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消化イベントとはならなかった最終戦「ラリー・オーストラリア」【世界ラリー(WRC)】

2017年のFIA世界ラリー選手権(WRC)最終戦となる第13戦「ラリー・オーストラリア」が、11月17日~19日に開催された。

©WRC/無断転載禁止

WRCシーズン最終戦会場のラリー・オーストラリア。熱狂的なファンが多いラリー・メキシコやラリー・アルゼンチンなどともまた違うファン層を獲得したラリーとなっている。

もともとオーストラリアはスポーツファンが多く、テニスは世界四大トーナメントの全豪オープン、ゴルフの全豪オープン、世界水泳は1991年と2007年、オーストラリアンフットボール等々、実にさまざまなスポーツイベントが開催されており、モータースポーツもWRCの他にF1や2輪世界最高峰のMotoが開催されている。

スポーツ眼に肥えたオーストラリアの人々にもWRCはすっかり定着している、と言えるだろう。

©Citroën Racing/無断転載禁止

そんな最終戦・ラリー・オーストラリアは、東海岸沿いにあるコフスハーバーという街周辺を舞台に開催される。

海岸線沿いの道があり、原生林を思わせる森林コースがあり、草原地がありと、多彩な景観を提供するラリー・オーストラリアなのだが、そこにさらに加わる要素が“天候”だ。オーストラリアの大地は赤土で、乾燥しているときは砂埃が激しく、まるで煙幕のように長く舞い上がった砂埃が残る環境なのだが、ひとたび雨が降るとその土壌は粘土質でねっとりとした“泥んこラリー”へと変貌する。

今年の最終戦もこの天候が大きなキーポイントとなった

すでにチャンピオンシップは決したが、2018年シーズンに向けて各ドライバーたちは来季体制へのアピールをする必要があり、消化イベントとはならなかった。

例えば、2018年シーズンにトヨタへの移籍を決めたオット・タナックは、長年在籍したフォードへの置き土産として表彰台以上を狙いたいところであったし、それはトヨタへのアピールにもなる。

ヒュンダイのティエリー・ヌービルやアンドレアス・ミケルセンにしても、ヌービルはシーズン序盤、自身のドライビングミスがなければチャンピオンを獲得できていた可能性が高いだけに、最終戦で勝ってチームへ最速アピールをする必要がある。

ミケルセンにしても、2018年シーズンはヌービルに続くナンバー2ではなく、ジョイントナンバー1体制を手にするために、ここでチームの目を引き付ける必要がある等々、どのチームのドライバーにしても2018年シーズンに向けた思惑があり、最後まで激しい戦いになることが予想されたのだ。

©WRC/無断転載禁止

こうして迎えたラリー・オーストラリアの初日。まずその力を見せたのは、昨シーズンのラリー・オーストラリア勝者のミケルセンと、チームメートのヌービルだった

SS1からSS8まで8本あるSSのうち、ミケルセンが5本、ヌービルが3本最速タイムを獲得し、ヒュンダイがすべてのSSでトップを獲得したのだ。今シーズン各マシンの差は拮抗しているものの、ヒュンダイのi20クーペWRCは頭ひとつ抜け出した最速マシンの呼び声が高かった。ラリー・オーストラリアの初日は、それを証明するようなトップ独占となった。

ヌービルは、「路面状況はズルズルでトリッキーだった。とくに順番が早い走行は、走って路面をクリーンにしていく行為だったからね。とはいえ、全体を見返すとまずまずの初日だ。ミケルセンはさすがの速さだね」と初日2位を冷静に振り返る。

トップのミケルセンは、「昨シーズンの優勝を思い出させるほどに良いスタートが切れたよ。大きなミスもなく、マシンの感触も良くて、すべてがホームのような感覚だ。まずはリードを築こうと頑張ったのだけど、20秒というのは悪くない。最高の初日だった」とコメント。2年連続優勝へ絶好のスタートを切った。

