから『バカヤロー!私、怒ってます』(1988年)という映画に出たんですけど、その試写会に私もお客さんに紛れ込んで見てたんですね。それで、終わった後、帰ろうとしたら、私の肩をポンとたたく方がいて、見たら三國さんだったんですよ。『良かったよ』っておっしゃっていただいてうれしかったです。

『マルサの女2』のときには『お昼を一緒に』って言ってくださって、蕎麦屋で天ぷらそばをごちそうになりました。あれはもう一生忘れられない味ですね」

―すてきな思い出ですね-

「そうですね。だから今、寂しいですよね。尊敬できる先輩が亡くなって、共演する機会も減ってきたというのがね」

―そうですね。撮影で印象に残っていることは?―

「『マルサの女2』は宗教法人の脱税の話でしたから、歌舞伎町でずっとホームレスに変装して、尾行するシーンがあったんですね。私もホームレスの格好をして風林会館の前で出番を待ってましたら、女の子が来ましてね。『人生大丈夫なの?』って声をかけてきたんですよ。

それで、宗教の本を取り出して『これね、きょう800円で良いから。これ読むと元気になるから』って言うんですよ(笑)。『俺いま金ねえから』って言ったら行っちゃいましたけどね。

それにお昼ご飯がバレ飯(お弁当ではなく、それぞれ個人払いで食事をとること)のときがあったんですよ。でも私はホームレスの格好だから、店に入れないじゃないですか。

ゴールデン街の脇のところに、おにぎりとか売っている店があったので、そこで買おうと思ったんですけど、その店のオヤジが新聞を読んでいてチラッと私を見た後、見なかったフリをするんですよ。『どうせお前なんかには買えないだろう』みたいな感じで。

それで私もカチンと来ましてね、1万円札を出して振って見せたら『いらっしゃいませ』ってすぐに飛んで来たんですよ。そのとき思いましたね。『こういうホームレスの格好をすれば、人間観察するには最高だな』って。全然扱いが違いますからね(笑)」

※『マルサの女2』
ある地上げ屋の脱税を追及していた“マルサ”こと国税局査察部査察官・板倉亮子は、その裏に宗教法人を隠れミノに金儲けを企む悪人たちの存在を知り、宗教団体の代表(三國連太郎)の調査を始める。

『マルサの女』に出演したことがきっかけで、幅広い役柄を演じるようになり、和製ジャック・ニコルソンと称されるようになった大地さん。2005年に公開された映画『恋するトマト』では、企画・脚本・製作総指揮・主演の1人4役をつとめる。

2013年には企画・主演をつとめた映画『じんじん』を公開。現在、続編となる『じんじん~其の二~』の上映活動を全国で展開している次回はそんな大地さんのライフワークとなった映画製作、旭川刑務所での試写会、野菜作りについて紹介。(津島令子)

(C) 2017 『じんじん~其の二~』製作委員会

※「じんじん~其の二~」
大地康雄が企画し、主人公の大道芸人・立石銀三郎を演じる人情喜劇シリーズ第2弾!監督:山田大樹 出演:大地康雄、福士誠治、鶴田真由他。

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