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【世界ラリー(WRC)】今年は1強じゃないから面白い!第11戦ラリー・エスパーニャ開幕へ

10月5日~8日、WRC(FIA世界ラリー選手権)の2017年シーズン第11戦「ラリー・エスパーニャ」が、いま独立を求める選挙などで世界中の注目を集めるスペインのカタルーニャ州で開催される。

©WRC/無断転載禁止

メインとなるのは、バルセロナから西に車で約90分程度の距離にあるサロウという街。近くのタラゴナという街にはローマ帝国時代の考古遺跡群が数多くあり、世界遺産にも指定されている観光名所だ。ローマ帝国時代の象徴ともいえる円形競技場、ローマ水道の技術力の高さを示すラス・フェレラス水道橋などは、現代に残る人類の宝といえるだろう。

バルセロナやその地域を含めカタルーニャ州は多くの芸術家が住んでいたことでも有名で、ジョアン・ミロやパブロ・ピカソの美術館があり、先日遺産相続人問題で墓が開けられたことで注目を集めたサルバトーレ・ダリ、さらにはアントニオ・ガウディといった多くの芸術家が居を構えた。食文化も素晴らしく、世界中の観光客が一度は訪れてみたい地域のひとつといえる

©WRC/無断転載禁止

そんな素敵な地域で開催されるラリー・エスパーニャは、WRCに1991年から加わっている比較的新しいラリーなのだが、もともとは1916年から開催され古い歴史を持つ“ラリー・カタルーニャ”と、1953年から開催されたこちらも長い歴史を持つ“ラリー・コスタ・ブラバ”というふたつのラリーが併合される形で生まれた。13戦あるWRCのなかでも唯一無二の“ミックスサーフェイスラリー”である。

ミックスサーフェイスとは、直訳すれば混合表面という意味になるが、ラリーにおいては、ターマック(舗装路)とグラベル(未舗装路)のどちらの路面も使うラリーということ。またここのターマック(舗装路)は、全ドライバーがWRCで最もサーフェイス(路面)がキレイでまるでサーキットのようだと評し、さらに誰もがサーキットを攻めるようで楽しいと語る。

一方でグラベル(未舗装路)があり、この両極端な路面状態に向けたマシンセッティングの難しさはWRCのなかでも随一といえる

©WRC/無断転載禁止

ここスペインという国においては、母国ドライバーへの応援が熱狂的であることも広く知られている。

カテゴリーは違うが、鮮やかな青い州旗が有名なアストゥリアス州出身のF1ドライバーであるフェルナンド・アロンソが(同じく青を基調とした)マイルドセブン・ルノーF1チームに在籍していたころ(2003~2006年)、スペインGPの観客席は世界で唯一“フェラーリレッド”ではなく“マイルドセブンブルー”で染まり、現在スペイン人ライダーが上位を席巻している2輪の最高峰であるMotoが開催されるときは、すべての観客席からスペイン人ライダーたちへの声援が鳴り止まない。

そしてWRCにおいても、トヨタで1990年と1992年にワールドチャンピオンを獲得したカルロス・サインツがスペインでのWRC人気を大きく高めた。そして現在国民の人気を背負っているのが、ヒュンダイに所属するダニ・ソルドだ。2016年は2位表彰台を獲得しているだけに、今年は母国初優勝が期待されている。

©Hyundai Motorsport /無断転載禁止

そんなラリー・エスパーニャだが、ダニ・ソルドが所属しエースのティエリー・ヌービルがチャンピオン争いをしているヒュンダイから突然大きなニュースが飛び込んできた。

前戦のラリー・ドイチェランドでシトロエンを駆って2位表彰台を獲得したアンドレアス・ミケルセンが、ラリー・エスパーニャからの残り3戦をヒュンダイで出場することが発表されたのだ

©Hyundai Motorsport /無断転載禁止

さらにその直後には、2018年と2019年シーズンの2年間をヒュンダイと契約したことも追加発表された。現在王者セバスチャン・オジェとチャンピオン争いをしているヌービルにとっては“最強の助っ人”が加わることになる。

突然のヒュンダイからの出場についてミケルセンは、「シーズン序盤にグラベル(未舗装路)でヒュンダイをテストしたんだけど、まさにマシンのパフォーマンスは文句ナシだった。どんな路面のラリーであっても勝てるマシンであることは間違いない。残り3戦、チームのために全力を尽くす。来年と再来年は僕自身にもチャンピオン争いへのチャンスがあると思う」と、チームに大いなる期待をしていることを語った。

ミケルセンは1989年生まれの28歳。しかし、ヒュンダイにはエースドライバーであり1988年生まれで同世代のヌービルがいる。このことについてミケルセンは、「ヌービルとはまだラリーの世界ではひよっこな時代から競い合ってきた。たしか最初は2010年だ。彼とは仲がいいし、上手くやっていけると思う。もちろん、来年以降はお互いライバルだけど、今年は彼のチャンピオン争いをサポートするよ」と、ヌービルへのリスペクトを見せている。

 

◆キーポイントは初日のグラベル

©WRC/無断転載禁止

今回はどうにもヒュンダイに注目が集まってしまっているが、簡単にヒュンダイが勝てるほどラリー・エスパーニャは甘くはなさそうだ。というのも、このラリーはミックスサーフェイス。マシンパフォーマンスはもちろん重要だが、マシンセッティングが鍵となる。

その点において、トヨタのエースであるヤリ‐マティ・ラトバラは、サーキットのような路面のターマック(舗装路)に重点を置きすぎるのは危険だと語る

「今回は初日がグラベル(未舗装路)、2日目がターマック(舗装路)、最終日もターマック(舗装路)。だけど、重要なのは初日だ。グラベルの時点で20秒といった差をつけらてしまうと、ターマックでそれをひっくり返すのはとても難しい。ここラリー・エスパーニャのターマック(舗装路)路面は本当に滑らかで、サーキットを攻めるような感じでスピードも出るコーナーが多い。つまり、各マシンやドライバーのタイム差がつきにくい。だから、初日のグラベルは重要なんだ」と、ラトバラらしく冷静にラリーを分析している。

こうなると、経験は重要だ。王者のオジェ(フォード)やトヨタのラトバラにとって大いにチャンスがあるラリーであり、2015年にここでWRC初勝利をあげたミケルセン(ヒュンダイ)がどう絡むのか注目したい

また、シトロエンは元王者のセバスチャン・ローブがマシン開発にさらに手を貸したことでパフォーマンスアップが期待されており、彼らもシトロエンのオファーを蹴ったミケルセンの鼻をあかすためにも全力を尽くすはず。

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昨年まではVW一強でこの時期のラリーは面白さが多少落ちてしまう一面があったが、今年はチャンピオン争い以外も話題が豊富で、まったく目が離せない。

<文/田口浩次(モータージャーナリスト)>

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