3位にはシトロエンのクリス・ミーク、そして4位にはトヨタのヤリ‐マティ・ラトバラがつけた。

©WRC/無断転載禁止

ラリー・オーストラリア2日目、天候は曇り。気温は19度から22度の予報。ただし路面は前日午後に雨が降った影響でところどころぬかるんだ状態にあり、午後もまた軽く雨が降る予報のなか各車スタートを切った。

ここラリー・オーストラリアに限らず、WRCでは走行順番が大きくタイムに影響する。とくに雨でぬかるんでいたり、晴れていても路面の表面が汚れていたりする状態だと、最初の数台はその路面を掃除する役目となってしまいタイムが伸びない。

2日目、SS9のスタート順は、1番手エサペッカ・ラッピ(トヨタ)、2番手エルフィン・エバンス(フォード)、3番手ステファン・ルフェーブレ(シトロエン)、4番手セバスチャン・オジェ(フォード)、5番手ヘイデン・パッドン(ヒュンダイ)とあり、1番手を走ることになったWRC初年度のラッピにとっては、タイムを狙えない学習のステージとなってしまった。しかし、ラッピはステージ順位7位を獲得。その非凡な才能を見せることができた

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また、この日は上位陣に波乱が起きた。まず、SS10の森林コースでトップのミケルセン(ヒュンダイ)がマシンをコース脇にぶつけてしまい、左フロントとリヤのタイヤをパンクさせてしまった。SS10はなんとかトップから1分40秒8差遅れでタイムを出したものの、彼らはスペアタイヤを1つしか積んでおらず、SS11を前にリタイアとなった。

そして、初日3位のミーク(シトロエン)も、SS12でマシンをコース脇にぶつけサスペンションを壊し、SS13をスタートできずにリタイアを選択。どちらのマシンもぬかるんだ路面のため、マシンが思ったようにコントロールできなかったのが原因だ。

快走していたミケルセンに代わって2日目にトップになったのが、9本あるSSのうち3本で最速タイムを出したヒュンダイのヌービル。20秒1差遅れで2番手に浮上したのがトヨタのラトバラ、そして3番手には来季ラトバラのチームメートとなるフォードのタナックが続いた。

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ただ、予定されていたSS14がコース途中にある橋の安全が確保できないと主催者が判断し途中でキャンセルとなった。ラトバラはこのSS14を得意としていただけに、トップとのタイム差を詰めるチャンスを失ってしまった。それが翌日にも影響することとなる。

2日目を終えたラトバラはチームから、「午後はドライになりましたが、サービスを出る直前に、にわか雨が降るという情報を得ました。本来は、すべてハードタイヤでいくつもりでしたが、その情報を鑑みてソフトタイヤを2本盛り込みました。実際、情報は完全に正しくロングステージの最初と終わりでは路面が湿っており、ソフトタイヤが上手く機能しました。ただし、自信を持っていたSS14が橋のダメージによりキャンセルとなってしまったのは少々残念です」とコメントを出した。

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そして迎えた最終日、天気予報は曇り。2日目の夜から大雨が降った影響で路面は完全にぬかるんだ状態になった。まさにマッド(泥んこ)ラリーである。さらに午前中雨が降り、この雨の影響でSS20はステージにアクセスする道路がひどくぬかるみ通行が難しく、キャンセルとなった。

最終日も難しいラリーとなり、SS17ではシトロエンのルフェーブレがクラッシュ、続くSS18でチームメートのクレイグ・ブリーンもクラッシュと、滑りやすいラリー・オーストラリアの路面は各ドライバーに容赦なくその牙をむいた。

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そんななか、攻めた走りを見せていたのはトヨタだった

ラッピはステージ最速こそなかったものの、4本のSSのうち2本で2位、最後のパワーステージで3位を獲得してポイントを加算した。そして、トップのヌービルと20秒1差でスタートしたラトバラは、SS17で19秒差、SS18で9秒9差と順調にタイム差を縮めていき“奇蹟の逆転”が見えてきたが、SS19で14秒7差にタイム差が広がると、SS20は前述のとおりアクセス道路の問題でキャンセルとなり逆転優勝のチャンスを失ってしまった。

こうなると、最後のパワーステージで悔しさをぶつけるべく最速タイムを狙ったが、これがまさかの波乱を起こしてしまった

SS21、最後のパワーステージは森林コースの6.44キロと距離は長くないが、コース設定速度は高い。それでいて路面はぬかるんだ状態であり、マシンコントロールが非常に難しい状態にあった。そして、ラトバラの走行順位は11番目、ヌービルが12番目。ラトバラの前では8番目に走行したオジェが3分32秒6でトップタイムを刻んでおり、また6番目にスタートしたチームメートのラッピが3分34秒3というタイムを出していることから、これらがラトバラのターゲットタイムとなった。

そうしてラトバラのタイムアタックが始まったのだが、ラトバラは左コーナーでわだちにタイヤが軽く取られ、コーナーの立ち上がりでグリップを失いコース右へとマシンが滑ってしまう。そのままコース脇の樹木にマシンの右側を大きくぶつける形でラリーを終えてしまった。まさに、最後の最後に起きた大波乱だ。

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こうして2017年シーズン最後のラリーは、ヒュンダイのヌービルがトップ。今季4勝目を飾った。2位には2018年からトヨタ入りするタナック(フォード)、3位にはヒュンダイのパッドンが入り、ヒュンダイは1位と3位を獲得。今季チャンピオン獲得の可能性を大きく秘めながら手にできなかったが、最後に気を吐いた格好だ。

優勝したヌービルは、「路面状態が悪く、まるで地獄のようなラリーだったね。なんとか路面上にマシンを残したというか、クレバーに走る必要性に迫られた。なにしろ、グリップがない、コントロールできない、自分が入力したはずの動きにマシンが反応しない、という本当に大変なラリーだったからね」と、優勝したが決して楽なラリーではなかったことを語った。

©WRC/無断転載禁止

ドライバーズチャンピオンシップの最終成績は、1位セバスチャン・オジェ(フォード)232ポイント、2位ティエリー・ヌービル(ヒュンダイ)208ポイント、3位オット・タナック(フォード)191ポイント、4位ヤリ‐マティ・ラトバラ(トヨタ)136ポイント、5位エルフィン・エバンス(フォード)128ポイントと続いた。

マニュファクチュアラーズタイトルは、1位フォード428ポイント、2位ヒュンダイ345ポイント、3位トヨタ251ポイント、4位シトロエン218ポイントだった。フォードは5勝、ヒュンダイが4勝、トヨタが2勝、シトロエンが2勝となっている。

ドライバーは7人もの勝者を生み、初優勝が3人も誕生するなど、非常に多彩な才能が花開いたシーズンとなった

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2017年シーズンは終了したが、じつは2018年シーズン開幕までの時間はたったの9週間しかない。10週間後(66日目)には、ラリー・モンテカルロ(1月25日~28日)が開幕するのだ。この短い期間で、各チームは2018年マシンの開発と調整を進めなくてはならない。本当に休暇が取れるのはクリスマスくらいのものだろう。

来季の2018年シーズンも、WRCは全13戦を予定している。そして、ラリー・トルコが2010年以来となるカレンダー復帰が決まった。

来季も混戦が予想され、実質WRC参戦2年目となるトヨタは、エースのラトバラ、実力を一気に高めた新加入のタナック、そして次世代王者候補の若手ラッピと、フル体制で2018年シーズンに挑む

今季2勝を挙げたヤリスWRC(日本名ヴィッツ)の開発も進み、いよいよチャンピオン争いにも挑戦していくことだろう。いまから2018年シーズンが待ちきれない!<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

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